●死後、親友の身体に憑依したスピリット
我々がシカゴにいた時分に、S夫人とサイモンズ夫人という大の仲良しがいて、我々との交際もあったが、サイモンズ夫人は『人間は死後、みんな花や木や小鳥になる』と信じていて、スピリチュアリズムを全部まやかしと決めつけ、特に自動書記を馬鹿にしていた。
 そのサイモンズ夫人が、浮腫と腰痛で苦しみながら、S夫人に看取られて他界した。それから何年かして、S夫人が鬱病になり、同時に、まっすぐに歩けないほど背骨に痛みを覚えるようになった。二週間ほど入院治療を受けたが一向に改善が見られないので、ついに我々を尋ねて来た。そして、次に紹介する招霊会の後、完全に健康を取り戻した。



 1919年10月27日
 スピリット=サイモンズ夫人
 患者=S夫人


 乗り移ると同時に、うめき声を上げながら両手を背中にまわして、痛そうな顔をした。
博士「どこかお悪いのですか。肉体を失っていることに気がついていないようですね」
スピリット「よく分かりません」
博士「痛みは取ってあげますから、まずお名前をおっしゃってください」
スピリット「知りません」
博士「自分の名前くらい知ってるでしょう?」
スピリット「頭が働かないのです 」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「自分が死んだのかどうかも分かりません」
博士「お友達は、あなたを何と呼んでましたか」
スビリット「サイモンズ」
博士「どこにお住まいでしたか」
スピリット「シカゴです」
博士「シカゴのどこですか」
スピリット「ずいぶん昔の話なので覚えていません。感じがすっきりしません」
博士「どんな感じですか」
スピリット「身体が小さくなった感じで、居心地もよくありません」
博士「ご自分が他人の邪魔になっていたことはお気づきですか」
スピリット「何だかぼうっとしている感じで、しっくりしません」
博士「なぜだと思いますか」
スピリット「分かりません」
博士「スピリットというものの存在は信じてなかったのでしょうね」
スピリット「信じてませんでしたし、今でも信じてません」
博士「じゃ、自分の存在も信じないわけですか。スピリットの存在を信じる人間は、愚か者と思っておられたのでしょうけど、自縛状態のスピリットになるのはもっと愚かじゃないでしょうか。あなたは、その地縛霊になっていたのですよ」
S夫人「このあたしをご存知でしょ?」
スピリット「声に覚えがあります。友達にそんな声の人がいます」
S夫人「今その方は、どこにいますか」
スピリット「シカゴです」
博士「その方の仕事は?」
スピリット「知りません。何もかも真っ暗闇で、何も思い出せません。その声には聞き覚えがありますが、誰だかは分かりません。名前が思い出せません。ただ、シカゴで知り合いでした。よく会いに来てくれました。その方はあたしにとって太陽のような存在で、とても力になってくれました」
博士「何をなさっていた方ですか」
スピリット「いつも明るい性格をしておられたのですが、ある時からスピリチュアリズムに興味を持つようになって・・・。下らないことはお止めなさいと言ってあげたのですが・・・。あたしはあんなものはご免こうむります。
 あの方がいなくなって、寂しいです。滅多に会わなくなりました。自分が小さくなったみたいで、居心地がよくありません。あの方の名前がどうしても浮かんできません」
博士「呼び名は何とおっしゃいました?」
スピリット「あ、やっと思い出した!Rーです。なぜか記憶が変なのです。時折明かりがさすこともあるのですが、すぐまた狭いところに閉じ込められてしまった感じになるのです。あたしは体格の大きい女ですので、あの場所(本当はS夫人のオーラ)は狭くて窮屈です」
博士「時々熱くなったことがあるでしょう?」
スピリット「ええ、ありました。なぜだか知りませんけど、時々焼かれるような感じがします。今は、辺り一面真っ暗です。何一つ見えません。火で焼かれるのがいいか、窮屈な場所で息も出来ずにじっとしているのがいいか、分かりません。なぜだかが分からないのです。ただ、何か大きいショックを受けたみたいなのです」
博士「あなたは、ショック死をなされたのですか」
