博士「だったら、今だって嘘をつくはずはないでしょう?」
スピリット「俺を随分探したけど、どうしても居場所が分からなかったと言ってる」
博士「妹さんは今までどこにいたんでしょうね?」
スピリット「あいつはもう死んでるんだ。俺はあいつの葬式に出たから間違いないよ。生き埋めにされたのではないことは確かだ」
博士「あなたが出席したのは妹さんの肉体の埋葬式で、霊魂は埋葬されてはいませんよ」
スピリット「じゃあ、あれは妹のゴーストというわけ?」
博士「妹さんはしっかりしたスピリットになっておられるはずですよ。そのあたりのことは私から言うよりも、妹さん自身から聞いてごらんなさいよ」
スピリット「『一緒に行きましょう、あの大勢の人達もお連れしましょうよ』と言ってる。今は使節団の一人になって、救える人なら誰でも救ってあげてるらしい。不幸な人達を救ってあげてるんだそうな。俺もその一人ってわけだな?」
博士「例のおしゃべりの女性にも一緒に行くように言ってあげてください」
スピリット「出てしまうと身体がなくなってしまうと言ってるよ」
博士「こう言ってあげてくださいー肉体の代わりに霊体というのがあり、もう肉体はいらないのだと。そして、一緒についてくれば幸せになる方法を教えてくれる人がいるということもね。例のいたずら小僧達も連れてってくださいよ」
スピリット「全部は無理だよ。第一、みんなついてくる気になるかどうかも分からんしね」
博士「今よりも幸せになれることを実際に示してあげれば、ついていく気になるでしょう。多分あの人達は、生涯に一度も幸せになれるチャンスがなかったのでしょうからね」
スピリット「俺だってこんなことは思いもよらなかったことさ」
博士「ですから、全面的に彼らを咎めるつもりはありませんよ。もっともっと幸せになる生き方があることを教えてあげれば、みんなついてきますよ」
スピリット「では、一体ここはどこですか」
博士「カリフォルニアです」
スピリット「カリフォルニアのどこですか」
博士「ロサンゼルスです」
スピリット「あんたがロサンゼルスにいるからといって、俺もロサンゼルスにいるとは限らないだろう?」
博士「今ここにいるのに、他のどこに存在できるのですか」
スピリット「それも一理あるな。テキサスのダラスにいたことまでは覚えてるよ。たしか馬に蹄鉄を打ってた時に後頭部をぶたれたんだ。奴は俺を殺したってわけか?」
博士「殺したというか・・・・要するに、あなたを肉体から離れさせたわけです。死んで消えてしまう人はいません。さ、早く行かないと妹さんが待ちくたびれますよ」
スピリット「行けるものなら今すぐ行ってもいいが、歩いて行かなきゃならないじゃないか」
博士「歩いて行く?私の妻に宿ったまま?あなたに是非新しいことを勉強してほしいですね。妹さんと一緒にいる、と念じるだけでいいのです。次の瞬間には妹さんのところへ行ってますよ。思念で進むのです」
スピリット「へえ、そいつぁいいなあ」
博士「さあ、これ以上その身体に留まっていてはいけません」
スピリット「面白い言い方をしましたな」
博士「私の妻の身体ですからね」
スピリット「この身体から出たあとは、どんな身体を使うのかね?」
博士「霊体ですよ。私達の肉眼には見えないのです」
スピリット「この身体から飛び出して、うまくその霊体に入れるのかね?」
博士「妹さんが教えてくれますよ。妹さんと一緒にいると、念じるだけでいいのです。肉体はいらないのです」
スピリット「なんとなく眠気をもよおしてきたな」
博士「妹さんについていって、色々教わりなさい。スピリットの世界について新しいことを色々教えてくれますよ。例の仲間の人達も連れてってやりなさい」
スピリット「(仲間に向かって)おい、お前達、俺についてくるんだ。みんなだぞ」
博士「ついてきそうですか」
スピリット「大丈夫です。さ、お前達、ついてくるんだ!では、さようなら」

 その後の招霊会に『ハリー』という名のスピリットが出現して、バートン夫人を悩ませているもう一人の憑依霊について、興味深い話をしてくれた。

博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「今どこにいるのかも分からんのです。自分がどうなっているのかも分からんのです」
博士「事情を知りたいのですか」
スピリット「何がどうなっているのかが分からんのです」
博士「何かあったのでしょう?」
スピリット「それを知りたいくらいです」
博士「最近は何をしてましたか」
スピリット「分かりません」
博士「お名前を教えて下さい。名前くらいご存知でしょう?」
