犯罪を唆すスピリット

●肉体離脱後も残る『犯罪癖』
 習慣とか願望、性癖といったものは精神の奥深く根を張っているもので、肉体を離れた後も、当人の意志によって自然的に取り除かれるまでは、死後もずっとそのまま残っていることが多い。
 特に、処刑されて強引に肉体から離された場合は、怨みを抱き復讐の機会を求めて、いつまでも地上圏に留まり、霊的なものに過敏な人間に憑依して、好き放題のことをすることがある。我々の調査によって、まさかと思うような真面目な人間が、地上で殺人を犯したスピリットに憑依されて新たにむごたらしい殺人を犯すというケースが少なくないことが分かっている。

●マジソン・スクェアガーデン惨殺事件の真相
 1906年にスタンフォード・ホワイトという男性が、ハリー・ソーという名の犯人によって、ニューヨークのマジソン・スクェアガーデンで惨殺された事件も、その典型だった。ハリーは、生まれつき霊的感受性が強く、スタンフォードを殺害した時の心理状態がどうであったにせよ、恨みに満ちた複数のスピリットに唆されていたことは間違いないことが、我々の招霊実験で判明した。つまり、ハリーは、無知で復讐心を抱いた低級霊集団によって演出された、見えざる世界での恐怖のドラマの、地上の執行人に過ぎなかったわけである。
 その殺人事件から数週間後の7月15日にホームサークルを催している最中に、予定されていたのとは違う別のスピリットが私の妻に憑依し、妻の身体はその場に倒れた。私が抱き上げて椅子に座らせてから質問しようとした。すると、身体に触れたことに腹を立てて『余計なことをするな』と言ったあと、
「おい、ウェイター、酒だ!」
と大声で言った。そこで、私が聞いた。
「何にいたしましょう?」
「ウィスキーをソーダで割ってくれ。はやくしろ!」
「どなたでしょうか」
「誰だっていい。余計なお世話だ」
「ここはどこのおつもりですか」
「マジソン・スクェアガーデンじゃないか」
「お名前は何とおっしゃいますか」
「知りたけりゃ教えてやろう。スタンフォード・ホワイトだ」
そう言ってから片手で後頭部を押さえ、もう一方の手で痛そうに胸や腹をかきむしりながら、「早くウィスキーをもってくるように、ウェイターに言ってくれ!」と言う。
 私がさらに質問しようとした時、そのスピリットの目に他のスピリットの姿が見えたらしく、急に恐怖で身体を震わせ始めた。
「死んだ人達の姿が見えるのでしょう?」
 私がそう言うと、激しくうなずいてから、大声で、
「あいつらが俺を追っかけてくるんだ」
 と言うなり、椅子から飛び出して部屋の隅の方へ走って行き、そこで霊媒の身体から離れてしまった。その直後に、今度は別のスピリットが乗り移って、ひどく興奮しながら行ったり来たりして、
「こいつは俺が殺ったんだ!この俺が殺ったんだ!見ろ、あそこにくたばってやがる」
 と言って、さっきのスピリットが離れた隅の方を指差し、さらに、
「こん畜生め!奴を殺そうと思って何年チャンスを待っていたことか。ついに殺ったぞ!こん畜生めが!」
 と怒鳴った。
 そこで、その男を無理矢理椅子に座らせて質問してみると、名前は『ジョンソン』であることが分かった。そして、
「ホワイトは俺が殺ったんだ。あれでいいんだ。奴は娘っ子をおもちゃにしやがった」
と述べた時の言葉の響きには、上流階級への憎悪がむき出しになっていた。さらに言葉をついで、
「あいつらは俺達の(階級の)娘をさらっては、奇麗なドレスを着せておもちゃにしてやがる。親達も知らん顔さ」
 と言う。私が死んだことには気づいているのかと尋ねると、バカバカしいと言わんばかりに笑い飛ばして、
「死んだ人間がものを言うかよ。医者は、俺が肺をやられているから先は永くないと言ってやがったが、死ななかった。こんなに気分がいいのは初めてだよ」
 そこで、私が手と足とドレスを見るように言うと、男が女の身体をもつとはどういうことかと言い返し、私との間で長々とやりとりが続いたが、どうにか納得がいったらしく、おとなしく去って行った。
 続いて憑依したスピリットは、自分の死をよく理解していて、
「ハリー・ソーの父親で。息子を救ってやってください。どうか救ってやってください。息子には罪はないのです。電気椅子に座らされるようなことはしていません」
 と言い、続けてー
「ハリーは霊的影響を受け易く、子供の頃からそうでした。行動が風変わりで、すぐに興奮するので、発狂するといけないという心配から、私も家内も、彼を強くいさめることをしなかったのです。
 今それが間違っていたことが分かりました。地上にいた頃は、ハリーの異常の原因が分かりませんでしたが、今、霊界から見ると、ハリーは生活のほとんどを低級な地縛霊の道具にされていたことが分かります。
 スタンフォード・ホワイトを殺した時も、復讐心に燃えた複数のスピリットのとりこにされていたのです。これまで私は可能な限りの手段を尽くして、地上の人達にハリーが本当は気が狂っているのではなく、霊的に過敏な子であったことを分かって頂こうと努力してまいりました。どうか、あの子を救ってやってください!どうか救ってやってください!」
「どうして欲しいのでしょうか」
「私の妻と弁護士のオルコットに手紙を書いて頂き、この度の私が述べたことを知らせて、ハリーの本当の事情を教えてやって頂ければと・・・・」(その時点では、ハリーの弁護士のことは何も知らなかったが、後で間違いなくオルコット氏であることを確認した)
「おっしゃる通りに致しましょう」と言うと、そのスピリットは離れて行った。その翌日(七月十六日)の晩には、さらにもう一人のスピリットが出現した。初めのうち、誰かを探している様子で、「他の連中はどこへ行った?」と聞き、やはり上流階級への恨みつらみを述べて、若い女の子がすぐに騙されてしまう愚かさを吐き棄てるように言ってから、さらに、
「金持ちは、俺達の娘を奴らの隠れ家へ連れ込んで、金づるにしてやがる。娘達も親のことなんかどうでもいいと言い出す始末さ。痛い目に遭わせてやらんといかんのだ、あいつらは!」
 と、ジェスチャーを交えながら喋るのだった。初めから終いまで興奮し通しで、私が質問らしい質問をしないうちに、突如として霊媒から離れた。
 翌年の二月十六日に、ソーの父親が再び出現して、前回と同じように、息子が霊的感受性が強い子で、しばしば邪霊に唆されていることを述べた後、地上の人間はこの邪霊の影響の実在を正しく理解することがぜひ必要であることを説き、それがスピリットにとっても、気の毒な犠牲者にとっても、悲劇を未然に防ぐ最善の方法であることを力説するのだった。




