今からほぼ二千年前、一人の男が十字架上で死に、その男の影響力がその後の世界の歴史と多くの人々の心を動かし、それは今なお続いている。が、そのイエス自身は、その後どこで何をしているのであろうか。
 ある日の交霊会でシルバーバーチは、イエスは、今はすっかり教義とドグマと権力という雑草に覆われてしまった霊的真理の本来の姿を今一度明らかにする為の、霊界からの地球的規模の働きかけの最高責任者であると述べた。
 そのことについて別の交霊会で次のように述べている。
 「ほぼ二千年前にイエスは磔刑にされました。それはただ、当時の司祭達がイエスを憎んだからにすぎません。イエスを通して、霊力のほとばしりを見せ付けられたからでした。まさに神の子に相応しい人物だったからに他なりません。このままでは自分達の立場が危ないと思ったのです。
 私達が今、それと全く同じ反抗に遭っております。宗教界がこぞって[真理]を磔刑にしようとしております。しかし、それは不可能なことです。真理は、真理であるが故に、あらゆる反抗、あらゆる敵対行為の中にあっても、厳然と存在し続けます。キリスト教会の外部では次々と霊力が顕現しているにもかかわらず、空虚で侘しい限りの巨大な建造物の中には、その陰気な暗闇を照らす霊力の光は一条も見られません」

-そんなキリスト教は、むしろ死滅してしまった方がましだと仰るのでしょうか。

「私は、レンガとモルタル、祭壇と尖塔で出来た教会には何の興味もありません。何の魅力も感じません。建造物にはまるで関心がないのです。私が関心を向けるのは[魂]です。それで私は、神とその子の間に横たわる障壁を取り除くことに奮闘しているのですが、不幸にして今日では、教会そのものがその障壁となっているのです。
 これほど大きな罪悪があるでしょうか。宇宙の大霊である神は、一個の教会に局限されるものではありません。一個の建造物の中に閉じ込められるものではないのです。神の力は、人間各自がその霊性を発揮する行為の中に、すなわち自我を滅却した奉仕的行為、困窮している無力な同胞の為に一身を捧げんとする献身的行為の中に顕現されるのです。そこに宇宙の大霊の働きがあるのです。
 確かにキリスト教にも奇特な行いをしている真摯な人材が、そこここにいます。が、私が非難しているのは、その組織です。それが障害となっており、是非とも取り除かねばならないからです。
 真の宗教には儀式も祭礼も、美しい歌唱も詠唱も、きらびやかな装飾も、豪華な衣装も式服も不要です。宗教とは自分を役立てることです。同胞の為に自分を役立てることによって神に奉仕することです。
 私はそのことを、これまでに何度申し上げてきたことでしょう。然るに教会は人類を分裂させ、国家と階級を差別し、戦争と残虐行為、怨恨と流血、拷問と糾弾の悲劇を生み続けてまいりました。人類の知識と発明と科学と発見の前進に抵抗してきました。新しい波に呑み込まれるのを恐れて、既得の権力の確保に汲々としてきました。しかし、新しい霊的真理は既に地上に根付いております。もはやその流れをせき止めることは出来ません」

-イエスの意気込みは大変なものがあろうと察せられます。

「誤解され、崇められ、今や神の座に祭り上げられてしまったイエス、そのイエスは今どこにおられると思われますか。カンタベリ大聖堂ではありません。セントポール寺院でもありません。ウェストミンスター寺院でもありません。実はそうした建造物がイエスを追い出してしまったのです。イエスを近付き難き存在とし、人類の手の届かぬところに置いてしまったのです。単純な真理を、寓話と神話を土台とした教義の中に混ぜ合わせてしまい、イエスを手の届かぬ存在としてしまったのです。
 今なおイエスは、人類の為に働いておられます。それだけのことです。それを人間が、神学や儀式によって難しく複雑にしてしまったのです。しかも、こうして同じ真理を説く私達のことを、天使を装った悪魔の勢力であり、サタンの声であり、魔王の唆しであると決め付けております。
 しかし、キリスト教の時代はもう過ぎ去りました。人類を完全に失望させました。人生に疲れ、絶望の淵にいる地上世界に役立つものは、何一つ持ち合わせていません」

 シルバーバーチによると、イエスは、イースターとクリスマスとほぼ同じ時期に霊界で開かれる指導霊ばかりの会議を主宰しているという。それにはシルバーバーチも出席する為に、交霊会も二、三週間にわたって休暇となる。時折、その前後の交霊会で、その会議の様子を説明してくれることがある。次に紹介するのは、休暇に入る前の最後の交霊会での霊言である。
 「この機会は私にとって何よりの楽しみであり、心待ちにしているものです。その時の私は、僅かな期間ですが本来の自分に立ち帰り、本来の霊的遺産の味を噛み締め、霊界の古き知己と交わり、永年の向上と進化の末に獲得した霊的洞察力によって実在を認識することの出来る界層で、生命の実感を味わいます。
 自分だけ味わって、あなた方には味わわせてあげないというのではありません。味わわせてあげたくても、物質界に生きておられるあなた方、感覚が五つに制限され、肉体という牢獄に閉じ込められて、そこから解放された時の無上の喜びをご存知ないあなた方、たった五本の鉄格子の間から人生を覗いているあなた方には、本当の生命の何たるかを理解することは出来ないのです。霊が肉体から解放されて本来の自分に帰った時、より大きな自分、より深い自我意識に宿る神の恩寵をどれほど味わうものであるか、それはあなた方には想像できません。
 これより私はその本来の自分に帰り、幾世紀にもわたる知己と交わり、私が永い間その存在を知りながら地上人類への奉仕の為に喜んで犠牲にしてきた[生命の実感]を味わいます。これまでに大切に仕舞ってきたものがこの機会に味わえることを、私が嬉しくないと言ったらウソになりましょう。
 お分かりと思いますが、この機会は私にとって、数あるフェスティバル(嬉しい催し)の中でも最大のものであり、あらゆる民族、あらゆる国家、あらゆる分野の者が大河をなして集結し、一堂に会し、それまでの仕事の進捗の様子を報告し合います。その雄大にして崇高な雰囲気は、とても地上の言語では表現出来ません。人間がインスピレーションに触れて味わう最大級の感謝も、そのフェスティバルで味わう私達の実感に較べれば、まるで無意味な、些細な出来事でしかありません。
 その中でも最大の感激は、再びあのナザレのイエスにお会い出来ることです。キリスト教の説くイエス・キリストではありません。偽り伝えられ、不当に崇められ、そして手の届かぬ神の座に祭り上げられたキリストではありません。人類の為をのみ思う、偉大な人間としてのイエスであり、その父、そして我々の父でもある大霊の為に献身する者全てに、その偉大さを分かち合うことを願っておられるイエスです」

