自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 霊界通信の種々相

 浅野和三郎訳

 パワーと語る

 『ツー・ワールズ』紙の記者であるジェームス・リー氏は、先般来現界並に霊界の名士を歴訪して、その会見記事を誌上に連載している。同誌の快諾を得て、その中の一部を紹介する。

 モリス夫人の支配霊パワーが、近代神霊主義の史上に、一新紀元を画すべき、重要な存在であると思考する人士は、ロンドン市内にも沢山居りますが、全く無理もありません。パワーの業績たるや、殆ど前代未聞と言ってよい位です。
 なので私はイの一番に、このパワーに白羽の矢を立て、その専用霊媒であるモリス夫人との会見を、保護者たるカウエン氏に申し込みました。一体パワーは面会が嫌いで、従来交霊会の席上に出現した事などは、ただの一度もない。で、モリス夫人の擁護圑の人々さえも、単に公開講演の壇上で、パワーに接するだけでありました。が、私の請求は、幸にもパワーの容るる所となり、或日の夕、ごく少数の仲間で、会見を遂げる段取りになりました。出席者はカウエン氏、モリス夫妻、及び私の四人だけで、場所はモリス夫人のフラットでした。
 賛美歌を唄っている中に、霊媒は見る見る人格が転換して行きました。その顔は長目に硬ばりその頭部は昂然と高く聳え、その両手は折り襟をつかみ、賛美歌が済んだ時には、パワーとして知られている他界の存在者が、もう我々の眼前に出現して、言葉を切らんとしていました。
 暫く沈黙-俄然として例の冴えた、凛々たる名調子が、室内の静寂を破りて響き出でました。
 『自分のみで勝手に喋るよりも』と、彼は語り始めました。『寧ろあなたの質問に答えることにしましょう。その方がドウも効果が多いらしい』
 待ってましたとばかりに、私はそれから早速質問を連発しました。
 問『では御言葉に甘えてお尋ねします。第一に、あなたの帯びておられる、特殊の使命が何であるか、先ずそれを伺いたい。つまり他の支配霊達の使命と、何れの点に於いて相違しているか・・・』
 答『自分がこの霊媒と接触を保つことになったのは、彼女の幼少の時代のことであるが、自分の役目は、最初から個人的のものではなく、多数の代表者としての資格を以って、人類全般に呼びかくのである。つまり地上の人類に向かって、一切の宗教の普遍性を説き、キリストの大神霊が、全ての大中心であることを、はっきり認識させたいのが眼目なのじゃ・・・』
 問『キリストの大神霊と申しますと?』
 答『キリストの大神霊とは、言うまでもなく太陽系の司宰神じゃ。キリストの神霊は、一切の宗教の教師達を通じて現れておられるが、必要とあれば、あなたの体にも現れることが可能である。現在スピリチュアリズムが、一般人士から歓迎されないのは、その教義の中に、キリストが除外されていると誤解されている為で、霊界から観ていると、その辺の消息がよく判るのである。イエスでも、マホメットでも、釈迦でも、実は皆キリスト神の使徒なのじゃ。人類一般に、キリストの大神霊に対する理解が出来るようになれば、現在の世界の不和争闘は、立派に中止されるのじゃが、容易にそこまで進まんので困る。いかに説いても、耳を塞いで聴こうとせんものがあるので困る・・・』
 問『あなたの使命は、他にもお有りでしょうな?』
 答『あります。神霊主義・・・・つまり死後生存の真理の普及に向かって、奮闘しつつある人達に、宗教的自由を確保してやりたいのじゃ。多くの人達は、まだ我々のやり方につきて、疑惑を有っている。殊に自分がパワーという仮名を用い、本名を名乗らんのが、不審に堪えぬらしい。が、本名を名乗らぬのには、そこに一応の理由がある。それは自分が衆意の代表者である為のみでなく、実は今回裁判事件の到来を、予知していた為でもあるのじゃ。『パワーと名乗るは一体誰か?』きっとその身元調査が始まるに相違ない。その際いかにこちらが努力して、その証拠を挙げようとも、賢(さか)しぶりたる当局者達が、大人しくこれを受け容れる筈は絶対にない。きっと何とか彼とか智慧を絞って、嘲笑軽侮の材料を見つけ出すに相違ない。そうなれば、却ってこの道に疵をつけることにもなる。かたがた自分は、あくまでパワーで押し通して、生前の本名を名乗ろうとはしなかった。つまり自分としては、これが予定の行動なのじゃ』