スピリット「死んでなんかいませんよ。時々火が降り掛かってくることがあります。雷みたいな音を伴っていて、ズキズキ痛みます」
S夫人「ウィックランド先生をご存知でしょ?」
スピリット「ええ」
S夫人「あの先生が使っておられた器械を覚えてるでしょ?」
スピリット「あの火を発射する器械ですか」
S夫人「そうです。あれですよ、あなたが時々受けてるというのは」
スピリット「でも、あたしは、あの先生から何の治療も受けてませんけど・・・」
S夫人「あなたは、ずっと私を苦しめていたのです」
スピリット「あたしが、なぜあなたを苦しめるのですか」
S夫人「先生に説明して頂きましょう」
博士「別に難しい話ではありません。あなたは今はもうスピリットになっていて、お友達につきまとっておられたのです。居心地が良くないのはその為なのです。今はシカゴではなくて、カリフォルニアにいらつしゃるのですよ。ロサンゼルスです。Sー夫人を覚えてらっしゃるでしょう?」
スピリット「ええ、シカゴに住んでました」
博士「その方も、あなたと同じロサンゼルスにいらっしゃるのです」
スピリット「あたしは、シカゴの人間です。いつも脚が痛くて、頭痛も酷かったです」
S夫人「その痛みが、最近、あたしに移ってきたのです」
博士「あなたが、その痛みをS夫人に移したのです」
スピリット「そんなはずはありません。何かの間違いです」
S夫人「シカゴにいらしたウィックランド夫人を覚えてらっしゃるでしょう?ウィックランド先生の奥さんです。あの方が霊媒だったのはご存知でしょ?」
スピリット「よく覚えていません。なぜか記憶がはっきりしません」
S夫人「あなたは、物知りだったはずだけど・・・」
スピリット「何でも知ってたつもりなんだけど・・・。そう、そう、あなたは、あのスピリチュアリズムとかいう馬鹿なことをやり始めたわね。あたしは一切関わりたくなかったわ。あなた、今でもあんなことに時間を浪費してるの?」
S夫人「あなたこそ、このあたしに取り憑いて時間を浪費してたのですよ」
スピリット「いいえ、あたしはスピリチュアリズムなんかに首を突っ込むのはご免です。何の役にも立たないんだから・・。
 あの火だけは嫌だわー耐えられないもの・・・。とうとう逃げ出しちゃった。痛かったわ。出たと思ったら、別の部屋に閉じ込められてしまって・・・」
博士「『無知の部屋』に閉じ込めたのです」
S夫人「あなたは、死んでからずいぶんになるのですよ」
スピリット「あたしは、死んでなんかいません」
博士「その手をご覧なさいよ。あなたのものだと思いますか。あなたは今、他人の身体を使って喋ってるのです。かつては『イカサマ』だと思っていたものが『ホンモノ』であることを今、あなたご自身が証明しているのです」
S夫人「サイモンズさん、今年は何年だかご存知ですか」
スピリット「何も知りません。あたしの家はどこでしたかね?娘はどうしてるのでしょうね?」
S夫人「お嬢さんはここにはいません。ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」
スピリット「いいえ。あなた、少し頭がおかしいんじゃない?ここがシカゴであることが分からないの?」
S夫人「あたしは、このカリフォルニアに六年も住んでるのよ」
スピリット「ここはシカゴです。なんて変な人なんでしょう!きっと催眠術にでもかかって、そんな話を信じさせられてるのよ」
博士「本当のことをお話しましょうか。あなたはもう何年も前に亡くなられて、お友達のS夫人につきまとっておられたのです。今そのS夫人から追い出されて、私の妻の身体を使っておられるのです。一時的に使用することを許されたのです。事情をしっかりと理解して頂く為です。
 あなたは、サイモンズさんとおっしゃいましたね。ですが、この身体はウィックランドという女性のもので、今、このカリフォルニアのロサンゼルスにいるのです。あなたは、シカゴにいるとおっしゃっていて、その辺のことが得心がいかないようですが、それは、あなたがS夫人に憑依しておられたからです」
スピリット「とても暗い闇の中で彼女が見えたので近づいたのです。どうやらあたしは、しばらく眠っていたらしくて、目が覚めた時に明かりが見えたのです。その中にいると少し明るくなるものですから」