 休暇に入る直前の交霊会では、シルバーバーチがサークルのメンバーに、それまでの成果を語って協力に感謝するのが常である。
 「あなた方と私達霊団との愛の親密度が年と共に深まるにつれて、私は、それが他ならぬ大霊の愛の賜物であると感謝していることを知って頂きたいと思います。つまり、大霊のお許しがあったればこそ、私はこうして地上の方々の為に献身出来るのであり、週にたった一度あなた方とお会いし、それも、私の姿をお見せすることなく、ただこうして語る声としてのみ存在を認識して頂いているに過ぎないにもかかわらず、私を信じ、人生の全てを委ねるまでに私を敬愛してくださる方々の愛を一身に受けることが出来るのも、大霊のお力があればこそだからです。
 そのあなた方からの愛と信頼を私はこの上なく誇りに思います。あなた方の心の中に湧き出る熱烈な情愛-私にはそれがひしひしと感じ取れます-を傷付けるようなことだけは絶対に口にすまい、絶対にするまい、といつも誓っております。
 私達のそうした努力が大きな実りを生んでいることが、私には嬉しいのです。私達のささやかな仕事によって多くの同胞が真理の光を見出していることを知って、私は嬉しいのです。真理が前進していること、そして、その先頭に立っているのが、他ならぬ私達であることが嬉しいのです。
 絶え間なく仕掛けてきた大きな闘いにおいて、あなた方が堅忍不抜の心を失わず、挫折することがなかったことを、嬉しく思います。役割を忠実に果たされ、あなた方に託された大きな信頼を裏切ることがなかったことを、嬉しく思います。私の使命があなた方の努力の中に反映して成就されていくのを、謙虚な目で確かめているからこそ、私はあなた方のその献身を嬉しく思うのです」

 この後、いつもの慣例に従って、メンバーの一人ひとりに個人的なメッセージを送り、その後こう述べて別れを告げた。
 「さて、別れを惜しむ重苦しい気持の中にも、再びお会い出来る日を心待ちにしつつ、私は皆さんのもとを去ります。これより私は、気分一新の為に霊的エネルギーの泉へと赴きます。高遠の世界からのインスピレーションを求めに赴きます。そこで生命力を充満させてから、再び、一層の献身と、神の無限の恩寵の一層の顕現の為に、この地上へ戻ってまいります。
 あなた方の情愛、今ひしひしと感じる私への餞別の気持を頂いて、私はこれより旅立ちます。そうして再び戻って来るその日を楽しみに致しております。どうか常に希望と勇気を失わないで頂きたい。冬の雪は絶望をもたらしますが、再び春が巡ってくれば、大自然は装いを新たにして微笑みかけてくれます。希望に胸を膨らませ、勇気を持ってください。いかに暗い夜にも、必ず昇りゆく太陽の到来を告げる夜明けが訪れるのです。
 では、これにてお別れします。神は常にあなた方を祝福し、その無限の愛をふんだんにもたらしてくださっております。神の霊があなた方全ての人の霊に行き渡り、日々の生活の中に誇らしく輝いております。
 これより地上の暗闇を後にして、高き世界の光明を迎えに参ります。そしてお別れに際しての私の言葉は、再び訪れる時の挨拶の言葉と同じです-大霊の祝福の多からんことを」
 こうして地上を去り、霊界での大集会に列席した後、再び地上に戻って来たシルバーバーチはこう述べた。
 「その会合において私は、かつての私の栄光の幾つかを再び味わってまいりました。地上世界の改善と進歩の為に奮闘している同志達、人類の福祉の為に必要な改革の促進に情熱を傾ける同志達による会議に、私も参加を許されました。これまでの成果が細かく検討され、どこまで成功し、どの点において失敗しているかが明らかにされました。そこで新たに計画が立て直され、これから先の仕事-地上人類の進化の現段階において必要な真理を普及させる上で、是非とも為さねばならない仕事のプログラムが組まれました。
 地上世界の為に献身している大勢の人々-死によって博愛心を失うことのなかった人々ともお会いしました。そして、ちょっぴり私事を言わせて頂けば-こんなことは滅多にないのですが-過去数ヶ月間において私が為し遂げたことに対して、お褒めの言葉を頂戴致しました。
 勿論私はお褒めにあずかる資格はないと思っております。私は単なる代弁者にすぎないからです。私を派遣した高級霊団のメッセージを代弁したにすぎず、それをあなた方が広めてくださったのです。
 ともあれ、こうして私達の説く真理が、人生に迷っている人々、心は重く悲しみに満ち、目に涙を溜めた大勢の人々に、知識と慰めと励ましをもたらしていることは確かです」