自殺ダメ


 [霊界通信 新樹の通信](浅野和三郎著)より

 (自殺ダメ管理人よりの注意 この文章はまるきり古い文体及び現代では使用しないような漢字が使われている箇所が多数あり、また振り仮名もないので、私としても、こうして文章入力に悪戦苦闘しておる次第です。それ故、あまりにも難しい部分は現代風に変えております。[例 涙がホロホロ零る→涙がホロホロ落ちる]しかし、文章全体の雰囲気はなるべく壊さないようにしています。その点、ご了承ください。また、言葉の意味の変換ミスがあるかもしれませんが、その点もどうかご了承ください)

 前回に引き続き、まだ色々質問したいことがありましたので、私は重ねて十月十五日午後八時半頃新樹を呼び出し、乃木さんと私との間の中継役を命じました。何回も繰り返している中に、新樹も段々こうした仕事に興味をもって来たらしく、この日も大変に歓び勇んで、この面倒な、同時に相当気骨の折れる任務に就いてくれたのでありました-
 問「これは前回にもお尋ねしたことでありますが、お墓とお宮との区別につきて、あなたがそちらの世界で、実地に御覧になられるところを、忌憚なくお漏らしして頂きたい。ドウも私の観るところによれば、現代の日本国民は、この点に関して頗る無定見・・・イヤ寧ろ全然無知識に近く甚だ辻褄の合わぬことを、一向平気でやりつつあるように考えられますが・・・」
 答「それにつきては、先般あなたから訊ねられて、ワシもよく考えてみましたが、墓というものはあれは人間界のみのもので、つまり遺骸を埋葬する印の場所であります。こちらの世界に墓というものは全然ない。又あるべき筋の物でもないと思います。然るにお宮は霊魂の通うところ・・・つまり顕幽間の交通事務所とでも言うべき性質のものであるから、それは人間の世界にあると同時に、又こちらの世界にもある。もっともこちらの世界のお宮というものは、ごく質素な、ホンの形ばかりのもので、とても人間の世界に見るような、あんな華美な建物ではありません。畏れ多いことであるが、伊勢の大廟にしても、又明治神宮にしても、こちらのお宮は、何れも勿体無い程御質素であります」
 問「して見ますと、人間が矢鱈に立派な墓を築くなどは、あれは一向詰まらん事でございますナ?」
 答「勿論、ワシとしてはそう思います。いかに立派な墓を築いてくれても、こちらに必要がなければ、一向つまらないものでナ・・・。立派な墓は、ただ華美を好む現世の人達を歓ばせるだけのものであります-と言って、勿論ワシは、全然墓を築くのが悪いというのではありません。遺族や友人が墓へ詣って、名でも呼んでくだされば、それはこちらにも感じますから、死んだ人の目標として、質素な墓を築くことは、甚だ結構なことでありましょう。ワシはただ、あまりに華美なことをしてもらいたくないと言うまでで・・・」
 問「既にお墓とお宮とが、そんな具合に相違したものであるとすれば、お宮詣りと、お墓詣りとをごっちゃにすることは、いかがなものでしょう?」
 答「日本には、昔からその辺の区別が、立派についている筈じゃと思うが・・・」
 問「ところが近頃、その区別が乱れて来ていはせぬかと考えられるのであります。近年大臣とか、大将とかいう歴々の人達は、何かの機会に、伊勢の大廟へ参拝したついでをもって、よく桃山の御陵へお詣りをされるようです。これにつきて、乃木さんの腹蔵なき御意見を承りたいと思います」
 答「桃山の御陵というのは、自分は勿論少しも知りませぬが、こちらでほのかに承る所によれば、大分御立派なものじゃそうナ。当局も国民一般の願望に動かされて、自然そうしたことになったであろうと思いますが、御陵というものは、結局御遺骸を葬った、ただのお印に過ぎないから、陛下の御神霊をお祀りした明治神宮とは、性質が全然違います。まして大廟と御一緒にすべき性質のものでないことは、勿論の事であります。若しも日本の国民が、その点に関していささかも取り違えるようなことがあっては、甚だ面白くないことと思われますから、一つこの機会を以って、あなたから世間一般に知らせて頂きましょう-こうした間違いの起こるのも、つまりは神というものを本当に知っているものが、段々少なくなった故でありましょう。ワシの生きている時分にも、精神作興とか、敬神敬祖とかいう言葉がよく使われたものでありますが、ドウも兎角上滑りがして形式に流れ、深いところまで徹して居ぬ嫌いがあったように思います。あなたの力で、これをもう少し何とかして頂きたい・・・」
 問「私のような微力なものに、果たしてどれだけの効果を挙げ得るか、甚だ心許なく感じますが、兎に角出来るだけのことはする覚悟でおります。乃木さんもドウかそちらの世界から御授けして頂きます」
 答「いかにもそれは承知いたしました。しかし何分にも、まだ一向修行が足りない身であるし-それに自分は戦争の事やら何やらで、多くの兵士を殺し、他人に合わせる顔がないので、成るべく表面に引き出してもらいたくないのじゃが・・・」
 この日の問答の主要なる部分は、大体右に掲げた通りでした。乃木さんのいつもながらの謙遜な態度は、一方ならず私を恐縮せしめ、「やはり乃木さんは偉いものだ」と痛感した事でした。