●記憶喪失患者の憑依霊
 記憶が全部消失し、自己認識も失い、見知らぬ場所を彷徨い歩いた後、ふと本来の自分に戻るが、その間の行動については何一つ覚えていないという、いわゆる記憶喪失症は、決して珍しくない。そうした症状が実は、スピリットの憑依によって惹き起こされていることを実証する例が、我々のもとには豊富にある。
 その中からC・Bという名前の青年の例を紹介する。
 この青年は父親と共に事業を始めたばかりの頃のある日、早朝に家を出たきり消息不明となった。両親は心当たりのところを探しまわったが、数週間経っても、ようとして行方が知れず、ついに我々のもとを訪れて、霊的な手段を講じてほしいと要請した。
 そこで我々のサークルで集中的な祈念を行い、両親の元に手紙を書いて消息を告げてあげてほしいと祈った。
 すると、すぐこの翌朝には、その青年は、両親のことがひどく気がかりになって手紙を書いた。
 その手紙によると、彼は米国海軍に入隊していて、今サンフランシスコで戦艦に乗り組んでいるー数年は帰れない、ということだった。
 両親はさっそく返事を書き送り、一日も早く除隊して帰宅してほしいーそのための手続きならどんなことでもするから、と頼んだ。ところが息子からは、今は兵役についていることに生き甲斐を感じているから、余計なことはしないでほしい、という返事が届いた。
 それが、我々の二度目の集中祈念の前日だった。
 そしてその当日、サークルで祈念している最中に、ジョン・エドワーズと名乗るスピリットが私の妻に乗り移って語ったいきさつによって、その青年の記憶喪失は、そのスピリットの憑依であることが判明した。以下はその招霊会の記録である。
 

 1922年12月13日
 スピリット=ジョン・エドワーズ
 患者=C・B


 サークルのメンバーが賛美歌[命綱を投げ与え給え]を歌っているうちに、興味深いことが起きた。スピリットが乗り移ると、霊媒がロープにつかまって左右の手で交互によじのぼっているような仕草をしたかと思うと、今度は泳いでいるような仕草をし始めた。

博士「命綱にすがりついていましたね?漂流していたのですか。どちらからおいでになりましたか。ここは陸の上ですから泳ぐ必要はないのですよ。一体どうなさいました?」
スピリット「私の方こそ、それが知りたいのです」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「(サークルのメンバーの方へ顔を向けて)この人(博士)は私を死人呼ばわりしてる!」死んでなんかいませんよー生きているというほどの実感もないけどね・・・」
博士「どちらから来られましたか?」
スピリット「大勢の人達に連れてこられました」
博士「それは誰ですか」
スピリット「大勢の人達です」
博士「私の目には、その方達の姿が見えないのですが・・・」
スピリット「なぜこんなところへ来なきゃいけないのか分かりません。海に出てる方がいいのですが・・・」
博士「以前にも航海されたことがあるのですか」
スピリット「ええ」
博士「なぜ海がいいのですか。よく航海されるのですか」
スピリット「ずいぶん船に乗りました」
博士「陸上にはいたくないのですか」
スピリット「陸に上がった魚にはなりたくないのでね。今回もまた出かけようとしていたら、あなた達が引き戻したのです。あの人達も、なぜ私を陸へ引き上げたのでしょうね?」
博士「あなたは海で溺れ死んだのでしょう?」
スピリット「もしそうだとしたら、どうしてここにいられるのですか」
博士「スピリットとしてなら来られます」
スピリット「それは『魂』のことですか」
博士「そうです」
スピリット「だったら、その魂は神のもとに行ってるはずです」
博士「神はどこにいるのですか」
スピリット「ご存知ないのでしたら、日曜学校へでも通われてはいかがですか」
博士「通いましたよ。でも、答は得られませんでした」
スピリット「通われた教会がまずかったのでしょう」
博士「どの教会へ行くべきだったのでしょうか」
スピリット「いろんな教派があります。みんな同じではありません。でも、神についてはどの教会でも教えてくれるはずです」
博士「あなたが通われた教会は何といいましたか」
スピリット「私にとっては、一人きりになれるところが教会です。教会そのものにはあまり通っておりません。どの教派にも属しておりません。海へ出れば教会へは行けません。兵役につくのですから・・・」
博士「どこの教会が一番気に入りましたか」