 問『今回の裁判が、不結果に終わることは、前以て御判りになっておりましたか?』
 答『そりァ最初から、霊界の上層の方々には、よく判っていた。地上の人々は、今回の不起訴を以って失敗と考え、失望の意を漏らしているようであるが、それが果たして失敗というべきものであろうか?地上の人達は、専ら物質的見地からのみ、この問題を考察するが、他にも色々の見地があることを忘れてはならぬ。成る程神霊主義が、当局者から認められなかったのは、通俗の意味からいえば、確かに失敗であろうが、この裁判の為に、神霊主義に対する一般の注意が、猛烈に喚起されたことからいえば、確かに成功と称してもよいのである。先ず神霊主義者に対する当局の不当の処置、それがどれだけ神霊党の為に、世間の同情を博することになったか知れぬ。次に各自がその信奉する教義の為に勇往邁進して、少しも権力と、僻見(へきけん)とに動かされなかった天晴の態度、それがどれだけ一般の尊敬を贏ち得たか知れぬ。あなた方は、今後ますます屈せず、撓まず、英国の有する最高法院にまで、事件を提出せねばならぬ。無論他の権力、他の半官とても、同様にこの道の前進を阻害しようとするのであろう。が、それはかねて覚悟の前であらねばならぬ。いかにあなた方が苦難に遭うとも、結局信教の自由は、立派にあなた方の手中に帰する時が来る・・・。今回の裁判事件は、永遠に信仰史上の標柱となるのである・・・。人間の法律には、やがて変動の時が来る。しかもそれは余り遠き未来の事ではない。無論この事件を、最高の法院までもたらすには、多大の経費を要するであろうが、しかしそれは是非とも敢行してもらいたい。それは単に信仰上の自由を獲得すべき、必要の手段であるのみならず、民衆の心に、この道に対する興味を巻き起こすべき、有用の手段でもある。いかに無関心な人達でも、スピリチュアリズムが、ここまで突き詰めたことをやるにつけては、必ずそこに、価値ある何物かが伏在するに相違ないと思うであろう』
 問『法廷で黒白を争うことにつきて、苦々しく考えるものがないでしょうか?』
 答『それは必ずある。あるに相違ない。法廷に於ける論難攻撃は、神の道に協ったやり方ではないと、そう思考するものが、相当多数存在することは事実であろう。が、それは楯の半面の見方に過ぎない。見よイエスは、二千年前に、そうしたやり方の模範を示したではないか!平和は時として、交戦の結果として見出される。この戦いは、ひとり人類のみの戦ではない。霊界にも多数の協力者が控えている。最後の勝利、最後の自由が獲得さるるのは、結局霊界の後援があるからじゃ』
 問『少しく今後の世の中につきて伺いたいもので・・・』
 答『今後の世の中は、スピリチュアリズムによりて救なわれるのじゃ。これより外に、済度の途は絶対にない。自分にはその事がよく判っているが、そう断言して憚らないのじゃ。無論一切の既成宗教は、人類進化の途上に於いて、それぞれの用途、それぞれの使命を有っていた。世の中には無用の長物は、ただの一つもない。悉く目的があったればこそ、そうしたものが発生もしているのじゃ。が、流転は万物の常で、あなた方は、今や新時代の開拓者たる位置を占めている。宗教は永遠に滅びはせぬが、ただ対抗戦に日もこれ足らざる既成宗教団体のやり方は、決して永くは続かない。全世界を通じて、ただ一つの宗教しかないという認識は、日ならずして到来する。そうしてその只一つの宗教というのは、天地自然の法則そのままを包括せる、スピリチュアリズムに外ならないのである。但しこの事は極めて大切な事柄であるから、誤解のなきように願いたい。宗教がただ一つという事は、既成宗教の全てを排斥することではない。スピリチュアリズムの大旗幟(きし)の下には仏教徒も、イスラム教徒も、又キリスト教徒も、悉く安住が出来る。各宗教の宗祖達は、それぞれの特長を以って、悉くスピリチュアリズムの網領中の部分々々を、実行実現すべく努めたのである。キリストの大神霊は、公平に各宗の祖師達を通じて、その教を垂れ給うたのである。ただ全てを総合し、全てを統一した時に、初めてキリストの大神霊の教の全体が窺われる・・・』
