自殺ダメ



 [ベールの彼方の生活(一)]P193より抜粋

 1913年10月30日 木曜日

 その手をご自分の頭部へ当ててみて下さい。そうすると通信が伝わり易くなり、あなたも理解しやすくなります。

-こうですか。

 そうです。あなたと私達双方にとって都合がいいのです。

-どういう具合に。

 私からあなたへ向けて一本の磁気の流れがあります。今言った通りにして下されば、その磁気の散逸が防げるのです。

-さっぱり判りません。

 そうかも知れません。あなたにはまだまだ知って頂かねばならないことが沢山あります。今述べたこともその一つです。それ一つを取り上げれば些細なことかも知れませんが、それなりに大切なのです。成功を支えるのは往々にしてそうした些細なことの積み重ねであることがあります。
 ところで、私達はこうした通信で採用する方法について所詮あなたに完全な理解を期待するのは無理ですから、あまり細かいことは言うつもりはありません。でも、このことだけは述べておきたいのです。つまり私達が使用するエネルギーはやはり〝磁気〟と呼ぶのが一番適切であること、そしてその磁気に乗って私達のバイブレーションがあなたの精神に伝わるということです。そうやって手を当てがって下さると、それが磁石と貯蔵庫の二つの役目をしてくれて、私達は助かるのです。でも、この問題はこれ位にして、もっと判り易い話題に移りましょう。
 この〝常夏の国〟では私達は死んでこちらへやって来る人と後に残された人の双方の面倒を見るように努力しております。これは本当に切り離せない密接な関係があります。と言うのも、こちらへ来た人は後に残した者のことで悩み、背後霊がちゃんと面倒を見てくれていることを知るまで進歩が阻害されるケースが多いのです。そこで私達は度々地上圏まで出掛けることになるのです。
 先週も私達のもとに夫と三人の幼い子供を残して死亡した女性をお預かりしました。そして例によって是非地上へ行って四人のその後の様子を見たいとせがむのです。あまり、せがまれるので、やむを得ず私達は婦人を地上へ案内しました。着いた時は夕方で、これから夕食が始まるところでした。ご主人は仕事から帰って来たばかりで、これからお子さんに食事をさせて寝させようと忙しそうにしておりました。いよいよ四人が感じのよい台所のテーブルを囲み、お父さんが長女にお祈りをさせています。その子はこう祈りました。〝私達とお母さんの為に食事を用意して下さったことをキリストの御名において神に感謝します〟と。
 その様子を見ていた婦人は思わずその子の所へ近付き頭髪に手を当てて呼びかけましたが、何の反応もありません。当惑するのを見て私達は婦人を引き止め、少し待つように申しました。暫く沈黙が続きました。その間、長女と父親の脳裏に婦人のことが去来しています。すると長女の方が口を開いてこう言いました-「お父さん、母さんは私達が今こうしているのを知ってるかしら?それからリズおばさんのことも」
 「さあ、よく判らないけど、きっと知ってると思うよ。この二、三日、母さんがとても心配してるような、何だか悲しい気持がしてならないからね。リズおばさんの念かも知れないけどね」
 「だったら私達をおばさんとこに預けないでちょうだい。○○婦人が赤ちゃんの面倒をみてくれるし、私だって学校から帰ったら家事のお手伝いをするわ。そしたら行かなくて済むでしょ」
 「行きたくないのだね?」
 「私は行きたくないわ。赤ちゃんとシッシーは行くでしょうけど、私はイヤよ」
 「成る程。父さんもよく考えておこう。だから心配しないで。みんなで何とか上手くやって行けそうだね」
 「それに母さんだってあの世から助けてくれるわ。それに天使様も。だって母さんはもう天使様とお話が出来るのでしょ?お願いしたらきっと助けてくれるわ」
 父親はそれ以上何も喋りませんでした。が、私達にはその心の中が見えます。そしてこんなことを考えているのが読み取れました-〝こんな小さな子供がそれ程の信仰を持っているからには自分もせめて同じ位の信念は持つべきだ〟と。それから次第に考えが固まり、とにかく今のままでやってみようと決心しました。元々子供を手放すのは父親も本意ではなく、引き止める為の言い訳ならいくらでもあるじゃないか、と思ったのでした。
 こうした様子を見ただけで母親が慰めを得たとはとても言い切れません。が、地上を後にしながら私達はその婦人に、あの子の信仰が父親の信念によって増強されたら私達が援助して行く上で強力な手掛かりとなりますよ、と言ってあげました。そうでも言っておかないと、今回の私達が取った手段が間違っていたことになるのです。
