以上の交霊会の記事が日曜新聞The Peopleの第一面のトップに三段抜きで掲載された。その見出しはこうだった。

 ノースクリフ卿、墓場の向こうからメッセージを発信
   「国際連合の為に働く人々に応援を」
     秘書が明かす驚異的交霊現象 

 この記事は発行前から世界中で抜き刷りされるほどの注目を浴びた。発行当日にはオーストラレーシア海外通信社[オーストラレーシアはオーストラリアと付近の諸島の総称ー訳者]の若い記者が訪れ、「オーストラリアに発信したいので」校正刷りを見せて欲しいという。その記者は記事の重要性を認識していたのである。
 Daily Mailのオーストリア版もSydney Sunにも、一面トップ記事として、こう出ていた。

     センセーショナルな交霊現象 
   ノースクリフ卿から届けられた興味津々の物語
   「今は元気で幸せそのもの」
 フラノのグレーのスーツを着て田舎のマンションで暮らす 

 ロサンゼルスの写真誌Daily Newsも次の見出しで三段抜きのトップ記事扱いだった。

      ノースクリフ卿、交霊会で死後の生活を語る 
 
 こうした記事がフランス、ドイツ、イタリアを駆け巡った。スピリチュアリズムが再びブームを引き起こした。私も新聞人として、これを重大ニュースとして扱った。その扱い方には、ボスに対する生前の敬意がそのまま出ていた。
 またオーエン女史をよく知っていたので、いい加減な話でないことは信じていた。つまり、オーエン女史に関する限り、その記事に偽りも誇張もないことは信じていた。が、当時の私としてはそこまでが限界だった。要するにボスの述べていることを信じることは出来なかった。
 「私は信じてないが女房はすっかり信じてるよ」ー上司の一人がそう言っていた。ではスピリチュアリズムの専門家はどうか。四人のコメントを紹介しておこう。

オリバー・ロッジ[1851〜1940:世界的な物理学者で哲学者。第一次大戦で戦死した息子のレーモンドからの通信で死後の存続を確信。その経緯を述べた『レーモンド』は本書と共にスピリチュアリズムの古典的名著とされるー訳者]
 レナルド夫人の霊媒現象については私も数年にわたって調査したが、その誠実さと真っ正直さに百パーセント確信がいった。オーエン女史が完全な匿名で出席したというからには、メッセージを送ってきたのがノースクリフ卿以外の何者でもないと結論づけてよい。

ウィリアム・バレット[1845〜1929:ノーベル物理学賞を受賞した世界的な物理学者で、ヴィクトリア時代の最後の知的巨人と称されるー訳者]
 ノースクリフ卿からのものとされている通信は実に興味深く、拝見した限りでは純正な霊界通信であろう。私はレナード夫人を個人的に存じ上げているが、間違いなく信頼の置ける霊能の持ち主である。

コナン・ドイル[1858〜1930:名探偵シャーロック・ホームズで世界的に知られた作家であるが、本職は耳鼻科の医者で、患者が来ないその暇に書いたのが当たり、その後シリーズを書き続けながら、医学生時代から抱き続けてきたスピリチュアリズムの調査研究を手がけ、その成果を『新しき啓示』『重大なるメッセージ』として出版した(日本語版では合本にして『コナン・ドイルの心霊学』として出版。)その後は世界中に講演旅行をしてスピリチュアリズムの普及に努めたー訳者]
 オーエン女史がブリテン女史とレナード夫人から得たメッセージは、間違いなく女史の意志とは別の次元から届けられたものであることを確信する。いやしくも理性のある人間ならば、一読してそれがノースクリフ卿その人から送られたものであることを疑うことは出来ないはずである。

 フリート街(新聞社が軒を連ねる通り)も大騒ぎだった。私に他に特ダネはないかと尋ねる記者がいたが、デマではないのかといった批判的な声は聞かれなかった。唯一それに近いものといえば、私の親友が編纂しているBurnly Newsに『フラノのグレーのスーツ』を嘲笑する記事があった。
 実は私も校正の段階でその一節を削除しようかと思ったほど違和感を抱いていた。それは私だけではなかった。The Peopleの宣伝部長フィリップス氏がやってきて
「知人が例のフラノのグレーのスーツについて詳しく知りたがっているのだが・・・」
と言う。
「なぜだ?」と私が聞くと
「本当かどうかを確かめたいらしいのだ。もし本当だったら、霊界へ行ったらフラノのグレーのスーツを縫わなきゃならないからと言うのだ。そいつは洋服の卸屋でな」
 こうして大笑いしたりボスを懐かしんだりしている頃に、その後の私の人生にコペルニクス的転回をもたらすことになる一通の手紙が届いたのだった。