死にたい自殺サイト自殺方法自殺ダメ

当サイトは、死にたい人に自殺に関する霊的知識を与えて、自殺を止めさせる自殺防止サイトです。

自殺の霊的知識へ

カテゴリ: ★『死後の世界』

自殺ダメ




 三月三十日のはいつもの自動書記式通信ではなく、ワード氏の方から霊界の叔父さんを訪れ、その室で陸軍士官と直接面会してこの物語を聞かされたのでした。ワード氏は前にも透視法で陸軍士官と会っているのですが、相変わらずこの日もいかにも意思の強そうな、いかつい顔をしていたそうで、ただ以前に比べれば憎々しい邪気が余程減っていたということであります。
 陸軍士官の話しぶりは例によってテキハキと、短刀直入的に前回の続きを物語っております-

 さて御前試合もいよいよ千秋楽となって、観客がゾロゾロ退散するので、吾輩も家来を連れて演武場を出たのであるが、わざと城門の付近に陣取って所謂皇帝の退出するところを見物することにした。間もなく皇帝の馬車が現れたが、その周囲は大変な人だかりだ。そして意外にも丸裸の男女が沢山その中に混じっているのである!
 吾輩は家来に訊いた-
 「イヤに素っ裸の霊魂がいるではないか!死んだ者は皆衣服を着ている筈だのに・・・・」
 「これが皇帝陛下のお道楽でございます。こうして多くの家来達を無理に裸にさせて、嬉しがっておられるのでございます」
 「しかし幾ら裸にされたところで、幽霊同志では余り面白い関係も出来まいが・・・・」
 「御説の通りでございます。旦那様もモーすっかりお存知でございましょうが、肉体の無い者には肉体の快楽ばかりは求められはしません。真似事ならいくらでも出来ますが、それではまるきり影法師と影法師との相撲のようなもので面白くも可笑しくもございません。情欲だけは依然として燃えながら、それを満足せしむる体が無いのでございますから全くやり切れはいたしません」
 そう言っている中に、大きな猟犬が幾匹となく側を走り過ぎたので吾輩は驚いた。
 「地獄にも動物が居るのかね?妙なものだナ・・・」
 「ナニこれは本物の動物ではございません。皇帝の思し召しで、人間の霊魂が仮に動物の姿を取らされましたので、裸にされたり、又は子供の姿にされたりするのと何の相違もございません。皇帝は実に素晴らしい力量のあるお方で、我々を御自分の好きな姿に変形させ、甚だしきは家具や什器の形までも勝手に変えて面白がっておられます」
 やがて皇帝の行列が自分達の前面を通過しましたが、イヤその騒々しさと、惨酷さと、又淫猥さと来た日にはまるきりお話にならない。そして行列の前後左右には間断なく悲鳴が聞こえる。これは種々雑多の刑罰法が時とすればお供の者に加えられたり、又時とすれば見物人に加えられたりするからである。なかんずく人騒がせの大将は例の猟犬で、ひっきりなしに行列中の男女に噛み付いたり、又見物人を皇帝の前に交えて来たりする。
