妻との繋がりのせいと思われるが、私は妻の勤める病院へ度々連れて行かれている。病院といっても地上から霊界入りしたばかりの人を介抱する施設である。
 ある時その施設をあらためて見学に訪れたことがあった。事務所に行ってみると女性が出て来た。多分理解してくれるだろうと思って単刀直入に、私がまだ地上の人間で一時的に肉体から離れてやって来たことを説明し、妻に会うのが目的であると告げた。
 すると、その女性自身もまだ霊界入りして間がないらしく、私の言っていることが理解出来ないで、しきりに私の頭上に繋がっているもの(玉の緒)に目をやっていた。私のような訪問者は初めてらしいことを知った私は時間が勿体ないので、今地上は夜で私は睡眠中の肉体から脱け出てきたことなどを説明した。が、なおも怪訝な顔をし、『少しお待ちください』と言って奥へ入った。
 間もなく代わって男性が笑顔で出て来た。一見して霊格の高い人であることが分かった。そして私の事情を直ぐに理解して『結構です。そこの廊下でお待ちになってください』と言って外へ出ていった。待つ程もなく妻がその廊下を歩いてきた。
 妻の案内で見学したのであるが、そこは若い女性ばかりの患者を介抱する施設だった。食堂へ入ってみると、丁度食事中で、私も妙な食欲を覚えた。テーブルの間を通り抜けながら患者のオーラとコンタクトしてみたが、死因となった事故のショックや恐怖、病床での苦しみや不安の念が根強く残っていた。
 中には地上の病院での消毒液の臭いが漂っている者もいた。事故死した者の腕や首や顔に傷当ての赤い絆創膏の跡がうっすらと残っている人もいた。精神に焼き付いた映像がまだ消えていないのである。
 しかし、ホール全体に穏やかな雰囲気が漂い、一人として病人くさい感じを見せていなかった。これは高級界から間断なく送られてくる生命力のせいで、こうした特殊な患者に必要なのである。
 見学を終えて施設を去る時、事務所の入り口のところにスタッフ一同が立って見送ってくれた。敬意を表したというよりは、地上からの珍客が物珍しかったようである。