スピリット「そりゃ、まあーええと、知ってると思うんだけど・・・・」
博士「ここはどこだと思いますか」
スピリット「知りません」
博士「いえ、ご存知のはずです」
スピリット「知りません。何もかもが変で、何がどうなってるのか、さっぱり分かりません」
博士「振り返ってごらんになって、何か思い当たることがありませんか」
スピリット「振り返るったって、背中に目がついてないもんで・・・・」
博士「思い出してみなさいという意味です」
スピリット「背中のことをですか」
博士「いいえ、過去のことをです。考える力を働かせてごらんなさいよ」
スピリット「何も分かりません」
博士「そんなに考え不精では困りますね」
スピリット「人間に何が出来るんでしょうね?」
博士「この肉体は女性ですが、あなたは男性ですか女性ですか」
スピリット「男性ですよ。あの人も男性で、他の人達は女性です。私はずっと男性です。女性になったことなんか一度もありません。これからもなりません。私は男ですとも」
博士「その手をごらんなさい。そんな手をどこで仕入れられましたか?」
スピリット「これは私の手じゃない」
博士「足をご覧になってください」
スピリット「これも私のものではない。私は女になったことなんかない。手も足も女のものはご免だ。他人の身体なんか借りたくないね」
博士「年配の方でしょうか」
スピリット「ガキじゃないよ」
博士「年齢はどうやらおありのようですが、知識がないようですな」
スピリット「ないね。大した知識があるとは思ってない」
博士「知識がおありであれば、こんなことにはならなかったでしょうからね」
スピリット「それとこれとは別だ」
博士「あなたに一番欠けているのは知識なのです。お名前を教えて下さい。メアリーでしたかね」
スピリット「メアリーなんて名の男がいるもんですか。滑稽な」
博士「だから教えてくださいよ、お名前を。私は当てずっぽうを言うしかないのですから・・・・」
スピリット「男ですよ。男の名前ですよ。女じゃないよ」
博士「さ、自己紹介を」
スピリット「一体何の為に名前を言わなきゃいけないのですか」
博士「口は達者のようですね。髪の毛は白髪でしたか」(ウィックランド夫人は白髪)
スピリット「白髪でした」
博士「カールしてましたか。その髪はカールしていますが・・・・」
スピリット「そんなはずはない。カールした髪は嫌いなんだ」
博士「クシをさしておられたのですか」
スピリット「髪にクシをさした男なんて聞いたことがない」
博士「その結婚指輪はどこで手に入れられましたか」
スピリット「盗んで来たみたいな言い方をしないでほしいね。俺の手は女じゃないんだ」
博士「ジョン、生まれはどこですか」
スピリット「俺はジョンじゃない」
博士「奥さんはあなたのことを何と呼んでましたか。お母さんはあなたをどう呼んでましたか」
スピリット「母はハリーと呼んでたな。結婚はしていない」
博士「姓は?」
スピリット「女ばっかりいるところで名前を言う必要はないだろう」
博士「男性も少しはいますよ」
スピリット「一体何故、こんな女ばっかりのところに連れて来るんだ?」
博士「失恋なさったようですね?」
スピリット「そんなことを女どもに言うほど馬鹿じゃないよ」
博士「彼女はなぜもう一人の方を選んだのでしょうね?」
スピリット「彼女って誰のことだ?」
博士「あなたを捨てた女性ですよ」
スピリット「違う、そんなんじゃない!」
博士「失恋なさったんじゃないのですか」
スピリット「違う!」
 博士「じゃあ、なぜそんなに女性を嫌うんですか」
スピリット「こんなに大勢の女の前で秘密が言えるもんか。笑われるのがオチだよ。一体なぜ、この女達が俺をジロジロ見てるのかが知りたいね。あそこにいるあの男、あいつはどうしたんですか。あの婦人(バートン夫人)の後ろにいるあの男のことだよ」
バートン夫人「あたしは男嫌いでしてね。男には近づかせませんよ」
スピリット「なぜあの男は彼女のそばにいるのかな。彼女の旦那かな?奥さん、あの男はなぜあんたにつきまとってるんです?あんたがどうかしたんですか。よっぽど彼氏のことが好きで、それで彼があんたから離れられないんでしょうかね?」
博士「死んでどれくらいになるのか、その男に聞いてみてください」
スピリット「嫌な奴だね。俺はおっかないよ。今にも喧嘩をふっかけられそうだ」
博士「死んでどれくらいになるのか、聞いてみてください」
スピリット「死んで?彼女にぴったりくっついていて、彼女が動くと彼も動いてる。まるで猿まわしだ」
バートン夫人「彼も一緒に連れてってくれませんか」