 帰るとその経過を女性天使に報告しました。すると即座に家族が別れ別れにならぬように処置が取られ、その母親には、これから一心に向上を心掛け、早く家族の背後霊として働けるようになりなさいとのお達しがありました。それからというもの、その婦人に変化が見られるようになりました。与えられた仕事に一心に励むようになったのです。私達の霊団に加わって一緒に地上へ赴き、彼女なりの仕事が出来るようになる日もそう遠くはないでしょう。
 この話はこれ位にして、もう一つ別のケースを紹介してみましょう。先頃私達のコロニーへ一人の男性がやって来ました。この方も最近地上を去ったばかりです。自分の気に入った土地を求めてさ迷い歩き、私達の所がどうやら気に入ったらしいのです。ずっと一人ぽっちだったのではありません。少し離れた所からいつも指導霊が見守っていて、いつでも指導する用意をしていたのです。この男性も私達が時折見かける複雑な性格の持ち主で、非常に多くの善性と明るい面を持ち合わせていながら、自分でもどうにもならない歪んだ性格の為に、それが発達を阻害されているのでした。
 その男性がある時私達のホームのある丘からかなり離れた土地で別のホームの方に呼び止められました。その顔に複雑な表情を見て取ったからです。実は出会った時点で直ぐに、少し離れた位置にいた指導霊から、合図によってその男性の問題点についての情報が伝わり、その方は即座にそれを心得て優しく話しかけました。
 「この土地にはあまり馴染みがない方のようにお見受けしますが、何かお困りですか」
 「お言葉は有り難いのですが、別に困っておりません」
 「あなたが抱えておられる悩みはこの土地で解決出来るかも知れませんよ。全部というわけにはいかないでしょうけど」
 「私がどんな悩みを抱えているかご存知ないでしょう」
 「いや、少しは判りますよ。こちらで一人も知り合いに会わないことで変に思っておられるのでしょう。そして何故だろうと」
 「確かにその通りです」
 「でも、ちゃんとお会いになってるのですよ」
 「会ったことは一度もありません。一体どこにいるのだろうと思っているのです。実に不思議なのです。あの世へ行けば真っ先に知人が迎えてくれるものと思っておりました。どうも納得がいきません」
 「でも、お会いになってますよ」
 「知った人間には一人も会っておりませんけど」
 「確かにあなたはお会いになっていませんが、相手はちゃんとあなたにお会いしています。あなたが気付かないだけで、いや、気付こうとなさらないだけです」
 「何のことだか、よく判りませんね」
 「こういうことです。実はあなたが地上からこちらへ来て直ぐから、あなたの知人が面倒を見ているのです。ところがあなたの心は一面中々良いところもあり開かれた面もあるのですが、他方、非常に頑なで無闇に強情なところがあります。あなたの目に知人の姿が映らないのはそこに原因があるのです」
 男は暫くその方を疑い深い目でじっと見つめておりました。そしてついに、どもりながらもこう言いました。
 「じゃ、私のどこがいけないのでしょう。会う人は皆優しく幸せそうに見えるのに、私はどの人とも深いお付き合いが出来ないし落ち着ける場所もありません。私のどこがいけないのでしょう」
 「まず第一に反省しなくてはいけないのは、あなたの考えることが必ずしも正しくないということです。ちなみに一つ二つあなたの誤った考えを指摘してみましょう。一つは、あなたはこの世界を善人だけの世界か、さもなくば悪人だけの世界と考えたがりますが、それは間違いです。地上と似たり寄ったりで、善性もあれば邪悪性も秘めているのです。それからもう一つ。数年前に他界された奥さんは、あなたがこれから事情を正しく理解した暁に落ち着かれる界よりも、もっと高い界におられます。地上時代は知的にはあなたに敵いませんでしたし、今でも敵わないでしょう。ところが総合的に評価すると霊格はあなたの方が低いのです。これがあなたが認めなくてはならない第二の点です。心底から認めなくてはダメです。あなたのお顔を拝見していると、まだ認めてないようですね。でも、まずそれを認めないと向上は望めません。認められるようになったら、その時は多分奥さんと連絡が取れるようになるでしょう。今のところまだそれは不可能です」
 男の目が涙で曇って来ました。でも笑顔を作りながら、どこか淋しげに言いました。
 「どうやらあなたは預言者でいらっしゃるようですね」
 「まさしくその通り。そこで、あなたが認めなければならない三つ目のことを申し上げましょう。それはこういうことです。あなたの直ぐ近くにあなたをずっと見守り救いの手を差し延べようと待機している方がいるということです。その方は私と同じく預言者です。先覚者と言った方がよいかも知れません。さっき申し上げたことは全部その方が私に伝達してくれて、それを私が述べたにすぎません」
