●英国王も愛した人気女優
地上時代は、英国王エドワード七世もファンだったという人気女優のリリアン・Rが、ある日の交霊会でウィックランド夫人に乗り移った。死後のもうろうとした睡眠状態から抜け出られず、それを親戚や知人、友人などが入れ替わり立ち替わり、声をかけて目覚めさせようとしている様子を彷彿させる内容である。


 1922年7月7日
 スピリット=リリアン・R



博士「ようこそおいでくださいました。どちらから来られましたか」
スピリット「ここへ来るように言われてまいりましたが、何が何だか分かりません。自分の状態がとても変で、わけが分かりません。どこにいるのかも分かりません」
博士「今あなたはカリフォルニアのロサンゼルスにいらっしゃるんですよ」
スピリット「まさか!大勢の人からここへ来るように言われたのですが、なぜだか知りません。ここにいらっしゃる皆さんの中に私の知ってる方は見当たりません」
博士「私達が、お役に立てればと思いまして・・・・」
スピリット「何もして頂くことはございません。ただ、頭の中が混乱してまして・・・・」
博士「それは、あなたが今置かれている状態を理解なさっていないからですよ。今、どこにいらっしゃるつもりですか」
スピリット「それは、もちろん私の家ですよ」
博士「州はどちらだったのでしょうか」
スピリット「もちろん大半はニューヨークでしたよ。でも、時にはロンドン、その他の国々も訪れましたけど・・・・」
博士「どなたかお知り合いの方の姿は見えませんか。ここへお連れした方でもいいのですが・・・」
スピリット「おお、痛い!」(手足が痛むような仕草をする)
博士「何か事故にでも遭われましたか。旅行中のことでしょうか。最後に覚えてらっしゃることはどんなことでしょうか」
スピリット「とても病んでおりました。痛みがひどくて・・・」
博士「多分その病気が最後だったのでしょうね。急に良くなったのではないですか」
スピリット「いえ、永い間寝てたような感じがして、それが今なんとなく目が覚めていきつつあるような感じです。何もかも変なのです」
博士「ご自分が置かれている事情が理解できていないからですよ。その痛みは、今はもう感じる必要はないのです。『もう痛くはない!』と自分に言い聞かせてごらんなさい。さっと消えますよ。さ、おっしゃってごらんなさい」
スピリット「ええ、でも、なんだか言いにくくて・・・・。あなたはクリスチャン・サイエンスの方ですね?私も勉強してみましたが、痛みが心の影だなんて、とても信じられません」(クリスチャン・サイエンスは、信念で病気を治すことを説く宗教)
博士「今は地上とは事情が違うのです。まわりにどなたか知った方は見えませんか」
スピリット「見えます。とっくに亡くなったはずの親友の姿が、たくさん見えることがあります。それで、あたしの頭がどうかしてるんだと思うわけです。まわりに集まって、誰かが『目を覚ましなさい!』と言うんですが、はっきり見えないのです。見たいとも思いません」
博士「はっきりとしないのは、理解しようとしないその心構えが邪魔するからですよ。地上で一緒に仕事をしていた頃は、その方達が怖かったのでしょうか」
スピリット「そんなことはありません」
博士「じゃ、なぜ怖がるのですか。お互いに肉体を棄てただけじゃないですか」
スピリット「怖いのです。びくっとするのです。そばに来て欲しくないのです。なぜ、一番の仲良しが来てくれないのでしょうか」
博士「地上時代のお友達から見れば、あなたは死んだ人間なのです。そして、既に死んだお友達から見れば、あなたは死んでいないのです」
スピリット「私は病気になっておりました。でも、死んだという記憶はありません。眠りについたのは知ってますが、そのまま目覚めることが出来なかったという記憶はありません。お友達が何人かやってきて、一緒においでと声をかけてくれました」
博士「なぜ、みんなが『目を覚ましなさい』と言うのか、分かりますか。霊界のお友達にとっては、あなたはまだ居眠りをしている状態だからです」
スピリット「なぜ呼んでくれるのでしょうか」
博士「悟らせてあげようとしているのですよ」
スピリット「あなたはどなたですか。私は存じ上げませんが・・・」
博士「私は、ドクター・ウィックランドと申します。あなたをここへお連れしたのはどなたですか」
スピリット「アンナ・Hがいらっしゃいと言うものですから・・・・」(地上時代の女優仲間)
博士「その方も今のあなたと同じように、ここでお話をしてくださいましたよ」
スピリット「彼女も私のところへ来てくれましたが、あの方はもう死んでしまったはずです」