スピリット「どこもみな似たようなものです。形式が違うだけです。どれも一つの神のもとで、死後のこと、天国と地獄のこと、そしてキリストが我々の身代わりとして罪を背負って死んでくれたことなどを説いております。だから、どこの教会に所属しても同じことだという考えです。すべてが神を賛美しているのですから、同じことです」
博士「リベラル派だったのですね」
スピリット「それもどうですかね。自分がどういう種類の人間だか、自分でも分かりません。私は私なりの宗教をもっていました。ですが、艦長への体裁もあって、時折は教会へ出席せざるを得なかったのです」
博士「何という軍艦に乗り組んでいたのですか」
スピリット「いろんなのに乗り組みました」
博士「水兵だったのですか」
スピリット「海軍に所属していました」
博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「何月であるかも分からんのです」
博士「何年であるかが分かりませんか」
スピリット「分かりませんね」
博士「1922年では?」
スピリット「いや、それは違うでしょう」
博士「じゃ、何年でしょうか」
スピリット「1912年でしょう」
博士「どこを航海していたのですか」
スピリット「戦艦『シンシナティ』に乗り組んだことがあります」
博士「どこへ向けて航海していたのですか」
スピリット「太平洋沿岸を航行していたこともあります」
博士「パナマ運河を通過したことは?」
スピリット「ありません。一度だけ近くまで行ったことはありますが、通ったことはありません」
博士「艦上では何をしてました?」
スピリット「何でも、やるべきことをやってました」
博士「何歳でしたか」
スピリット「どうも思い出せなくて・・・」
博士「それで、また海へ戻りたいとおっしゃるのですか」
スピリット「ええ、陸にはいたくないのです。私は、陸の人間ではないみたいで・・・。海の生活もなかなかいいものですよ。自分の役目さえ果たしておれば、きちんと食事は出してもらえるし、気苦労もないしね」
博士「役目はたくさんあるのですか」
スピリット「それはもう、甲板磨きをはじめとして、いつも何かすることがあります。艦長は部下がぼけっとしているのを見るのが嫌なのです。他にすることがない時でも、『磨く』という仕事があるのです。階段、機械、器具ーすべて磨かないといけないのです。だから、いつもピカピカ光ってました。大きな船でした」
博士「戦艦に乗り組んでいたのですね」
スピリット「いろんな種類の戦艦にね」
博士「実戦にも出ましたか」
スピリット「いや、戦闘行為はしていません。キューバ戦争は戦争というほどのものではなく、フィリッピン戦争の方がもう少し戦争らしかったです」
博士「あなたは、それに参加したのですか」
スピリット「湾の中までは入りませんでした。戦艦の全部が湾に入ったわけではありません。まわりで監視をする戦艦も必要なわけです。全艦隊が湾の中に入ってしまえば、袋のネズミになってしまいます。何隻かはまわりから見張る必要があるわけです」
博士「あなたのお名前は?」
スピリット「私の名前?しばらく呼ばれたことがないので忘れました。呼び名はジョンです」
博士「ジョン・何とおっしゃいましたか」
スピリット「ジョン・エドワーズ」
博士「 太平洋沿岸での勤務もありましたか」
スピリット「ありました。どちらかというと東海岸の方が多かったですが・・・」
博士「艦を下りてから除隊になったのですか」
スピリット「(ゆっくりとした口調で)艦を下りてから?」
博士「艦を下りたんじゃなかったのですか。それとも何かの事故にでも遭いましたか」
スピリット「分かりません」
博士「病気になりましたか」
スピリット「知りません」
博士「マニラ湾が最後でしたか」
スピリット「いえ、それはだいぶ前のことです」
博士「その後どこで勤務しましたか」
スピリット「マニラ湾で勤務したのは、ずいぶん若い頃のことです」
博士「1898年のはずです。海上勤務に出てどれくらい経っていましたか」
スピリット「知りません。1912年という年までは覚えています」
博士「その年に、あなたの身の上に何か起きたのでしょうか。病気にでもなったのでは?」
スピリット「頭がこんがらがってきました。たしかーはっきりとは思い出せないのですがー艦にペンキを塗っていたと思うのです。どこだったかは知りません。ドックの中ではありません。艦の外側に足場を組んで、その上に乗って塗っていました」
博士「その時、何かが起きたのでしょう?」
スピリット「頭が変になったのです。多分、持病のめまいの発作が起きたのだと思います。頭の中で泳いでいるみたいな感じがしたのです」
