別の日の交霊会に米国人ジャーナリストが招かれた。そして最初に出した質問が「霊界というのはどんなところでしょうか」という、きわめて基本的なものだった。その時レギュラーメンバーの一人が「この方は心霊研究家とお呼びしてもよいほどの方ですよ」(注)と言ったことが、次のようにユーモラスな答えを引き出すことになった。

(注 ここでは心霊学に詳しい人といった程度の意味で言ったのであろう。その心霊学は心霊現象の科学的研究を目的としているだけで、霊魂説も幾つかの学説の中の一つとして扱われているだけである。その点を念頭を置いて、シルバーバーチがその学説を並べ立てて皮肉っぽく答えているところがユーモラスである-訳者)

「この私は、地上の人達から[死んだ]と思われている者の一人です。存在しないことになっているのです。私は、本日ここにお集まりの方々による集団的幻影にすぎません。私は、霊媒の潜在意識の産物なのだそうです。霊媒の第二人格であり、二重人格であり、多重人格であり、分離人格ということになっております。
 こうした用語のどれをお使いになられても結構ですが、私もあなたと同じ、一個の人間的存在です。ただ私は、今あなたが使っておられる肉体を随分前に棄ててしまいました。あなたとの違いは、ただそれだけです。あなたは物的身体を通して自我を表現しているスピリットであり、私は霊的身体を通して表現しているスピリットであるということです。
 私はほぼ三千年前に霊の世界へ参りました。つまり三千年前に[死んだ]のです。三千年というと、あなたには大変な年数のように思えるかも知れませんが、永遠の時の流れを考えると、僅かなものです。その間に私も、少しばかり勉強しました。霊の世界へ来て、神からの授かりものである資質を発揮していくと、地上と同じ進化の法則に従って進歩していきます。霊的な界層を一段また一段と向上してまいります。
 [界層]という言い方をしましたが、一つ一つが仕切られているわけではりあません。霊的な程度の差であり、それぞれの段階には、その環境条件に相応しい者が存在するということです。霊的に進化向上していくと、それまでの界層を後にして、次の、一段と高い界層へ融合していきます。それは、階段が限りなく続く長い長い、一本の梯子のようなものです。
 そう考えていけば、何百年、或いは何千年か後には物質界から遙か遠く離れて行き、二度と接触する気持が起きなくなる段階に至ることは、あなたにも理解出来るでしょう。所詮、地上というところは、大して魅力のある世界ではないのです。地上の住民から発せられる思念が充満している大気には、およそ崇高なものは見られません。腐敗と堕落の雰囲気が大半を占めております。人間の生活全体を暗い影が覆い、霊の光が届くのは、ほんの少数の人に限られております。
 一度あなたも、私と同じように、経済問題の生じない世界、お金が何の価値も持たない世界、物的財産が何の役にも立たない世界、各自のあるがままの姿が曝け出される世界、唯一の富が霊的な豊かさである世界、唯一の所有物が個性の強さである世界、生存競争も略奪も既得権力もなく、弱者が窮地に追いやられることもなく、内在する霊的能力が、それまでは居眠りをしていても、存分に発揮されるようになる世界に住まわれたら、地上という世界がいかにむさ苦しく、いかに魅力の乏しい世界であるかが分かって頂けると思います。
 その地上世界を何とかしなければならない-私のようにまだ地上圏に戻ることの出来るスピリットが援助し、これまでに身に付けた霊的法則についての知識を幾らかでも教えてあげる必要があることを、私は他の幾人かの仲間と共に聞かされたのです。人生に迷い、生きることに疲れ果てている人類に進むべき方向を示唆し、魂を鼓舞し、悪戦苦闘している難題の解決策を見出させてあげるには、それしかないことを聞かされたのです。
 同時に私達は、その為に必要とする力、人類の魂を鼓舞する為の霊力を授けてくださることも聞かされました。しかし又、それが大変な難事業であること、この仕事を快く思わぬ連中、それも宗教組織内の、そのまた高い地位にある者による反抗に遭遇するであろうことも言い聞かされました。悪魔の密使と見なされ、人類を邪悪の道へ誘い、迷い込ませんとする悪霊であると決め付けられるであろうとの警告も受けました。
 要するに、私達の仕事は容易ならざる大事業であること、そして、ついでに付け加えさせて頂けば、その成就の為にはそれまでの永い年月の中で体験してきた霊界生活での喜びも美しさも、全てお預けにされてしまうということでした。が、そう言い聞かされてこれを断った者は、私達の内の誰一人としていませんでした。かくして私達は、他の仲間と共に地上へ戻って参りました。再生するのではありません。地上界の圏内で仕事をする為です。
 地上圏へ来てからのまず第一の仕事は、霊媒となるべき人物を探すことでした。これは、どの霊団にとっても一番骨の折れる仕事です。次に、あなた方の言語(英語)を勉強し、生活習慣も知らねばなりませんでした。あなた方西洋人の文明も理解する必要がありました。
 続いて、この霊媒の使用法を練習しなければなりませんでした。この霊媒の口を借りて、幾つかの訓え-誰にでも分かる簡単なもので、従ってみんなが理解すれば地上が一変する筈の真理-を説く為です。
 同時に私は、そうやって地上圏で働きながら常に、私を派遣してくれた高級霊達との連絡を保ち、より立派な叡知、より立派な知識、より立派な情報を私が代弁してあげなければならなかったのです。初めの頃は大いに苦労しました。今でも決して楽ではありませんが・・・
 その内私の働きかけに同調してくれる者が次第に増えてまいりました。全ての人が同調してくれたわけではありません。居眠りしたままの方を好む者も大勢いました。自分で築いた小さな牢獄にいる方を好む者もいました。その方が安全と考えたわけです。自由へ解放された後のことを恐れたのです。
 が、そうした中にも、そこここに、分かってくれる人を見出しました。私からのご利益は何もありません。ただ、真理と理性と常識と素朴さ、それに、近付いてくれる人の為をのみ考える、かなり年季の入った先輩霊としての真心をお持ちしただけです。
 その後は、私達の仕事は順調に運び、多くの人々の魂に感動を与えてまいりました。無知の暗闇から脱け出た人が大勢います。迷信の霧の中から、自らの力で這い出た人が大勢います。自由の旗印のもとに、喜んで馳せ参じた人が大勢います。[死]の意味を理解することによって、二度と涙を流さなくなった人が大勢います」