博士「その時、あなたはS夫人の磁気オーラの中に入ってしまい、それがS夫人を苦しめることになったのです。その中から引き出す為に、私が電気を使ったのです」
S夫人「あたしがお願いしたのです」
スピリット「あなたは、あたしのような気の毒な老婦人への思いやりのない人なのね」
博士「もしもあなたご自身が地縛霊に操られていたらどうします?」
スピリット「あなたと話しているのではありません」
博士「あなたは、よほどS夫人に迷惑をかけたいのですねえ」
スピリット「あたしはただ、明るさが欲しくてつきまとっただけです。迷惑をかけた覚えはありません」
博士「ではなぜ、S夫人にかけた電気があなたにこたえたのでしょう?私はS夫人の身体に電気をかけたのです。あなたではありません」
S夫人「ですから、サイモンズさん、その治療代は本当はあなたに支払って頂かないといけないのです」
スピリット「一つだけ教えてくださいー私はどうやってここへ来たのでしょうか。あなたの言ってることは信じられないけど、もしその通りだとすると、あなたはこのカリフォルニアにどうやって来たのですか」
S夫人「それは勿論、汽車賃を払って来たのですよ。あなたは払いましたか」
スピリット「払ってるもんですか。ですから、どうやって来たのとかと尋ねているのです。とにかく信じられませんね。あなたは今シカゴにいるのですよ。Sさんは、一度もカリフォルニアへは行ったことがありません」
博士「ほら、あのガタゴトいってる音、聞こえるでしょ?あれはロサンゼルスを発ってシカゴへ向かう列車の音ですよ」
スピリット「あれはノースウェスタン列車です」(米国北西部を走る列車)
博士「そんな列車はここは通りません。こんな言い合いをして、一体、何の得になるというのでしょう?私達がお教えてしている実情を理解なされば、すっきりなさるのです。あなたは七、八年前に肉体を失ってスピリットになっておられるのに、そのことに気づかずに昔のお友達の身体に取り憑いて迷惑をかけているのです」
スピリット「どうしてそういうことになるのかが理解できません」
博士「どうしてもこうしてもありません。『事実』を申し上げているのです」
S夫人「あなたの遺体は、六年か八年前にワルトハイム共同墓地に埋葬されたのです」
スピリット「あたしは、ずっと眠っていて、そのうち激痛がして目が覚めたまま動けなくなったのです。とても窮屈な感じがして・・・」
博士「それはですね、S夫人の身体があなたより小さいからです。あなたは、S夫人に憑依していたのです」
スピリット「どうやって彼女の身体の中に入ったのでしょう。身動きも出来ない感じでした。とにかく、お二人のおっしゃってることの意味が分かりません。あたしは信じません。一体何の目的でそんなことをおっしゃるのか、それが知りたいです」
博士「『生命』というものについて勉強したことがあおりですか」
スピリット「樹木のこと、自然界のことについて勉強したことがあります」
博士「では、樹木がどのように生長していくかを観察なさったことがあるでしょう?素晴らしいとは思いませんか。神は生命を賦与し、それが生長させるのです。生命とは何なのでしょう」
スピリット「神だと思います」
博士「『心』というものを、その目でご覧になったことがありますか」
スピリット「心は心です」
博士「その心を見たことがありますか」
スピリット「ありませんよ。でも、心がなければ話も出来ません」
博士「心は目に見えないものですね?」
スピリット「見たことはありません」
博士「では、あなたという存在は私達には見えていないと申し上げたら、どう思いますか。私は、あなたに向かって話をしていますが、目に見えているのは、私の妻の身体だけなのです」
スピリット「あなたの奥さんの身体?Sさん、これどういうこと?あたしの身体はなくなったということなの?」
S夫人「そうです、なくなったのです」
博士「その事実を認めようとしないその頑固さが、あなたを暗闇の中に閉じ込めているのです」
スピリット「実を言うと、一時期、歩いても歩いても、どこにも行き着かないことがありました。辺りは真っ暗でした。疲れて、少し休んでから、また歩き出すのです。そのうち、小さな明かりが見えてきて、それを見た瞬間『Sさんだ!』と思ったのです。『そうだ、あの人は親友だった』ーそう思ったら、Sさんの姿が見えたのです」 
