ムーア夫妻という名前を見て、ああ、あの二人かと思われた方は、よほどのシルバーバーチファンであろう。夫のバーノン・ムーア氏はかつてメソジスト派の牧師として教会で司牧していたが、シルバーバーチの霊言との出会いで魂の目を覚まされ、潔く牧師の職を辞して、スピリチュアリズムの普及に尽くすようになった。
 妻のフランシス・ムーア女史はハンネン・スワッファーが司会者となって本格的なホーム・サークルを結成し、霊言が記録に残されるようになった当初からの速記者で、その仕事はバーバネルが他界する1981年まで続いた。
 そのムーア夫妻がドーセット州に移転した時、バーバネルが訪れてそこで交霊会を催し、シルバーバーチが出現して献納(注)の言葉を述べた。それは同時に、夫妻への賛辞でもあった。

(注 開所式などで行われる儀式で、神聖な場所として神に捧げる-これを[聖別する]という-ことを目的とする。除幕式もこの部類に入るとみてよいであろう)

「本日は、こうしてお二人の新居をお訪ねして、霊界からの私の愛と挨拶の言葉をお届けすることになって、本当に嬉しく思います。私の使命の遂行の上で私と身近な関係にある方々と話を交わし、これまでに積み重ねてきた知識と叡智と愛と情を分かち合うことが出来たのは、私にとって大きな喜びです。
 お二人の新居でお二人と身近な関係にある方々に祝福の言葉を述べるようにとの要請を受けた時、私はそれを大変名誉なことと受け止め、快く承諾しました。
[家]というのは、それを構築している物質のみで出来上がっているのではないことを、まず銘記して頂きたいと思います。本当の意味の[家]とは、一定の位置をもつ[場所]であると同時に、そこに住まう者の精神が調和して、より高い生命の界層からの影響力を受けられる状態でないといけません。
 そういう状態であって初めて、その家に[霊の宮]が出来たことになります。顕と幽の二つの世界を隔てる障壁が取り除かれ、邪魔物が排除され、両者が一体となります。もとより、あなた方の目には見えず耳にも聞こえませんが、そこには、全ての束縛(物的カルマ)から解放された、光り輝く存在が常に存在して、地上からの要請に応じております。
 お二人のお家もまさにその一つです。この家でこの私に献納の言葉を述べることを要請なさったということは、ここに集われる方にとって、この家が聖別された神聖な場所であることを心に掛けて頂きたいということでしょう。確かに、ここは霊と物質とが接する場であり、私共の世界から派遣された者が訪れて、あなた方を通して、闇の中にいる人々に光を見出させてあげる為の仕事をする場所です。
 一般の家とは異なるということです。勿論お二人にも人間としての日常生活があります。が、それだけではなく、霊力が顕現する場でもあるということです。霊の灯台として、道に迷い疲れ果てた旅人に光を照らしてあげ、憩いの場、休らいの場を与えてあげることです。彼らは霊的に生き返り、自分がこの世で為すべきことを鮮明に理解して、再び人生の荒波へと乗り出して行きます。これを本当の意味での献身というのです。
 お二人が今後とも霊による援助を実感され、この家においてお二人が使命を完了するように常に背後から守護し導いていることを知って頂きたいと思います。
 お二人に対する私からの感謝の気持はお分かり頂けるものと信じます。これまで忠実に果たしてこられた使命への献身ぶりに、私はいつも感謝しております。お二人の存在が私達霊団の使命の達成に掛けがえのない力となっております。
 何度も申し上げてきたことですが、お二人の努力がどれ程の貢献をしているか、あなた方ご自身にはお分かりにならないと思います。私達の使命は、こうしてお届けする霊界からの真理の言葉によって地上の人々が本当の自我の存在に気付き、霊的に目覚めるように導くことです。その結果として、地上人生の本来の生き方に立ち戻ります。これはとても大切なことです。
 時には冗談も言い、笑い転げることはあっても、そうした中にあってもなお、私達が霊的な使命を帯びた大霊の使者であり、達成すべき理想へ向かって刻苦しなければならない立場にあることを忘れてはなりません。
 地上の同志と私達霊団の者との協調のお蔭で、随分多くの人々に光明をもたらすことが出来ました。これから更に多くの人々の力になってあげることが出来ることを思うと、やり甲斐を覚えます。お二人も快活な心と曇りのない精神をもって前進してください。恐れることはありません。磐石不動の真理の上に築き上げた霊的知識をお持ちなのですから。
 これまでにあなた方に啓示され、あなた方の行動と思考の堅固な基盤となっているものを書き改めないといけなくなるような事態は、絶対に生じません。そういう絶対的な知識を手にされているお二人は、本当に恵まれた方です。その知識を縁あってあなた方のもとに来られる人々に分けてあげてください。
 こうした知識は、弁証法的論理や激論によって受け入れを迫るような性質のものではありません。タネを蒔くということだけを心掛けておればよろしい。幸いにしてそのタネが芽を出せば、その成功を喜ぶのです。私達も協力しています。これからも協力し続けます。堂々と胸を張って生きてください。霊力に対抗して人間がいかなる論法を用いても、そんなもので霊力の存在が否定出来るものではありません。
 私のことを目に見えざる家族の一員と思ってください。出来るだけ多く、あなた方の日常生活を共にさせて頂きたいと思っております。私から提供するのは愛と霊力です。それこそ最高の贈り物です。宇宙の大霊の永遠不滅の恩寵の一部だからです」

