P氏はモスクワ在住の医者であり、その人徳と学識によって、多くの人々から尊敬されていた。
 彼を招霊した人は、彼のことを直接知っていたわけではなく、その名声を知っていたにすぎない。そして、この霊界通信は、もとはロシア語でなされたものである。

ー(招霊の後に)ここにいらっしゃいますか?
 「はい、来ております。
 私が死んだ日に、私はあなたに通信を送ったのですが、あなたは書くことを拒みましたね。あなたが私について言ってくださったことを私は聞いて、あなたを知るようになったのです。そこで、あなたのお役に立ちたいと思い、通信を試みたわけですが」
ーそんなによい人であるあなたが、どうして死ぬ前にあれほど苦しまれたのですか?
 「それは神様のお計らいです。神様は、そのようにして、肉体からの解放の喜びを二倍にしてくださったのです。その後、あっという間にこちらに連れてきてくださいました」
ー死ぬということで、恐怖を感じませんでしたか?
 「いいえ。神に全幅の信頼を置いておりましたので」
ー肉体からの分離は苦しくありませんでしたか?
 「はい、苦しくありませんでした。あなた方が『死の瞬間』と呼んでいるものも、何ということもありませんでした。プチン、という音がして霊子線が切れただけでおしまいです。その直後には、私の哀れな肉体から解放されて、すっかり幸福感に浸っていました」
ーその後、どうなりましたか?
 「私の周りに多くの友人達がやってきて、とても暖かく迎えてくれました。特に、私が生前助けてあげた人達が多くやってきました」
ー今はどんなところにいらっしゃるのですか?どこかの惑星にいるのでしょうか?
 「どこかの惑星にいるのではなくて、あなた方が『空間』と呼んでいる領域にいます。
 しかし、そこには無数の段階があり、地上の人には到底想像もつきません。霊界には、本当に沢山の階層があるのです。地獄領域と言われるようなところから、最も浄化された美しい魂の住む領域まで、無限の階梯があります。現在私のいる所には、数多くの試練、つまり数多くの転生輪廻を経た後でないと来られません」
ーつまり、そこに至る為に、あなたは数多くの転生を経験したというわけですね。
 「それ以外にどんな方法があるというのでしょうか?神によって打ち立てられた不変の秩序には、例外の入る余地はありません。
 報いというのは、戦いに勝利を収めた後に初めて与えられるものではないでしょうか。そして、報いが大きいということは、必然的に戦いが大変だったということになりませんか?しかし、一回の転生はごくごく短いものでしかありませんから、戦いも、数多くの転生に分けて少しずつ経験するということになります。
 私が現在、かなり高い、幸福な境地にいるということは、私が既に、数多くの戦いにおいて、神に許されてそれなりに勝利を収めてきた、ということを意味します」
ーその幸福の根拠は何ですか?
 「これは地上の人間に説明するのが最も難しいことの一つです。
 現在、私が享受している幸福は、自分自身に対する限りない満足が根拠となっています。しかし、これは自分があげた功績に対する満足ではありません。もしそうだとすれば、それは傲慢ということになるからです。
 そうではなくて、神の愛に浸ること、神の無限の善意に対する感謝に浸ることだと言えるでしょう。善を、そしてよきことを見る喜びだと言ってもいいでしょう。『神に向かって進歩している人々の為に、何らかの貢献が出来た』と言えることでもあります。自らの霊と神聖なる善が溶け合うことだと言ってもいいでしょう。自分より悟りの高い霊を見ることが出来、彼らの使命を理解することが出来、やがては自分もそうした境地に達することが出来ることを確信する、ということでもあります。
 広大無辺な空間に燦然と輝く神聖な火が見えるのですが、それを覆っているヴェールを通して見てさえ目が眩むのです。
 こんなふうに言って、あなた方の理解は得られるでしょうか?例えば、この神聖な火を太陽のようなものだと想像したら、それは間違いです。
 これは人間の言語ではとても説明出来ません。というのも、人間の言語によっては、記憶を通して、或は直観を通して知ることの出来る対象や物体、形而上学的な観念しか表現出来ないからです。それに対して、今お話しているのは、『絶対的な未知である以上、その記憶もなく、また、それを表現出来る言葉も存在しない』という類の事柄なのです。
 しかし、一つだけ確かなことがあります。それは、『無限に向上出来るという事実を知ること自体が、既に一つの無限の幸福である』ということです」
ー私の為に役立ちたい、と仰ってくださいましたが、それはどんな点においてでしょうか?
 「あなたが不調な時に助け、衰弱している時に支え、心痛を感じている時に慰めてあげましょう。
 あなたの信仰が、何らかの困難によって揺さぶられ、ぐらついた時には、私を呼んでください。神が私に与えてくださる言葉によって、私はあなたに神を思い出させ、神のもとに再びあなたを連れてまいりましょう。
 あなたが持つ魂の傾向性によって、間違ったことをしそうになった時には、どうぞ私を呼んでください。かつてイエスは、十字架を負う時に、神によって助けられましたが、私も、あなたが自分自身の十字架を負うのを助けることにしましょう。
 苦悩の重みに打ちひしがれる時、絶望に支配されそうになった時、そんな時には私を呼んでください。そんな時には、私はあなたに霊同士として語りかけ、あなたに課せられている義務を思い出させて、絶望の淵から救ってさしあげましょう。社会的、物質的な配慮によってではなく、あなたが私の内に感じるであろう愛によって、すなわち、救われるべき人々にお伝えする為に神が私に与えてくださった愛によって、あなたを救ってさしあげましょう」
ー一体どういうわけで、あなたは私を守ってくださるのでしょうか?
 「私が死んだ日に、あなたとご縁が出来たからなのです。その日に、あなたが霊実在主義者であり、よき霊媒であり、誠実な同志であることを知りました。地上に残してきた人々の中で、まず真っ先にあなたの姿が目にとまったのです。その時に、私はあなたの向上を助け、あなたの為になろうと決心したのです。また、そうすることによって、結果的に、あなたが真理を伝えようとしている人々の為に役立ちたいと考えたのです。
 ご存知かと思いますが、神はあなたを愛しており、あなたを真理の伝道者にしました。あなたの周りで、多くの人々が、徐々にではありますが、信仰を同じくしつつあります。最も扱いにくい人達でさえ、少なくともあなたの言うことに耳を傾け始めました。やがて彼らもあなたの言うことを信ずるようになるでしょう。
 辛抱強くあってください。道には躓きの石が沢山ありますが、どうかそれでも歩き続けてください。辛い時には、どうか私を杖の代わりに使ってください」
ーそこまで仰って頂くと、恐縮いたします。
 「勿論、あなたはまだ完全であるとは言えません。
 しかし、反対者が卑劣な手段を使って邪魔しようとしているにもかかわらず、あなたは、それでもなお熱意を持って真理を述べ伝えんとし、あなたの話を聞く人々の信仰を支えんとし、慈悲、善意、思いやりを広めんとしています。また、あなたを攻撃し、あなたの意図を無視する人々に対して、怒りを爆発させようと思えば簡単に爆発させることも出来るのに、それを一生懸命に抑えています。
 そうしたことが、幸いにも、あなたの欠点を補う働きをしているのです。そう、それは許しというカウンター・バランスなのです。
 神は恩寵によって、あなたに霊媒としての能力を与えてくださいました。どうか、それを、あなた自身の努力によって、さらに優れたものとなし、隣人達の救済の為に、より効果的に使ってください。
 今日はこれで帰りますが、どうかこれからも私を頼りにしてください。どうか、地上的な思いを静め、友人達と一緒に、さらに多くの充実した時間を過ごしてください」