●ホリスター夫人殺害事件の真相
1906年、シカゴで起きたベッシー・ホリスター夫人の殺害事件の犯人として絞首刑になったリチャード・アイベンスは、事件当時、彼自身の意志ではなく、外部からの影響力の犠牲者であったということは明々白々である為に、精神病学者も犯罪学者も心理学者も、揃ってアイベンスは無罪であると主張し、また催眠暗示の状態での尋問でアイベンスが、知らない人間に唆されてやったと自白している事実を指摘していた。
 確かにアイベンスは、取り調べに際して恍惚状態のような目つきで『図体のでかい奴』が殺せと唆したからやったのだと告白するかと思うと、すぐまた、それを激しい口調で否定する、ということを繰り返していたのである。
 ハーバード大学の心理学教授H・マンスターバーグ博士は、事件のあった年の1906年6月に、次のように書いておられる。
[これは人格分裂と自己暗示の、興味深いケースである・・・十七世紀の魔女達は似たような告白をして焼き殺されたわけである。異常心理についての一般の理解は、魔女狩りの時代から大して進歩していない]
 同じくハーバード大学のウイリアム・ジェームズ教授はこう述べておられる。
[アイベンスが有罪か無罪かはともかくとして、犯行当時に人格分裂状態になったであろうことは間違いない・・・その宿命的な最初の数日間、彼は本来の『自我』ではなく、稀にある人格転換の犠牲者であった。それは、他からの暗示性のものか自発性のものかのいずれかであろうが、先天的にそういう素質をもった人間がいることは、よく知られていることである]
 以下はその後日の話である。


