●最後の憑依霊
 人体から放射されている磁気性オーラと電気性オーラは、暗闇の中に閉じ込められている地縛霊には灯火のように見える。自我意識がしっかりしていないために、無意識のうちにそれに近づくのであるが、その際に、灯火と見られている人間が霊的感受性が特別に強いと、そのオーラに引っかかってしまう。
 本来なら拒絶反応(一種の防御本能)が働いてすぐに離れるのであるが、両者の間に何らかの因縁がある場合には、憑依現象がエスカレートして、スピリットの意識の働きがその人間の脳の働きにまで響くようになる。二重人格と言われているのはそういう状態をさす。これが一個のスピリットでなく、複数のスピリットが一人の人間のオーラに引っかかっている時が多重人格と言われている症状になる。
 次の例は、初めのうち手に負えないほど酷かった症状が、除霊が進むにつれて軽くなり、ついには最後の一人となった、そのスピリットを招霊した時のものである。


 患者=L・W夫人
 スピリット=ジュリア・スティーブ


博士「お名前をおっしゃってください。私達は、暗い闇の中にいる方々をお招きして、悩みをお聞きしている者です。亡くなられてからどのくらいになりますか」
スピリット「何かが起きたようには感じております」
博士「ご自分の身体から脱け出てしまっていることはお気づきですか」
スピリット「手を握らないでください。あたくしは資産家のレディーでございますの(L・W夫人はこのセリフをよく口にしていた )。レディーに対する礼儀をお忘れなく・・・・」
博士「『ミセス』と呼ばれてましたか、それとも『ミス』でしたか」
スピリット「あたくしは資産家のレディでございます。そのような下衆の質問には慣れておりませんので・・・。あたくしからあなたさまに申し上げたいことがございますの」
博士「どのようなことで?」
スピリット「あなたは、あたくしの背中に妙なものを浴びせる悪い癖がおありのようで(静電気治療のこと)。なぜ、あのようなマネをなさるのか、分かりませんの。あなたはまた、このあたくしを牢の中に閉じ込めましたね?(オーラの中で身動きが出来なくなった状態のこと)あなたに相違ございません。どこのどなたさまでいらっしゃいますか」
博士「あなたのためを思ってお話をうかがっている者です」
スピリット「第一、あたくしはあなたさまを存じ上げておりません。第二に、あなたさまにご相談申し上げることは何もございません。どなたさまですか。お名前をおっしゃってください」
博士「ドクター・ウィックランドと申します」
スピリット「ほんとはお名前をうかがっても仕方ないのですけどもね・・・・。何の興味もございませんもの」
博士「スピリットの世界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「そんな話、聞いたこともございません。あたくしは、スピリットではございません」
博士「その手をごらんになってみてください。あなたのものでしょうか」
スピリット「あなたという方は、このあたくしを永いこと牢に閉じ込めておいて、今度はニセモノを見せようというのですか。聞く耳はございません」
博士「ここへは、どうやって来られたのでしょうか」
スピリット「あたくし自身には身に覚えがございません。とても奇妙な感じがするのは確かです。牢の中にいて、ふと気がつくと、ここに来ておりました。どうやって来たのか、分かりません。以前はお友達(他の憑依霊)が沢山いたのですが、いつの間にか一人ぽっちにされてしまいました。牢に入れられているのですが、どんな悪いことをしたのか、自分でも分かりません」
博士「そのお友達とは、どこで一緒だったのですか。どこに立ち寄っておられたのですか」
スピリット「立ち寄っただなんて・・・。ちゃんとした自分達の家にいましたよ。仲間が大勢いましたー男性も女性も。ただ、なぜだかそこから出られなくて・・・。温かいところにいたり、一人ぽっちになったり、暗いところにいたり・・・。今は一人っきりになりました。あたくしを焼くのは止めてくださいよ」
博士「あの電気療法は、地縛霊にはよく効くのです。無知な霊にね」
スピリット「無知ですって!よくもそんな失礼な言葉が使えるわね。生意気な!」
博士「あなたはもう物的身体から脱け出てしまったことをご存知ないのですか。肉体を失ってしまわれたのです」
