○背後霊団との面会
ある日モーゼスが部屋を暗くしてベッドに横になると、例の鈴の音が聞こえ、続いて光球が幾つも見えた。と思っている内に意識を失い、次に目が覚めた時は真夜中だった。彼は自らの意志でなしに無理矢理に起されて、次のような記事を書いた。
「意識が消えていく時のことは何一つ記憶にない。が、暗さが次第に明るさを増し、徐々に美しい光景が展開し始めた。私が立っていたのは確か湖の縁で、その向こうに真緑の小高い丘が幾つも連なり、ほのかなモヤが漂っていた。分指揮はイタリヤにいる感じで、穏やかに澄み渡っていた。湖の水は波一つ立てず、見上げると雲一つない青空が広がっていた。
その岸辺を歩きながら景色の美しさに見惚れていると、一人の男性が近付いて来た。メンターだった。モリスンのような薄い生地で出来た真珠のような白さのロープを纏っていた。肩に濃いサファイアブルーのマントを掛け、頭部には幅の広い深紅の帯のように見える宝冠(コロネット)をつけており、それに黄金の飾り環が付いていた。あごひげを生やし、顔に慈悲と叡智を称えていた。
そのメンターが鋭い、きっぱりとした口調でこう述べた。〝ここは霊界です。これより霊界の一シーンをご覧に入れよう〟。そう言って向きを変え、私と共に湖に沿って歩いて行くと、山の麓の方へ行く道との分岐点に来た。その道に沿って小川が流れており、その向こうには真緑の草原が広がっていた。地上のように畑で仕切られておらず、見渡す限り緩やかな起伏が一面に広がっていた。
二人はイタリヤの田園でよく見かける邸宅に似た一軒の家に近付いた。地上では見かけない種類の木の繁みの中にある。木というよりは巨大なシダに近い。その玄関の前に様々な色彩と種類の花が咲き乱れている花園があった。メンターに促されて後について入り、大きなホールまで来ると、その中央に花とシダの植え込みがあり、その真ん中で噴水が盛んに水を散らせていた。ホール全体に素敵な香気が漂い、又、優しく慰めるような音楽が流れていた。
ホールの周りにはバルコニーのようなものが付いていて、そこから住居へ通じる出入口が幾つか見えた。壁面に模様が描かれていて、よく見ると私がそこに来るまでに通って来た景色の延長になっていた。天井はなく、雲一つない青空が見えていた。
見るもの全てが美しいので私が見惚れていると、出入口の一つのドアが開いて誰かが私の方へ近付いて来た。インペレーターだった。一度見たことがあるので直ぐに分かった。頭部には七つの尖頭の付いた王冠を頂き、その尖頭の先端に目も眩まんばかりの光輝を発する星が付いており、一つ一つ色が違っていた。表情には真剣さと仁愛と高貴さが満ち溢れていた。私が想像していたような年老いた感じはなく、敬虔さと厳粛さに優しさと威厳とが交じり合った風貌だった。全体に漂う雰囲気と物腰には堂々あたりを払う威風があった。
身体にはまばゆいばかりの白の長いローブを付けていた。あたかも露のしずくで出来ていて、それが朝日に照らされているみたいであった。そうした容姿全体の光輝があまりに強烈で、私にはじっと見つめていることが出来なかった。イエスが変容した時の姿もかくばかりかと思った。私は本能的に頭を垂れた。すると柔和でしかも真剣な声が不思議な、憂いを込めた抑揚で私の耳に囁いた-〝来るがよい。そなたの知人に会わせるとしよう。そしてその不信に満ちた心を癒して進ぜよう〟と。そう言って手を差し出した。見るとその手に宝石が散りばめてあり、内部から燐光性の光輝を発しているように思えた。
私が啞然として見つめていると、何とも言えない荘厳な調べが耳に入って来た。続いて私の直ぐ脇の出入口が開かれ、その調べが一番と近付いて聞こえ、長い行列の先頭を行く者の姿が目に入った。純白のローブを着ており、それを深紅の帯で締めていた。行列の全員がそうだった。帯の色だけが様々で、ローブは全員が純白だった。先頭の者は黄金の十字架を高々と掲げ持っており、頭部には〝聖〟の文字を記した飾り帯を巻いていた。その後を二列に並んだ聖歌隊が讃美歌を歌いながらやって来る。その行列が我々の前まで差し掛かると一旦停止し、インペレーターの方を向いて敬々しくお辞儀をした。インペレーターは私より二、三歩前でそれを受けた」
モーゼスはその行列の中に数人の見覚えのある顔を見つけた。指導霊のメンター、レクター、プルーデンス、フィロソファス、それにスエーデンボルグもいた。更に友人のウィルバーフォース、ジョン・キーブル、アーネスト・ニール等々の顔も見えた。長い長い行列が続いた後、その中から六人が進み出てモーゼスの方へ近付いた。その内の五人は地上で顔見知りの人物だったという。ホールを取り囲むバルコニーは既に一杯になっていた。モーゼスは最後にこう書いている。