 皇帝はと見ると、大威張りで戦車に納まり返っているが、その面上には罪悪の皺が深く深く刻まれて、本来の目鼻立ちがとても見分けられぬ位、正に残忍性と驕慢性との好標本であった。が、生前はこれで中々の好男子ではなかったかと思われる節も何処やらに認められるのであった。
 「一体彼は何者かナ?ローマのネロではあるまいナ」
 「いいえ旦那様」と吾輩の家来が答えた。「私はあの方の名前を忘れてしまいましたが、ネロでないことだけはよく存じております。ネロはあの方の家来でございます。あの方に比べるとネロなどは屁ッぽこの弱虫です。幾度となく皇帝に反旗を翻しましたが、その都度いつも見事に叩き潰されてしまいます。けれどもネロも中々狡猾な男で、いつも監視者の隙を狙って逃げ出しては一騒動を起こします。そして捕まる毎に皇帝から極度に惨たらしい刑罰を受けます。イヤ、ネロ虐めは皇帝の一番お気に召した娯楽の一つでございます」
 「そりァそうと貴様は皇帝が生前何という名前の人間であったか、きッと知っているだろうが・・・」
 「イヤ私は全く忘れてしまいましたので・・・・」
 「この嘘つき野郎!なんでそれを忘れる筈があるものか!真直ぐに白状せい!」
 「白状するにもせぬにも全く存じませんので・・・」
 「それならよし。俺がきっと白状させて見せる」
 吾輩は例の地獄の筆法で、極度に恐ろしい刑罰法を案出し、一心不乱にそれを念じたから堪らない。家来の奴は七転八倒の苦しみ・・・。それこそ本当の地獄の苦しみを始めた。
 が、いくら虐めても知らないものは矢張り知らないので、最後には吾輩もとうとうくたびれて家来虐めを中止し、それなら何処ぞ面白い場所へ案内せいと命じた。
 「それでは旦那様劇場へ御案内いたしましょう」
 とやっと涙を拭いて答えた。
 「ふむ劇場・・・。それもよかろうが、一体ここではどんな芝居をやっているかナ?」
 「そりァ素敵に面白いものでございます。地上で有名な惨劇は大抵地獄の舞台にかけられます。そして成るべく生前その惨劇に関係のある当人を役者に使って、地上で行なった通りを演じさせます」
 「人殺しの芝居ばかりでなく、少しは陽気な材料、例えば若い男女の愛欲と云ったようなものは演じないのかナ?」
 「景物にはそんな材料もございますが、御承知の通りここは人を憎むことと人を虐めることが専門の都市でございます。従ってここで演じる脚本の主題となるのは皆その種のもので、邪淫境へ参りませんと色情が主題となったものはありません-もっとも色情と残忍行為とは親類筋でございますから、ここの芝居を御覧になっても中々艶っぽいところも出て来る幕がございます」
 「地獄にも新脚本が現れるかナ?」
 「あまり沢山も現れません。しかも皆地上で演ぜられたものの焼き直しが多いのであります。もっとも地上には本物の惨劇が毎日演ぜられますから、こちらで材料の払底する心配は少しもございません」
 「して見ると真の創作は地獄から出ることは無さそうだナ?」
 「一つも無いように考えられます。地獄物は悉(ことごと)く輸入物か焼き直し物ばかりでございます」

