何事にも発端というものがある。すピリチュアリズムの発端は、ニューヨーク州に属するとはいえ今なお人家の少ない片田舎でのポルターガイストだった。
 話はほぼ百五十年前に遡る。日本では世界へ門戸を開く大変革の幕開けとなる嘉永元年に相当する。五大湖の一つのオンタリオ湖に近いロチェスター市のハイズビルという村で、ある騒動が起きた。
 1847年の暮れのこと、その村に家を新築中のフォックス家の家族四人が、完成までの仮住まいとして、中二階の木造家屋に移り住んだ。家族はフォックス夫妻と娘二人、マーガレット(十二歳)とケート(九歳)であるが、他に既に嫁いでいる長女リーアと、既に独立している二人の息子がいて、家族全体としては七人だった。
 さて、移り住んで直ぐから、四人は何となく騒々しい家だという印象を受けたという。家のどこかで音がするのである。それが、年が開けてからは家屋全体が揺すられたり、眼に見えない人間が家中を歩いているような足音がするようになった。
 ただ、それはいつも夕刻からで、昼間は何事もなかった。それが翌年の三月に入ってから安眠が出来ない程頻繁になり、寝る前には両親がローソクを手にして家中を見て回り、ドアがひとりでに開いたりするとフォックス氏が直ぐに飛んで行って調べるのだが、人影は見当たらない。
 そうしているうちに、いよいよ歴史的な一日となる三月三十一日がやってくる。当日は朝から吹雪で、昼間のうちに息子のデービッドがやって来て母親から不思議な現象の一部始終を聞かされたが、
 「そんなの、そのうち笑い話になるよ」と言い残して昼間のうちに帰って行った。
 夕方になっても吹雪は止まず、今日は早く寝ようということになり、二人の子供は両親と一緒に寝ることにして、ベッドを両親の寝室へ運び入れた。そして家族四人がベッドに入った時に母親が
 「今日だけは何が起きても口をきいてはダメよ」と言いつけた。ところが、母親がそう言い終わるのと時を同じくして二人の子供が口をそろえて
 「あ、やっぱりいる!」
 二人には霊視能力があったのである。母親が身を起こして
 「口をきいてはダメと言ったでしょ!」と叱るように言って、また横になった。ところが、それに反抗するかのように音が激しく、そして大きくなった。二人の娘は堪らなくなってベッドの上に起き上がった。母親が夫に
 「窓の音じゃないでしょうね?」と言うと、フォックス氏がベッドから出て窓を一つ一つ点検して回った。確かに、外は吹雪なので、どの窓も少しは音を立てていた。
 その時ケートは、フォックス氏が両手で窓を揺するごとに同じような音が寝室でもすることに気づいた。そこでケートは天上の方を向いて
 「コレ、鬼さん、あたしのするようにしてごらん」と言って、指と指とでパチンと鳴らしてみた。すると空中でも同じような音が鳴った。これが人類史上に残る大発見の端緒になるとは、その時の四人は知る由もなかった。