博士「死んでなんかいません。いいですか、私達には今あなたの姿は見えていないのですよ。あなたの喋っている言葉が聞こえてるだけなのです。そして、あなたも実は、本当の私を見ておられるのではなく、私の身体を見ているだけなのです。精神体は見えないものなのです。その精神体は決して死なないのです」
スピリット「大勢の人がやってきて、しっかり目を覚まして、また一緒に仕事をしましょうよと言ってくれます」
博士「よろしかったら、お名前をおっしゃってください」
スピリット「私をご存知でなかったのですか。私は女優でした。リリアン・Rの名で知られておりました。死んでなんかいません。ウィリアム・ステッドが会いに来てくれました。エドワード七世もおいでになられました。私のファンでしたの。私がなぜこんなところに来たのか分かりません。あなたが私を目覚めさせてくださると、みんなが言ってますけど・・・・」
  ーウィリアム・ステッドは、生前から霊魂説を信じてスピリチュアリズムの普及に貢献し、死後も霊界通信を送ってきている。
博士「ここに集まっている者は、人生の悩み事に関心をもっていて、特に『死者はどうなるのか』という問題と取り組んでいるのです」
スピリット「私も少しは勉強しました。でも、心霊現象はよく分かりませんでした。そんなことを勉強するよりも女優としての仕事の方が忙しくて・・・でも、私なりに信じた生き方をしていました。とても疲れました。眠いです」
博士「病気は何だったのですか」
スピリット「それが、みんな色々と言ってくれるものですから、自分でも分からなくなりました。ここから下がひどく痛みました(膝から下をさする)。しばらく意識を失っていたようです。はっきり思い出せないのです。記憶を失ったようでもあります。昔のことになると、まったく思い出せません。人間が変わってしまったみたいです。将来に何の楽しみもなくなったみたいです。といって、不幸というのではありません。幸福でもありませんけどね・・・」
博士「私が事情を説明してあげましょう。少しも心配なさることはないのですよ」
スピリット「お友達がやってきてくれるのですが、関わり合わないようにしています。『おいでよ』と言ってくれるのですが、『ダメ、ダメ!あたしはまだ死ぬわけにはいかないわ。死にたくないの』と言い返しています」
博士「あなたはもう死んじゃってるんですよ。そのことが分かっていらっしゃらないから、お友達が教えに来てくれてるのに、あなたはそれが理解できない。
 今、ご自分がどこにいるのかご存知ですか。今、あなたが使っておられる身体は、私の妻のものなのです。妻は眠っています。あなたは、ご自分の身体で喋っているのではないのですよ」
スピリット「(既に他界している友達に気づいて)ジョン・J・Aが来ました」
博士「この婦人は、霊媒なのです。私の妻でして、スピリットに身体をお貸しして話をして頂き、事情を理解して頂いております。ジョンもステッド氏もアンナも、あなたに理解させてあげることが出来なかったみたいですね」
スピリット「あの方達が怖かったのです」
博士「ここはあなたのような状況に置かれている方に実情を知って頂くところです。あなたはスピリットになっておられて、今、他人の身体を使っておられるのです。私達は自分の身体をもっていますから、こうしてあなたと話が出来るわけです。あなたはご自分の身体をなくしてしまい、今は霊的身体をおもちです。死後はいったん眠りの状態に入り、今、そこから目覚めつつあるところです」
スピリット「確かに電気ショックのようなものを与えられて目が覚めたのですが、まだボンヤリしています。人の顔がいっぱい見えます。知っている人ばかりですが、みんな、もう死んでいるはずです。周りに来て話しかけてくれるのですが、耳を貸さないようにしています」
博士「それがいけないのですよ」
スピリット「スピリットというのは生きているのでしょうか」
博士「生きてますとも!ここにいる私達は生身の人間ですが、あなたに見えている方達は、みなスピリットなのです」
スピリット「でも、あなた達と同じように現実味がありますけど・・・・」
博士「私達よりもっと現実味があるくらいですよ。肉体の束縛がないのですから・・・・。私達こそ、夢うつつの状態にあると言ってもいいのです」
スピリット「今こうして体調がいいのは夢を見ているからで、目が覚めたらまた痛くなるのではないかと不安なのです」
博士「ここを出て行く時は、大勢のお友達と一緒ですよ」
スピリット「私もご一緒できるということでしょうか」
博士「あなたのその『怖がる』気持ちさえ取り除けば、いつでも行けます」
スピリット「誰かが来ました。また一人来ました。私においでと言ってます」
博士「ロングフェローの詩をご存知でしょう?