自殺ダメ




 やがて我々は一大劇場の正面に出た。途中かなりの距離を歩いて来たが、その辺で見かけるどの建物も大抵皆近代式のものばかり、なかんずく劇場などときてはまるきり近頃のものだった。そのくせ汚れ切っていて、手入れなどはさっぱり出来てはしなかった。
 が、見物人の多いことと云ったら全く凄まじい程で、押すな押すなの大盛況-我々は暫く群衆と一緒になって、門の内部まで入って見たが、其処は殆ど修羅の巷で、大概の観客はお互いに喧嘩をしている。ヤレ押したとか、押されたとか。ヤレ滑ったとか転んだとか。めいめい何とか勝手な文句を並べて騒いでいる。殊に切符売り場の騒動ときては尚更酷いもので売り手と買い手とがひっきりなしに罵り合っている。
 いつまでもこんな騒動の渦中に巻き込まれていたのではとてもやり切れないので、吾輩は満腔(まんこう)の念力を込めて、四辺の群衆の抗議などには一切頓着なしに、家来の手を引っ張りながら、グイと真一文字に切符売り場へと突進した。家来の奴も吾輩の保護の下に大威張りで、道すがら幾人かを突き飛ばし、殊に一人の婦人の頭髪をひッ掴んで地面に投げ倒したりした。しかし鬼のような群衆は別にその女を可哀相とも思わず、倒れている体の上をめいめい足で踏み躙(にじ)った。
 それから吾輩は家来と共に直ちに観覧席に突入して行ったが、ここでも又観客の大部分が罵り合ったり、叩き合ったり、乱痴気騒ぎ-自分達の直ぐ隣席の男女なども決して御多分に洩れず大立ち回りの最中であった。これが裏店社会の出身というのなら聞こえているが、この二人は元は確かに上流社会の者であったらしく、身に付けている衣服などは、汚れて裂けてはいるものの中々金のかかった贅沢品であった。それでいて大びらに喧嘩をやらかすのだから全く以って世話はない。そのうち男の方が女よりも強烈な意思の所有者であったらしく、とうとう女を椅子と椅子との中間に叩き伏せてしまった。そして自分の椅子をわざわざ引き摺って来て、女の体を足の踏み台にして、ドッカとそれに座り込み、女が起き上がろうとすると、上からドシンドシンと靴で踏みつけた。
 やがて彼は自分達を認めると、手真似で前を通れと知らせ、且つこう付け加えた-
 「構いませんから、上を踏んで行ってください。こんな餓鬼は敷物代用にしてやると、いくらか功徳になります」
 そう言ってゴツンと靴で女の顎の辺を強く蹴たぐったのであった。
 我々は言われるままに女の体の上を踏んで、内側の空席に赴いたが、その体は人間同様血もあれば肉もありそうな踏み心地で、しかも女は生きている時と同様に悶えながら泣き叫ぶのであった。無論女の方では生きている時にこんな目に遭わされている場合と全く同じな苦痛を感ずることには変わりはないのであるが、ただ足で踏まれるから痛いというよりも、足で踏まうとする意思の為に痛いのであった。
 我々の次の座席には二人の婦人が座っていた。昔はこれでも綺麗な女であったのかも知れないが、何せ、彼等の面上に漲る悪魔式な残忍性の為に今では醜悪極まる鬼女と化していた。吾輩は感心して、二人の顔をジロジロ見比べていると、自分に近い方のが-後で聞くとそれはローズというのであったが、吾輩に向かって済ましてこんなことを言った-
 「ちょいとあんたは私の顔ばかり見ていらっしゃるじゃないの・・・。そんなに私がお気に召して?」
 「フン」と吾輩は呆れ返って叫んだ。「お前のような者でもいつか綺麗なことがあったのかも知れないが、今では随分憎らしい面つきをしているネ-イヤしかし地獄へ来て余り贅沢も言われまい。まァ我慢してやるから大人しく俺の言うことを聞け!ついでにそっちの女も一緒に来ないか。両方とも俺の妾にしてやる・・・・」
 「まァ随分勝手だわネ、この人は・・・。他人に相談もしないでさ!誰があんたのような者と一緒になってたまるものかね、馬鹿馬鹿しい・・・」
 吾輩はイキナリ彼女の両手を鷲掴みにした。
 「これ、すべた!顔を地面に擦り付けて謝れ!」
 一瞬の間彼女は抵抗しようとしたが、勿論それは出来ない相談で、忽ち呻きながら吾輩の足下に泣き崩れ、顔を地面に擦り付けたのであった。
 「これで懲りたら、」と吾輩が言った。「元の席に戻っていい。しかし今日から俺の奴隷になるのだぞ!」
 続いて吾輩は他の一人に呼びかけた-
 「きさまの名前は何と言うか?」
 「ヴァイオレットでございます」
 「鬼みたいな奴のくせに、イヤに可愛らしい名前をくっつけていやがるナ。兎に角俺の方が鬼として一枚役者が上だ。愚図愚図言わずに、早く降参する方がきさまの幸せだろう。ローズ同様地面に顔を擦り付けて謝れ!」
 「は・・・・・はい」
 吾輩の手並みが判ったとみえてこいつは不平一つ言わずに吾輩の命令を遵奉(じゅんぽう)した。

