自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

ステッド『その天賦の心霊能力を以って死者と交通を開き得る人は地上に決して少しとせない。彼等はただその思念をそちらへ向けさえすればよい。さすればその求めるものは歓んでこれに応ずるのだ。それがとりも直さず幽明の交通である。求むるものは我々の立てる岸の此方にも沢山居る。それは当然過ぎる程当然の話ではないか。
 一旦幽界に移ったからとて、そのまま一切の関係が断たれ、一切の愛情が消えるものと、想像すべき理由がどこにあろう。もとより幽界に来れば、そこに新しき関係は出来る。が、古い関係は依然として強く残る。イヤ肉の煩いから解放されているだけそれだけその感は一層強い。試みに欲念から解放されたる心境のいかに深刻なるかを思え。浮かれたる感情はない。が、その代わりに一層強められたる情緒がある。嫉妬と所有欲とは最早跡方もない。それは肉体付属の相に過ぎない。我々を引き付けるものは「女」ではなくして単なる「個性」である。
 幽界に来てからも、異性と異性との間に尚一種の引着力があることは私にもよく判る。これは地上に於ける欲念の遺物であるのか、それとも其処に何等かの根強き理由が伏在するのか私にもよく判らない。恐らく陰陽の間には微妙なる反応が起こり、一方に欠ける所のものを他方が補うのではないかと思う。兎に角異性間の愛情-地上にありてはそれが男であり、女である為に発生するものと想像されていたが、幽界へ来てからも、そうした関係が依然として存在することは事実である』(三月十六日)