以上がノースクリフが、その後、クリフォード・ポターを霊媒とするサークルを通して死後の存続を明かそうとした経緯であるが、まだ死後の意識が十分でないこともあって交霊会でのエネルギーの扱い方が不慣れで、司会者のポターにも戸惑いが伺える。
 が、やがて米国人霊媒バリアンティンが英国へ訪れるようになり、ブラッドレーという文人が司会をする交霊会が度々催されるようになって、ブラッドレーと親交のあったスワッファーの人生に劇的な転換をもたらすことになる。それは冒頭に掲げた一文「人生の恩師ブラッドレー夫妻へ贈る言葉」が雄弁に物語っている。つまりそれを本書の冒頭に掲げたということは、ブラッドレー・ホームサークルへの出席がスワッファーにとっていかに大きな意味を持つことになったかを物語っていると言える。
 とは言え、本書の全訳をこのまま紹介していけば膨大な紙面を取るし、その必要もないと思われるので、ここではブラッドレー・ホームサークルについて概略を紹介するのに留めたいと思う。
 このサークルの専属霊媒はジョージ・バリアンティンという米国人で、物理的心霊現象と精神的心霊現象の両刀使いだった。
 さて、ブラッドレーと顔見知りの間柄だったスワッファーは、ある日ひょっこり立ち寄ってみると、かつての「親分」の聞き慣れた声で「ハロー、スワッフ」と呼びかけられた。自分のことを「スワッフ」と呼ぶのは親分のノースクリフしかいなかったので、スワッファーはその一言で強烈なインパクトを受けた。そのインパクトがその後彼を足繁くブラッドレー・サークルに通わせることになり、死後の存続を確信させ、ついにNorthcliffe`s Returnの執筆にまで至った、ということである。1923年のことだった。
 これは、言わば霊的ルポタージュである。しかも登場人物は自分と生前の親分という、極めてプライベートな関係の二人である。なのに英国中で大反響を巻き起こした。
 この事実に関連して、一言、私見を述べさせて頂きたい。霊的なことやUFOの話になると、一般の人もそうであるが、特に学者は「客観性」を要求しがちであるが、実は本当の確信といえるものはむしろ「主観的要素」が多い程強固となるものである。一例として、本文でも紹介した英国の世界的科学者で哲学者のオリバー・ロッジのケースを挙げて、本稿を終わりとしたい。
 ロッジはクルックスによる心霊現象の研究によってその真実性を認めてはいたが、それは理知的納得程度のものだった。信仰についても「キリスト教で十分だ」と述べていた。それが、ブラッドレー交霊会に出席した時に、第一次世界大戦で戦死した息子のレーモンドが出現して生々しい死後の存続の事実を見せ付けられた。あの、ソクラテスのような風貌のロッジが辺り構わずに「オーマイゴッド!」と叫んでその場に泣き崩れ、しばし慟哭した話は有名である。その後キリスト教の信仰も捨てている。
 これを、息子だと名乗られて情に流されたに過ぎない、といった見方をする人は、まだまだ魂を揺さぶられるような感動的体験をしていない人だと、あえて申し上げたい。
 UFOを否定する人も私は同次元の人と見ている。まだ見たことがないから、まだ体験したことがないから、に過ぎない。要は感性の問題であろう。