スピリット「なぜこの俺が?俺はあんな男は知りませんよ。奥さん、あの人が好きなんじゃないですか」
バートン夫人「とんでもない。うんざりしてるんですよ」
スピリット「一体どうなってるのかな?あんたの旦那さんですか」
バートン夫人「違います。なぜつきまとうのか、あたしにも分からないのです」
スピリット「あんたは彼のこと好きなんですか」
バートン夫人「とんでもない!逃げ出したいくらいですよ」
スピリット「ここは一体どこですか」
博士「カリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「彼女にはもう一人、女もつきまとってるな。ぴったりくっついてる」
バートン夫人「あなたに力になって頂きたいのです。その人達をみんな連れ出して頂きたいの」
スピリット「つきまとってるあの男、あんた好きなの?」
バートン夫人「とんでもない!逃げようと思って必死なのよ。ドアは大きく開けてあるから、いつでも出て行けるわ」
スピリット「冗談じゃない、ドアは閉めといた方がいいよ。あんなのにつきまとわれるのはご免こうむるよ。警察を呼んだらどう?嫌な奴だと思うのなら、警察に連れ出してもらうんだな」
博士「みんなスピリットなのです」
スピリット「スピリット?」
博士「そうです。あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「へえ、あの女の後ろに立っている男、あれがゴーストだって言うつもり?」
博士「見えますか」
スピリット「あいつはスピリットなんかじゃない、立派な人間だ。ちゃんと立ってるもの」 
博士「彼もスピリットなんだけど、そのことが悟れずにいるのです。彼女には彼の姿が見えないし、我々にも見えません」
スピリット「ここは、一体どういうところなんです?」
博士「あなたも、我々には見えてないのです」
スピリット「見えてない?声は聞こえますか」
博士「声は聞こえますが、姿は見えません」
スピリット「目が開いているのに見えない人の集まりというわけか。俺には全部見えるんだが・・・。この部屋は人でいっぱいだ」
博士「声が聞こえるといっても、女性の口を通して聞こえてるだけですよ」
スピリット「冗談はよしてくれ。俺が女の口で喋ってるだって?とんでもない!ただ、今の自分が一体どうなってるのかが分からんのです。なぜこんなところにいなきゃならないのかが分からんのです。あんた達からジロジロ見られてるし、他にも大勢の者が立って見つめている。あいつらも話は出来るのかね?」
博士「説明しますから、よく理解してくださいよ。まず第一に、あなたは、いわゆる死んだ人間なのです」
スピリット「この俺が死んだ人間?こりゃ、いいや」
博士「あなた自身が死んだわけではありません」
スピリット「でも、今、俺のことを死んだ人間と言ったじゃないか」 
博士 「家族の者や知人にとっては死んだ人間となってしまったということです。でも、今度は霊体があります。あなたにはちゃんと自分という意識がある。そして、霊体をもっておられる。その辺の事情がまだお分かりになれないだけなのです」
スピリット「随分歩き回ったことは覚えてる。どこまで歩いても行き着くことがない。それが今は、こうして大勢の人間の前にいる。知らないうちに明るいところへ来ていた。気がついたら、みんなが輪になって祈っている。それで足を止めた。そして、いつの間にか喋り始めていた。それまでは何も見えず、疲れ果てていたのに・・・・」
博士「今あなたに見えている人達のほとんどが、あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「何のためにこんなところへ?」
博士「あなたの身の上を理解して頂くためです。あなたは今、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたが私の妻だというのではありません。私の妻の身体に宿っておられるのです。あなたにはとんでもないことに思えるでしょうけど、でも事実なのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。私の妻の口を使って喋っているのです。先ほどあなたが気にしていた男の人も、スピリットなのです。あなたが行かれる時に、一緒に連れてってあげてください。あの人も私達には姿は見えてないのです」
スピリット「叩きのめしてやりたいね、奴を」
博士「バイブルはお読みになったことがありますか」
スピリット「ああ、あるとも、ずっと昔ね。もう、随分永いことお目にかかってないけどね」
