愛する子供を突然失うこと程辛い経験はない。しかしながら、「最も美しい希望となっていた、たった一人の子供、全ての愛情を注いでいた子供が、自分の目の下で、苦しむことなく、また、原因も分からずに、衰弱していくのを見る」ということは、科学的な知識を狼狽させるに足る、最も奇妙な現象の一つであろう。
 あらゆる医療技術を駆使したにもかかわらず、一切希望がないことを思い知らされ、何年にもわたって、毎日、いつ終わるとも知れない苦悩に耐え続けるということ、それは、誠に恐るべき、拷問にも似た苦しみであろう。
 かくのごとくが、アンナ・ビッテの父親の立場であった。故に、暗い絶望がその魂をむしばみ、性格がますますトゲトゲしくなっていったとしても無理はない。
 そうした様子を見て、家族の友人の内の一人ーこの人は霊実在論を信奉していたーが、指導霊に事情を聞いてみようと思い立った。以下がその答えである。

 「あなたが今目にしている奇妙な現象を説明してみましょう。というのも、それは、あなたがこの子供に対して真摯な関心を寄せているのであって、ぶしつけな好奇心から聞いているのではない、ということが分かるからです。神の正義を信じているあなたにとって、それは大きな学びとなるでしょう。
 神に打たれることになった者は、神を呪ったり、反抗したりせずに、素直に神の意志に従う必要があります。なぜなら、神が理由なく罰するということは有り得ないからです。
 現在、神によって、どっちつかずの状態に置かれているこの娘は、もうすぐ、こちらの世界に還ってくることになっています。神がこの娘を哀れんでおられるからです。
 この不幸な父親は、たった一人の娘を愛するが故に、今こうして苦しんでいますが、実は、自分の周りにいる人々の心と信頼を弄んだことがあるのです。神はそれを罰しようとしました。しかし、その心の中に悔悟の気持ちが生じた為に、神は、娘の頭に振り下ろそうとした剣をしばし止めることにしたのです。だが、また反抗の気持ちが戻ってきたので、ついに罰が下されたのです。地上で罰せられる者はむしろ幸いなり。
 友人諸君、どうか、この哀れな少女の為に祈ってあげてください。この子は、もう少しすれば、ようやく最後の息を引き取るでしょう。大分衰弱しているとはいえ、この若木の中には、まだ樹液がたっぷり満ちているので、魂が離脱することは難しいと思われます。さあ、祈ってあげてください。
 後に、彼女の霊は、あなた方を助け、また、慰めることとなるでしょう。なぜなら、彼女の霊は、あなた方の多くよりも進化しているからです。
 このようにしてお答えすることが出来たのは、主の特別なお計らいがあったからです。というのも、この霊が肉体から離れる為には、あなた方の支援が是非とも必要だからなのです」

 子供を失った空虚感に耐えられずに、父親も、間もなく亡くなった。死後、娘とその父親から伝えられたメッセージを、以下に掲げることとしよう。
 
 娘からのメッセージ:「哀れな女の子に関心を示してくださって、どうも有り難うございました。さらに、指導霊のご忠告に従ってくださいましたことにも、深く感謝申し上げます。
 ええ、あなた方のお祈りのお陰で、比較的、楽に体から離れることが出来ました。お父さんときたら、お祈りもせずに、呪ってばかりいましたね。もっとも、それを恨んでいるわけではありません。私を愛するが故に、そんなふうにしたのですから。
 私は、お父さんが、死ぬ前に、早く目覚めることが出来るようにと神様にお祈りしました。私は、お父さんを励まし、勇気づけました。私の使命は、お父さんの最後を苦しみの少ないものにすることだったからです。
 時には、神聖な光がお父さんを貫いたようですが、それは一時的なものに過ぎず、直ぐに、また元の考えに後戻りしてしまいました。信仰の芽はあったのですが、世俗の関心に押し潰されてしまいました。新たな、より恐るべき試練でも来ないと、その芽は育たなかったのでしょう。
 私はといえば、もう直ぐこちらでの償いも終わります。私の罪は、そう大きなものではなかったのです。だからこそ、また、地上での償いも、それほど苦しくも、難しいものでもなかったのですが。
 私は、病気になっても、苦しくはありませんでした。私はむしろ、お父さんに試練を与える道具として使われたと言ってよいのです。私自身は苦しんでいなかったのですが、病気の私を見ることで、お父さん自身が苦しむ必要があったのですね。私は運命を甘受していましたが、お父さんはそうではありませんでした。
 現在、私は充分に報われています。神様は、私の地上での滞在の期間を縮めてくださいました。大変有り難いことです。私は、天使達に取り囲まれて、とても幸せです。私達は、全員、喜びと共に仕事に励んでおります。天上界では、仕事をしないことは、まるで拷問を受けるように辛いことなのですから」

 死後一ヶ月して送られてきた父親のメッセージ。
ー現在、霊界でどのように過ごしていらっしゃいますか?もし可能であれば、ご援助申し上げたいのですが。
 「霊界だって!霊なんかいやしない。以前知っていた者達が見えるだけだ。もっとも、彼らは私のことなど、これっぽっちも考えていないみたいだし、私がいなくなって残念だと思ってもいないようだが。むしろ、私が死んでせいせいしているようだ」
ー今、どんな立場にあるかお分かりですか? 
 「勿論だ。少し前までは、まだ地上にいると思っていたが、今では、もう地上にいないことはよく分かっている」
ーそれなら、どうして、周りに他の霊達が見えないのですか?
 「そんなことは分からん」
ー娘さんとはまだお会いになっていないのですか?
 「まだだ。あの子は死んだ。だから捜しているんだが、いくら呼んでも応えがない。
 あの子が死んだ時、地上に残された私は耐え難い空虚を味わった。死ぬ段になって、『これでようやくあの子に会える』と思ったのだ。だが、死んでみたら何もなかった。孤立があるばかりだ。誰も話しかけてくれない。これでは、慰めも、希望もないではないか。
 それでは、さらば。娘を捜さねばならないのでな」

 霊媒の指導霊からのメッセージ:「この男は、無神論者でも唯物論者でもありませんでしたが、漠然とした信仰しか持っていませんでした。神のことを真剣に考えたこともなければ、死後のことに思いを巡らせたこともなく、ひたすら地上の俗事にまみれて生きたのです。
 娘を救う為ならば、何でも犠牲にしたでしょうが、しかし、一方で、自分の利益の為ならば、他人を犠牲にしてはばからなかったのです。つまり、もの凄いエゴイストだったということです。娘以外の人間のことは、考えたことさえありませんでした。
 既にご存知のように、神はそのことで彼を罰したのです。地上においても、彼からたった一人の娘を取り上げ、それでも悔い改めなかったので、霊界においても、彼から娘を取り上げました。また、彼は誰にも関心を示さなかったので、こちらでは誰も彼に関心を示しません。それが彼に対する罰なのです。
 実は、娘は近くにいるのですが、それが彼には見えないのです。もし、彼に娘が見えれば、それは罰にはならないからです。
 彼は今何をしているのでしょうか?神に向かっているでしょうか?悔い改めているでしょうか?いいえ。文句を言うだけです。神を冒瀆さえしています。要するに、地上でしていたのと同じことをしているのです。
 お祈りをし、忠告をして、彼を助けてあげなさい。そうしないと、いつまでも、この盲目状態が続くことになります」