博士「心に思った念で、S夫人のところへ行ったのです」
スピリット「すると、とたんに全身が痛くなり始めました。それまでは痛みを忘れていたのです。なのに、その明かりに近づくと、痛みがぶり返すのです」 
博士「人間の身体の中に入った時に痛みを覚えたのです。自縛のスピリットは人間の身体と接触すると、死に際の痛みをもう一度味わうのです。あなたはその地縛霊の一人になっていたことを理解しないといけません。だから、S夫人に接触すると、地上時代の痛みを覚えたのです。あなたは、死ねば木や花になると信じていたそうですが、なっていませんね?どうしたのでしょう?」
S夫人「あなたの遺体は、シカゴのワルトハイム共同墓地に埋葬されていますよ。なんなら行って墓碑銘を確認してみられたら?」
スピリット「そんなこと、したくありません」
博士「教会へは通っておられましたか」
スピリット「死ねば、すべてお終いと信じてました。Sさん、あなたが信じていたような馬鹿げた考えはもっていませんでしたよ。あたしは、あたしなりの考えがありました」
博士「せっかく神がお造りになったこの世界のことを、あなたは何一つ勉強なさらなかったのですね」
スピリット「(急に興奮して)まあ、どうしよう!どうしよう!母の姿が見えるのです。墓の中にいるはずなのにーそう、ずいぶん前に埋葬したはずです!幽霊だわ!でも、とってもきれい!」
博士「お母さんは、あなたほど考えが狭くなかったのです。死んだら木になるなんて考えてませんでしたよ。素直に学ぶようにならないといけません。イエスも言ってるじゃないですかー『童子のごとくあらずんば神の国に入るあたわず』と」
スピリット「ユダヤ人だったイエスの教えなんか信じません」
博士「何を信じようと、何を信じまいと、それは生命の実相とは何の関係もないのです」
スピリット「母さん、ほんとに母さんですか。まあ、見て、あの美しい道!きれいな木や花が咲き乱れて・・・あの庭、あの家、なんて美しいのでしょう!そこを母が歩き回っています」
博士「お母さんは、木になってはいないでしょう?」
スピリット「母が言ってますー『さ、いらっしゃい。私の家ですよ』と。母と一緒に行けないでしょうか」
博士「無知のままでは『神の国』へは入れません」
スピリット「あの急な坂道を見て!こんな図体ではあんな丘は登れないわ!母が言ってますー身体で登るのではありません。『悟りの丘』を登るのです。『自分』を忘れないといけません。自分中心に生きてきたこれまでの生活のことは、もう忘れないといけません。そして、これからは、人の為に役立つことをするのですーと。
 分かったわ、母さん。分かったわ。たしかに、あたしは独りよがりでした。母さん、登ってみます。でも、手を貸してくださらないと、とてもあんな高いところへは登れません。一人ではダメです(泣き出す)。
 もうこれ以上、こんな惨めな状態のままでいるのは嫌です。連れてってください、母さん!母がこう言ってますーあの『悟りの丘』を登る前にしなければならないことが沢山ある・・・。その一つが、利己主義と嫉妬心と恨みの念を棄てることだそうです。昔の友達に迷惑をかけたことを許して頂かないといけない、と言ってます。あたしの母親だからといって、すぐに連れて行くわけにはいかないそうです。その前に、学ばないといけないことがあるそうです。
 Sさん、ごめんなさい。あたしは、ずいぶんあなたに迷惑をかけたそうですね。これからは、あなたのお役に立つことをします。します、きっとします」
博士「相談相手になってくれるお友達が大勢いますよ。高級霊の方に何でもお聞きするのですよ。いいですか」
スピリット「はい、聞きます。先生のなさったことに感謝しないといけないと、皆さんが言ってます」
博士「もう、スピリットの存在を信じますね?」
スピリット「信じないといけないでしょうね。皆さん、このあたしのようにわがままを言ってはダメです。こんな酷い目に遭うことになります。自分を救うのは自分しかいないと、皆さんが言ってます。
 では、まいります。さようなら」