以下の文章は、[迷える霊との対話]という、霊的知識の書物から抜粋した文章です。また、自殺に関するその他の霊的知識は、[自殺してはならない霊的な理由]に書かれています。

●人間に憑依されたと思い込んだ憑依霊
憑依霊というのは大体において、自分が人間に害を及ぼしていることに気づかず、何か変だが・・・・といった気持ちを抱きながら、心理的な暗がりの中で悶々とした時を過ごしているものであるが、なかには、人間の方が自分の行動を邪魔していると思い込んで、現実とは逆に自分の方が憑依されている(しつこくつきまとわれている)と思い込んでー仕返しのつもりで、あるいは懲らしめるつもりで、その人間の身体を痛めつけていることがある。その場合、スピリットの側は痛みを感じないから厄介である。
 L・W夫人は、夫の死のあと、鬱病になり、やがて『幻聴』の症状が出て、髪をかきむしりながら叫び声を上げて、家を飛び出すという行動が頻繁になった。
 そんな時に、背後に何人かの霊姿がつきまとっていることを実の娘が霊視していた。その中に気味の悪い目つきをした男性がいて、それが見える時の母親が『またあの恐ろしい男が来た!』と言って逃げ出すことも分かった。
 その後、転地療養のつもりでセントルイスからロサンゼルスに連れて来られたが、症状は悪化する一方で、自分の手や腕に噛み付いたり、スリッパで自分の頬をぶったり、衣服を引きちぎったりすることを始めた。手に負えなくなって、ついに精神病院に入れられ、サナトリウムで治療を続けたが好転せず、一年後に我々のところに連れて来られた。二、三ヶ月で憑依霊がすべて取り除かれ、すっかり正常に戻って、今では娘さんの家で家事を手伝いながら平穏に暮らしておられる。
 次に紹介する実験は、例の『怖い男』の招霊に成功した時のもので、我々のところへ連れてこられてわずか二、三日後のことだった。


 1918年1月13日
 患者=L・W夫人
 スピリット=ジョン・サリバン


 霊媒の乗り移ってからすぐ激しく暴れるので、何人かで取り押さえておく必要があった。
スピリット「なんで俺をそんなに押さえ込むんだ!お前達と何の関係があるんだ?俺は何も悪いことはしてないぞ!あとで覚えてろ!」
博士「あなたは、私達にとってはまったく見知らぬ方なのです。その方にいきなり暴れられては、こうして押さえ込むしかないでしょう?」
スピリット「そんなに強く押さえつけんでくれよ」
博士「あなたはどなたですか」
スピリット「なんでお前からそんなことを聞かれる必要があるんだ?俺はお前らの誰一人として知らんのだ。誰であろうと、大きなお世話だ。ほっとしてくれ!」
博士「さ、お名前をおっしゃってください。どうやら『剛力の女』とお見受けしますが・・・」
スピリット「女だと?もう一度よく見ろ」
博士「どちらから、何の御用で来られたか、おっしゃってください」
スピリット「何のためにそんなことを知りたがるんだ?」
博士「今のあなたを、そのお気の毒な状態から救ってさしあげられるかもしれないと思ってのことです」
スピリット「話すから、そんなに強く押さえつけんでくれ」
博士「さ、おっしゃりたいことを全部吐き出してください」
スピリット「まず第一に、あの火の針はご免だ。そのあとしばらく捕虜みたいにされていたが(患者から離されて霊媒に移されるまでの間、マーシーバンドによって金縛りにされていた)、やっと自由になったから暴れたくなったのさ。一体何の為に、あんな火の針を刺すんだ?もう家に帰る!」
博士「家はどこにあるのですか」
スピリット「今、来たところさ」
博士「その『火の針』というのはどんなものか知りたいですね」
スピリット「まるで全身が燃えるみたいな感じさ。もういいだろう、帰らせてくれよ。こんなところに腰掛けたまま押さえつけられているのはご免だ」
博士「『針』の恩恵を受けられたいきさつが知りたいのですがね?ぜひ教えてくださいよ」
スピリット「俺にも分からん。が、とにかくやられたんだ」