スピリット「どうしてそんなことが分かるのよ?」
博士「それは、今あなたが話しておられる身体は、あなたのものではないからです。それは、私の妻のものなのです」
スピリット「あの針のようなものを浴びせる前は、あなたを一度も見かけたことはございませんよ」
博士「あの時のあなたは、それとは別の身体を使っておられたのです」
スピリット「一体、それはどういう意味ですか」
博士「別の人間の身体に乗り移っておられたということです」
スピリット「なるほど、そういえば思い当たるフシがあるわね。なんとなく自分が自分でないような気がしたかと思うと、また自分に戻った感じになったりしてました。一人、図体のでかいのがいて、少し間抜けなところがあるんですけど、その人の言う通りにさせられていました(もう一人の憑依霊で、この女性の前に除霊された、ジョン・サリバンのこと)。
 ほんとは言いなりにはなりたくなかったのです。だって、あたくしは欲しいだけお金があるし、なんであんなゴロツキに悩まされる必要がありますか。そこはあたくしの自宅ではありませんでしたが、そこにいないといけなかったのです。なぜ逃げ出せなかったかが分かりません。その男は、あたくしを入れて数人ばかりを牛耳ってました」
博士「例の電気が、逃げ出すのに役立ったわけでしょう?」
スピリット「そうね。でも、その時の痛さったら、ありませんでしたよ。命がなくなるかと思いましたよ」
博士「何はともあれ、その電気のお陰で自由になれたじゃありませんか」
スピリット「あの男からはどうしても逃げられませんでした。言われた通りにしないと大変なの。彼がやたらに走りたがるものだから、あたくしたちも走るしかなかったのです(患者はよく逃げ出すことがあった)。
 一人、小さい女の子がいて、その子は泣き通しでした。時々自由になったかと思うと、すぐまた、そういう悲劇に巻き込まれるのです。時にはフワフワ漂いながら、あちらこちらへ行くような感じもましした」
博士「そんな時は一個の自由なスピリットとなっておられたのですよ」
スピリット「スピリットという言葉を口にしないでください!大嫌いです。そういう類いのものには縁はございません」
博士「あなたは、まだ、ご自分が肉体から脱け出てしまったことが悟れないのですね。死んだと言っているのではありません。ちゃんと生きていらっしゃいます。ただ、今はスピリットとして生きているということです」
スピリット「あたくしは死んでなんかいませんよ。今こうして、あなたと話をしているじゃありませんか。手も腕も、これ、ちゃんと動かせるじゃありませんか」
博士「いいですか。あなたが私に向かって話をなさっていても、私達にはあなたの姿は見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体です。あなたは私の妻の身体を使って喋っておられるのです。ミセス・ウィックランドの身体です。あなたのお名前は?」
スピリット「エミリー・ジュリア・スティーブです。結婚してましたが、夫は数年前に他界しました」
博士「ここがカリフォルニアであることはご存知ですか」
スピリット「そんなところへ行ったことはありません。最初シカゴへ行き、そこからセントルイスへ行きました」(患者もセントルイスに住んだことがあり、そこで異常行動が出始めている)
博士「セントルイスのどちらでしたか」
スピリット「あたくしは旅行していたのです。住んでいたのではありません」
博士「病気になった記憶はありますか」
スピリット「何も思い出せません。(急に興奮状態になる)イヤ、イヤよ!あたし、どうかしてるわ!気でも狂ったのかしら?見て!ホラ、見て!夫がいるわ。幽霊だわ。見て!」
博士「こうしてあなたと話をしている時は、私は実は幽霊と話をしているのと同じなのです。でも、ちっとも怖くはありませんよ」
スピリット「あたしの子供もいる!赤ちゃんだったのよ!リリー!リリー!夫のヒューゴーよ。あたし、頭が変になりそう。まあ、母さんまでいる!みんな、あたしの方へやってくる!ヒューゴー、ほんとにあなたなの?リリー!会いたかったわ!でも、怖い!」
博士「あなたはもう生身の人間ではないのです。スピリットになっておられるのです。そのことを早く悟りなさい」
