●身重女性殺害事件の真相
1919年7月、ロサンゼルスのトパンガ・キャニオンで起きた殺人事件が、全米の関心を集めた。ハリー・ニューという名の青年が恋人のフレダ・レッサーをピストルで撃ち殺した事件で、レッサーが身重であったことから、それが殺人の動機とされて、ハリーは十年の刑に処された。
次に紹介する招霊実験は、その裁判がまだ進行中のことで、殺されたレッサーが出現して事件の真相を語ってくれた。もしもこれが法廷での証言と同じ証拠性を認めてもらえていたら、事件はまったく別の決着をみていたことであろう。
1920年1月7日
スピリット= フレダ・レッサー
霊媒に乗り移ってすぐから悲しげに怯え続け、当惑している様子が窺えた。
博士「どうなさいました?」
スピリット「残念で残念で・・・」
博士「何が残念なのですか」
スピリット「何もかも・・・・」
博士「力になってあげられるかも知れませんから、おっしゃってみてください」
スピリット「もうダメなのです。ああ、なんということを!」(泣く)
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んではいません。悲観して滅入っているだけです」
博士「なぜ滅入るのですか」
スピリット「自分の愚かな行為の為です」
博士「どんなことをなさったのですか」
スピリット「アレもコレも、愚かなことばかりで・・・」
博士「その中で、特に残念なのは何なのでしょう?幸せだったのですか」
スピリット「とんでもない!幸せではありませんでした。(両手を強く握りしめて)あんな愚かなことさえしなかったら・・・ああ、馬鹿なことを!」
博士「何かあったのですね?」
スピリット「ありましたとも!」
博士「お名前は?ジョンですか」
スピリット「私は男ではありません。(法廷の中のビジョンを見ているらしく)わっ、あんなに人がいる!あんなに大勢の人が!でも、あの人達は私がどう説明しても知らん顔なのです」
博士「お名前は?」
スピリット「混乱して思い出せません。ああ、ハリー!あなたが悪いんじゃない。あの人達(裁判に携わっている人)は何を考えているの?彼は何もしていないー私が馬鹿だったのです」
博士「あなたが何をなさったというのですか」
スピリット「彼と取っ組み合いになったのです。私がピストルを手にして彼をからかったものだから、彼がピストルを取り上げようとして、二人で奪い合いになったのです。私は、ただ、からかってみただけなのです。今でも彼のそばに行ってみるのですが、どうもしてあげられません」
博士「なんでまた、あなたはピストルなんかを手にしたのですか」
スピリット「冗談で脅かしてみただけです」
博士「発砲してしまったのですか」
スピリット「彼が私から奪い取ろうとした時に爆発してしまったのです。申し訳なくて・・・彼は一切私に口をきいてくれないし、あの人達(検察側)は彼を責める一方です。彼は何もしていないのです。すべて私の愚かさが原因なのです。彼はいい人でした。その彼を私がからかってみたのです。ここはどこでしょうか」
博士「ロサンゼルスのハイランドパークです」
スピリット「私がなぜこんなところへ?」
博士「ある方が連れてきてくださったのです」
スピリット「でも私は、ハリーのところへ行くつもりでした」
博士「ハリー・ニューのことですか」
スピリット「勿論です」
博士「彼のことが気がかりでしたか」
スピリット「彼と通じ合えないものですから、なおのこと気がかりで・・・。彼がやったのではないのです。彼が私を撃ったのではないのです。私が『死んでやる』と言ってピストルを取りに行ったのです。ピストルを手にしていたのは彼ではないのです。私が彼の車の中からピストルを取ってきたのです。撃つ気なんかなかったのです。ただ冗談に脅かすつもりだったのです。ああ、なんという馬鹿なことを!馬鹿なことを!馬鹿なことを!」
博士「お名前は?」
スピリット「フレダーフレダ・レッサーです」
博士「ご自分がもう肉体を失っておられることはお気づきですか」