博士「ここへはどうやって来られました?」
スピリット「知らん」
博士「誰かにくっついたまま来られたのではありませんか」
スピリット「俺は俺にくっついてるだけだ」
博士「最近はどんなところにおられましたか」
スピリット「ずっと暗がりの中だ。家から出たら何も見えなくなった。まるで目が潰れたみたいだった」
博士「あなたの言う『家』の中にいると妙な感じがしませんでしたか」
スピリット「本当の俺の家じゃないよ。が、似たようなところさ」
博士「そこにいると不愉快になってきて、それで酷いことをしたのでしょう?」
スピリット「時々、自分がどこにいるのかも分からなくなって、ヤケになって暴れまわったのさ。時には、数人を相手に大喧嘩もやったよ。今は見当たらんが、いつかやっつけてやる」
博士「その人達は、どこの誰だったのですか」
スピリット「ええっと・・・・知らんね。いろんな奴がいたよ」
博士「女性もいましたか」
スピリット「大勢いたよ。ゆっくり休む場所もなかったほどさ。女め!いつか全部ひっつかまえて、痛い目に遭わせてやる」
博士「なぜ、そんなに人を痛めつけたいのでしょうね?」
スピリット「あっちから一人、こっちから一人と、次から次に女の姿を見せられるので、ついカッとなってしまうのさ。こんなに沢山の女を、どうしようもないよ」(患者のオーラにひっかかっているスピリットのこと)
博士「今、どこにいると思いますか」
スピリット「どこに?そんなことどうでもいい」
博士「どこに住んでおられますか」
スピリット「いろんなとこにいたよ。転々としていて、そのうち何もかもまったくうんざりしちゃった。いつも逃げ出したくなってね。それで誰も俺の居場所を知らないってわけよ」
博士「でも、自分自身からは逃げられませんでしたね?」
スピリット「まわりには女、女で、もう反吐が出そうだよ。そのうちの一人(L・W夫人)を蹴ったり噛みついたりしてやったが、それでもしがみついてきやがった。俺につきまとうことはないんだが・・・。いつか殺してやろうと思ってる」
博士「あなたは、ご自分のなさっていることが分かってないようですね」
スピリット「何をしようと構わんさ。あの女の手首を食いちぎってやったことがある。それでもしがみついてくるんだ。それで、今度は髪の毛を思い切り引っ張ってやった。それでもまだ、しがみついてきやがった。どうしても振り切れんのだ」
博士「ですから、本当のことをお教えしようと思ってるんです。いかかですか」
スピリット「知りたいとは思わんね。ただ、あれだけは頭にくるな。あの火の針だよ。あれを食らうと力が抜けてしまった感じになるよ」
博士「今、その女の人はどこにいますか」
スピリット「ここしばらく見かけんね」
博士「一体、その人があなたにどんな危害を加えたというのですか」
スピリット「この俺につきまとう筋合いはないと言ってるんだよ」
博士「立場を逆転して、もしもあなたの方が彼女につきまとっているとしたら、どうしますか」
スピリット「こんなに女みたいに着飾ってくれて、おまけに女の髪を頭にのっけるとは、余計なことをしやがったもんだよ」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んで!?よし、死んでなんかいないところを見せてやろう。腕ずくじゃ負けないことも思い知らせてやろう。この俺が死んでるんだとよ!」(荒々しく笑う)
博士「しばらく妙な感じになったことはありませんか」
スピリット「妙どころじゃないよ、地獄だよ。その手を離してくれないか。まるで火のように熱くてしょうがないよ」
博士「女が男のあなたにおめかしをすることが出来るものでしょうかね?ご自分が少し身勝手過ぎるとは思いませんか」
スピリット「身勝手だと?俺が身勝手なら、あの女の方こそもって身勝手だ」
博士「もしもあなたが、あの方につきまとっている、何も知らないスピリットだとしたらどうしますか」
