●幸福とは無縁だったと嘆く上流階級出身者
このジョン・J・Aはその後、急速に霊的感覚が目覚め、それからわずか二週間後に、地上時代の上流階級の知人を案内してきている。同じように、ルシタニア号(注)という豪華船と共に海に沈んだまま、彷徨っていたスピリットである。
(注 英国の客船で、1915年に大西洋においてドイツの潜水艦によって撃沈され、乗客に米国人が多かったことから、米国が第一次大戦に参戦する要因の一つとなった)
1916年11月5日
スピリット=アルフレッド・V
スピリット「ある人から、ここへ来れば温まるよと言われてやってきました」
博士「お名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「アルフレッド・Vです。客船に乗っておりました。知人のジョン・J・Aがやってきて、いいところへ連れていってやるというものですから、ついてきました。ここへ来れば救ってもらえるというのです。
一体、どういうことなのでしょうか。私はかつてひもじい思いなど一度も味わったことのない暮らしをしていたのに、今は空腹と寒さに悩まされております。全身ずぶ濡れなのです」
博士「それは、あなたの精神状態の反映にすぎません。あなたはもう肉体を失ったのですから、空腹を覚えるはずはないのです」
スピリット「溺れたのをはっきり覚えております。それ以来、ずっと悲惨なことばかり続いております」
博士「死後の世界がどういうところなのかを理解すれば、人の為に役立つことをすることが、自分を幸せにする唯一の道であることを悟られるはずです」
スピリット「裕福だった地上時代でさえ、幸福感というものを感じたことは一度もありません。わがままが過ぎていたのだろうと思います。こんな暮らしをして何になる、という思いがよぎったことが何度もありました。しかし、すぐに『いいじゃないか、愉快に生きればいいんだ』と反発しました。
上流社交界の生活には関心をお持ちでないかも知れませんが、あんな世界に入ると華やかさに溺れてしまいます。私はそういう生活を少しも楽しいとは思っていませんでした。そこで私は、気持ちのはけ口を馬に求めました。いい馬に恵まれると、生涯、忠実に付き合ってくれます。それに引きかえ、人間の社交界では、女性は一面しか見せませんー笑顔です。そして、その笑顔は一転して憎しみに変わることがあるのです。そこで私は、愛情を美しい馬に求めたのです。馬が何よりの楽しみであり、馬も私によくなついてくれました。
女性が私に近づくのは、ただ金と快楽が目当てでした。私から搾れるだけ搾り取ろうという魂胆からでした。私も気前よく贈り物をし、快楽にうさを晴らしていました。しかし、幸せというものは感じませんでした。社交界は名誉も恥もありません。もしも、社交界に馬ほどの忠実さと真心を持った人間がいれば、そういう世界にいることに感激もすることでしょう。が、まあ、一度その世界へ足を踏み入れてごらんなさい。男も女も、下らぬ人間ばかりです。
私自身も、その下らぬ人間の一人でした。しかし、まわりには、こんなことでいいのかという私の心の中で問いかける声、すなわち良心の呵責を忘れさせてしまうようなことばかりがある世界でした。それで、何か心安らぐものを求めました。それが馬です。
社交界は、それを当然と割り切れば、それなりに結構いい世界なのです。ですが、以上の話から推察なさっておられると思いますが、私は知らぬ間に、自分のことしか考えない人間になっておりました」
博士「しかし、これからは、そうした過去の生活のことは忘れて、もっと程度の高いものを求めるべきです。そうすれば霊的な目が開けます」
スピリット「私のことを心配してくれる友人が、ここへ案内してくれました。お陰で大分事情が分かってきました。多分ー必ずという自信はありませんが、ーこの調子でいけば、幸せになれることでしょう。私はまだ、心からの幸福感というものを味わったことがないのです。子供の頃から、わがままな生活に慣れてしまっていたからでしょう。
本日は、こういう機会を私に与えてくださって有り難うございました。本当の幸せを味わうことが出来るようになりましたら、もう一度来させて頂いて、その報告をさせて頂くつもりです」