スピリット「何も知りません。ただ、母やハリー、その他誰のところへ行っても相手にしてくれないのです。本当のことを教えてあげたいのです。誰も、ただの一人も、私の言うことを聞いてくれません。訳が分からないのです。あれだけ喋っているのに、なぜ聞こえないのかが分かりません」
博士「その人達には、あなたの姿が見えていないのです。あなたはもう肉眼には見えない存在となっておられるのです」
スピリット「ああ、ハリーがかわいそう!私の馬鹿な行為で苦しい思いをして・・・・。あなたには私の気持ちは分かりません。私が何と言っても聞いてはくれないのですー誰一人として」
博士「あなたが目の前にいることが分からないのですよ。あなたの姿は人間の目には見えないのです。ここにいる私達も、あなたの姿が見えていないのです」
スピリット「なぜこの私が見えないのでしょうか。(そう言って手を握りしめながら泣く)なんて馬鹿な女でしょう、私は!」
博士「気持ちを落ち着けてください。あなたは親切な方の手引きでここへ案内され、暫くの間私の妻の身体を使って話をすることを許されたのです。その身体は一時的な借り物なのです」
スピリット「私に代わって、あなたからあの人達に、私の軽卒な行為からあんなことになった事実を伝えて頂けませんか」
博士「たとえ教えてあげても、聞き入れてくれないでしょう」
スピリット「何を教えるのですか」
博士「本人が出て来てそう述べた、ということです。ピストルが暴発した時にあなたに命中して、それであなたは肉体を失ったのだということが、まだ分かりませんか」
スピリット「ただ傷を負っただけだと思ってました。ああ、それからの苦しみの辛かったこと!私が死んでるなんて考えられません。死ねばそれっきりのはずです。なのに私はこうして苦しんでいます」
博士「本当に死んでしまう人はおりません。みんな肉体がなくなるだけなのです。あなたの苦しみは精神的なものです」
スピリット「でも、頭がひどく痛みます」
博士「それも今の精神状態の現れです」
スピリット「ハリーはなぜ、私に話しかけられないのでしょうか」
博士「目の前にいるあなたが見えないのです。彼の目には、あなたの姿は見えていないのです」
スピリット「彼の側まで行って事情を説明しようとするのですが・・・。ああ、なんということをしてしまったのでしょう!あの時、私はピストルを手にして自殺するマネをしたのです。びっくりさせてやるつもりだけだったのです。それを見て彼は、ピストルを取り上げようとして、私ともみ合いになったのです。冗談のつもりだったのに・・・。ピストルは彼の車の中に置いてありました。それを私が取り出してきて、しばらく衣服に隠しておいたのです」
博士「彼とは結婚するつもりだったのですか」
スピリット「ええ、そのつもりでした」
博士「結婚を考える程まで愛しておられたのですね?」
スピリット「はい、一度も喧嘩をしたことはありません。私はただ脅かしてやるつもりだったのです。女って、時々馬鹿なことをするでしょ?私は彼が本当に愛してくれているかを試してみるつもりだったのです」(泣き出す)
博士「いいですか、今あなたは私の妻の脳と身体を使っておられるのです。心を落ち着けてください。あたりを見回してごらんなさい。親切なお友達が来ているはずですよ」
スピリット「私はもう救いようがありません。どうしようもありません」
博士「ここをお出になったら、皆さんが霊界へ案内してくれますよ。今までは、苦しみの中にあって心の動揺が大きかった為に霊界が見えなかったのです」
スピリット「あの人達に本当のことを教えてあげたいのに、どうしても聞いてくれません。私の声が聞こえてないみたいですし、私の姿も見えていないみたいなのです」
博士「あなたはもう身体に束縛されない『スピリット』になっておられるのです。迎えに来てくれている方達の言うことをよく聞かないといけませんよ。霊的な悟りを得て、苦しみを克服する方法を教えてくれます」
