博士「それが大ありなのですよ。色々なものに触れて心が開かれていれば、今あなたは、目に見えない愛とか精神といったものの不思議がお分かりになるはずなのです」
スピリット「あの悪魔のような神が、私の妻を愛したとでもおっしゃりたいのですか」
博士「それは愛の問題ではありません。獣性の問題ですよ。人間にもそういうものが潜んでいるということです。あなたが人間精神に宿されている素晴らしい能力を駆使しなかったところに、そうなる原因があったのです。理性を使用せずに教会を盲信したのがいけなかったのです。
 今のあなたの姿は、私達には見えていないのですよ。あなたは今、私の妻の身体を一時的に使用しているのです。このサークルの者は、肉体の死後もそのことに気づかずに迷っている人達をここにお連れして、スピリットになっていることをお教えする仕事を続けているのです。あなたも高級霊の方達によって、ここへ連れて来られたのです。真実の身の上を知って頂く為です。
 あなたにも、これからスピリットの世界へ行って向上するチャンスが待ち受けております。が、そのためにはまず、その『憎しみ』の情を捨てて頂かねばなりません。もう肉体を失ってしまったのです。
 ところで、今年が何年だかお分かりですか。1921年で、今あなたはカリフォルニアにしらっしゃるのですよ」
スピリット「どうやってここへ来たのでしょう?私はカリフォルニアに来たことは一度もありませんが・・・」
博士「スピリットの動きは速いでしょう?さっきあなたは仲間も一緒に来ているとおっしゃってましたね。その方達も、私達には姿が見えないのです。あなたの姿も見えません。そのあなたが今、私の妻の身体を使っておられる。生命がいかに素晴らしいものであるかがお分かりになりませんか」
スピリット「そういうことをなぜ、教会は教えてくれないのでしょうか」
博士「それはですね、真理は人間がこしらえるものではないからです。教会は勝手なことを教えています。が、一方には生命の実相というものが厳として存在します。そのどちらを取るかは、あなたの自主選択に任されているのです。
 教会は、人間がこしらえたものです。神は霊的存在であり、従って霊と真理の中にこそ、神を崇めるべきなのです。霊と真理の中に、です。誰しも死後の生命に憧れます。しかし、憧れるだけでは知識は授かりません。神は霊であり、目に見えない知的存在です。それが宇宙のあらゆる驚異的現象となって顕現しているのです」
スピリット「ここに来ている仲間達も、私と同じく挫折感を味わった者達ですが、それぞれに事情は異なります。時折、お互いに過去の体験を持ち出して語り合うことがあります。それぞれに悩みがあるのです」
博士「それを神のせいにするのは間違いです。宇宙は神の聖殿です。我々の魂は、その顕現です。宇宙の不思議さに目を向けないといけません。あなたの仲間もここへ来ていらっしゃるそうですが、私達にはその姿は見えていないのです。不思議だとは思いませんか」
スピリット「みんな、本当に悩みから救ってもらえるのかと言っています」
博士「お救いしますとも。生命は素晴らしいものであることを、彼らに言ってあげてください。見回してごらんなさい。救いに来てくださっている高級霊の方達の姿が見えるはずですよ」
スピリット「私を入れて仲間は六人です。みんな悩みと挫折感を抱いています。が、そうなるまでの経緯は、それぞれに違います」
博士「皆さんに伝えてあげてくださいーそんな惨めな状態のままでいる必要なんかどこにもないのです、と」
スピリット「我々の仲間には『笑い馬鹿』と呼んでいるグループ、『呪い馬鹿』と呼んでいるグループ、『罵り馬鹿』と呼んでいるグループ、それに『歌い馬鹿』と呼んでいるグループなどがあるんです。『歌い馬鹿』のグループは、朝から晩まで歌と祈りの連続です。もう、それはそれは、聞いていてうんざりですよ」
博士「バイブルに『人は心に思う通りの人間になる』とあります。狂信家は始末に負えません。盲信に理解が添えられないのです。才能は授かっているのです。それを使用していないだけのことです。それでも神のせいになさいますか」