 問『霊媒が入神後援を行なうに当たり、実際どの程度まで、あなたのお力が加わりますか?』
 答『御承知の通り、霊媒の頭脳の取り扱いには、まだ多少の困難を感じているが、しかしその中に、自分の意思を発表する為には、少しの不便も感じなくなると思う』
 問『あなた方が、スピリチュアリズムに興味を感じた最初の動機は、何でありましたか?あなたは現世生活中から、この問題に関係されていたのですか?』
 答『イヤイヤ少しもそんな事はなかった。自分はただ宗教問題に興味を有っていたのじゃ・・・』
 問『すると死後に於いて初めて、スピリチュアリズムの問題に触れたので・・・?』
 答『帰幽後自分は依然として宗教とか、人生の目的とかいったような問題に、心を惹かれていました。その中自分は、天使ミカエルの麾下(きか)に属した。ミカエルの部下に属するということは、取りも直さず戦闘・・・真理の普及の為の戦闘に従事することで、その縁故から自分は、自然スピリチュアリズムの為奮闘することになった。ここに居らるる我等の兄弟(コウエン氏を指しつつ)とても、つまりは我等同人の見立てた人物なのじゃ。渾身の熱誠を込めて、側目も振らず猛進する、その意気組が気に入ったのじゃ。一旦真理の光に接するが最後、この人の前進を立ち塞ぐべき何物もない。この人の性格は、本人自身よりも、却って自分達が一層よく知っている。この人には真理の為、道の為に、驀地(ばくち)に進む熱がある。火がある。現在自分が使用する二つの道具-霊媒と霊媒の保護者-の性格に、多大の相違があるのを見て、不思議に思うものがあるかも知れぬが、少しく考えれば、少しも不思議ではない。一長一短互に相補いつつ、こちらの仕事を進めるのじゃ』
 問『心霊界には、近き将来に於いて、何ぞ重要な進歩が起こりますか?』
 答『起こります。・・・・つまりこれまでにも幾回か述べた通り、一つの機械が発明され、それによりて顕幽両界の間の交通が、現在よりも一層簡単化するのじゃ。それが出来れば、人体を借りずとも通信が出来る・・・』
 問『パワーさん、それは又飛んでもないお話ですナ。すると人間の霊媒能力、全然不用になりますのですナ』
 答『右の機械というのは、丁度現在の無線と同様に使用さるるのじゃ。尚その外にも、まだ新しい現象が起こります。外でもない、それは人間の第六感が、行く行く発達を遂げることで、その暁に於いては、霊界の存在は問題ではなくなる・・・。つまり霊界は最早理論ではなくして、事実と化するのじゃ。現在人間は五感で限られているが、今後数代を重ねる中に、別にモ一つ感覚が加わるのである』
 問『イヤ色々有難う存じました。終わりに臨み、たった一つ伺っておきたい。もしもあなたが、これきりで通信を打ち切るという場合に臨んだら、人間界に対するあなたの最後の通信は、どんなものでありますか?』
 答『そう改まって最後の通信は何かと訊かれると、自分もちょっとまごつきます。・・・・格別劇的な返答も出ませんナ・・・。イヤありますあります。(何事を措きても、爾等先ず神の王国を求めよ)-自分が人間界に向かって放送する最後の通信は、先ずこの言葉でしょうナ』
 それからパワーは霊媒に対して、あくまで心を平静に持つようにと、色々懇切な注意を与えることを忘れませんでした。やがて終わりの祈祷を述べ終わると、繊弱(せんじゃく)な霊媒の全身に、ブルブル!と戦慄が起こり、それっきりパワーは体から離れ去りて、後には日頃のつつましやかな、モリス夫人が残りました。
 もしもこんな不思議現象が、寺院の内にでも起こったなら、全キリスト教を震駭(しんがい)せしめたでありましょうが、神霊論者の間で、こんな事は尋常茶飯事に過ぎません。私達は平気な顔をして、それから晩餐の食卓に就いたのでした。(ジェームス・リー)