スピリット「私の愚かさのせいなのに、あの人達はハリーを死刑にするのでしょうか」
博士「私は死刑にはならないと思っています」
スピリット「可哀想に!可哀想に!ハリーだけでなく、お母さんにも申し訳なくて・・・二人とも泣いていますし、私の母も泣いています。なぜ、あんな馬鹿なことをしてしまったのかしら!」
博士「さ、あたりを見回してごらんなさい。誰かの姿が見えるでしょう?」
スピリット「あそこに若い女性が立っています。あの方も、ここでお世話になったそうです。私をここへ連れてきたのもあの方だそうです。私と似たような体験をされて、ここへ来て救われ、今はとても幸せなのだそうです。やはり、恋人を心配させてやるつもりで青酸カリを飲んで、そのまま死んじゃったんですって」
博士「名前を言いましたか」
スピリット「ずっと私についてくださっていたそうです。似たような苦しみをもつスピリットの世話をするのが、今のお仕事なのだそうです」
博士「悲しそうに見えますか」
スピリット「いえ、とても幸せそうです。あちらこちらを見てまわって、かつての自分と同じような状態に置かれている若い女性を見つけては、ここへ連れてくるのだそうです」(と言って泣き出す)
博士「もう、感情的になるのはお止めなさい。こうして生身の人間の身体を借りてお話が出来るということが、どんなに恵まれたことであるかを理解しないとけいません。何年も何十年も、当惑した状態のままで苦しんでいる人が多いのですよ」
スピリット「あの方も、ここで私と同じ状態だった時に、救って頂いたのだそうです」
博士「名前は何と言ってましたか」
スピリット「マリオン・ランバートだそうです。今では愚かな行為で思いも寄らなかったことになっている気の毒な女性の為に、一生懸命活躍しているそうです。それがあの方の使命で、私もあの方が連れてきてくださったのだそうです」(また泣き出す)
博士「今、あなたは他人の身体を使っているのですから、そんなに感情的になると困るのです。そこに来ておられる方は、数年前にあなたと同じ苦しみを抱えてここへ来られたのです。その方が、今は幸せそうに人助けの仕事をなさっているそうじゃないですか」
スピリット「私も幸せになれるでしょうか」
博士「なれますとも!今の苦しみは一時のものです。人は決して『死ぬ』ことはないのです。亡くなるのは肉体だけです。スピリットは決して死なないのです」
スピリット「そんなこと、何も知りませんでした。スピリットのことなんか何も聞いたことがありませんでした」
博士「たとえ誰かからそういう話を聞かされても、あなたは笑って相手にしなかったでしょうよ」
スピリット「その方が言ってますーこれから私のお世話をしてくださるのだそうです。疲れてるから少し休んだ方がいいそうです。そして、ここへ来させて頂いたことを感謝しなくてはいけない、と言ってます。あの方と一緒に行って、また泣きたくなるのでしょうか」
博士「そんなことはありませんよ。生命についての本当のことを教わるのです。地上での生活はどっちみち短いものです。その中で誰しも何らかの苦しい体験をするものです。が、そうした苦しみを体験して、少しずつ賢くなっていくのです」
スピリット「(あるスピリットをじっと見つめている様子で、顔が次第に紅潮してくる。やがて顔を左右に振って)そんな!まさか!そんなはずはないわ!」(と言って泣き出す)
博士「何が見えてるのですか」
スピリット「私はあの時にお腹に赤ちゃんがいたのですが、女の人が赤ちゃんを抱いて来て、私のものだと言うのです。もらってもいいのでしょうか」
博士「勿論、いいですとも」
スピリット「でも、あたしのような女には資格はないわ。あの人達が軽蔑するはずです」
博士「もう地上とは関係がなくなったのですよ」
スピリット「ここへ来た時よりも、ずっと幸せそうな気持ちが感じられるようになりました。あの子は、いつ、こちらへ来たのでしょうか」
博士「あなたが肉体を失った時に、その肉体から離れてこちらへ来たのです」
スピリット「どうしてそんなことが有り得るのか、理解できません」