 1907年3月7日
 スピリット=リチャード・アイベンス


スピリットが乗り移ると、霊媒はまるで死んだようにフロアに倒れ込んだ。そして意識を取り戻させるのに三十分もかかった。が、意識が戻っても、
「ほうっておいてくれ。もう一度絞首刑にしたいのか」
と言いながら、しきりに首のあたりの痛みを訴え、とにかく眠らせてくれと言うのだった。
「首がどうかしたのですか」と聞くと、「首の骨が折れている。絞首刑にされて、俺はもう死んだんだ。死んだままにしておいてくれ。生き返ったら、また絞首刑にされる」と言う。
 名前を尋ねると、リチャード・アイベンスだと言うので、「ホリスター夫人を殺害したのは、あなたでしたか」と尋ねると、
「知らない。人は俺がやったと言ってる。しかし、俺がやったとしても、身に覚えがないんだ」
「ではなぜ、自分がやったと言ったかと思うと、すぐに否認したりしたのですか」
「三人のゴロツキがいる時はそう言った。その中の図体のでかいのが俺を見下ろして『言わんと殺すぞ』とナイフで脅したんだ。そいつがいない時は、殺したかどうか記憶がないと言った。警察でもそう言った。看守にもそう言った。聞いた奴にはみな同じことを言った。が、本当のことを言っても信じてもらえなかった。
 ああ、酷い目に遭った!」せっかく死ねたのに、なぜ呼び戻すんだ。なぜそのまま眠らせてくれなかったんだ。また逮捕されて吊るされるじゃないか! 」 
 次の瞬間、恐怖におののいたような叫び声をあげて、
「見ろ!また、あいつだ!手にナイフをもって、側に二人の背の低い奴がついてる。わっ!」
 そう叫んで、膝を抱きかかえる仕草をしながら、
「膝をやられた!膝にナイフを突き刺されたーもう一方もだ!脚を切られた!脚を!あいつは悪魔だ!」
 そこで私が少しずつ事情を説明し、みんなスピリットであること、もう肉体はないのだから傷つくことはないことを得心させてから、「あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのです。そういう精神的な妄想を捨てないといけません。三人の他にもスピリットの姿が見えませんか」と言うと、
「おや、ほんとだ、見えます。私の味方のような感じがする。あれ、ホリスター夫人だ!」
「ナイフを持ってる男に、なぜ追い回すのか聞いてみてください」
「ニタニタ笑ってるだけです」
「なぜホリスター夫人を殺さないといけなかったのか、聞いてみてください」
「女が憎いからだと言ってます」
そう言ってから急に黙り込み、固唾を呑んで何かものすごいシーンを見ている様子だった(マーシーバンドのスピリットが三人を取り押さえた)。
「あの三人を連れて行きました。ものすごい格闘でしたが、ついに取り押さえました」
そう言ってホッとした表情を見せ、
「ヤレヤレです。あの恐ろしい男がいなくなって助かりました」
と言った。そこで私が、ホリスター夫人殺人事件について思い出してみてほしいと言うと、こう語った。
「あの夜、ホリスター夫人を見かけた時、私の目には、あのでかい男の姿も見えて(霊視して)おりました。そのうち妙な感じがしてきたと思うと、首を絞められて意識を失ってしまいました。次に意識が戻ってみると、その男が、夫人を殺したのはこの私だと言うのです。
 その男の姿は一ヶ月程前から見かけていましたが、それがスピリットであるとは知りませんでした。ずっと私をつけていたのです。なぜ、私を生き永らえさせてくれなかったのでしょう?たとえ刑務所の中でも良かったのです。家族には大変な恥をかかせてしまいました。母親に済まない気持ちで一杯です。真相を知ってもらえればという気持ちです。もしも母に会えたら、あれはどうしようもなかったー私は絶対に殺してないと言ってあげたいのです。
 誰も同情してくれなかった。あのでかい男がナイフを持っていた話をしても、誰も信じてくれなかった。あいつが私に自白させたのです。
 本当に私がやったのなら、後悔もします。でも、私には身に覚えがないのです。なのに、なぜ私を処刑したのでしょう?」
 そこで私が、生命の死後存続と高い霊的境涯への向上の話をすると、
「私が死んでないとすると、あの夫人も生きているということですか」
 と真剣になって聞いた。
 「勿論ですとも。きっと今ここへあなたを許しに来ておられるはずですよ。確かにあなたはその方の身体を滅ぼしたかも知れませんが、それはあなたの罪ではありません。邪霊によって催眠状態にされて、彼らの道具にされただけです」
 最初元気のかったアイベンスは、やっと事情が分かって、マーシーバンドの手に委ねられた。そのメンバーの話によると、『でかい男』は子分の二人と共に、地上で『白帽団(ホワイトキャップ)
』という、英米で婦女子ばかりを襲って手足を切断したり殺したりしていた『殺人狂集団』に属していたという。
 それからほぼ三ヶ月後に、その『でかい男』の招霊に成功した。