自殺ダメ




 暫く下らぬことを喋り合っている中に漸く芝居の幕が開いた。芝居の筋が発展するにつれて、観客の喧嘩口論が次第に鎮まって行った。
 吾輩はここに地獄の芝居の筋書きを細かに紹介しようとは思わない。ざっと掻い摘んで言うと、ありとあらゆる種類の罪悪やら痴情やらが事細やかに我々の眼前に演出された後で、とど残忍極まる拷問の場面が開けるという趣向なのである。
 すると、それまで大人しく見物していた吾輩の家来が、この時急に声を潜めて言った-
 「御主人、ここえらで早く逃げ出した方が得策でございます。この芝居の終わりになると、拷問係がきッと観客を舞台に引っ張り出して、酷い目に遭わせますから・・・」
 そう言ったか言わない中に、舞台の拷問係が一歩前に進み出でて我輩の家来を指差しながら叫んだ-
 「コラッ奴!ここへ出い!」
 家来は満面に恐怖の色を浮かべてガタガタ震えながら立ち上がったが、我にもあらず座席を離れ、舞台の方へと引き摺られ始めた。
 吾輩はこれを見て大いに癪に障った。いかに虫けら同然の者でも家来は矢張り家来に相違ない。それを断りなしに引っ張り出されては主人公の面目にかかわる。吾輩は猛然として席を蹴って立ち上がった。
 「ヤイ!」と吾輩は舞台に向かって叫んだ。「こいつは吾輩の家来ではないか!ふざけた真似をしやがると承知しないぞ!」
 期せずして興奮の低い呻きが全劇場に響き渡り、観客一同固唾を呑んだ。
 拷問係ははッたとばかり吾輩を睨み付けた。
 「こらッ新参者!新参者でもなければそんな口幅ったいことは言わない筈じゃ。イヤ貴様のような奴にはそろそろ地獄の苦い懲戒を嘗めさせる必要がある。さッさとこの舞台へ出掛けて来て身共と尋常の勝負を致せ!」
 「何をぬかしやがる!勝負をするならこっちへ来い!」
 双方掛け合いの台詞が宜しくあって、忽ち猛烈なる意思と意思との戦端が我々の間に開始された。吾輩の長所は意思が飽くまで強固で、負けじ魂が突っ張っていることである。そればかりが吾輩の唯一の武器である。舞台から放射される磁力は実に強大を極めたが、吾輩は首尾よくそれに抵抗したばかりか、アベコベに敵を自分の手元に引き寄せにかかった。やや暫くの間勝負は五分五分の姿であったが、俄かに観客の間からドッと喝采が起こった。吾輩の敵が一歩ヨロヨロとこちらへよろめいたのである。しかし敵もさるもの、次の瞬間に再び後方に跳び退ると同時に、今度は吾輩の足元が危なくなった。吾輩の体は覚えず五、六寸前方へ弾き出された。観客は又もやドッと囃(はや)し立てる・・・。一時はヒヤリとさせられたが、即座に陣容を立て直し、一世一代の力量を絞ってグッと睨み詰めると、とうとう敵の隊形が再び崩れ出した。
 「エーッ!」
 一つ気合をかけるごとに敵の体はズルリズルリと舞台の端まで引き摺られて来た。其処で先方はモ一度死に者狂いの抵抗を試みたが、最後に敵は物凄い一声の悲鳴を挙げると共に、舞台下の囃子場(はやしば)の中に落ち込んだ。囃子連中はびっくりして四方へ散乱する。同時に歓呼喝采の声が観客の間からドッと破裂する。
 それから先はいよいよこっちのもので、敵は起き上がって、一歩一歩に吾輩の座席を指して、器械人形宜しくの態で一直線に這い寄って来る。
 意気地の無いこと夥(おびただ)しいが、それでも観客は気味を悪がって右に避け左に逃げる。
 とうとう敵は吾輩の面前に来て跪いた。
 暫くして吾輩が言った-