スピリット「この俺があの女につきまとってるだと?俺じゃないぞ。馬鹿言っちゃ困るよ、ダンナ」
博士「そういうことが、事実よくあるのです。バイブルをお読みになったことがありますか。昔は悪霊を追い出すということを、よくやったものなのです。あなたは今は、もうスピリットになっているーしかも、その、追い出さないといけないスピリットになってしまわれたのです」
スピリット「悪魔というのは本当にいたらしいよ。だが、俺は悪魔じゃないからな」
博士「でも、あなたは一人の女性を苦しめてきた。それで私が電気で追い出したのです」
スピリット「この野郎!(掴み掛かろうとする)牢へ閉じ込めたのはお前だな?あの女もひっつかまえて八つ裂きにしてやる!しょっちゅう、つきまといやがって!」
博士「あなたこそ、彼女につきまとっていたのですよ。今やっと彼女から引き離したのです。さ、そろそろ自分がスピリットであることを悟って、まともになってくださいよ。私は本当のことを言ってるのです」
スピリット「あの女さえいなくなってくれたら・・・・もう一度思い切ってぶん殴ってやる」
博士「なぜそんなに、あの方をやっつけたがるのですか。あの方はちっともあなたに迷惑はかけていないのに」
スピリット「お前も一度こらしめんといかん!」
博士「言うことを聞かないと、もっと電気をかけますよ」
スピリット「それは困る。このままの方が、まだマシだ。が、その手を少し緩めてくれないか。きつ過ぎるよ」
博士「あなたは男だとおっしゃるけど、私達にはあなたの姿は見えていないのですよ。見えているのは女性の姿だけなのです」
スピリット「その目は節穴か。俺が男だということが見て分からんのかね」
博士「でも、女性の服を着ておられますよ」
スピリット「だから、俺はそれを引きちぎって捨てるのさ。すると、あの女がまた女の服を着せやがる。それをまた引きちぎるんだ」
博士「あなたはもう、その女の人から離れて、今は別の女性の身体を使っているのです」
スピリット「それはどういう意味だ?」
博士「あなたは、何も知らずに地上をうろついている『スピリット』なのです。これまで一人の女性に取り憑いていたのですが、今は私の妻の身体を使っておられるのです」
スピリット「俺は自分の身体しか使っていない。あの女は何故、この俺につきまとうんだ?」
博士「あなたこそ、彼女につきまとっていたのです。あなたを引き離したので、彼女は今、とてもすっきりした気分になっておられます」
スピリット「牢へぶち込んだのはお前だな?」
博士「私じゃありません。高級霊の方達です。あなたは、あまりにも身勝手でした。手のつけようがないほどでした。今、あなたがどういう状態にあるかを理解なさらないといけません。仮に今、これまでにあなたがやってきたことを記録にまとめたとしたら、あなたはそれを人に見せる勇気がありますか」
スピリット「そんなことはどうでもいい。とにかく、女につきまとわれて、女の服を着せられていることが気に食わんのだ。女は大嫌いだ!」
博士「あの方は、大勢のスピリットに悩まされていたので、治療の為にここへ連れてこられたのです。間違いなく憑依されていることが分かったので、電気療法で追い出したのです。あなたは、実はその一人なのです。そのことを分かって頂きたくて、こうしてお話をしているのです」
スピリット「あの女をひっつかまえて、八つ裂きにしてやる!腕を食いちぎってやる!」
博士「もう少し冷静になってください。事情が分かってきて幸せになりますよ」
スピリット「幸せなんてあるもんか!」
博士「神とは何か、とか、人生とは何か、といったことを考えてみたことはありますか」
スピリット「神なんていないよ。幸福も不幸もあるもんか」
博士「もしも超越的な存在がいないとしたら、あなたという存在はどこから生じたのでしょうか。なぜ、あなたは存在しているのでしょうか。私の妻の身体を使って、こうして話が出来るという現実を、どう説明しますか」