「その全員がホールの中央のインペレーターの方へ顔を向けた。そこでインペレーターが敬々しく神への祈りを捧げた。と同時に再び厳かな讃美の調べが響き渡り、全員が行列を作って今来た方向へ戻って行った」
○右のシーンについてのインペレーターの解説(自動書記)
-あれは実際のシーンだったのでしょうか。
「今貴殿の目に映っている現実と同じく実際にあったことである。貴殿の霊が肉体から分離していたのである。その間僅かに一条の光によって繋がっていた。その光線は生命の流れそのものである」
-壁が少しも障害にならずに一瞬の内に光景が展開したように思います。その場がそのまま霊界になりました。
「霊界は肉眼には映じなくても貴殿のいる場所に存在している。霊眼が開けば霊の世界のものが見え、地上のものが見えなくなる」
-では、霊の界層は我々人間の身の回りに存在するのでしょうか。
「人間のいる場所にも周囲にも存在している。空間と呼んでいるところには幾つもの界層が互いに浸透し合って存在している。この度のことは貴殿に霊界の実在を見せんが為に行ったことで、私の要請を受けてメンターがあれだけの霊を第二界に集めてくれたのである。様々な界層の境涯から特別の目的の為に集まってもらったのである」
-全員が白のローブだったのに、一人私の友人だけが緑色の混ざった紫のローブを着ていましたが・・・・
「貴殿の目につくように、あのローブを着ていたのである。緑色はまだ完全に抜け切っていない地上的状態を表しており、紫色は進歩のしるしである。
我々の世界では全てが象徴的に出来ている。天井のないあの建物は何一つ向上心を妨げるもののない霊の住処の象徴である。美しい花と景色は愛の神が各自の宿命に注がれる慰めと歓びを表している。讃仰の行列は進歩的な霊の向上の行進を示している。先頭を行く者が掲げていた十字架は神聖さと自己犠牲の表象である。純白のローブは清浄の象徴であり、ハープの調べは不断の讃仰の象徴である。色とりどりの帯は各自の犠牲と、携わっている仕事を示し、頭部の王冠と飾り帯は霊格の象徴である」
-あなたはいつも私が拝見した通りの姿をしておられるのでしょうか。あのまばゆいばかりのローブは忘れようにも忘れられません。
「貴殿が見られたのは他の霊がいつも私を見ているのと同じ姿である。が、私はいつも同じ姿をしているわけではない。私が本来の界で纏う姿は貴殿には凝視出来ないであろう。現在の状態では無理であろう」
○自動書記をしている自分を観察
〝サークルメンバーの向上心の高さが、訪れる霊の性格を決める。出席者の精神的波動は霊界まで波及し、その程度によって集まる霊の程度も決まる。このことを全ての人に分かってもらえれば有り難いのであるが・・・・〟
これは直接書記によって綴られたインペレーターの通信で、書記役のレクターがそれを操作している様子をモーゼスが体外遊離の状態で観察した。この様子をモーゼスが次のように記述している。
「その日は一人で自分の部屋にいた。ふと書きたい衝動を感じて机に向かった。それ程強烈に感じたのはほぼ二ヶ月ぶりである。まず最初の部分を普通の自動書記で書いた。どうやらその時点で無意識状態に入ったようである。
気がつくと、自分の身体の側に立っている。例のノートを前にしてペンを右手にして座っている自分の側である。その様子と辺りの様子とを興味深く観察した。自分の身体が目の前にあり、その身体と自分(霊的身体)とが細い光の紐によって繋がっている。部屋の物的なものが悉く実体のない影のように見え、霊的なものが固くて実体があるように見えた。
その私の身体の直ぐ後ろにレクターが立っていた。片手を私の頭部にかざし、もう一方をペンを握っている私の右手にかざしている。更にインペレーターと、これまで永い間私に影響を及ぼしてきた霊が数人いた。その外に私に見覚えのない霊が出入りして、その様子を興味深そうに見守っていた。天井を突き抜けて柔らかい心地よい光が注がれており、時折青味を帯びた光線が何本か私の身体へ向けて照射されていた。その度に私の身体がギクリとし、震えを見せた。生命力が補給されていたのであろう。更に気が付くと、外の光も薄れて窓が暗く感じられた。従って部屋の中が明るく見えるのは霊的な光線のせいだった。私に語りかける霊の声が鮮明に聞こえる。人間の声を聞くのと非常によく似ているが、その響きは人間の声より優美で、遠くから聞こえてくるような感じがした。