博士「あなたの知らないことが、まだまだ沢山ありますよ。素晴らしい生命の神秘が、まだお分かりになっていませんね」
スピリット「ピストルが爆発した時に、赤ちゃんまで殺しちゃったのでしょうか」
博士「あなたの身体が死んだ時に、赤ちゃんのスピリットもその身体を離れたのです。今その身体で喋っておられても、あなたの姿は私達には見えていないのです。生命の実相というものは、すべて肉眼では見えないものなのです。音楽を見たことがありますか」
スピリット「聴いたことはあります。今とても美しい音楽が聴こえてきました」
博士「それは、生命の実相に目覚め始めた証拠ですよ」
スピリット「もう一人、白い髪をした奇麗な婦人がいらっしゃいます。当分の間、私の母親代わりになって、面倒を見てくださるのだそうです。マーシーバンドのメンバーだと言っておられます」
博士「マーシーバンドという高級霊の集団は、死というものが存在しないことを、世の人に教える為の仕事をしており、私達はそのお手伝いをしているわけです」
スピリット「とても奇麗な方です。最初に姿を見せた方とは違います。赤ちゃんを連れて来てくれた方とも違います。ケイスという名前だそうです」
博士「その方は、地上にいた時からこの仕事に熱心だった方ですよ」
スピリット「赤ちゃんを連れて来てくださった方が、その赤ちゃんの面倒を見てくださるそうです。そういう仕事を専門にしておられるのだそうです。身寄りのない子供達のお世話です。この方も、地上にいた時からスピリットと死後の世界の存在を信じていたそうです。ああ、かわいそうなのはハリーです!この私を許してくれるでしょうか」
博士「彼は事情を知ってるわけですから、許してくれますよ」
スピリット「お願いです。この方達と一緒に行かせてください。もう泣かずに済みますね?あんまり泣いたものだから、目が痛いのです」
博士「今、あなたがご覧になった方達が、生命について色々と教えてくださいます。そうすればきっと幸せになれます」
1919年7月、ロサンゼルスのトパンガ・キャニオンで起きた殺人事件が、全米の関心を集めた。ハリー・ニューという名の青年が恋人のフレダ・レッサーをピストルで撃ち殺した事件で、レッサーが身重であったことから、それが殺人の動機とされて、ハリーは十年の刑に処された。
次に紹介する招霊実験は、その裁判がまだ進行中のことで、殺されたレッサーが出現して事件の真相を語ってくれた。もしもこれが法廷での証言と同じ証拠性を認めてもらえていたら、事件はまったく別の決着をみていたことであろう。
1920年1月7日
スピリット= フレダ・レッサー
霊媒に乗り移ってすぐから悲しげに怯え続け、当惑している様子が窺えた。
博士「どうなさいました?」
スピリット「残念で残念で・・・」
博士「何が残念なのですか」
スピリット「何もかも・・・・」
博士「力になってあげられるかも知れませんから、おっしゃってみてください」
スピリット「もうダメなのです。ああ、なんということを!」(泣く)
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んではいません。悲観して滅入っているだけです」
博士「なぜ滅入るのですか」
スピリット「自分の愚かな行為の為です」
博士「どんなことをなさったのですか」
スピリット「アレもコレも、愚かなことばかりで・・・」
博士「その中で、特に残念なのは何なのでしょう?幸せだったのですか」
スピリット「とんでもない!幸せではありませんでした。(両手を強く握りしめて)あんな愚かなことさえしなかったら・・・ああ、馬鹿なことを!」
博士「何かあったのですね?」
スピリット「ありましたとも!」
博士「お名前は?ジョンですか」
スピリット「私は男ではありません。(法廷の中のビジョンを見ているらしく)わっ、あんなに人がいる!あんなに大勢の人が!でも、あの人達は私がどう説明しても知らん顔なのです」
博士「お名前は?」
