自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 遺像又は殻とは死の直後に於いて、一時帰幽者を包む生前の形見で、それはあたかも着古した衣服に比すべきである。やがて彼はそれを脱き棄てるが、殻は依然として幽界に留まるから、彼はこれを拾い上げて再び着用することも出来るのである。
 世の中でしばしば耳にする幽霊談-あれは大体これ等の遺像の仕業に外ならぬものと思えば大過ないのである。つまり生前に於いて巻き起こされた意念の名残が動因となりて、これ等の殻を躍らせるのである。例えば急死を遂げた乱暴者、宗教戦に一生を捧げた昔の僧尼、屠殺業者、又は殺人犯などと言ったもの共の霊魂が、何かの機会にふと生前の回顧に耽ると、たとえその観念はほんの一時的の極めて微弱なものであっても、過去世の因縁の絆に繋がれている為に、よくこれ等の遺像に感応して一脈の生気を与え、ノソノソと昔馴染みの建物、又は土地の辺を徘徊させるのである。
 但しここでくれぐれも銘記すべきは、自我の全体が、決してこの覚束なき昔の殻の中に舞い戻って来て、無意味な行動をとらせるものでない事である。この種の幽霊は、言わばただ昔の衣装が、ちょっとした幽的思念の刺激によりて、人騒がせの曲舞を演ずるだけのものである。
 無論いかなる規則にも多少の例外はあるもので、一切の幽霊現象が、ただ一つの規則の中に包まれはせぬであろう。しかし普通の幽霊現象の大部分は、結局強烈なる記憶の糸に引かれた昔の一念が、一旦放棄した自分の遺像を媒体として、無意味に現れるものに過ぎないことは確かである。
 (評釈)幽霊現象は、日本にも西洋にも数々ある。それは決して幻錯覚の産物でも何でもない。が、それ等の幽霊の多くは、ただ無意味に出没行動するだけで、一向面白くも可笑しくもない。これに対して恐怖心を起こして、大騒ぎを演ずるは実に愚の極みである。マイヤースの説明は、この点につきてほぼ遺憾なきに近い。幽霊恐怖患者は大いに安心して可なりである。但し幽霊などに出られては、迷惑だと思うものがあらば、幽界の政庁に頼んで霊的駆除法を講じてもらえばよい。求むるに道を以ってすれば、それしきの事は朝飯前の仕事である。