インペレーターが、これは実際のシーンで、私に霊の働きぶりを見せる為に用意したと述べた。レクターが書いているのであるが、私の想像とは違って、私の手を操っているのではなく、又私の精神に働きかけているのでもなく、青い光線のようなものを直接ペンに当てているのだった。つまりその光線を通じて通信霊の意志が伝わり、それがペンを動かしているのだった。私の手は単なる道具に過ぎず、しかも必ずしも無くてはならぬものでもないことを示す為に、光線がそのペンを私の手から放し、用紙の上に立たせ、更に驚いたことに、それが用紙の上を動き始め、冒頭に掲げた文章を綴ったのである。出だしの部分を除いて、殆どが人間の手を使用せずに書かれたものである。インペレーターの話によると、人間の手を使用せずに直接書くのは容易なことではなく、その為綴りに幾つか誤りも見られるとのことだった。事実その通りだった。
その後私は、一体ここにいる(人種の異なる)霊はどうやって通じ合うのだろうという疑問を抱いた。するとその疑問に答えて数人の霊が代わる代わる違う言語で喋ってみせた。私にはさっぱり分からなかったが、インペレーターが通訳してくれた。その上更に霊がいかなる要領で思念の移入によって通じ合うかを実演してみせてくれた。又インペレーターは音も物的媒体なしに出すことが出来ることを説明してくれた。その時に例の鈴の音が聞こえ、又部屋中に霊妙な芳香が漂った。
その場にいた霊は皆前に見た時と同じ衣装をしていた。そして、周りの物体には何の関係もなく動き回っていた。その内の何人かは、私の身体が向かっている机を取り囲んでいた。私自身も白のローブに青の帯をしているように見えた。更に、どうやらその上に紫の布、一種のオーバーローブを羽織っていたように思う。どの霊も自然発光的に輝いており、部屋の中は非常に明るかった。
その内私は、戻ってこのことを書き留めるように言われた。肉体に戻るまでのことは意識にないが、部屋で観察したことに関しては絶対に確信があり、それを素直に、そして誇張を交えずに綴ったつもりである」
ある日モーゼスが部屋を暗くしてベッドに横になると、例の鈴の音が聞こえ、続いて光球が幾つも見えた。と思っている内に意識を失い、次に目が覚めた時は真夜中だった。彼は自らの意志でなしに無理矢理に起されて、次のような記事を書いた。
「意識が消えていく時のことは何一つ記憶にない。が、暗さが次第に明るさを増し、徐々に美しい光景が展開し始めた。私が立っていたのは確か湖の縁で、その向こうに真緑の小高い丘が幾つも連なり、ほのかなモヤが漂っていた。分指揮はイタリヤにいる感じで、穏やかに澄み渡っていた。湖の水は波一つ立てず、見上げると雲一つない青空が広がっていた。
その岸辺を歩きながら景色の美しさに見惚れていると、一人の男性が近付いて来た。メンターだった。モリスンのような薄い生地で出来た真珠のような白さのロープを纏っていた。肩に濃いサファイアブルーのマントを掛け、頭部には幅の広い深紅の帯のように見える宝冠(コロネット)をつけており、それに黄金の飾り環が付いていた。あごひげを生やし、顔に慈悲と叡智を称えていた。
そのメンターが鋭い、きっぱりとした口調でこう述べた。〝ここは霊界です。これより霊界の一シーンをご覧に入れよう〟。そう言って向きを変え、私と共に湖に沿って歩いて行くと、山の麓の方へ行く道との分岐点に来た。その道に沿って小川が流れており、その向こうには真緑の草原が広がっていた。地上のように畑で仕切られておらず、見渡す限り緩やかな起伏が一面に広がっていた。
二人はイタリヤの田園でよく見かける邸宅に似た一軒の家に近付いた。地上では見かけない種類の木の繁みの中にある。木というよりは巨大なシダに近い。その玄関の前に様々な色彩と種類の花が咲き乱れている花園があった。メンターに促されて後について入り、大きなホールまで来ると、その中央に花とシダの植え込みがあり、その真ん中で噴水が盛んに水を散らせていた。ホール全体に素敵な香気が漂い、又、優しく慰めるような音楽が流れていた。
ホールの周りにはバルコニーのようなものが付いていて、そこから住居へ通じる出入口が幾つか見えた。壁面に模様が描かれていて、よく見ると私がそこに来るまでに通って来た景色の延長になっていた。天井はなく、雲一つない青空が見えていた。