   生命こそ実在!生命こそ厳粛!
   墓場は終着点にあらず。
   塵なれば塵に帰るべしとは、
   魂について言いしにあらず。」
スビリット「とても美しいものが見えてきました!なんて美しいのでしょう!夢としか思えません」
博士「スピリットの世界の美しさを、ちょっぴり見せてくださってるのですよ」
スピリット「あの丘の上の美しい家を見てください!」あの素敵な歩道、美しい湖や丘、一面に咲いているあの素敵な花々。美しいじゃありませんか。私もあそこへ行けるのでしょうか 」
博士「あなたの心にある拒絶心や、反抗心さえなくなれば行けますよ」
スピリット「私は女優でしたが、心の中では神を信じていましたし、今でも信じています。教会は女優という職業を軽蔑しますが、私は私なりに世のために尽くしてきたつもりです。世の中を楽しくするために、私達なりに出来ることをお見せしたいと思っていました」
博士「新しい世界でも同じことが出来ますよ」
スピリット「クリスチャンではないと言われれば、それはそうかも知れません。でも、私なりに立派な人間でありたい、人のために良いことをしたい、と願ってきました。それが私の信念でした。時たま教会に出席したことはあります。でも、あの雰囲気には、なぜか溶け込めませんでした」
博士「それは、教会には霊性がないからですよ」
スピリット「あのたくさんの光を見て!美しいじゃありませんか!光が合唱しています。いろんな色合いに変化しながらビブラートしています。色彩が奇麗です。
 あそこへ行ったら、これまでに出来なかったことをするつもりです。人さまに楽しい思いをさせてあげるだけではダメだと、何度も思ったものです。人生にはもっと大きな目的がなくてはならないと信じてました。でも、自分の心にだけは忠実に生きてきたつもりです。
 まあ、素敵!なんて美しいのでしょう!あそこが天国なのでしょうか」
博士「そうです。でも、キリスト教で言う『天国』とは違いますよ。地球を取り巻いているスピリットの世界です。イエスも『スピリット』と『スピリットの世界』の存在を説いているでしょう?パウロも『物的身体と霊的身体とがある』と言っています」
スピリット「アンナが言っていますー今の彼女は、私が知っているかつての彼女とは違う人ですって。今の本当の彼女を、私は知らないそうです。今は不幸な人達を救う仕事をしているのだそうです。何度もこの私を目覚めさせようとしてくれたそうです。皆さん方は、ここでどういうことをなさっておられるのですか」
博士「ここはですね、人間が死んだ後どうなるかについての知識を得るために、色々と調査をするところなのです。同時に、死んだあと迷っておられる人達に、霊的な悟りを得て頂くところでもあります。
 今あなたが使っておられるのは、私の妻の身体なのです。妻は霊媒と言いまして、身体と脳をスピリットにお貸しすることが出来るのです。それで、こうして私と直接お話をして、今あなたがどういう状態にあるのかを得心して頂くことが出来るわけです。あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのですよ。(霊媒の手を持ち上げて)これはあなたの手ではないでしょ?」
スピリット「違います。妙ですね」
博士「そうした事実について人間が知らなさ過ぎることの方が、もっと妙ですよ」
スピリット「教会はそういうことを教えていませんね」
博士「教会は信仰を押し付けるだけで、死後の生命についての知識を付け加えてくれません。本当はそれが一番必要なのです。