このジョン・J・Aはその後、急速に霊的感覚が目覚め、それからわずか二週間後に、地上時代の上流階級の知人を案内してきている。同じように、ルシタニア号(注)という豪華船と共に海に沈んだまま、彷徨っていたスピリットである。
(注 英国の客船で、1915年に大西洋においてドイツの潜水艦によって撃沈され、乗客に米国人が多かったことから、米国が第一次大戦に参戦する要因の一つとなった)
1916年11月5日
スピリット=アルフレッド・V
スピリット「ある人から、ここへ来れば温まるよと言われてやってきました」
博士「お名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「アルフレッド・Vです。客船に乗っておりました。知人のジョン・J・Aがやってきて、いいところへ連れていってやるというものですから、ついてきました。ここへ来れば救ってもらえるというのです。
一体、どういうことなのでしょうか。私はかつてひもじい思いなど一度も味わったことのない暮らしをしていたのに、今は空腹と寒さに悩まされております。全身ずぶ濡れなのです」
博士「それは、あなたの精神状態の反映にすぎません。あなたはもう肉体を失ったのですから、空腹を覚えるはずはないのです」
スピリット「溺れたのをはっきり覚えております。それ以来、ずっと悲惨なことばかり続いております」
博士「死後の世界がどういうところなのかを理解すれば、人の為に役立つことをすることが、自分を幸せにする唯一の道であることを悟られるはずです」
スピリット「裕福だった地上時代でさえ、幸福感というものを感じたことは一度もありません。わがままが過ぎていたのだろうと思います。こんな暮らしをして何になる、という思いがよぎったことが何度もありました。しかし、すぐに『いいじゃないか、愉快に生きればいいんだ』と反発しました。
上流社交界の生活には関心をお持ちでないかも知れませんが、あんな世界に入ると華やかさに溺れてしまいます。私はそういう生活を少しも楽しいとは思っていませんでした。そこで私は、気持ちのはけ口を馬に求めました。いい馬に恵まれると、生涯、忠実に付き合ってくれます。それに引きかえ、人間の社交界では、女性は一面しか見せませんー笑顔です。そして、その笑顔は一転して憎しみに変わることがあるのです。そこで私は、愛情を美しい馬に求めたのです。馬が何よりの楽しみであり、馬も私によくなついてくれました。
女性が私に近づくのは、ただ金と快楽が目当てでした。私から搾れるだけ搾り取ろうという魂胆からでした。私も気前よく贈り物をし、快楽にうさを晴らしていました。しかし、幸せというものは感じませんでした。社交界は名誉も恥もありません。もしも、社交界に馬ほどの忠実さと真心を持った人間がいれば、そういう世界にいることに感激もすることでしょう。が、まあ、一度その世界へ足を踏み入れてごらんなさい。男も女も、下らぬ人間ばかりです。
私自身も、その下らぬ人間の一人でした。しかし、まわりには、こんなことでいいのかという私の心の中で問いかける声、すなわち良心の呵責を忘れさせてしまうようなことばかりがある世界でした。それで、何か心安らぐものを求めました。それが馬です。
社交界は、それを当然と割り切れば、それなりに結構いい世界なのです。ですが、以上の話から推察なさっておられると思いますが、私は知らぬ間に、自分のことしか考えない人間になっておりました」
博士「しかし、これからは、そうした過去の生活のことは忘れて、もっと程度の高いものを求めるべきです。そうすれば霊的な目が開けます」
スピリット「私のことを心配してくれる友人が、ここへ案内してくれました。お陰で大分事情が分かってきました。多分ー必ずという自信はありませんが、ーこの調子でいけば、幸せになれることでしょう。私はまだ、心からの幸福感というものを味わったことがないのです。子供の頃から、わがままな生活に慣れてしまっていたからでしょう。
本日は、こういう機会を私に与えてくださって有り難うございました。本当の幸せを味わうことが出来るようになりましたら、もう一度来させて頂いて、その報告をさせて頂くつもりです」