スピリット「混乱して思い出せません。ああ、ハリー!あなたが悪いんじゃない。あの人達(裁判に携わっている人)は何を考えているの?彼は何もしていないー私が馬鹿だったのです」
博士「あなたが何をなさったというのですか」
スピリット「彼と取っ組み合いになったのです。私がピストルを手にして彼をからかったものだから、彼がピストルを取り上げようとして、二人で奪い合いになったのです。私は、ただ、からかってみただけなのです。今でも彼のそばに行ってみるのですが、どうもしてあげられません」
博士「なんでまた、あなたはピストルなんかを手にしたのですか」
スピリット「冗談で脅かしてみただけです」
博士「発砲してしまったのですか」
スピリット「彼が私から奪い取ろうとした時に爆発してしまったのです。申し訳なくて・・・彼は一切私に口をきいてくれないし、あの人達(検察側)は彼を責める一方です。彼は何もしていないのです。すべて私の愚かさが原因なのです。彼はいい人でした。その彼を私がからかってみたのです。ここはどこでしょうか」
博士「ロサンゼルスのハイランドパークです」
スピリット「私がなぜこんなところへ?」
博士「ある方が連れてきてくださったのです」
スピリット「でも私は、ハリーのところへ行くつもりでした」
博士「ハリー・ニューのことですか」
スピリット「勿論です」
博士「彼のことが気がかりでしたか」
スピリット「彼と通じ合えないものですから、なおのこと気がかりで・・・。彼がやったのではないのです。彼が私を撃ったのではないのです。私が『死んでやる』と言ってピストルを取りに行ったのです。ピストルを手にしていたのは彼ではないのです。私が彼の車の中からピストルを取ってきたのです。撃つ気なんかなかったのです。ただ冗談に脅かすつもりだったのです。ああ、なんという馬鹿なことを!馬鹿なことを!馬鹿なことを!」
博士「お名前は?」
スピリット「フレダーフレダ・レッサーです」
博士「ご自分がもう肉体を失っておられることはお気づきですか」
スピリット「何も知りません。ただ、母やハリー、その他誰のところへ行っても相手にしてくれないのです。本当のことを教えてあげたいのです。誰も、ただの一人も、私の言うことを聞いてくれません。訳が分からないのです。あれだけ喋っているのに、なぜ聞こえないのかが分かりません」
博士「その人達には、あなたの姿が見えていないのです。あなたはもう肉眼には見えない存在となっておられるのです」
スピリット「ああ、ハリーがかわいそう!私の馬鹿な行為で苦しい思いをして・・・・。あなたには私の気持ちは分かりません。私が何と言っても聞いてはくれないのですー誰一人として」
博士「あなたが目の前にいることが分からないのですよ。あなたの姿は人間の目には見えないのです。ここにいる私達も、あなたの姿が見えていないのです」
スピリット「なぜこの私が見えないのでしょうか。(そう言って手を握りしめながら泣く)なんて馬鹿な女でしょう、私は!」
博士「気持ちを落ち着けてください。あなたは親切な方の手引きでここへ案内され、暫くの間私の妻の身体を使って話をすることを許されたのです。その身体は一時的な借り物なのです」
スピリット「私に代わって、あなたからあの人達に、私の軽卒な行為からあんなことになった事実を伝えて頂けませんか」
博士「たとえ教えてあげても、聞き入れてくれないでしょう」
スピリット「何を教えるのですか」
博士「本人が出て来てそう述べた、ということです。ピストルが暴発した時にあなたに命中して、それであなたは肉体を失ったのだということが、まだ分かりませんか」
スピリット「ただ傷を負っただけだと思ってました。ああ、それからの苦しみの辛かったこと!私が死んでるなんて考えられません。死ねばそれっきりのはずです。なのに私はこうして苦しんでいます」
博士「本当に死んでしまう人はおりません。みんな肉体がなくなるだけなのです。あなたの苦しみは精神的なものです」
スピリット「でも、頭がひどく痛みます」