スピリット「ここしばらく何も仕事をしておりません。みんな何も食べないことがります。永いこと食べずにいると、必要でなくなるみたいですね」
博士「スピリットに食事は必要がないのです」
スピリット「でも、飢えは感じます。すごく感じます」
博士「それは霊的に飢えているのです」
スピリット「何かに飢えているのです。が、何に飢えているのかが、自分で分からないのです。みんなそれを知りたがっているのです。魂が叫び求めているものがあるのです。が、それが何なのかが分からないのです。祈るのは、みんなもうご免なのです。私にいたっては、祈れなくなっています。かつて信仰をもち、毎日祈りました。ところが、このザマです」
博士「神は、皆さんの一人一人に理性的能力を授けてくださっております」
スピリット「我々の力になって頂けますか。みんな安らぎに飢えているのです。見えるのは、過去の嫌なことばかりです。みんなもう少しマシなものを求めております。私の目に映るのは、あの身を持ち崩した妻の姿だけです」
博士「奥さんは身体が病んでいただけです。魂まで病んではおられません」
スピリット「久しぶりで会った時は、互いに泣きましたよ」
博士「真理を悟られた暁には、皆さんは人助けで大変な仕事をなさいますよ。まわりに集まっている霊界のお知り合いの方の言うことを素直に聞いてください。
 皆さん、しばらくの間、静かに瞑想してください。思いも寄らないものが見えてきますよ」
スピリット「妻は、どうでしょうか。ユリの花のように純粋な女だったのですが・・・・。今も愛しております」
博士「愛はまだまだ続いてますとも。我々は自分で自分を見出していかねばならないのです。無知から脱け出るごとに、この世とスピリットの世界について、より高度なものが見えるようになるのです。もしも完全であれば、その有り難さは分かりません。
 あなた方は『地獄』を見てこられた。だから『天国』の素晴らしさが分かるのです。そこで、不幸な人を救ってあげなくては、という気持ちが強烈となるのです。皆さんは、より高いものへ向けて心を開かないといけません」
スピリット「妻への愛は消えておりません。(仲間に向かって)こら、みんな、まだ行っちゃダメだ!もう少し待ちなさい」
博士「バイブルにもあるじゃないですかー『求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。叩けよ、さらば開かれん』と」
スピリット「(深く感じ入り、敬虔な口調で)もしも神様がましますならば、なにとぞ救い給え!哀れな私の妻を救い給え!私達は互いに愛し合っておりました。ああ、神よ!我々のすべてを救い給え!みんな魂が飢えております」
博士「神の使いの方が救ってくださいます。喜んで救いの手を差しのべてくださる高級霊の姿が、もうすぐ見えるようになります」
スピリット「神よ、なにとぞ我らを救い給え!」
博士「まわりをよくご覧になってください。スピリットの姿が見えるはずですよ」
スピリット「あれは、息子のチャーリーだ。チャーリー!お前じゃないか!ずいぶん前に死んだはずだが、間違いなくチャーリーだ。父さんを助けに来てくれたのかい?父さんは地獄の苦しみを味わってきたよ。が、父さんよりも母さんの方を救ってやってくれ!かわいそうだよ、母さんは!(息子が現在の本当の姿を見せたのに驚いて)おや、チャーリーだろう?すっかり大人になって!このつまらん父さんを許してくれるかい?父さんも立派な人間になろうと、一生懸命努力したつもりなんだよ。
 神よ、どうか私の目を開かせ給え!神よ、なにとぞ救い給え!(霊界の美しい映像を見せられたらしく、息を呑んだ声で)おお、神の栄光だ!みんな、チャーリーについて行こう!(さらに驚いた様子で)お前は!クララじゃないか!君もいたのか?クララ、おいで。昔のことはもういい。許すよ。君が悪いんじゃない!悪魔のせいだ。悪魔がお前を私から奪ったんだ!今も愛してる。ずっと忘れていないよ。おいで、クララ、一緒に行こう。チャーリーと一緒に行こう。あの子も許してくれるよ」
