右の紹介したグリーリー氏は当時ジャーナリズム界で頭角を現し始めていた同紙の創始者で、毎日の論説の最後に付す『H・G』というイニシャルは同紙の代名詞ともなっていたほど大きな影響力をもっていた。三人の姉妹を弁護し、スピリチュアリズムという新しい思想を前にした時の偏見のないものの見方は、現代の日本の識者も大いに見習うべきであろう。
 ここに紹介するそのグリーリーの論説は、ニューヨークに滞在中にフォックス夫人と三姉妹の活動についてコメントした「謎のラップ」と題する長文のものである。ハイズヒル事件勃発後まだ二年も経っていない当時の騒ぎの大きさを彷彿させる内容となっているので、煩をいとわず全文を訳出しておく。


 フォックス夫人と三人の令嬢が昨日、数週間に及ぶ当地での滞在を終えてロチェスターへの帰途についた。その間、三人の姉妹に付きまとっている例の謎の影響力に関してありとあらゆる合理的なテストに付され、自ら訪れた人や招待された人達数十人による厳しい、あら捜し的な調査の対象とされた。
 宿泊先として宛てがわれたホテルの部屋も前もって繰り返し綿密な下調べが為された。
 一時間の猶予もなしに、いきなり、行ったこともない家に連れて行かれたこともある。実験に使用した部屋のカーベットの下には、電流を遮断する為にガラス板が敷き詰められていた。複数の女性の担当者によって全裸にされて身体検査が為された。その担当者も直前になっていきなり指名するという念の入れようである。そして実験が終わるまでは一歩も部屋から出させてもらえなかった。
 これほど徹底した用心をしたにもかかわらず、今までのところ三人の姉妹の誰一人としてラップを故意に出したところを発見されていないし、我々が見る限り、そのラップや間違いなく見られる知性の働きに関して、納得のいく説を唱えた者はいない。
 十日余りの滞在の後四人はホテルを出て、今度は前もって招待されていた数件の家を訪れて、ホテルでの実験よりはお手柔らかではあったが、より綿密な方法で調査を受けた。集まった人達は理知的な興味というよりは、漠然とした好奇心からの者もいれば、頭から詐欺と決めて掛かった者や、敵意のようなものに燃えた者もいた。
 我が社もその会場の一つだったが、我々の意図はラップ現象に付随して発生する、知性の伴った[霊的顕現]を満足のいく厳しい調査に付すと同時に、その真実性に確証を与えることにあった。
 我が社は三日間にわたって社としての本来の仕事の時間を可能な限り割いてその調査に当たった。それだけの調査によって、四人がその誠実さと信念から自ら主張している通りであることに疑問の余地はないということを、この後に及んでなお確信出来ないとしたら、これほど卑劣な臆病者はいないということになるであろう。ラップの出所、ないしは原因が何であれ、少なくとも三人の姉妹が故意に出しているのではないことは明白であり、その事実を我々は心いくまでテストし、そして満足している。
 そもそも彼女達の普段の行動と物腰からして、およそペテン師のそれとは似ても似つかぬものである。一度でも彼女達と接触した人なら、あれほど大胆で不遜な恥ずべき行為は出来るはずがないと確信するに違いない。
 また、そういう手品がそういつまでも、また何回も続けられるものではない。手品師は奇術を次から次へと手を替え品を替えてやるもので、同じ奇術を何百人もの会衆を前に、それも楽しむ為でなくタネを暴く目的で来ている者を前にして、何週間も何ヶ月も、白昼堂々と見せる馬鹿はいない。
 また、ペテン師だったらそのペテンに関わる話を喋るはずはない。ところがこの女性達はハイズヒルでのラップやそれが引き起こした様々なセンセーション、近所に巻き起こした騒動、その後の事件の発展について何一つ隠すことなく話す。もしも作り話だったら、三人があちらこちらで喋っているうちに、とんでもない矛盾が出てきて台無しになるところである。控えることなく用心もなしにそんなことをしていたら、一週間もしないうちに化けの皮が剥がれてしまう。
 無論見に来る人は様々であるから、当然、意見もまちまちであろう。ましてや、たった一時間そこらの間、互いに見ず知らずの者ばかりが雑然と一室に閉じ込められた中で、眼に見えない知的存在に対して次から次へと質問が出され、その回答がいわゆるラップーフロアやテーブルなどから出る奇怪な音ーやアルファベットの綴りが述べられるという形で届けられるのを見ていると、大抵の者は何が何やら訳が分からないまま、或はうんざりして、しかも霊の実在などまずもって信じられない状態で帰って行って当たり前であろう。
 何かしら深刻なものを暗示するこの問題が、確信を与えるという点では不利な条件下で演出されることに、そもそも無理がある。しかし、納得のいく調査をする機会に恵まれた人々の四分の三が、我々と同様、奇怪なラップや霊的顕現がフォックス夫人や三人の令嬢、或はこの四人を繋がった、いかなる人間によるものでもないことを確信している。
 それにしても、それらがどのようにして発生するのか、どこから発しているのかといった問題はこれから究明されるべき分野であって、正直言って我々にはその手掛かりはない。それらの現象が果たして自然現象なのか、それとも超自然現象なのかを断定出来る者は、宇宙の奥義に精通した者でしかない。
 この四人の女性が述べたところによると、自分達が今携わっていることは新しい時代、ないしは新しい秩序の始まりに過ぎず、その時代が進行すれば[肉体に包まれた霊]である人間が[永遠性を身につけた霊]といっそう緊密にそして実感をもって接触するようになること、そして自分達の実験会で生じている類の現象は世界の他の多くの地域で既に発生しており、これからますます拡大し、現象も明確なものとなって行き、望む者は誰でも自由に[俗世の煩いを振り捨てた者]と交信することが可能となる、ということだった。(世俗の煩いを振り捨てた者とは他界した霊のことで、シェークスピアの『ハムレット』から)
 今の我々はそうしたことについて何も知らないし、従って余計な憶測はしないことにする。しかし、二時間ぶっ通しで催された我が社での実験会において、こちらから出した質問とラップによる回答をもしここで披露したら、我々が霊魂説を支持する意図のもとにやったと受け取られるに相違ない。