博士「それも今の精神状態の現れです」
スピリット「ハリーはなぜ、私に話しかけられないのでしょうか」
博士「目の前にいるあなたが見えないのです。彼の目には、あなたの姿は見えていないのです」
スピリット「彼の側まで行って事情を説明しようとするのですが・・・。ああ、なんということをしてしまったのでしょう!あの時、私はピストルを手にして自殺するマネをしたのです。びっくりさせてやるつもりだけだったのです。それを見て彼は、ピストルを取り上げようとして、私ともみ合いになったのです。冗談のつもりだったのに・・・。ピストルは彼の車の中に置いてありました。それを私が取り出してきて、しばらく衣服に隠しておいたのです」
博士「彼とは結婚するつもりだったのですか」
スピリット「ええ、そのつもりでした」
博士「結婚を考える程まで愛しておられたのですね?」
スピリット「はい、一度も喧嘩をしたことはありません。私はただ脅かしてやるつもりだったのです。女って、時々馬鹿なことをするでしょ?私は彼が本当に愛してくれているかを試してみるつもりだったのです」(泣き出す)
博士「いいですか、今あなたは私の妻の脳と身体を使っておられるのです。心を落ち着けてください。あたりを見回してごらんなさい。親切なお友達が来ているはずですよ」
スピリット「私はもう救いようがありません。どうしようもありません」
博士「ここをお出になったら、皆さんが霊界へ案内してくれますよ。今までは、苦しみの中にあって心の動揺が大きかった為に霊界が見えなかったのです」
スピリット「あの人達に本当のことを教えてあげたいのに、どうしても聞いてくれません。私の声が聞こえてないみたいですし、私の姿も見えていないみたいなのです」
博士「あなたはもう身体に束縛されない『スピリット』になっておられるのです。迎えに来てくれている方達の言うことをよく聞かないといけませんよ。霊的な悟りを得て、苦しみを克服する方法を教えてくれます」
スピリット「私の愚かさのせいなのに、あの人達はハリーを死刑にするのでしょうか」
博士「私は死刑にはならないと思っています」
スピリット「可哀想に!可哀想に!ハリーだけでなく、お母さんにも申し訳なくて・・・二人とも泣いていますし、私の母も泣いています。なぜ、あんな馬鹿なことをしてしまったのかしら!」
博士「さ、あたりを見回してごらんなさい。誰かの姿が見えるでしょう?」
スピリット「あそこに若い女性が立っています。あの方も、ここでお世話になったそうです。私をここへ連れてきたのもあの方だそうです。私と似たような体験をされて、ここへ来て救われ、今はとても幸せなのだそうです。やはり、恋人を心配させてやるつもりで青酸カリを飲んで、そのまま死んじゃったんですって」
博士「名前を言いましたか」
スピリット「ずっと私についてくださっていたそうです。似たような苦しみをもつスピリットの世話をするのが、今のお仕事なのだそうです」
博士「悲しそうに見えますか」
スピリット「いえ、とても幸せそうです。あちらこちらを見てまわって、かつての自分と同じような状態に置かれている若い女性を見つけては、ここへ連れてくるのだそうです」(と言って泣き出す)
博士「もう、感情的になるのはお止めなさい。こうして生身の人間の身体を借りてお話が出来るということが、どんなに恵まれたことであるかを理解しないとけいません。何年も何十年も、当惑した状態のままで苦しんでいる人が多いのですよ」
スピリット「あの方も、ここで私と同じ状態だった時に、救って頂いたのだそうです」
博士「名前は何と言ってましたか」
スピリット「マリオン・ランバートだそうです。今では愚かな行為で思いも寄らなかったことになっている気の毒な女性の為に、一生懸命活躍しているそうです。それがあの方の使命で、私もあの方が連れてきてくださったのだそうです」(また泣き出す)
博士「今、あなたは他人の身体を使っているのですから、そんなに感情的になると困るのです。そこに来ておられる方は、数年前にあなたと同じ苦しみを抱えてここへ来られたのです。その方が、今は幸せそうに人助けの仕事をなさっているそうじゃないですか」