博士「艦にペンキを塗っていたとおっしゃいましたね?」
スピリット「汚れを落としたり修理したりしていました」
博士「ドックの中にいたのですか」
スピリット「何が起きたのかは知りませんが、気がついたら海の中にいました」
博士「足場から落ちたのですよ」
スピリット「それは知りませんが、とにかく、じきに回復しましたよ」
博士「多分、その時にあなたは肉体を失ってスピリットになられたのです」
スピリット「スピリットになった?どういう意味ですか」
博士「肉体をなくしてしまったということです。今のあなたは、ここにいる私達には見えていないのですよ」
スピリット「でも、これから海へ出かけようとしていたところですよ。もっとも、自分の半分が水兵で、もう半分が誰か別の水兵に教えてやってるみたいでした(患者に憑依していることからくる錯覚)。その水兵には潮風の香りが漂っていました。水兵には、一種特有の雰囲気があるのです。陸にいると、なんだか自分のいるべきところではないみたいな感じがしてきます。海に出ると、母のふところに抱かれたような気持ちがします。揺られているうちに眠りに落ちるのです。いいものですよ」
博士「艦から海へ落ちた時に、あなたは亡くなられたのです。そして、それ以来ずっとスピリットとして生きてこられたのです。その身体はあなたのものではありません。手をごらんなさい」
スピリット「(霊媒の両手を見て)これは私の手じゃない!(笑いながら)違う、絶対に違う!私の手はごつかったですよ。この手はロープを引っ張ったことのない手だ。変ですねー私がこんな手をしてるとは」(と言って愉快そうに笑う)
博士「ドレスも着ておられますね。髪も長いですね。これが水兵の足ですか」
スピリット「私のではありません。あ、そうだ、分かった!だいぶ前のことですが、船で各地を転々としたことがありました。私は、戦艦にばかり乗っていたわけではありません。父が船長だったものですから、私はいつも海に出ていたのです。ニューヨークからインドあたりをよく航行しました」
博士「帆船で、ですね」
スピリット「そうです。父は、私がまだ子供の頃に、まず帆船から乗り始めました。それから普通の大型船をもち、カルカッタ、ニューヨーク、イギリスの間を往き来していました」
博士「商船だったのですね?」
スピリット「そうです。品物をどっさり積んでました。オーストラリアへ行ったこともあります。綿花と羊毛を商っていました。が、私は大きくなってから、国家の仕事がやりたくなり、それで海軍に入ったのです。そのことを父は、とても不愉快に思ったようです。しかし、お前は生まれながらの海の男なんだな、と言ってくれるようになりました。海の上に産み落とされたようなものです。
 陸の上のことは知りません。読み書きを教えてくれたのは母親で、それが私の教育のすべてでした。家族揃って、いつも海の上で生活していました。母親はよくできた女でした」
博士「そのお母さんは、もう亡くなられましたか」
スピリット「もう生きていません。父親も死んでいます。両方とも数年前に亡くなりました。そうだ、こんなことを話そうとしていたのではなかったっけ・・・」
博士「その手とドレスの話をなさってたんです・・・」
スピリット「なんで私が、女性の手でドレスを着ているのか分かりません。そのことで思い当たることを話そうとしているうちに話がそれてしまいました。
 あれは、たしか私が十九か二十歳の時で、家族でカルカッタにいました。その町で、ある時セオソフィーの集会があり、ふらっと中に入りました。みんな生まれ変わり(輪廻転生)を信じている人ばかりで、話を聞いていると、つい信じたくなるほどでした。
 このスカートも、その生まれ変わりというやつですかね?さっきあなたは私のことを『死んだ』と言いました。となると、生まれ変わり以外に説明のしようがないでしょう?つまり、私は女に生まれ変わったということです」
博士「それも、ある意味では生まれ変わりと言って良いかも知れませんね。死ぬと肉体を離れて、スピリットになるのです」
スピリット「ブラバツキー女史(注1)の話によると、死者はみんなデバカン(注2)へ行くことになっているのだそうです。ブラバツキーは演説のとても上手な人でした。私は子供だったのですが、子供の頃に頭に入ったものは、なかなか忘れないものですね。父は、そんなものは信じてはいけない、頭がおかしくなるぞ、などと言っていたけど、私は、知らないよりましだよ、いいこと言ってると思うな、救い主の話の方が間違ってるよ、などと、いっぱしのことを言って、我ながらでかくなったような気がしたものです。私は女に生まれ変わって戻ってきたということでしょう。本当は水兵になりたかったのですが・・・」