スピリット「さては、俺につきまとっていたのは、お前の奥さんだったのだな?」
博士「ここへ治療に来られた婦人に、あなたがつきまとっておられたのです。そのあなたを私が電気で追い出し、高級霊の方達があなたを一時、牢に閉じ込めたのです(霊的に金縛りの状態にする)。そして今、一時的に私の妻の身体に入って話をしておられるのです」
スピリット「女が嫌いな俺が、なんで女につきまとうんだ?女を片っ端から、叩きのめしてやりたいくらいだ!」
博士「あなたはもう肉体をなくされたのです。そして、地上をうろつきながら、次々と人間に憑依していたのです。わがままなスピリットは、よくそういうことになるのです。精神病棟には、そういうスピリットに憑依された人が一杯います。あなたは、この方を三年から四年もの間、地上の人間を苦しめてこられたのです」
スピリット「一体、この俺があの女に取り憑くわけがあるのかね。俺は女が嫌いなんだ。色恋や金で女を追っかけやしないよ。女という女を全部殴り殺してやりたいくらいなんだ。女は平気で男を欺きやがる。神様も、女なんか造らなきゃ良かったんだ。自分の気に入ったとおりにしてもらっているうちは機嫌がいいが、背中を向けられると刺し殺すからね。俺は女に報復を誓ったんだ。怨みを晴らすというのは気分がいいもんさ。だから、やるんだ」
博士「もうそろそろそんなことは止めて、人生というものをもっと真剣に考えないといけません。ご自分では間違ったことをしたという気持ちはないのですか。過去をよく振り返って、完全だったかどうか、考えてみては?」
スピリット「完全な人間なんていないよ」
博士「いけなかったことが沢山あるとは思いませんか」
スピリット「完全な人間はいないよ。俺はいたって普通の人間だと思ってる」
博士「生命の不思議について考えてごらんなさい。あなたは死んでもう何年にもなるはずです。高級界のスピリットがあなたをここへお連れして、色々と素晴らしいことをお教えしようとしておられるのです。私の妻の脳と身体を使って、私達と話を交わすことを許してくださったのです」
スピリット「奥さんも馬鹿だね、そんなことに使われて」
博士「あなたのような気の毒な方への慈悲心から、身体を犠牲にしているのです。女性をみんな悪者と思ってはいけません」
スピリット「俺のおふくろは、立派な女性だったよ。おふくろが女でなかったら、女を皆殺しにするところだ。が、あのおふくろも死んで四、五十年にもなるかな」
博士「あなたも、肉体はとっくに死んでいるのです。あなたも今はスピリットになっておられるのです。まわりを見てごらんなさい。目に映るものを正直に言ってごらんなさい」
スピリット「おふくろの姿が見えるよ。だが、おっかないね」
博士「私達はスピリットであるあなたを、少しも怖がってませんよ」
スピリット「おふくろは幽霊になっちゃったんだ」
博士「あなたと同じスピリットなのです。お母さんは何とおっしゃってますか」
スピリット「『ジョン、永い間、お前を探してきたよ』だってさ。でも、おっかないよ」
博士「幽霊みたいに見えるのですか」
スピリット「そんなことはないが、でも、おっかなくて・・・オヤ、親父もいる。それに、リジーだ!お前なんかに来てほしくないな。俺に近づくんじゃない、リジー!マムシ野郎め!」
博士「多分、リジーは、自分のしたことを許してもらいたくて来られたのだと思います」
スピリット「絶対に許すわけにはいかんね」
博士「人間、行き違いということがあるものです。お二人の間に、何か誤解があったんじゃないですか。あなたは、猜疑心から間違ったことを思い込んでいるのかも知れませんよ」
スピリット「あいつが憎い!近づいてくれるな!」
博士「憎しみを捨てて、少し冷静に考えてみては?」
スピリット「リジー、お前はあっちへ行くんだ!さもないと殺すぞ!お前の言うことなんか聞きたくない。いくら弁解しても聞く耳はもたんぞ。大嘘つきめが!」
博士「彼女は何と言ってますか」
スピリット「あいつだ。あの女が俺の人生をめちゃめちゃにしちまったんだ!」