 「舞台に戻って宜しい。吾輩も舞台に出るのだ」
 もうこうなっては相手は至極大人しいもので、すごすご舞台へ引き上げると、吾輩も直ぐその後から身軽に舞台へ跳び上がった。
 「こいつを拷問にかけるのだ!」
 吾輩は彼の配下の獄卒共に向かってそう号令をかけた。で、獄卒共はせうことなしに今までの親分に向かって極度の拷問を施すことになったのであるが、イヤ観客の嬉しがり様は一通りや二通りのことでなく、手を叩く、足踏みをする、怒鳴る、口笛を吹く。流石の大劇場も潰れるかと疑わるるばかりであった。
 散々虐め抜いた後で吾輩が舞台から降りかけると、忽ち観客の間から大きな声で叫ぶ者があった-
 「君は皇帝に就くべしだ!大至急現在の暴君に反旗を翻すがいい。我々大いに力を添える!」
 これを聞いて吾輩もちょっと悪い気持ちはしなかったが、しかしあの強烈な意思の所有者と即座に戦端を開くということには躊躇せざるを得なかった。何しろ吾輩はまだ地獄へ来たばかりでさっぱりこの事情が判らないから、うっかりした真似は出来ないと考えたのであったが、同時に戦端開始はただ時期の問題であることを痛感せずにおられなかった。どうせ今日劇場で起こったことがいつまでも皇帝の耳に入らずにいる筈がない。耳に入るが最後、あんな抜け目のない人物が自家防衛策を講ぜずにぼんやりしている筈がない。
 そこで吾輩が叫んだ-
 「まァお待ちなさい。吾輩には地獄の主権者になろうという野心は毛頭無い。先方から攻勢を取らない限り、吾輩は飽くまで陛下の忠良なる臣民である」
 そう言うとあちこちからクスクス嘲り笑う声が聞こえ、中には無遠慮に囁く奴があった-
 「あいつ臆病だ!恐がっていやがる」
 「黙れ!けだもの」と吾輩は叫んだ。「もう一度批評がましいことを吐くが最後、貴様達の想像し得ない程の拷問にかけてやるぞ!」
 「馬鹿を言え!」と見物席の一人が喚いた。
 「俺達には皇帝がついていらァ。貴様達の手に負えるかッ!」
 その瞬間に吾輩はそいつを舞台に引っ張り出して、獄卒共に命じて生きながら体の皮を剥がせた。
-イヤ皮を剥ぐなどと言えばいかにも物質くさい感じがしましょうが、外に適当な文句が無いから困るのです。観客の眼には皮を剥ぐように見え、当人も皮を剥がれるように感ずるのです。無論霊界の者に肉体は無いに決まっていますが、有っても無くても結果は同一なのです。
 思う存分やるだけの仕事をやった後で吾輩は二人の婦人と家来とを引具して劇場を出た。
 「何処かに手頃の家屋はあるまいかナ?」とやがて吾輩は家来に訊ねた。
 「さァ無いこともございません。とりあえずそこの家屋はいかがでございましょう?あれには有名なイタリアの人殺しが住んで居ります。この方が古風なローマ式の別荘よりも却って便利かも知れません」
 「ふむ、これでよかろう」
 我々は早速玄関の扉を叩くと、一人の下僕が現れて吾輩に打ってかかって来たが、そんな者は見る間に地面に投げ飛ばした。
 「こいつの顔を踏み躙(にじ)ってやれ!」
 吾輩が号令をかけるとローズは大喜びでその通りをやった。それから大理石の汚れた階段をかけ上って大広間に入ってみると、そこには多数の婦女共に取り巻かれて主人が座っていた。吾輩はイキナリ跳びかかって、そいつを窓から放り出し、家も什器も婦女も下僕もそっくりそのまま巻き上げて自分の所有にしてやった。
 先ず今晩の話はこれ位にして置きましょうかナ・・・・。

