英国フリート街に並ぶ新聞社の一つの主筆でスピリチュアリズムにも興味をもつジャーナリストが、ある日の交霊会で思念とインスピレーションの違いについて質問した。それについてシルバーバーチはこう答えた。

 「物質の世界に住んでおられるあなた方は極めて創造性の乏しい存在です。よくよくの例外を除いて、まず何も創造していないと言ってよろしい。受信局であると同時に発信局のような存在です。まず外部から思念が送られて来る。それが一旦あなたならあなたという受信局で受け止められ、それに何かが付加されて発信され、それを別の人が受信するという具合です。あなたに届いた時の思念と、あなたから発信される時の思念とは既に同じではありません。あなたの個性によって波長が高められることもあり低くなることもあり、豊かになっていることもあり貧弱になっていることもあり、美しくなっていることもあり醜くなっていることもあり、新たに生命力を付加されていることもあり衰弱していることもあります。しかし、それとは全く別に、霊的な波長の調整によってあなたと同じ波長をもつ霊からのインスピレーションを受けることも出来ます。人間が(あなた方の言い方で)死んで私達の世界へ来ます。その時、(肉体は捨てても)精神と魂に宿されているものは何一つ失われません。それは霊的であり、無限であり、霊的にして無限なるものは絶対に無くならないからです。その魂と精神に宿された資質はその後も生長し、広がり、発達し、成熟していきます。そうした霊性を宿しているからこそ、こちらへ来て暫くすると、地上の人間の為に何か役立つことをしたいと思うようになるわけです。やがて自分と同質の人間を見出します。或いは見出そうと努力し始めます。
 地上で詩人だった人は詩人を探すでしょう。音楽家だった人は音楽家を探すでしょう。そして死後に身に付けたことの全てを惜しげもなく授けようとします。問題は波長の調整です。インスピレーションが一瞬の出来事でしかないのは、私達の側が悪いのではありません。二つの世界の関係を支配している法則が完全に理解されれば-別の言い方をすれば、地上の人間が両界の自由な交信の障害となる偏見や迷信を取り除いてくれれば、無限の世界の叡智が人間を通してふんだんに流れ込むことでしょう。要は私達の側から発信するものを受信する装置がなければならないこと、そしてその装置がどこまで高い波長の通信を受け取れるかという、性能の問題です。全てのインスピレーション、全ての叡智、全ての真理、全ての知識は、人間側の受信能力に掛かっております」

-それだけお聞きしてもまだ、なぜインスピレーションというものが一瞬の閃きで伝わるのかがよく理解出来ません。

 「その瞬間あなたの波長が整って通信網に反応するからです」と答えた後、そういう思念が霊界からのものか地上の人間からのものかの区別の仕方について質問されて、こう述べた。
 「両者をはっきりと線引きすることはとても困難です。思念には地上の人間の発したものが地上の他の人間によって受け取られることもありますが、霊界からのものもあります。思念は常に循環しております。その内のある種のものが同質の性格の人に引き寄せられます。この共通の性質、関心、或いは衝動を覚えて、自分が既に成就したものを地上の人間に伝えようとする、はっきりとした目的意識をもった行為です。地上の音楽、詩、小説、絵画の多くは実質的には霊界で創作されたものです」

-祈りは叶えられるものでしょうか。

 「叶えられる時もあります。祈りの中身と動機次第です。人間はとかく、そんな要求を叶えてあげたら本人の進歩の妨げになる、或いは人生観をぶち壊してしまいかねない祈りをします。そもそも祈りとは人間が何かを要求してそれを我々が聞き、会議を開いて検討してイエスとかノーとかの返事を出すのとは違います。祈るということは、叶えられるべき要求が自動的に授かるような条件を整える為に自分自身の波長を高めて、少しでも高い界層との霊的な交わりを求める行為です」

-〝天才〟をどう説明されますか。

 「まず理解して頂きたいのは、大自然或いは法則-どう呼ばれても構いませんが-は決して一本の真っ直ぐな線のように向上するようには出来ていないことです。様々な変異(バリエーション)、循環(サイクル)、或いは螺旋(スパイラル)を画きながら進化しています。全体からみればアメーバから霊に至る段階的進化がはっきりしておりますが、その中にあって時に一足跳びに進化するものと後退するものとが出て来ます。先駆けと後戻りが常にあります。天才はその〝先駆け〟に当たります。これから何十世紀、何百世紀か後には地上の全人類が、程度の差こそあれ、今の天才と同じ段階まで発達します。天才は言わば人類の進化の前衛です」