博士「何て言ってるか、聞いてみてください」
スピリット「(聞いている様子)へぇ、結構な話だよな。(一人言のように)俺達は結婚することになっていた。あの頃はあいつもいい娘だった・・・。(リジーの言ってることを聞いて)へえ、俺が嫉妬心から変な勘ぐりをしたのだとさ」
博士「あなたが、よほど頑固で、怒りっぽかったのでしょう」
スピリット「(リジーに向かって)お前は大嘘つきだ。俺を捨てて、奴のところへ行きやがった。(独り言のように)あの晩、家に帰る途中で、電車の中である男と会って、ホンの少し一緒に歩いただけだと言ってやがる。俺はその現場を見て、家に帰って自分で自分を刺したんだ」
博士「自殺したわけですね?」
スピリット「そのまま死んでしまいたかったんだが、死ねなかった。あのまま行ってれば、こんな惨めな思いをせずに済んだのに・・・・」
博士「なぜ、彼女を許してあげないのですか」
スピリット「オイ、お前はあの女の味方をする気か?俺は自分を刺した傷で、どれほど苦しんだことか。いっそのこと死んでしまいたかったのに・・・。リジーが歩き回ってる。泣きじゃくってるよ」
博士「ご自分の良心の声に耳を傾けなさいよ」
スピリット「彼女を愛していたさ。だが、彼女から何を得たというのか・・・・」
博士「子供の頃、よほどお母さんに甘やかされたのではありませんか」
スピリット「おふくろは、それはそれは大事にしてくれたよ。欲しいものは何でも与えてくれた。だから、楽しい思いばかりしていたよ。
 リジーが言ってるー俺に対する態度をもう少し考えてれば良かった、とよ。ダメだ、母さん、近づかないで!僕はもう、どうしようもない人間なんだ」
博士「あなたにとって、今、一番大切なのは、自分を抑えるということです。イエスが言ってるじゃありませんかー『童子のごとくならなければ、神の王国へは入れない』と。あなたには、その意味がよく分からないだろうけど、あなたは何でも自分中心に考えていましたね。お母さんが甘やかし過ぎたのです」
スピリット「おふくろが、今、それを後悔してると言ってるよ。またリジーが来やがった。あいつのことなんか信じるもんか!あんな男と行っちまいやがって」
博士「仮にそれが事実だったとしても、それがどうしたと言うのですか。よほど嫉妬心が強かったとみえますね」
スピリット「俺の誤解だと、リジーが言ってるよ。本当のことを話したはずだと言ってる」
博士「リジーは、もう死んでるんですよ」
スピリット「死んでなんかいないよ。もし死んでるとしたら、あれは幽霊というわけかね?」
博士「そこに立ってると言ったじゃないですか。幽霊のように見えますか」
スピリット「イヤ、そうは見えない。おふくろが言ってるー『ジョン、分別を働かせなさい。お前は自分の良心に責められてるのだよ』とね。辛いものだぜ、愛したはずの女が、他の男とくっついてるのを見るのは。その現場を見てから俺は、彼女への当てつけに自分を刺したんだ。戻ってきてくれるだろうと思ったのさ」
博士「あなたは自殺して死んじゃったのです。そして今はスピリットになっていることが悟れずに、女の人に憑依して、その方に大迷惑をかけている。それから逃れようとして、私達のところへやってきたのです 」
スピリット「あの女のことなんか構うもんか。俺は女は嫌いなんだ。なのに、あいつはつきまといやがる。俺は、女に仕返しをすることだけが生き甲斐だった。そして、たっぷり仕返しをしてやったよ」
博士「あなたのお陰で、あの方が大暴れして困ったのです」
スピリット「おふくろとリジーがそこに立って、一緒に泣いてるよ。俺のことなんか誰もかまってくれない。知るもんか!」
博士「姓は何とおっしゃいますか?」
スピリット「ジョン・サリバン」
博士「あの方に迷惑をかけたことを恥ずかしく思わないといけませんね」
スピリット「あんたが自分を恥ずかしく思わんのと同じで、俺は少しも恥ずかしく思ってないね」