見るもの全てが美しいので私が見惚れていると、出入口の一つのドアが開いて誰かが私の方へ近付いて来た。インペレーターだった。一度見たことがあるので直ぐに分かった。頭部には七つの尖頭の付いた王冠を頂き、その尖頭の先端に目も眩まんばかりの光輝を発する星が付いており、一つ一つ色が違っていた。表情には真剣さと仁愛と高貴さが満ち溢れていた。私が想像していたような年老いた感じはなく、敬虔さと厳粛さに優しさと威厳とが交じり合った風貌だった。全体に漂う雰囲気と物腰には堂々あたりを払う威風があった。
身体にはまばゆいばかりの白の長いローブを付けていた。あたかも露のしずくで出来ていて、それが朝日に照らされているみたいであった。そうした容姿全体の光輝があまりに強烈で、私にはじっと見つめていることが出来なかった。イエスが変容した時の姿もかくばかりかと思った。私は本能的に頭を垂れた。すると柔和でしかも真剣な声が不思議な、憂いを込めた抑揚で私の耳に囁いた-〝来るがよい。そなたの知人に会わせるとしよう。そしてその不信に満ちた心を癒して進ぜよう〟と。そう言って手を差し出した。見るとその手に宝石が散りばめてあり、内部から燐光性の光輝を発しているように思えた。
私が啞然として見つめていると、何とも言えない荘厳な調べが耳に入って来た。続いて私の直ぐ脇の出入口が開かれ、その調べが一番と近付いて聞こえ、長い行列の先頭を行く者の姿が目に入った。純白のローブを着ており、それを深紅の帯で締めていた。行列の全員がそうだった。帯の色だけが様々で、ローブは全員が純白だった。先頭の者は黄金の十字架を高々と掲げ持っており、頭部には〝聖〟の文字を記した飾り帯を巻いていた。その後を二列に並んだ聖歌隊が讃美歌を歌いながらやって来る。その行列が我々の前まで差し掛かると一旦停止し、インペレーターの方を向いて敬々しくお辞儀をした。インペレーターは私より二、三歩前でそれを受けた」
モーゼスはその行列の中に数人の見覚えのある顔を見つけた。指導霊のメンター、レクター、プルーデンス、フィロソファス、それにスエーデンボルグもいた。更に友人のウィルバーフォース、ジョン・キーブル、アーネスト・ニール等々の顔も見えた。長い長い行列が続いた後、その中から六人が進み出てモーゼスの方へ近付いた。その内の五人は地上で顔見知りの人物だったという。ホールを取り囲むバルコニーは既に一杯になっていた。モーゼスは最後にこう書いている。
「その全員がホールの中央のインペレーターの方へ顔を向けた。そこでインペレーターが敬々しく神への祈りを捧げた。と同時に再び厳かな讃美の調べが響き渡り、全員が行列を作って今来た方向へ戻って行った」
○右のシーンについてのインペレーターの解説(自動書記)
-あれは実際のシーンだったのでしょうか。
「今貴殿の目に映っている現実と同じく実際にあったことである。貴殿の霊が肉体から分離していたのである。その間僅かに一条の光によって繋がっていた。その光線は生命の流れそのものである」
-壁が少しも障害にならずに一瞬の内に光景が展開したように思います。その場がそのまま霊界になりました。
「霊界は肉眼には映じなくても貴殿のいる場所に存在している。霊眼が開けば霊の世界のものが見え、地上のものが見えなくなる」
-では、霊の界層は我々人間の身の回りに存在するのでしょうか。
「人間のいる場所にも周囲にも存在している。空間と呼んでいるところには幾つもの界層が互いに浸透し合って存在している。この度のことは貴殿に霊界の実在を見せんが為に行ったことで、私の要請を受けてメンターがあれだけの霊を第二界に集めてくれたのである。様々な界層の境涯から特別の目的の為に集まってもらったのである」
-全員が白のローブだったのに、一人私の友人だけが緑色の混ざった紫のローブを着ていましたが・・・・
「貴殿の目につくように、あのローブを着ていたのである。緑色はまだ完全に抜け切っていない地上的状態を表しており、紫色は進歩のしるしである。
我々の世界では全てが象徴的に出来ている。天井のないあの建物は何一つ向上心を妨げるもののない霊の住処の象徴である。美しい花と景色は愛の神が各自の宿命に注がれる慰めと歓びを表している。讃仰の行列は進歩的な霊の向上の行進を示している。先頭を行く者が掲げていた十字架は神聖さと自己犠牲の表象である。純白のローブは清浄の象徴であり、ハープの調べは不断の讃仰の象徴である。色とりどりの帯は各自の犠牲と、携わっている仕事を示し、頭部の王冠と飾り帯は霊格の象徴である」