自殺ダメ





 四月六日の霊夢の記事で、前回に引き続いての陸軍士官の物語であります-

 吾輩は地獄で遭遇した一切の出来事を詳しく述べ立てる必要はないと考える。兎に角吾輩が着々と自分の周囲に帰依者の団体を作ることに全力を挙げたと思ってもらえば結構です。無論吾輩の命令は絶対で、又彼等もよくそれに服従した。が、吾輩は成るべく部下の自由を拘束せず、勝手に市内を歩き回って、勝手に人虐めをやるに任せておいた。その結果、以前強盗や海賊であった者、手に負えぬ無頼漢であった者などがゾロゾロ吾輩の旗下に馳せ参ずることになった。吾輩の勢力はみるみる旭日昇天の勢いで拡張して行ったが、最後にのっぴきならぬ事件が出来した。外でもない、皇帝から即刻出頭せよとの召喚状を受け取ったことである。
 吾輩はその時何の躊躇もなく、一隊の部下を引き具して直ちに宮城に出掛けて行った。
 我々が謁見室と称する、華麗な、しかし汚れ切っている大広間に入ると同時に、かねて待ち構えていた皇帝は玉座から立ち上がった。玉座は一の高見座で、その前面に半円形の階段が付いているのである。その時彼は満面にさも親切らしい微笑を湛(たた)え、吾輩を歓迎するような風をしたが、勿論腹の底に満々たる猜疑心を包蔵していることは一目で判った。
 ここいらが地獄という不思議な境地の一番不思議な点で、一生懸命お互いに騙しっくらを試みる。そのくせお互いの腹は判り過ぎる程判り切っているのである。騙せないと知りつつ騙しにかかるというのが実に滑稽であると同時に又気の知れないところなのである。
 皇帝はおもむろに言葉を切った-
 「愛する友よ、御身が地獄に来てからまだ幾ばくも経たないのに、早くもかばかりの大勢力を張ったとは実に見上げたものである」
 吾輩は恭しく頭を下げた-
 「全く陛下の仰せられる通りでございます。この上とも一層勢力を張るつもりでござる・・・・」
 「皇位までもと思うであろうがナ・・・。しかし、予め注意を与えておくが、それは決して容易の業ではない。恐らく永久にそんな機会は巡って来ぬであろう-イヤ両雄相争うは決して策の得たるものではない。お互いに手と手を握り合って、余が現在支配する領土の上に更に大なる領土を付け加えることにしようではないか?他日若し止むことを得ずんばアントニイとオクタヴィアスとの如く、一開戦を試みて主権の所在を決めることも面白かろう。しかし現在のところでは、かの賢明なる二英雄と同じく、互いに兵力を併せて付近の王侯共を征服することに力を尽くそうではないか?-つきては余は御身を大将軍に任ずるであろう。さすれば御身はかのダントンと称する成り上がりの愚物を征服して先ず御身の地歩を築くがよい。彼ダントンは前年大部隊を引き連れて地獄に降り、当城市から遠からぬ一地域を強襲して小王国を築き上げた。地獄ではその地方を「革命のパリ」と呼んでいる・・・」