 シルバーバーチの交霊会の生みの親ともいうべき、ハンネン・スワッファーが1962年に他界してからは、交霊会は再びバーバネルの家の応接間で行われるようになった。
 ある日の交霊会にテスター夫妻が招かれた。M・H・テスターといえば、心霊治療家としてスピリチュアリズム関係の人の間ではその名を知らぬ人はいない程よく知られているが、それまでの道のりは大変だった。長く苦しい闘病生活の後、テッド・フリッカーという治療家に奇跡的に救われ、そのフリッカーから「あなたも治療が出来ますよ」と言われ、モーリス・バーバネルを紹介された。
 早速バーバネルを訪ねてスピリチュアリズムを知り、更にシルバーバーチの交霊会にも招かれて教えを受けた。
 その最初の交霊会はテスター夫妻の為に用意されたようなもので、テスター氏も思いのたけを披瀝して、教えを請うた。シルバーバーチはその一つ一つに丁寧に答えてから、それまでのテスター氏の人生は治療家になる為に用意されたもので「あなたは人の病気を治す為に生まれてきたのですよ」と言った。
 それから何年になるだろうか。久しぶりで訪れた夫妻にシルバーバーチはこう述べて歓迎の意を表した。

「思い出しますよ、あなたが初めてこの会へ来られた時のこと、そしてその後も何度か出席されて、色々と質問されたことを。難問や苦悶を抱えておられることがよく分かりましたが、私はその都度[いずれ解決します]と申し上げましたが、霊の力は決して見捨てないことが、今こうして振り返ってみるとお分かりと思います。無限なる英知をそなえた大霊が授けてくださった才能を正しく使っている限り、霊力はこれからもあなた方を援助し続けます。
 私達はパートナーシップ(連携)を大切にします。私の霊団には居眠りをしているパートナーは一人もいません。みんな活気に溢れ、一体となって働いております。あなた方が辿ってこられた道を振り返ってごらんなさい。あの逆境の体験の中で光明を見出されたのです。霊的な虹をご覧になったのです。あの虹は、あの絶望的な苦境をも霊力はあっさりと切り開いてあげたのだから、これからもいかなる困難も必ずや解決してみせるとの霊団側からの約束のしるしと思ってください。あなたは立派に使命を果たしておられます。これは、そう簡単に出来ることではありません」

テスター「私が今抱えている問題は、コミュニケーション(語り合い)とは違った意味でのコミュニオン(触れ合い)のことです。治療家としてこのコミュニオンが大切だと思うのですが、私にはそれが実感として感じ取れなくて、暗中模索の状態です。私の治療の仕方は今まで通りでよろしいでしょうか。もし他に試みるべき手段またはテクニックがあれば、教えて頂きたいのですが・・・」