(注1 セオソフィーの創始者)(注2 死後、次の再生まで滞在する場所のことで、古代インド思想から摂り入れたセオソフィー独自の説)
博士「あなたは今、ほんの一時だけ、女性の身体を借りているのです」
スピリット「ということは、一時だけ女になってるということだ!」(声を出して笑う)
博士「あなたは、スピリットなのです。多分、1912年からスピリットになっておられるはずです。今年は1922年なのです。ということは、あなたが肉体を離れて十年になるということです」
スピリット「私が死んだということが、どうして分かるのですか」
博士「1912年が、あなたが思い出せる最後の年だとおっしゃったでしょう?」
スピリット「それで、そう判断するわけですか。すると、私は、これまでデバカンにいたわけですか。なるほど、たしかに私は生まれ変わったわけですね?」
博士「あなたはやはり、さっきおっしゃった時に亡くなられたのです。以来ずっとスピリットになっているのに、そのことに気づいていらっしゃらないのです」
スピリット「それで何もかも忘れてしまったというわけ?」
博士「とにかく今夜はこのことに気づいて頂く為に、ここへお連れしたのです。ここにいる私達は、心霊現象と憑依現象を研究している者達です。スピリットの中には、地上の人間に取り憑いて異常な行動をさせる者がいるのです。
 あなたは今、私の妻の身体を使って喋っておられます。一時的にお貸ししているのです。私達には、あなたの本当の姿は見えていないのです。喋っておられる声が聞こえているだけです」
スピリット「じゃあ、ほんとに女性の身体に宿っているわけだ。あなた方をからかっていることになる」
博士「私の妻は、身体がスピリットに使い易いように出来上がっているのです。『霊媒』と呼ばれている人間のことを聞いたことがありますか」
スピリット「あります。運勢を占ってもらいに行ったことがあります。霊媒の口を使って喋るのはインディアンばかりでしたよ」
博士「インディアンというのは、『門番』として優れた才能をもっているのです。霊媒にとっては、大切な保護者なのです」
スピリット「私は、何の為にここへ来ているのでしょう?」
博士「事実を悟って頂くためです。あなたは、無意識のうちに、人間に間違ったことをしておられたのです。ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「私も、サンフランシスコにいたことがあるのは確かです。その後、永いこと行っておりません。1894年のことです」
博士「実を言うとあなたは、一人の青年に取り憑いて、両親の知らないうちに家出をさせて、しかも海軍の水兵として入隊させたのです」
スピリット「彼には、そんな勝手なことをする権利はないでしょう」
博士「彼には他にちゃんとした仕事があったのです。それが、どうやら『自分』を失ってしまって、いつの間にか海軍に入隊していたのです。今は、サンフランシスコにいます。これには間違いなく、スピリットが関わっている証拠があるのです。そしてそのスピリットとは、他ならぬあなたであると私は見ているのです」
スピリット「冗談じゃありません。私がそんなことをするわけがありません。ある朝目が覚めたら、どういうわけか陸にいるので、海へ戻りたいと思っただけですよ」
博士「あなたは、死んだあと当てもなく漂っているうちに、霊的影響を受け易いその青年とコンタクトが出来ちゃったのです。そして、その磁気オーラの中に入り込んで、彼がやりたいと思っていないことをやらせてしまったのです。最近、あなたはもう一度海に出たくて、海軍への入隊手続きをしませんでしたか」
スピリット「ある朝、目が覚めて海へ戻りたいと思ったようですが、それから道に迷ったみたいです」
博士「自分で自分が思うようにならないことはありませんでしたか」
スピリット「変な感じはしていました。どこか夢の中にいるみたいでもありました。言っときますが、私は何も悪いことをする考えはありませんでしたよ」
博士「あなたの置かれている立場はよく理解しております。あなたが善良な人間であることも知っております。ですから、私達はあなたを責めているのではないのです」
スピリット「その青年というのは誰ですか」
博士「名前はBーです。十七歳の青年です」
スピリット「入隊の時は二十一歳だと言ってました。そうしないと兵役につけませんから」
博士「身体が大きいので、年齢よりは上に見えるのです。私達のサークルで彼に集中祈念をしたのです。多分、それであなたをここへ引き寄せたのでしょう」