博士「イエスが、取り憑いていた悪霊を追い出した話を覚えていらっしゃいますか。その男もこの女性(バートン夫人)に取り憑いているのです」
スピリット「他にも何人かいますよ」
バートン夫人「もう誰も入れないようにしてますからね」
スピリット「厳重に戸締まりをしてくれれば、俺があいつらを連れてってあげるよ。だけどあいつだけは、叩きのめしてやりたいね。おい、名前は何て言うんだ?」
博士「何て言ってます?」
スピリット「ジム・マクドナルドだそうです。奥さん、そんな名前の人間を知ってますか。あいつがスピリットなら、なぜ嫌われている女につきまとうのかな?」
博士「あなたと同じように、あのスピリットもここへ連れてこられたのですよ。あなたも、明かりが見えて、気がついたらここへ来ていたわけでしょう?」
スピリット「暗がりを歩いているうちに、あの婦人が見えたと言ってます。俺もこのままずっと、ここにいなきゃなりませんか」
患者の一人「私の周りにいるスピリットの名前を聞いてくださらない?」
スピリット「二人いるね。時々喧嘩してる。今も喧嘩してるよ」
患者の一人「私も喧嘩するのよ」
博士「腕ずくで喧嘩してはいけませんよ。スピリットにエネルギーと磁場をやることになりますから。心の中で喧嘩するのです。それよりも、いい加減あなたもおしまいにしては?」
スピリット「この俺にできることなら、あの人達を連れてってもいいです。もう二度と喧嘩しないのなら、ですけどね。それにしても、一体この俺はどうなってるんですかね?どうも変な気分です」
博士「お家はどこでしたか」
スピリット「ミシガン州のデトロイトです」
博士「記憶にある年代は?」
スピリット「何も思い出せない」
博士「大統領の名前は?」
スピリット「よく覚えてないけど、たしかクリーブランド(第二十四代・1893〜97)だったと思う」
博士「彼は随分昔の大統領ですよ」
スピリット「随分歩きっぱなしで、疲れたよ。横になって休むベッドはありませんか」
博士「あたりをご覧になれば、立派なスピリットが大勢来ているはずですよ」
スピリット「なるほど。奇麗な女の子が何人かいる。これ、女達、その手には乗らんからな。一緒に行く気はないね。とんでもないこった!」
博士「あなたの知ってる女性とはワケが違います。人間ではなくて、スピリットですよ」
スピリット「なんだか男を誘惑するような目つきで、ニコニコしてるよ」
博士「そんなんじゃありませんよ。迷ってる人に援助の手を差し延べようとしている方達ですよ」
スピリット「あの娘達は真面目そうだが、俺は女は嫌いでね」
博士「たった一人の女性にダメにされたからといって、女性全部を悪く言うべきではありませんよ」
スピリット「よし、この連中を全部連れてってやろう。とにかくあの娘達についていってみよう。(驚いた様子で)オヤ、母さんだ!母はとっくの昔に死んだんだが・・・・」
博士「死んでなんかいませんよ」
スピリット「天国へ行ったんじゃなかったのかな?」
博士「聞いてごらんなさいよ。お母さんご自身が教えてくれますよ」
スピリット「霊界という美しい世界にいると言ってる」
博士「霊界は地球を取り巻いているのです。『天国』というのはあなたの心の状態をいうのです。つまり、あなたが心の満ち足りた幸福を感じている時が、天国を見つけたということなのです。イエスもそう説いているでしょ?」
スピリット「母と一緒に行きたいものです。素晴らしい女性になっている。マクドナルドも連れて行きたい。マクドナルド、こっちへおいでよ。こんなところにはもうこれ以上いたくない。お前も一緒に来いよ。何か必死で目を覚まそうとしているみたいな仕草をしている。さあ、元気を出せよ、マクドナルド。お互い、ましな人間になって、あの娘達について行こうじゃないか。俺はもう行くぞ。何だってあんな女にくっついてるんだ、まったく。俺はもう恥ずかしくなってきたよ。じゃあ、行くよ。グッバイ」
バートン夫人「ちゃんとみんなを連れてってやってくださいよ」
博士「お名前は?」
スピリット「ハリーだ。それしか思い出せないよ。永いこと自分の名前を聞いたことがないもんでね」
博士「他の人達にも、いつまでもこんなところにいるのは愚かなことだということを理解させてやってくださいよ」
スピリット「みんな連れてってやろう。さあ、みんな!この俺についてくるんだ。一緒に行きたがらない奴は承知しないぞ!一人の女につきまとうなんて、恥ずかしいと思わんのか。さあ、俺と一緒に行くんだ。ご覧よ、みんなこっちへ来るよ。俺がまとめて面倒を見てやろう。じゃあね」