スピリット「夫やリリーがなぜ私のまわりにやって来たのか教えてください。天国では幸せではなかったのでしょうか。なぜ天国に留まっていないのでしょうか」
博士「天国とはどんなとこだか、ご存知ですか」
スピリット「天空の高いところにあって、キリストと神がいらっしゃるところです」
博士「イエスは『神の王国はあなたの心の中にある』と言いました。『あなたは神の神殿であり、神の霊はあなたの中におわします』とも言ってます。さらにまた、『神は愛です。愛の中に住める者は神の中に住むのと同じです』とも言っています。神は上にも、下にも、いたるところにましますのです」
スピリット「人間の姿をした神は、存在しないのでしょうか」
博士「神は大霊なのです。一つの場所にのみ存在するものではありません」
スピリット「なんだか疲れてしまって、おっしゃることが理解できません。どこか休む場所があれば喜んでまいります。これまであたくしがどんな苦しい目にあってきたか、とても口では申せません。帰る家はなく、疲れた頭を休める場所もなく、あちらこちらと歩き回っても、家も安らぎも見つかりません。どうか安らぎを、と祈ろうとすると必ず邪魔が入るのです。
 大勢がひしめき合っておりました。あたくしがいじわるな態度をとったこともあります。仕方なかったのです。けだものに取り憑かれたみたいに、大喧嘩もしました。それが終わると、何日もの間、ぐったりとなるのです。
 酷い目に遭いました。あのゴロツキがいつもあたくしの後をつけまわし、小さい女の子は泣き通しでした。今はもうその男もいなくなりました。ここしばらく見かけなくなりました。泣いてばかりいた女の子もいなくなりました」
博士「ご主人やお母さんや、お子さん達と一緒に行かれてはいかがですか。皆さんが介抱してくれて、休むことも出来るでしょう。何はさておき、肉体はもうなくなったのだということを、しっかりと自覚してください」
スピリット「いつからなくなったのでしょう?」
博士「それは私達には分かりません」
スピリット「大柄な女性になって誰とでも喧嘩ができそうな気分になったかと思うと、今度は小柄な女性になったみたいに感じたりして、とても変でした」
博士「それは多分いろんな人間に乗り移ってたのですよ。もう、これでそういう状態からすっかり脱け出られますよ」
スピリット「そうしたら休むことが出来ますね?目が覚めてみたら、これは全部夢で、またあのゴロツキと泣き虫と一緒の生活になるのではないでしょうね?あの男はもうご免です。まるで悪魔でした。女の子をいじめるものだから、それで女の子は泣き通しだったのです」
博士「さ、そういう過去のことはすべて忘れて、これから先のことを考えましょうよ。ご主人と一緒に行ってください。スピリットの世界のすばらしさを説明してくれますよ」
スピリット「夫のヒューゴーが見えます。夫が死んでからのあたくしの人生は、まったく生き甲斐がなくなりました。それからわずか一ヶ月後に子供も死にました。三歳の幼児でした。夫があたくしの生き甲斐でした。夫が死んでからは、自分はもうどうなってもいいと思いました。よく一緒に旅をしたものです。アラスカに行った時に夫が風邪を引き、肺炎を併発し、子供も重病になりました。もう一度やり直すのは、とても無理です」
博士「もう一度やり直してみられてはいかがですか。そのために、皆さんが迎えに来られたのですよ」
スピリット「一緒に行きたいのは山々ですが、怖いのです。だって、みんな死んだ人達ばかりですもの。夫が言ってますーあたくしをずいぶん探したのだそうです。夫と子供が死んでから、あたくしも病気になりました。医者の診断では、神経耗弱だと言われました。それがさらに悪化して、エルギン(多分、精神病院の名前)と呼ばれる場所へ移されたのを覚えています。うっすらと思い出すだけです。そのうち急に良くなったので(この時死亡)、妹のいるセントルイスへ行きました。が、妹に話しかけても、何の反応もなくて、何か変でした。
 では、みんなと一緒にまいります。あの美しいベッドをごらんなさい。これであたくしもゆっくり休めます。夫と一緒になれば、もう面倒なことにはならないでしょう。
 夫が、あたくしをついに見つけることができて喜んでいることを、あなたに伝えてほしいと言っております。もう二度と別れないようにすると言ってます。では皆さん、さようなら」