スピリット「誰かに引っ張られるような感じがして、それから海中にいるような感じがしました。思い出しましたーニューヨークでしたが、たしかその辺りを航行していた時のことです。その日はひどい嵐で、海上は氷りついていました。私は何かをしている最中に、風に飛ばされて海中へ落ちたのです。まわりは氷だらけでした。そこから先のことは覚えていません。それにしても、その青年の中へ入り込むといっても、どういう具合にでしょう?」
博士「その青年のオーラの中に入り込んだのです」
スピリット「あれ?母親がやってきました!ずいぶん永いこと会っていません。たしかニューヨークで死んだはずです。永いこと、この私を探したと言ってます。そんこなとは知りませんでした。でも、死んだあと、なぜ私は、母親のところへ行かなかったのでしょうか」
博士「大抵の人は、死後しばらく睡眠状態に入るのです」
スピリット「そうか、私はデバカンにいたのだ!生まれ変わる為にそこで眠っていたのだ!」
博士「さ、そろそろお母さんと一緒に行かなくてはいけません。お母さんが、いいお家へ連れていってくれますよ」
スピリット「父と母のところへまいります」
博士「お父さんは、死後のことはよく理解しておられるのですね?」
スピリット「母が言うには、少し手こずったけど、今は理解しているそうです。はじめ父は『救い主』に会いたかったそうです。私はあんな話は信じていませんでした。私にはセオソフィーが一番理にかなっているように思えます。血てもって罪をあがなうなどということは説きません。一人の人間が他の人間の為に殺されるなどという考えは信じられませんもの。もし私が間違ったことをすれば、私自身がその戒めを受けるべきではないでしょうか。神は愛なのであり、その神が、他を救う為に一人の人間に死んでもらうことを望むはずはありません。まったく馬鹿げた話です。教会の人は、ユダヤ人を嫌いますが、イエスはユダヤ人だったのですけどねえ」
博士「さ、そろそろお父さんとお母さんについて行かないとー」
スピリット「今、私は大勢の人達の中にいます。とても気持ちがいいです。いい夜でしたーこうして素晴らしい人達と話を交わし、しばし楽しい時を過ごすことが出来ました。あなたは、私達の姿は見えないとおっしゃるけど、今ここに大勢の人達が集まってますよ。
 母が、もう行かなくては、と言ってます。皆さんに別れを告げなくてはなりません(と言って立ち上がろうとするが、立てない)。あれ、私の脚はどうしたのでしょう?立てませんが・・・」
博士「私の妻の上半身だけを使っているからですよ」
スピリット「では、私は半分だけ男で、半分は女ってわけだ!(愉快そうに笑う)。ますますまずいな!さて、母と一緒に行かなくては」
博士「心の中で思う練習をしなくてはいけませんね」
スピリット「『心の中で思う』ですって!私が今までものを考えたことがないみたいですね。(と言ってから笑い出して)これは失礼。でも、変なことを言われても、すぐに冗談のように思えるようになりました」
博士「別に失礼じゃありません。これからは『心の中で念じる』だけでそこへ行けるようになるのです」
スピリット「脚で歩くのではなくて、ですか。もう脚は不要になるわけですか」
博士「あ母さんと一緒になった、と心に念じるのです。すると、お母さんのところへ行ってます」
スピリット「母と一緒になったつもりになるーすると母のところへ行く?ではまいります。でも、皆さん方は愉快な人ばかりで、いつかもう一度ここへまいりたいですね。いいでしょ?そうそう、例の青年には、もしも私が本当に迷惑をかけていたのなら、申し訳なく思っていることを伝えて頂けますか」
博士「今度はその青年の為にいいことをしてあげては?出来ますよ」
スピリット「いいことをしてあげる?どうやってですか」
博士「家に帰りたい気持ちにさせるのです。その要領はお母さんが教えてくれますよ」
スピリット「母が、あなたが私を見つけてくださったお礼を言いなさい、と言ってます。でも、その母が見つけた私が女性の身体の中にいるなんて!でも、事実そうなんだから仕方ないですね。では、まいります。さようなら」

 その翌日からC・Bの態度が一変した。すぐに両親に手紙を書き送り、家に帰って仕事を続けたいから、除隊できるように取り計らってほしいと依頼した。さらに付け加えて、なぜ海軍なんかに入隊したのか、自分でも分からないーよほどボケッとしていたみたいです、と述べてあった。
 除隊には少し手間取ったが無事自宅に帰り、完全に元の本人に戻ったのだった。