 1907年6月6日
 スピリット=チャールズ・ザ・ファイター(人呼んで『喧嘩チャールズ』)


 霊媒にかかってきた時は酔っぱらったような態度だったが、目が覚めると暴れ出し、数人がかりでやっと押さえ込むことが出来た。
「人呼んで『喧嘩チャールズ』とは俺のことだ」
 そう凄んでから、まわりにいるマーシーバンドのスピリットに向かって、そこへ自分をおびき寄せた恨みを口走り、つっ立ってないで助けろ、と命令した。
 そのうち落ち着いてきて、私の説明にどうにか耳を傾けるようになった。他人の身体を使って喋っていることを納得させる為に、手を見るように言った。すると片手だけ見て、それが女性の手であることを知って、ひどく狼狽し、
「この手をもってってくれ!もってけ!こんなもの、見たくもない!」
 とわめいた。そこで私が、なぜそんなに怒り散らすのか、そのわけを聞かせてほしいと言うと、
「言うもんか!言うくらいなら死んだ方がましだ!ああ、またあの女の顔が!ダイヤの指輪を取るために切り落とした手も見える!どこへ行っても、その顔と手がつきまとうんだ」
 さらに見回すと、大勢の亡霊に取り囲まれているらしく、
「見ろ!あの顔、顔、顔!ぜんぶ俺が殺したって言うのか?俺を呪いに来やがったのか?見ろ、あいつもいる(アイベンス)。首を吊られたはずなのに、まだ生きてやがる。あの女を殺したのは俺だ。だが、あの男に上手く自白させたはずだ。(私に気づいて)ちょっと待て!コラ、きさま!お前だな、これを企んだのは。あとで覚えてろ!八つ裂きにしてやるからな!」
 そう言いながらも、我々の説得によって、ついに、これ以上の抵抗は無駄であり、強盗と殺人の時代は終わったことを悟った。彼は身の毛もよだつ犯罪の数々を語り、それは女への報復としてやったこと、強盗はウィスキーを買う為の金欲しさであり、ウィスキーを飲むのは良心の呵責を紛らわす為であり、絶えず呪い続ける亡霊から逃れる為だったという。
 彼は、幼少時代は優しい母親の愛を受けて幸せだった。が、その母親が死んだ後、後妻にひどく虐待され、泣く泣く自分の部屋に駆け込んで、亡き母に助けを求めて祈ることの毎日だったという。が、そのことがますます義母の嫉妬心をあおり、気弱な父の抑止も聞かずに彼を殴り続け、二度と実母の名前を言うなと叱りつけたのだった。
 その義母の残忍な暴君的態度が、少年の心に計り知れない恨みの念を植え付け、大きくなったら女という女を皆殺しにしてやるという誓いをさせるに至った。そして、その恐ろしい誓いを着々と実行に移し、全生涯を、主に女性を対象として、残虐な計画と犯行に終始した。
 その彼も、仲間割れの喧嘩で殺されたのだが、この日まで自分が死んだことに気づいておらず、その後もずっと警察を上手くまいて、犯行をきちんと重ねて来たのだと自慢するのだった。
「ところがだ、ボストンでのことだが、警官を殺してやろうと思って、後ろにまわってこん棒で殴りつけたんだが、どういうわけか、空を切って手応えがなかった。そいつは振り返りもしなかった」
 我々やマーシーバンドに取り囲まれて、彼はもう逃げられないと観念したのか、亡霊の呪いから解放されるためなら、どうなっても構わんと言い出し、
「この拷問のような苦しみから逃れられるのなら、地獄にだって喜んで行く」
 とさえ言うのだった。
 私が因果応報の話をし、霊界の素晴らしさについて語るのに素直に聞き入っているうちに、霊的波長に変化を生じたらしく、すぐ側に実母が立っているのが見えた。やはり母親の姿の効果は絶大だった。さすがの非情の極悪人も、椅子の中で縮み上がり、母親の説得の言葉に、哀れにも泣きじゃくるのだった。
 罪の意識と後悔の念がよほど強かったとみえて、彼は、
「僕は行けないよ、母さん。母さんは天国へ行くんだ。僕は地獄へ行くんだ。そこで八つ裂きにされて火で焼かれるんだよ」
 と言いながら、なおも泣きじゃくるのだった。
 しかし、母性愛は負けなかった。さすがの極悪人も、神妙に、母親に連れられてスピリットの世界へと旅立って行った。