「これはとても大切な問題です。霊が物質と関わり合うには無限といってよい段階があります。その中で、コミュニオンはコミニュニケーションに優ります。
 コミュニオンというのは意識の高まり、ないしは深まりがもたらす魂の触れ合いのことで、霊視とか霊聴といった伝達手段によるコミュニケーションよりも実感があります。
 あなたの治療体験を振り返ってご覧になれば、何もしなくても自然に分かるようになってきたことにお気づきの筈です。その証拠に、患者に一々どこが悪いのですかなどと尋ねる必要を感じないまま治療に入っているケースが多いはずです。
 更には、病気そのものの状態だけでなく、その原因まで直観的に分かってしまうことがある筈です。それだけ進歩なさったわけです。私の意見としては、霊視や霊聴よりはコミュニオンの能力を発達させるほうが大切だと思います」

テスター「よく分かります」

「これはスピリチュアルな手段の最たるもので、そうなることが望ましいのです。といって、私は他の能力がダメだと言っているのではありません。霊的な触れ合いが得られるようになった時は、霊界の相当高い界層にまで入り込んでおります。
 いずれにしても、これまでなかなか立派におやりになってますよ。何も問題はないと思いますが・・・」

テスター「時には、まったく良くならない人がいて・・・」

「勿論いますよ。霊的にまだ良くなる段階まで来ていない人なのです」

テスター「私は私なりの観点から、これでいいのだと勝手に考えて治療に当っています。ただ、患者の人間性に問題がある場合に・・・」

と言いかけたところ、シルバーバーチが遮って、
「言いにくいことですが、あえて言わせて頂くと、それはあなたの人間性に問題があることの証明でもあるのですよ(注)。あなたが初めてこの交霊会にお出になった時、私が、あなたは人の病気を治す為に生まれてきたのですよ、と申し上げたら、あなたは、患者に来てもらう為にはどうすればよいのでしょうか、とお尋ねになりました。私は、心配いりません、患者はそのうちやってまいります。多くて困る程になるでしょう、とお答えしました。今も、競馬でいうと、いい位置につけていらっしゃるんじゃないでしょうか」

(注 患者の人間性は治療家の人間性の証であるという考えもシルバーバーチ一流の高度な哲学で、私の師の間部詮敦氏も、どんなに不快な思いをさせられる患者でも、自分の心の鏡として、絶対に拒絶なさらなかった。間部先生はシルハーバーチのことは何もご存知なかったが、私が師事した期間に見聞きした先生の言動には、不思議にシルバーバーチの思想と相通じるものがあった。とても地味なご性格だったが、スピリチュアリズムの潮流にのって生まれた大霊格者のお一人であったと、今しみじみとその偉大さに敬意を抱いているところである-訳者)

続いてシルバーバーチは夫妻に向かって、
「私はお二人のお家によくお邪魔しておりますが、お二人もどうぞこの交霊会にいつでもいらしてください。私は今後もお二人の家をお邪魔して、生活ぶりを体験させて頂き、私に出来る範囲で援助し、お仕事に邪魔が入らないように配慮致しましょう。声がしないからといって私がいないと思わないでください。
 あなた(テスター氏)にはまだまだやって頂かねばならない仕事が山ほどあります。それに比べれば、これまでになさったことは微々たるものです。ということは、これからも新たな悟りへの窓が開かれていく可能性があるということです。そのことを喜ばないといけません。勿論あなたにとっては辛い試練を意味するものであることは、私もよく承知しております。が、そうした中にあってあなたの魂の安らぎが次第に深まっていくのを見て、私は嬉しく思っております。霊的真理にしがみつくことです。強大な霊力は決して見捨てません」