 それを聞いて男の顔に深刻な表情が見えてきました。何かを得ようとしきりに思い詰めておりましたが、やがてこう聞きました。
 「結局私は虚栄心が強いということでしょうか」
 「その通り。それもいささかやっかいなタチの虚栄心です。あなたには優しい面もあり謙虚でもあり、愛念が無いわけではありません。この愛こそ何にも勝る力です。ところがその心とは裏腹にあなたの精神構造の中に一種の強情さがあり、それは是非とも柔らげなくてはなりません。言ってみれば精神的轍(わだち)の中にはまり込んだようなもので、一刻も早くそこから脱け出て、もっと拘泥を捨て、自由に見渡さなくてはいけません。そうしないといつまでも〝見えているのに見えない〟という矛盾と逆説の状態が続きます。つまり、あるものは良く見えるのにあるものはさっぱり見えないという状態です。証拠を突きつけられて自説を改めるということは決して人間的弱さの証明でも堕落でもなく、それこそ正直さの証明であることを知らなくてはいけません。もう一つ付け加えておきましょう。今言ったように、その強情さはあなたの精神構造に巣食っているのであって、もしそれが霊的本質つまり魂そのものがそうであったなら、こんなに明るい境涯には居られず、あの丘の向こう側-ずっとずっと向こうにある薄暗い世界に落ち着くところでした。以上、私なりにあなたの問題を指摘して差し上げました。後は別の人にお任せしましょう」
 「どなたです?」
 「さっきお話した人ですよ。あなたの面倒を見ておられる方」
 「どこにおられるのですか」
 「ちょっとお待ちなさい。直ぐに来られますから」
 そこで合図が送られ、次の瞬間にはもう直ぐ側に立っていたのですが、その男には見えません。
 「さあ、お出でになりましたよ。何でもお尋ねしなさい」
 男は疑念と不安の表情で言いました-「どうか教えて下さい。ここにおられるのであれば、なぜ私に見えないのでしょうか」
 「さっきも言った通りあなたの精神構造に見えなくさせるものが潜んでいるからです。あなたがある面において盲目であるという私の言葉を信じますか」
 「私は物がよく見えています。非常にはっきり見えますし、田園風景も極めて自然で美しいです。その点では私は盲目ではありません。ですが、同じく実質的なもので私に見えるものが他にもあるかも知れないと考え始めております。多分それもその内見えるようになるでしょう。でも・・・」
 「お待ちなさい。その〝でも〟は止めなさい。さあ、ここをよく見なさい。あなたの指導霊の手を私が握ってみせますよ」
 そう言って指導霊の右手を取り、「さ、よく見なさい。何か見えますか」と聞きましたが、男にはまだ見えません。ただ何やら透明なものが見えるような気がするだけで、実体があるのか無いのかよく分かりませんでした。
 「じゃ、ご自分の手で握ってみなさい。さ、私の手から取ってごらんなさい」
 そう言われて男は手を差し出し、指導霊の手を取りました。そしてその瞬間、どっと泣き崩れました。
 男にそうした行為が出来たということ、そして指導霊の手を見、更にそれに触れてみることが出来たということは、男がその段階まで進化した人間であったことを意味します。手を出しなさいと言われた時は既に、それまでのやり取りの間に男がそれが出来るまで向上していたということで、早速この報いが得られたわけです。指導霊は暫くの間男の手をしっかりと握り締めておりましたが、その内男の目に指導霊の姿が段々見え始め、且つ、手の感触も強くなって行きました。それまで相手をされた方はそれを見てその場を去りました。男は間もなく指導霊が見えるだけでなく語り合うことも出来るようになったことでしょう。そして今はきっと着々と霊力を身に付けて行きつつあることでしょう。
 ルビーがあなた方両親にこんなメッセージを伝えて欲しいとのことです-「お父さん、お母さん、地上の親しい人が良い行いや親切なことをしたり、良いことを考えたりお話したりすることが全部映像になってこちらへ伝わって来るのは本当です。私達はそれを使って部屋を美しく飾ったりします。リーンちゃんがあのお花で部屋を飾るのと一緒よ」と。
 では神の祝福を。お寝みなさい。

 <原著者ノート>最後のルビーからのメッセージの中の〝あのお花〟というのは、学校で寮生活をしている姉のリーンに私達が時折送り届けている花のことのようである。以上で母からのメッセージは全部終了し、この後通信は私の守護霊であるザブディエルに引き継がれる。それが第二巻「天界の高地」篇である。

 オーエンの母の霊からの通信