-現在地上で行われている進化論と大分違うようですが・・・

 「私の見解はどうしても地上の説とは違って来ます。霊の目をもって眺めるからです。地上的な視野で見ていないからです。皆さん方はどうしても物的観点から問題を考察せざるを得ません。物的世界に生活し、食糧だの衣服だの住居だのといった物的問題を抱えておられるからです。そうした日々の生活の本質そのものが、その身を置いている物的世界へ関心を向けさせるようになっているのです。日常の問題を永遠の視点から考えろと言われても、それは容易に出来ることではありません。が、私達から見れば、あなた方も同じく霊的存在なのです。いつ果てるともない進化の道を歩む巡礼者である点は同じです。今生活しておられるこの地上が永遠の住処でないことは明白です。これから先の永遠の道程を思えば、地上生活などはほんの一瞬の出来事でしかありません。私達の視界は焦点が広いのです。皆さんから受ける質問も霊的真理に照らしてお答しております。その真理が人間生活においてどんな価値をもつか、どうやって他の同胞へ役立てるべきか、どんな役に立つか、そう考えながらです。これまで私は私の説く真理は単純素朴なものであること、唯一の宗教は人の為に自分を役立てることであること、皆さんもいい加減ウンザリなさるのではないかと思う程繰り返し述べて来ました。私達の真理の捉え方が地上の常識と違う以上、そうせざるを得ないからです。
 大半の人間は地上だけが人間の住む世界だと考えています。現在の生活が人間生活の全てであると思い込み、そこで物的なものを-いずれは残して死んでいかねばならないものなのに-せっせと蓄積しようとします。戦争、流血、悲劇、病気の数々も元はと言えば人間が今その時点において立派に霊的存在であること、つまり人間は肉体のみの存在ではないという生命の神秘を知らない人が多過ぎるからです。人間は肉体を通して自我を表現している霊魂(スピリット)なのです。それが地上という物質の世界での生活を通して魂を生長させ発達させて、死後に始まる本来の霊の世界における生活に備えているのです」

 このシルバーバーチの言葉がきっかけとなってサークルのメンバーの間で、〝進化〟についての議論にひとしきり花が咲いた。それを聞いていたシルバーバーチは、やおら次のように述べた。
 「人間は全て、宇宙の大霊の一部である-言い換えれば無限の創造活動の一翼を担っているということです。一人ひとりがその一分子として進化の法則の働きを決定付けているということです。霊としての真価を発揮していく階梯の一部を構成しているのです。霊は自我意識が発現し始めた瞬間から存在し、その時点から霊的進化が始まったのです。身体的に見れば人類は、事実上、進化の頂点に達しました。が、霊的にはまだまだ先は延々と続きます」

 別の交霊会に世界的に名の知れた小説家が出席した。(姓名は紹介されていない。手掛かりになるものも出ていない-訳者)シルバーバーチが出る前に地上で世界的に有名だった人物で今ではシルバーバーチ霊団のメンバーとして活躍している複数の霊がバーバネルの口を借りて挨拶し、それに応えてサークルのメンバーが挨拶している様子を見つめていた。(訳者注-シルバーバーチ霊団はシルバーバーチ自身がそうであるように地上時代の氏名は-無名だった人物を除いて-一切明かしていない。余計な先入観となるからであろう)その作家に対してシルバーバーチは「私にはあなたが今日始めての人とは思えません。実質的に霊力に無縁の方ではないからです」とまず述べてから、こう続けた。
 「あなたの場合は意識的に霊力を使っておられるのではありません。あなたご自身の内部で表現を求める叫び、使って欲しがる単語、言語で包んで欲しがるアイディア、湧き出てあなたを包み込もうとする美、時として困惑させられる不思議な世界、そうしたものが存在することを知っている人間の持つ内的な天賦の才能です。違いますか」

-全く仰る通りです。

 「しかし同時に、これは多くの方に申し上げていることですが、ふと思いに耽り、人生の背後で動いているものに思いを馳せ、いかにして、なぜ、いずこへ、といった避け難い人生の問題に対する回答を自ら問うた時、宿命的といえる経緯によって道が開けてきました。幼少の頃からそうであった筈ですが、いかがですか」