博士「チャーリーは何と言ってますか」
 スピリット「『僕の霊界の家においで。すべてが素晴らしくて、父さんも幸せになれるよ。父さんが人生を呪ったのも、悲しみと苦しみが大きすぎたからだよ』と言ってくれています」
博士「目の前に素晴らしいものが待ち構えているのが、お分かりになりましたか」
スピリット「あれが天国なのでしょうか。おや、あれをご覧よ、母と妹のエマだ!こんなところにいたんですか、二人は?私とクララのことは許して頂けますか、母さん?母さんはきっと天国に召されたと思ってましたよ。優しかったもの」
博士「これまでのあなたの人生より、はるかに素晴らしいものがあることが分かったでしょう?」
スピリット「分かりました。神はましますのですねえ。今やっと本当に神の存在が信じられます。神の栄光を見せて頂きました。この目で見て、この身体で実感しました」
博士「すっかり悟られた後は、仲間の方達を救ってあげないといけませんね」
スピリット「みんな私について来ますよ。来てほしいです。ほっとくわけにはいきませから。お世話になりました。
 さ、みんな、ついて来るんだ!それぞれにあだ名があるんですよ。本当の名前じゃないんです。神を憎み、何もかも笑い飛ばすものですから『笑い馬鹿』なんて呼ばれています。過ぎた日のことばかり喋ってました。
 これでやっと神を見出すことが出来ました。神の栄光と、幸せと、スピリットの世界を見出しました。もう、信じるなんてものではありません。身に沁みて、その存在を悟りました。父も、母も、妹も、みんな来てくれています。さ、みんな、行くんだ。この方のおっしゃったことを、みんな聞いたろ?
 あなたこそ、我々の救い主です。暗闇の中から救い出してくださり、光輝を見せてくださったのですから。私一人でなく、仲間全員が目を開かれて、神の栄光を見せて頂いたのです。憎しみと怨みの神ではございません」
博士「私の妻にも感謝しないといけませんね。妻が身体を犠牲にしてくれたからこそ救われたのですから」
スピリット「ご恩は決して忘れません。永い間、本当に永い間味わったことのない幸福感を味わわせてくださいました。1921年だとおっしゃってましたが、本当ですか。私は1882年のつもりでいました」
博士「お名前を言って頂けませんか」
スピリット「名前ですか?いいですよ。マローリーと申します。みんな『笑い馬鹿』などと呼んでくれてますけどね。
 それにしても、こんなわがままな私を、よくぞ辛抱してくださいました。ここへ来たばかりの時は、憎しみの気持ちで一杯でしたが、今はもうすっかり消えました。あなたは私の本当の救い主です。あの暗い境涯からこんなに美しい場所へと連れ出してくださったのですから。クララ、あなたも来なさい、もう大丈夫だよ」
博士「これであなたも、存在価値のある霊となられましたね。過去を忘れて、神を見出すのです」
スピリット「前回会った時は、クララは病に冒され、モルヒネを打ち続けておりました・・・。クララ、おいで、もうあの時のことは忘れてるよ。ほら、チャーリーも一緒だよ。
 クララは大丈夫ですかね?まだ目まいがするようです」
博士「アヘンの後遺症が残ってるのでしょう。あなたの愛ひとつにかかってますよ」
スピリット「妻だけは憎めなかった。純粋な心の持ち主でしたからね。クララ、目を覚ますんだ!君はもう死んでるのだよ。過去を忘れて、新しい生活を始めなきゃ!
 あなたにはお礼の言いようもございません。幸せをもたらしてくださり、私の心の中に神を見出させてくださいました。たしかに私は、本当の神を知りませんでした。あなたは、大自然の中にも神を見出させてくださいました。ごらんなさい、あの美しい花々・・・・。あそこが天国なのでしょうか」
博士「霊界ですよ」
スピリット「これで、愛する人達といつも一緒にいられます。では、まいります。さようなら」