 吾輩は一見してこの人物の腹の底を洞察してしまった。彼は吾輩と公然干戈(かんか=戦争)を交えることの危険を知っていると同時に、又吾輩が独立して彼の城市内に居住することの剣呑なことも痛切に感じているのである。
 そこで右に述べたような計略を以って一時彼の領土の中心から吾輩を遠ざけようとしているのであるが、その結果は次の三つの中の一つになるのに決まっている。即ち吾輩が戦争に負けてダントンの捕虜になるか、戦争が五分五分に終わって共倒れになるか、それとも吾輩がダントンを叩き潰してその王位を奪うか-何れにしても彼の為には損にはならない。最後の場合は単に一つの敵を他の敵と交換するだけに止まるように見えるが、吾輩が交戦の為に疲弊するというのが彼の眼の付けどころなのである。
 吾輩はこの計画がよく見え透いてはいたが、表面にはこれに同意を表しておくのが好都合に思えた。吾輩の方でも公然皇帝と戦端を開くことは危なくて仕方がない。万一戦闘に負けた日にはそれこそ眼も当てられない。これに反してダントンとの勝負にかけては充分の自信があった。一旦ダントンを撃破してその兵力を吾輩の兵力に付け加えた上で、一点して皇帝を攻めることにすれば、現在よりも勝てる見込みは余程多い。
 咄嗟に腹を決めて吾輩は答えた。
 「陛下の寛大なる御申し出は早速お引き受け致します」
 「おおよく承諾してくれて嬉しく思う。以後御身は余の股肱(ここう)の大将軍である」
 皇帝は直ちに大饗宴を催し、部下の重立ちたる者をこれに招いたが、吾輩がその正賓であったことは云うまでもない。
 やがて運び出された御馳走を見ると実に善つくし美つくし、ありとあらゆる山海の珍味が堆(うずたか)く盛り上げられてあったが、いよいよそれを食う段になると空っぽの影だけである。食欲だけは燃ゆるようにそそられながら、実際少しも腹に入らない地獄の御馳走ほど皮肉極まるものはない。
 しかし哀れなる来賓は、皇帝御下賜(ごかし)の御馳走だというので、さも満足しているかの如き風をしてナイフやフォークを働かせて見せねばならない。実に滑稽とも空々しいとも言いようがない。流石に皇帝は苦々しい微笑を浮かべてただ黙って控えている。吾輩とてもこの茶番の仲間入りだけは御免を蒙って、ただ他の奴共の為すところを見物するに止めた。
 御馳走ばかりでなく、地獄の仕事は皆空虚なる真似事である。饗宴中には音楽隊がしきりに楽器をひねくったが、調子は少しも合っていない。ギイギイピイピイ、その騒々しさと云ったらない。しかし聴衆はさもそれに感心したらしい風を装って見せねばならない。
 饗宴が終わってから武士共が現れて勝負を上覧に供した。暫く男子連がやってから、入れ代わって婦人の戦士達が現れ、男子も三舎を避ける程の獰猛な立ち回りをやって見せた。
 吾輩はこの大饗宴に付属した色々の娯楽をここで一々紹介しようとは思わない。そんなことをしたところで何の役にも立ちはしない。ただ何れも極度に惨酷であり、又極度に卑猥であったと思ってもらえばそれで結構である。