 バイブルも、信仰に知識を加えなさい、と言っております。イエスは『真理を知りなさい。そうすれば、その真理があなたを自由にしてくれるでしょう』と説いています。もしもあなたが、こうした霊的な事実を知っていたら、目覚めた時に迎えに来てくれたスピリットのお友達の言うことを、素直に聞いていたはずです」
スピリット「あんなに美しいところなら、ぜひ行ってみたいです。すっかり元気になったら、地上でやりたかったことが、こちらでも出来るんだそうですね。お友達がそう言ってます。でも、私をどう看病するつもりでしょうね?こんなに衰弱しているのに・・・・」
博士「その身体を離れた時は、今思っておられるほど衰弱はしてませんよ。『人間は心で思っている通りの人間になる
』ということわざがあります。ここを去ったら、大勢の人達に温かく迎えられて、素敵なお家に案内されます。何もかも新しい霊界の事情にわくわくして、弱々しくしている暇なんかありませんよ」
スピリット「もう一度眠りに入るのでしょうか」
博士「あなたは、病気で痛みに苦しんでおられた時に、おそらく麻酔薬を投与されていたはずです。その後遺症で意識がはっきりしなかったのかも知れません。でも、もう大丈夫です」
スピリット「ありがとうございます。あ、みんなが呼んでいます。行ってみたい気持ちになってきました。いろいろお世話になりました。これで事情が分かってきました。お友達のところへ行けることにもなりました。あのままでしたら、またドアを閉めて、一人、暗がりの中で暮らすところでした。あんな奇麗なところに行けるなんて、本当にありがとうございました。私は、結局、自分の意識の暗闇の中にいたわけですね。
 みんながしきりに私を呼んでいます。霊界の私の家に案内してくれるのだそうです。何か、ぜひ伝えてほしいことがあるそうです。元気が出なくて、全部お伝えできるかどうか分かりませんが、ある紳士の方がこう言っておられますー
『自分は地上ではエドワード王だったが、今はただの人になった。母は女王(ビクトリア)だったが、今はもう女王ではなく、地上にいた時よりも人のために役立つことをさせられている。母は生前から心霊現象に興味があり、スピリットが地上に帰ってくることも知っていた(バッキンガム宮殿に霊媒を呼んで、交霊会を催したこともある)。が、人間としての義務を怠り、生涯、何もかも人に世話をさせた。好きなことも出来なかったが、責任を取るということもしなかった。今、母は人のための仕事で奔走している。私も同じで、生命の実相を知るまでは、人の為に働かされます』
 以上が、その紳士からのメッセージです。多分、地上の人達が自分のことを今でも王と思っているだろうと思い、そう言いに来たようです。こちらでは、ただの一人間にすぎません。他の人達と同じように、仕事がしたいのだそうです。もう、貴族でも王家の血筋でもありません。
 わぁ、友達が大勢やってきて、握手を求めています。一つの大きな家族みたいです。
 では、そろそろお別れしたいのですが、どうやってこの身体を離れたらいいのでしょうか」
博士「『思いこそ自然界の問題の解決者なり』と申します。お友達のところへ行ったつもりになってごらんなさい。それだけで行けます。思念の焦点を、こちらからあちらへと移すのです。『自分は実際にあそこにいる』と念じてごらんなさい」
スピリット「ここへ来て、魂に目覚める機会をお与えくださって、心からお礼を申し上げたいと思います。これで、あの方達のところへ行けます」