-その通りです。

 「私達は、方法は何であれ、自分の住む世の中を豊かにし、美と喜びで満たし、いかなる形にせよ慰めをもたらす人を誇りをもって歓迎致します。しかし、あなたにはこれまでなさったことより、遙かに立派なことがお出来になります。お判りでしょうか」

-是非知りたいものです。

 「でも、何となくお感じになっておられるのではありませんか」

-(力強い口調で)感じています。

 ここでシルバーバーチはサークルの一人に向かって「この方は霊能をお持ちです」と言うと、そのメンバーも「そうですね。心霊眼をお持ちです」と答えた。するとシルバーバーチは、
 「しかし、この方の霊能はまだ鍛練されておりません。純粋に生まれつきのものです」と述べてからその作家の方を向いて「あなたは陰から指導している(複数の)霊の存在をご存知でない。あなたが感じておられるより遙かに多く援助してくれているのですよ」
 すると別のメンバーが「この方がこれからなさるべきことは何でしょう」と尋ねた。
 「それは、これまでなさったことより遙かに大きな仕事です。その内自然に発展して行きます。が、既にその雰囲気がこの方の存在に充満していますから、ご自分では気付いておられる筈です。じっとしていられないことがある筈です。私の言わんとしていることはお判りでしょ?」と言ってその作家の方を向いた。

-非常によく分ります。

 「次のことをよく理解しておいてください。他の全ての人間と同じく、あなたも小さな身体に大きな魂を宿しておられるということです。どうもぎこちない、大雑把な言い方をしましたが、あなたという存在は肉体という、魂の媒体として痛ましい程不適当な身体を通して表現せざるを得ないということです。あなたの真の自我、真の実在、不滅の存在であるところの魂に宿る全能力-芸術的素質、霊的能力、知的能力の全てを顕現させるにつれて、それだけ身体による束縛から逃れることになります。魂そのものは本来は物質を超越した存在ですから、たとえ一時的には物質の中に閉じ込められても、その内鍛練や養成をしなくても、無意識の内に物質を征服して優位を得ようとあらゆる手段を試みるようになります。それが今まさにあなたの身の上に起きつつあるわけです。インスピレーション、精神的活動、目に見えない側面の全てが一気に束縛を押し破り、あなたの存在に流入し、充満し、あなたはそれに抗し切れなくなっておられる。私の言っていることがお分りでしょうね」

-非常によく分ります。

 「しかし、同時にあなたは私達の世界の存在によって援助されております。既に肉体の束縛から解放された人達です。その人達は情愛によってあなたと結ばれております。愛こそ宇宙最大の絆なのです。愛は自然の成り行きで愛する者同士を結び付け、いかなる者もいかなる力もいかなるエネルギーも、その愛を裂くことは出来ません。愛がもたらすことの出来る豊かさと温もりの全てを携えてあなたを愛している人達は、肉体に宿るあなた自身には理解出来ない範囲であなたの為に色々と援助してくれております。が、それとは別に、そうした情愛、血縁、家族の絆で結ばれた人々よりは霊性において遙かに偉大な霊が、共通の興味と共通の目的意識故に魅かれて、あなたの為に働いてくれております。今ここで簡単には説明出来ない程援助して来ており、この後、もしもその条件が整えば、存在をあなたに知らしめることにもなるでしょう」

-是非知らせて欲しいものです。それと、こうした背後霊の皆さんに私からの感謝の気持を伝えて頂けますでしょうか。

 「もう聞こえてますよ。今日私があなたに是非残していきたいのは、あなたの周りに存在する霊力の身近さの認識です。私は古い霊です。私にも為しうる仕事があることを知り、僅かですが私が摂取した知識が地上の人々のお役に立てばと思って、こうして戻って参りました。既に大勢の友-その知識を広める為に私の手足となってくれる同僚を沢山見つけております。私の大の友人パリッシュ(心霊治療家で、その日の交霊会にも出席していた)のように特殊な使命を帯び、犠牲と奉仕の記念碑を打ち立てている者もいます。しかし、全ての友が自分が利用されていることを意識しているわけではありません。でも、そんな人達でも時たま、ほんの瞬間に過ぎませんが、何とも言えない内的な高揚を覚え、何か崇高な目的の成就の為に自分も一翼を担っていることを自覚することがあるものです」