博士「あなたは、心からリジーを愛していたのでしょうか。一人よがりに過ぎなかったのではありませんか。つまり、彼女を自分のものにしたかっただけで・・・・」
スピリット「俺のものになるべきだったんだよ、彼女は。それが、あのことで、愛が憎しみに変わったのさ。
 泣いても無駄だよ、リジー。いくら泣いても、俺は許さんからな。百回、頭を下げても許さんぞ」
博士「子供の時に、お母さんが二、三度でいいからお仕置きをしていたら、こんなことにはならなかったでしょうにね、リジーを許してやりなさいよ。そうすることで、あなたも救われるのです」
スピリット「絶対に許さないね。女達は俺に夢中になったものよ。かっこ良かったからな」
博士「それがいけなかったんです。平凡だった方が、もっと物わかりのいい人間になったでしょうよ。今こそ、分別を働かせるチャンスです。私の妻の身体を使わせてあげてるのですから」
スピリット「じゃ、奥さんを返すよ。俺には用はないんだ。ねえ、母さん、そこでリジーと一緒に泣いても何にもならんよ。俺は絶対に許さないんだから」
博士「このチャンスに人を許すことが出来なかったら、この後、またあの暗い牢の中に閉じ込めて、反省するまではほうっときますからね。間違いは自分にあることを知らないといけませんね」
スピリット「許さないね。母は好きだった。金もたっぷりあったしね」
博士「どこに住んでました?」
スピリット「セントルイスだ」
博士「ここはカリフォルニアですよ」
スピリット「その手は食わんよ。ここはセントルイスで、今、冬だ」
博士「何年だと思いますか」
スピリット「1910年」
博士「今日は、1918年1月13日です」
スピリット「俺は、女が泣くのを見るのが大嫌いなんだ。母さん、泣くのは止めてくれよ。女に泣かれるとムシャクシャするんだ」
博士「良心が痛むようなことはないのですか」
スピリット「他人のことで心を痛めて、どうなるっていうのかね」
博士「お母さんの言ってることをよく聞いてごらんなさい」
スピリット「母さん、言っとくけどね。子供の頃にボクにもっとお仕置きをしてくれて、わがままを許さないでくれたら、もう少しはマシな人間になっていたと思うよ。でも、もう遅いよ。この年齢になって心を入れ替えるなんて、出来ないよ。それに、心を入れ替えたからといって、どうなるというものでもないよ」
博士「人を許すという気持ちにならなかったら、これから先、もっともっと酷い目に遭いますよ」
スピリット「土牢に入れると言っていたが、構わんよ。母さん、ご覧の通り、ボクは立派な人間になったろう?さぞかし自慢だろうね?母さんの作品というわけさ」
博士「お母さんには、いかにも愛情ある人間のような口をきいてるけど、慈悲とか同情とかはカケラもないのですね、あなたには?」
スピリット「同情なんて言葉は嫌いだね。親父が言ってるー心を入れ替えないといけないとさ。もうこの年齢になっては手遅れだよ。(急に驚いて、何かに尻込みしている様子。多分土牢のビジョンを見せられているのであろう)どこかへ連れてってくれ!そいつだけはイヤだ!もう、うんざりだ!」
博士「もっと素直にならないといけません」
スピリット「おふくろが言ってるーこの俺の育て方が間違っていたとよ。(また土牢のビジョンを見せられて)あの土牢には入れないでくれ!リジーを許すから・・・・何でもするよ!もう生きてるのが嫌になったよ。何もかもうんざりだ」
博士「霊の世界へ行ったら、人のためになることをしないといけませんよ。人の迷惑になってはいけません。このご婦人に取り憑いて犯した数々の過ちの償いをするのです」
スピリット「あの女がこの俺をいじめたんだ。だから仕返しをしたまでさ。スリッパで顔をぶん殴ってやった。女どもに対する報復だよ。俺は女が憎いんだ」

 この調子で、この男はどうしても悟らせることが出来ないので、再び『土牢』へ連れて行かれた。自我に目覚め、人類に対する憎しみが晴れるまで、そこに閉じ込められることになるであろう。