-あなたはいつも私が拝見した通りの姿をしておられるのでしょうか。あのまばゆいばかりのローブは忘れようにも忘れられません。
「貴殿が見られたのは他の霊がいつも私を見ているのと同じ姿である。が、私はいつも同じ姿をしているわけではない。私が本来の界で纏う姿は貴殿には凝視出来ないであろう。現在の状態では無理であろう」
○自動書記をしている自分を観察
〝サークルメンバーの向上心の高さが、訪れる霊の性格を決める。出席者の精神的波動は霊界まで波及し、その程度によって集まる霊の程度も決まる。このことを全ての人に分かってもらえれば有り難いのであるが・・・・〟
これは直接書記によって綴られたインペレーターの通信で、書記役のレクターがそれを操作している様子をモーゼスが体外遊離の状態で観察した。この様子をモーゼスが次のように記述している。
「その日は一人で自分の部屋にいた。ふと書きたい衝動を感じて机に向かった。それ程強烈に感じたのはほぼ二ヶ月ぶりである。まず最初の部分を普通の自動書記で書いた。どうやらその時点で無意識状態に入ったようである。
気がつくと、自分の身体の側に立っている。例のノートを前にしてペンを右手にして座っている自分の側である。その様子と辺りの様子とを興味深く観察した。自分の身体が目の前にあり、その身体と自分(霊的身体)とが細い光の紐によって繋がっている。部屋の物的なものが悉く実体のない影のように見え、霊的なものが固くて実体があるように見えた。
その私の身体の直ぐ後ろにレクターが立っていた。片手を私の頭部にかざし、もう一方をペンを握っている私の右手にかざしている。更にインペレーターと、これまで永い間私に影響を及ぼしてきた霊が数人いた。その外に私に見覚えのない霊が出入りして、その様子を興味深そうに見守っていた。天井を突き抜けて柔らかい心地よい光が注がれており、時折青味を帯びた光線が何本か私の身体へ向けて照射されていた。その度に私の身体がギクリとし、震えを見せた。生命力が補給されていたのであろう。更に気が付くと、外の光も薄れて窓が暗く感じられた。従って部屋の中が明るく見えるのは霊的な光線のせいだった。私に語りかける霊の声が鮮明に聞こえる。人間の声を聞くのと非常によく似ているが、その響きは人間の声より優美で、遠くから聞こえてくるような感じがした。
インペレーターが、これは実際のシーンで、私に霊の働きぶりを見せる為に用意したと述べた。レクターが書いているのであるが、私の想像とは違って、私の手を操っているのではなく、又私の精神に働きかけているのでもなく、青い光線のようなものを直接ペンに当てているのだった。つまりその光線を通じて通信霊の意志が伝わり、それがペンを動かしているのだった。私の手は単なる道具に過ぎず、しかも必ずしも無くてはならぬものでもないことを示す為に、光線がそのペンを私の手から放し、用紙の上に立たせ、更に驚いたことに、それが用紙の上を動き始め、冒頭に掲げた文章を綴ったのである。出だしの部分を除いて、殆どが人間の手を使用せずに書かれたものである。インペレーターの話によると、人間の手を使用せずに直接書くのは容易なことではなく、その為綴りに幾つか誤りも見られるとのことだった。事実その通りだった。
その後私は、一体ここにいる(人種の異なる)霊はどうやって通じ合うのだろうという疑問を抱いた。するとその疑問に答えて数人の霊が代わる代わる違う言語で喋ってみせた。私にはさっぱり分からなかったが、インペレーターが通訳してくれた。その上更に霊がいかなる要領で思念の移入によって通じ合うかを実演してみせてくれた。又インペレーターは音も物的媒体なしに出すことが出来ることを説明してくれた。その時に例の鈴の音が聞こえ、又部屋中に霊妙な芳香が漂った。
その場にいた霊は皆前に見た時と同じ衣装をしていた。そして、周りの物体には何の関係もなく動き回っていた。その内の何人かは、私の身体が向かっている机を取り囲んでいた。私自身も白のローブに青の帯をしているように見えた。更に、どうやらその上に紫の布、一種のオーバーローブを羽織っていたように思う。どの霊も自然発光的に輝いており、部屋の中は非常に明るかった。
その内私は、戻ってこのことを書き留めるように言われた。肉体に戻るまでのことは意識にないが、部屋で観察したことに関しては絶対に確信があり、それを素直に、そして誇張を交えずに綴ったつもりである」