-魂は母体に宿った時から存在が始まるのでしょうか。それともそれ以前にも存在(前世)があるのでしょうか。

「これは又、厄介な問題に触れる質問をしてくださいましたね。私は自分でこう思うということしか述べるわけにはまいりません。私はいつも人間の理性と思慮分別に訴えております。もしも私の述べることが皆さんの理性を反撥させ、知性を侮辱し、そんなことを認めるわけにはいかないと仰るのであれば、どうぞ聞き捨ててください。拒絶して頂いて結構です。拒絶されたからといって私は少しも気を悪くすることはありません。腹も立てません。皆さんへの愛の気持に変わりはありません。
 ここにおいでのスワッファーも、相変わらず考えを改めようとしない者の一人です。他の者はみんな私の口車に乗って(?)前世の存在を信じるようになってくれているのですが・・・
 私の知る限りを言えば、前世はあります。つまり生まれ変わりはあるということで、その多くは、はっきりとした目的をもつ自発的なものです」
これを聞いたスワッファーが
「私は再生の事実を否定したことはありませんよ。私はただ、魂の生長にとって再生が必須であるという意見に反対しているだけです」
と不服そうに言うと、シルバーバーチが
「これは嬉しいことを聞きました。あなたも私の味方というわけですな。全面的ではなくても・・・」
と皮肉っぽく言う。すると、スワッファーが言い返す。
「あなたは、私も今生に再生してきていると仰ったことがあるじゃないですか。私はただ、再生に法則はないと言っているだけです」
これを聞いたシルバーバーチが穏やかにそれを否定して言う。
「何かが発生する時、それは必ず法則に従っております。自発的な再生であっても法則があるからこそ可能なのです。ここでいう法則とは、地上への再生を支配する法則のことです。この全大宇宙に存在するものは、いかに小さなものでも、いかに大きなものでも、全て法則によって支配されているというのが私の持論です」

ここで米国人ジャーナリストが関連質問をした。

-人間にとって時間が理解しにくいことが再生問題を理解しにくくしているというのは事実でしょうか。

「例によって、私なりの観点からご説明しましょう。実は、あなたはあなたご自身をご存知ないのです。あなたには物質界へ一度も顔を出したことのない側面があるのですが、あなたはそれにお気づきになりません。物的身体を通して知覚した、ごくごく小さな一部分しか意識しておられません。が、本当のあなたは、その身体を通して顕現しているものより、遙かに大きいのです。
 ご存知の通り、あなたはその身体そのものではありません。あなたは身体をそなえた霊であって、霊をそなえた身体ではありません。その証拠に、あなたの意識はその身体を離れて存在することが出来ます。例えば睡眠中がそうです。ただし、その間の記憶は物的脳髄の限界の為に意識されません。
 結局あなたが意識出来る自我は、物質界に顕現している部分だけということになります。他の、より大きい部分は、それなりの開発の過程を経て意識出来るようにならない限り、ごく稀に、特殊な体験の中で瞬間的に顔をのぞかせるだけです。一般的に言えば、大部分の人間は、死のベールを潜り抜けて初めて真の自我を知ることになります。
 以上があなたのご質問に対する私の回答です。今あなたが物的脳髄を通して表現しておられる意識は、それなりの開発法を講ずるか、それともその身体を棄て去るかのいずれかでない限り、より真実に近いあなたを認識することは出来ないということです」

-この地上には、あなたの世界に存在しない邪悪なものが溢れていると仰いますが、なぜそういう邪と悪とが存在するのでしょうか。

「権力の座にある者達の我侭が原因となって生じる悪と邪-私は[無明]という言葉の方が好きですが-、それと、人類の進化の未熟さ故に生じる悪と邪とは、はっきり区別する必要がありすます。
 地上の邪と悪には、貧民街が出来るような社会体制の方が得をする者達、儲けることしか考えない者達、私腹を肥やす為には同胞がどうなろうと構わない者達といった、現体制下の受益者層の存在が原因となって発生しているものが実に多いことを知らねばなりません。そうした卑劣な人種がのめり込んでしまった薄汚い社会環境があるということです。
 しかし、他方において忘れてならないのは、人間は無限の可能性を秘めていること、人間は無限の可能性を秘めていること、人生は常に暗黒から光明へ、下層から上層へ、弱小から強大へ向けての闘争であり、進化の道程を絶え間なく向上していくものであるということです。闘争がなく困難もなければ、霊にとって征服すべきものが何もないことになります。
 人間には神の無限の属性が宿されてはいますが、それが発揮されるのは、努力による開発を通してしかありません。その開発の過程は黄金の採取と同じです。粉砕し、精錬し、磨き上げなければなりません。地上にも、いつかは邪悪の要素が大幅に取り除かれる時が来るでしょう。しかし、改善の可能性が無くなる段階は決して来ません。なぜなら、人間は内的神性を自覚すればする程、昨日の水準では満足出来なくなり、明日の水準を一段高いところにセットするようになるものだからです」