テスター「こうして時折この交霊会で信念を再確認できることは有り難いことです」

「その通りです。神の意志を機能させる為には道具がいります。チャンネルになってくれる人間です。そういう人の協力を得なくてはなりません。命令はしません。あくまでも協調です。協調によって神の意志を成就していくのです。
 難しい問題が有り、悩みが有り、時には鬱陶しい気分になることがあっても、あなたは神の豊かな恩寵を受けられた方です。予定された道を歩んでおられます。使命を立派に果たしておられます。人の為に役立っておられるということです。それさえ心掛けておられれば、後は時が至れば全て落ち着くべきところに落ち着きます。
 一欠片たりとも心配の念を宿してはなりません。全く無用のことです。心配の念は敵です。魂を蝕む敵です。絶対に侵入を許してはなりません。これまでに啓示された真理に全幅の信頼を置き、それを基盤とした信念に燃えることです。あなたにはスピリチュアリズムという知識があります。それを基盤とするのです。つまり理性に裏づけされた確信、信じるに足る根拠をもった信念に燃えることです。後のことは万事上手く行きます。真一文字に進んでください。あなたはあなたなりにベストを尽くしておればよろしい」

テスター「遠隔治療のことですが、私はこれまで私なりのやり方でやってきて、時たま良くなったとの手紙を貰う程度で、果たしてどこまで効いているのか実感がなかったのですが、今まで通りでいいのでしょうか。改善するとすればどういう点でしょうか」

「今まで通りで結構です。遠隔とはいえ、直接手を触れて治療するのと同じ効果があります。理由は簡単です。あたに治療を申し込むことによって患者との間にリンク(繋がり)が出来、それが霊力の通う通路となります。その通路として霊に使われる以外に、あなたには何も出来ません。
 つまりあなたは、通信機のような役割を果たすだけです。霊の触媒となるといってもよいでしょう。霊医が合成する治癒エネルギーがあなたという人格を通して患者に届けられるわけです。効果を上げる為には、あなたの受容力を高めるしかありません。受容力が高まれば、霊団との一体化が深まります。これには時間と努力を要します。
 これまでの経過を振り返ってごらんなさい。霊団との一体化が今までになく深まってきていることにお気付きになるはずです。いかがですか」

テスター「かつては想像も出来なかったほど深まっております」

「それと共に[悟り]も深まります。すると今度は[明察力]が芽生えてきます。治療家の仕事は手で触れてみることの出来ないもの、計量器で計ることの出来ないエネルギーを扱う仕事です。ですから、察知する能力がいります。そのエネルギーの潜在力は無限ですから、その中から患者に適合した最高のものを調合する必要が生じます。
 霊側から治療家に要求するのは、最善を尽くすということだけです。霊側も最善を尽くし、お互いの協調の中で、医学に見放された人々を救ってあげるのです。もしもそれで何の反応もないとしても、それは治療家の責任ではありません。患者の責任です。霊的にまだ治るべき段階に至っていなかったということです。こうしたことはみな霊的法則の働きによって自動的に決まることなのです」

テスター「そのことは理解しております」

「治療を依頼してきた人を片っ端から治すということは、不可能であると同時に、望ましいことでもありません。患者は受けるべき量の援助しか受けません。その計算は一分一厘の狂いもありません。霊的に計算されるからです。迷わす突き進んでください。あなたの歩んでおられる道は間違っておりません」

テスター「私のもとを訪れる患者の方も私の自己実現に貢献しているのだという考えは正しいでしょうか」

「その通りです。一方通行ではないということです。あなたは患者を救い、患者はあなたを援助しているのです。それは丁度、私がこの交霊会に来て地上の皆さんの一助として働きながら、私は皆さんからの援助を受けているのと同じです。これは協調の法則の一環でして、宇宙はこの協調によって進化しているのです。調和・協調・善意を通して働くのです。
 病気が首尾よく治った時は、それはそれとして素直に喜ぶがよろしい。が、奇跡的な治療の体験を通して患者の霊的意識が目覚めることになれば、更に大きな喜びの源泉となります。その方が肉体の病気が治るということ以上に大切なことだからです」

テスター「そういうケースが多くなっています」

「それだけ大霊と協調した仕事をなさっているということですよ。神の力がその目的成就の為に、あなたを通路としているのです。伝統的とか正統派をもって任じている教会が行っていることより、あなたの方が遙かに大切なことをなさっておられます。教会には霊力の顕現がないからです。
 これからも神の道具として、いつでもご自分を役立ててください。最善を尽くしてください。あなたには奇跡的な体験があおりです。霊団が、サービスにはサービスをもって返すことをよくご存知です。何一つ迷うことはありません」