自殺ダメ



 さて皇帝の饗宴が終わると共に吾輩は部下の数人に命じて義勇軍募集の宣言書を発布させましたか、地獄という所はこんな仕事をやるには実に誂(あつら)え向きの場所で、これに応じて東西南北から馳せ参ずる者は雲霞の如く、忽ちにして幾千人に上りました。吾輩は直ちにこれが隊伍を整え、市街を通じて旅次行軍を開始したのであります。
 途中からも風を望んで参加する者が引きも切らず、瞬く間に又幾千人かを加えた。漸くにして到着したのは郊外の荒野原-通例地獄の大都会の付近にはそんな野原がつきものなのです。ここで吾輩はお手の物の陸軍式にすっかり各部隊の編成を終わりましたが、集まったのは真に文字通りの烏合の衆で、あらゆる時代、あらゆる国土の人間がウジャウジャと寄って集った混成部隊・・・。古代ローマの武士もいれば、中世の十字軍や野武士もいる。一方には支那の海賊、他方には英国の冒険家、トルコ人、アラビア人、ブルガリア人、その他各国のならず者、暴れ者・・・。こんな手合いが極度の興奮状態に於いて血に渇いて喚声を張り上げるのは結構でしたが、時々仲間同志の喧嘩をおッ始めるには手を焼きました。
 大骨折りで吾輩は全軍の整理を終わった。編成法はここに詳しく申し上げる必要もないと思うが、要するに成るべく同種類のものを以って一部隊を編成する方針を執り、その結果、中世の騎士軍、古代ローマの戦士軍、又海賊軍、トルコ軍と云ったようなものが沢山出来上がった。その各々が有為の将校によりて指揮されているのであるからその戦闘力は中々以って侮れない。一番の欠点を言えばそれが全然訓練の不行届な点であったが、その欠点は吾輩の任命した将校の圧倒的意思の力で補われた。又吾輩自身も間断なく発生する反逆者の抑圧に忙殺され通しであった。
 兎も角も吾輩の意思が御承知の通り飛び離れて強固であるので、この烏合の大軍団・・・。左様総数二十五万余人に上る大軍の統率を完遂することが出来たのであります。
 さて、いよいよ前進となりましたが、イヤその途中の乱暴狼藉さ加減ときたら全く天下一品、いかなる家屋でも乱入せざるはなく、いかなる住宅でも略奪せざるはない。但し地獄の略奪振りには一の特色がある。奪うことは奪っても、直ぐに飽きが来て、奪うより早く棄てて顧みない。
 ダントンの領土に接近した時に吾輩は直ちに偵察隊を派遣して敵状を探らせた。間もなく味方は敵の数人を捕えて戻って来た。
 見ればそれ等の捕虜というのは皆フランス革命時代の服装をしている者ばかりでした。吾輩は彼等の手から色々の有利な材料を得た。無論彼等は言を左右に托して吾輩を欺こうと試みたが、霊界では心に思っていることを隠せないから、そんなことをしても何の役にも立たなかった。
 彼等が地上に住んで居たのはフランス革命時代で、ある者はダントンの味方であり、又ある者はその敵であったが、何れにしても彼等には共通の一つの道楽があった。外でもない、それはギロチンを愛用することであった。但しギロチンの本来の目的は出来るだけ迅速に、そして出来るだけ安楽に人間を殺すことであるのだが、それでは甚だ興味が薄いというので、地獄に於けるギロチン使用法にはちょっと新工夫が加えられていた。
 無論地獄ではいかにやりたくても人を死刑に処することだけは出来ない。地獄で出来るのは成るべく多大の苦痛を与えることだけである。で、彼等は犠牲者をギロチンの台に載せるに際し、頭部の代わりに足を正面に持って来る仕掛けにしてある。ギロチンの刃は上下に動いて足から先にブツリブツリと全身を刺身のように切り刻んで行く。切られれば、地上に於いて感ずると同様の苦痛だけは感ずるが、切れ切れの部分は直ちに又癒着して行くから、繰り返し繰り返し死の苦痛を感ずるだけで、死ぬるということは絶対にない-イヤ諸君、人間というものは何て判りの悪いものでしょう。生きている時には馬鹿に死を怖れるが、実を言うと死は寧ろ人間の敵ではなくて味方なのである。死の伴わざる永久の苦痛!吾輩は地獄へ来てから、モ一度死にたいと何遍祈願したか知れはしません。
 それはそうと吾輩は敵状の報告に基づいて作戦計画を立て、いよいよ敵地に突入した。自らも手当たり次第に攻略を試み、敵地の人民などは散々虐めた上で奴隷となし、家屋の如きも悉く破壊することにした。ただ一つ困るのは霊界の家屋の非実質的なことで、我々がその付近に居る間こそこちらの思う通りに壊れているが、他の地点に前進してみるとそれ等の建物は何時の間にやらニョキニョキと元の通りに起立している!
 既に我々自身が一の形に過ぎない。それと同様に、建物も又一の形であるから、こればかりは破壊し得ない。こちらの意思がその所有者の意思よりも強固であれば家屋の形は一時消滅するように見えるが、破壊しようという意思が消滅すると同時に家屋は忽ち原形に復してしまう。要するに霊界は意思の世界、想念の世界で、物質抜きの形だけの所だと思えば宜しい-イヤしかしこんなことはあなた方ももう叔父さんから聞かされて百も御承知でありましょう。

↑このページのトップヘ