スピリット「私も幸せになれるでしょうか」
博士「なれますとも!今の苦しみは一時のものです。人は決して『死ぬ』ことはないのです。亡くなるのは肉体だけです。スピリットは決して死なないのです」
スピリット「そんなこと、何も知りませんでした。スピリットのことなんか何も聞いたことがありませんでした」
博士「たとえ誰かからそういう話を聞かされても、あなたは笑って相手にしなかったでしょうよ」
スピリット「その方が言ってますーこれから私のお世話をしてくださるのだそうです。疲れてるから少し休んだ方がいいそうです。そして、ここへ来させて頂いたことを感謝しなくてはいけない、と言ってます。あの方と一緒に行って、また泣きたくなるのでしょうか」
博士「そんなことはありませんよ。生命についての本当のことを教わるのです。地上での生活はどっちみち短いものです。その中で誰しも何らかの苦しい体験をするものです。が、そうした苦しみを体験して、少しずつ賢くなっていくのです」
スピリット「(あるスピリットをじっと見つめている様子で、顔が次第に紅潮してくる。やがて顔を左右に振って)そんな!まさか!そんなはずはないわ!」(と言って泣き出す)
博士「何が見えてるのですか」
スピリット「私はあの時にお腹に赤ちゃんがいたのですが、女の人が赤ちゃんを抱いて来て、私のものだと言うのです。もらってもいいのでしょうか」
博士「勿論、いいですとも」
スピリット「でも、あたしのような女には資格はないわ。あの人達が軽蔑するはずです」
博士「もう地上とは関係がなくなったのですよ」
スピリット「ここへ来た時よりも、ずっと幸せそうな気持ちが感じられるようになりました。あの子は、いつ、こちらへ来たのでしょうか」
博士「あなたが肉体を失った時に、その肉体から離れてこちらへ来たのです」
スピリット「どうしてそんなことが有り得るのか、理解できません」
博士「あなたの知らないことが、まだまだ沢山ありますよ。素晴らしい生命の神秘が、まだお分かりになっていませんね」
スピリット「ピストルが爆発した時に、赤ちゃんまで殺しちゃったのでしょうか」
博士「あなたの身体が死んだ時に、赤ちゃんのスピリットもその身体を離れたのです。今その身体で喋っておられても、あなたの姿は私達には見えていないのです。生命の実相というものは、すべて肉眼では見えないものなのです。音楽を見たことがありますか」
スピリット「聴いたことはあります。今とても美しい音楽が聴こえてきました」
博士「それは、生命の実相に目覚め始めた証拠ですよ」
スピリット「もう一人、白い髪をした奇麗な婦人がいらっしゃいます。当分の間、私の母親代わりになって、面倒を見てくださるのだそうです。マーシーバンドのメンバーだと言っておられます」
博士「マーシーバンドという高級霊の集団は、死というものが存在しないことを、世の人に教える為の仕事をしており、私達はそのお手伝いをしているわけです」
スピリット「とても奇麗な方です。最初に姿を見せた方とは違います。赤ちゃんを連れて来てくれた方とも違います。ケイスという名前だそうです」
博士「その方は、地上にいた時からこの仕事に熱心だった方ですよ」
スピリット「赤ちゃんを連れて来てくださった方が、その赤ちゃんの面倒を見てくださるそうです。そういう仕事を専門にしておられるのだそうです。身寄りのない子供達のお世話です。この方も、地上にいた時からスピリットと死後の世界の存在を信じていたそうです。ああ、かわいそうなのはハリーです!この私を許してくれるでしょうか」
博士「彼は事情を知ってるわけですから、許してくれますよ」
スピリット「お願いです。この方達と一緒に行かせてください。もう泣かずに済みますね?あんまり泣いたものだから、目が痛いのです」
博士「今、あなたがご覧になった方達が、生命について色々と教えてくださいます。そうすればきっと幸せになれます」