自殺ダメ



 [ベールの彼方の生活(一)]P179より抜粋

 1913年10月27日 月曜日

 今夜も又天界の生活を取りあげて、こちらの境涯で体験する神の愛と恵みについてもう少しお伝え出来ればと思います。私達のホームは樹木のよく繁った丘の中腹に広がる空地に建っております。私がお世話している患者-ほんとに患者なのです-は明りの乏しい、言わば闇が魂に忍び込むような低地での苦しい体験の後にここへ連れて来られ、安らぎと静けさの中で介抱されております。来た時は大なり小なり疲労し衰弱しておりますので、ここから向上して行けるようになるのは、余程体力を回復してからのことです。
 あなたはここでの介抱の仕方を知りたいのではないかと思いますので申し上げましょう。これを煎じ詰めれば〝愛〟の一語に尽きましょう。それが私達の指導原理なのです。と言うことは、私達は罪を裁かず、罰せず、ただ愛をもって導いてあげるということですから、その事実を知った患者の中にはとても有り難く思う人がいます。ところが実はそう思うことが原因となって、却ってそこにいたたまれなくなるものなのです。
 例えばこんな話があります。最近のことですが、患者の一人が庭を歩いている時に、私達霊団の最高指導霊であられる女性天使を見かけました。その人はつい目を逸らして脇の道へ折れようとしました。怖いのではありません。畏れ多い気がしたのです。すると天使様の方から近付いてきて優しい声を掛けられました。話をしてみると意外に気楽に話せるものですから、それまで疑問に思っていたことを尋ねる気になりました。
 「審判者はどこにおられるのでしょうか。そして最後の審判はいつ行なわれるのでしょうか。そのことを思うといつも身震いがするのです。私のような人間はさぞ酷い罰を言いつけられるに決まっているからです。どうせなら早く知って覚悟を決めたいと思うのです」
 この問に天使様はこう仰いました。
 「よくお聞きになられました。あなたの審判はあなたが審判を望まれた時に始まるのです。今のあなたのお言葉から察するに、もうそれは始まっております。ご自分の過去が罰を受けるに値すると白状されたからです。それが審判の第一歩なのです。それから、審判者はどこに居るのかとお尋ねですが、それ、そこにおられます。あなたご自身ですよ。あなた自身が罰を与えるのです。これまでの生活を総点検して、自分の自由意志によってそれを行なうのです。一つ一つ勇気をもって懺悔する毎に向上して行きます。ここにお出でになるまでのあの暗黒界での生活によって、あなたは既に多くの罰を受けておられます。確かにあれは恐ろしいものでした。しかしもうそれも過去のものとなり、これからの辛抱にはあんな恐ろしさは伴いません。もう恐怖心とはおさらばなさらないといけません。但し苦痛は伴うでしょう。大変辛い思いをなさることと思います。ですがその苦痛の中にあっても神の導きを感じるようになり、正しい道を進めば進む程一層それを強く感じるようになるでしょう」

 「でも報酬を与えたり罰したりする大審判者つまりキリスト神の玉座が見当たらないのはおかしいと思うのです」

 「成る程、玉座ですか。それならいずれご覧になれる日が来るでしょう。でもまだまだです。審判というのはあなたがお考えになっているものとは大分違います。でも怖がる必要はありません。進歩するにつれて神の偉大な愛に気付き、より深く理解して行かれます」
 これは実はこちらへ来る人の多くを戸惑わせる問題のようです。悪いことをしているので、どうせ神のお𠮟りを受けて拷問に掛けられるものと思い込んでいるので、そんな気配がないことに却って戸惑いを感じるのです。
 又、自分は立派なことをしてきたと思い込んでいる人が、置かれた環境の低さ-時には惨めな程低い環境にとても落胆することがよくあります。内心では一気にキリスト神の御前に召されて〝よくぞやってくれた〟とお褒めの言葉でも頂戴するものと思い込んでいたからです。もう、それはそれは、こちらへ来てからは意外なことばかりです。喜ぶ人もおれば悲しむ人もいるわけです。
 最近こんな人を見かけました。この方は地上では大変博学な文筆家で、何冊もの書物を出版した人ですが、地上でガス工場の釜焚きをしていた青年に話しかけ、色々と教わっているところでした。楽しそうな様子なのです。と言うのも、その人は謙虚さを少しずつ学んでいるところだったのです。ですがこの人のいけないところは、そんな行きずりの若造を相手に教えを乞うのは苦にならないのに、既にこちらへ来ている筈のかつての知人の所へ赴いて地上での過ちや知的な自惚れを告白することはしたくないのです。しかし、いずれはしなければならないことです。青年との関係はその為の準備段階なのです。しかし同時に、私達の目にはその人の過去も現在も丸見えであり、特に現在の環境が非常に低いことが明白なのに、本人が相変わらず内心の自惚れは他人には知られてないと思い続けているのが哀れに思えてなりません。こういう人には指導霊も大変な根気がいります。が、それが又指導霊にとっての修業でもあるのです。
 ここで地上の心霊家を悩ます問題を説明しておきましょう。問題というのは、心霊上の問題点についてなぜ霊界からもっと情報を提供してくれないかということです。
 これには是非理解して頂かねばならない事情があるのです。こうして地上圏まで降りて来ますと、私達は既に本来の私達ではなく、地上特有の条件による制約を受けます。その制約が私達には既に馴染めなくなっております。例えば地上を支配している各種の法則に従って仕事を進めざるを得ません。そうしないとメッセージを伝えることも物理的に演出して見せてあげることも出来ません。実験会では出席者がある特定の霊の姿を見せて欲しいとか話を交わしたいとか、或いはその霊にまつわる証拠について質問したいと思っていることは判っても、それに応じるには私達は非常に制約された条件下に置かれています。例えばその出席者の有する特殊な霊力を活用しなければならないのですが、こちらが必要とする肝心なものは閉じられたままで、結局その人が提供してくれるものだけで間に合わせなくてはならないことになりますが、それが往々にして十分でないのです。
 更に、その人の意念と私達の意念とが言わば空中衝突をして混乱を生じたり、完全に実験が台無しになったりすることもあります。なるべくなら私達を信頼して私達の思い通りにやらせて欲しいのです。その後で私達が何を伝えんとしているかを批判的態度で検討して下さればいいのです。もし特別に情報が欲しいと思われる問題点があれば、それを日常生活におけるのと同じように、時折心の中に宿して頂けばそれでよろしい。私達がそれを察知して検討し、もし可能性があり有益でもあり筋が通っていると判断すれば、チャンスと手段を見つけて、遅かれ早かれ、それに応じてあげます。実験その他、何らかの形で私達が側に来ている時に要求をお出しになるのであれば、強要せずに単に想念を抱くだけでよろしい。後は私達に任せて下さい。出来るだけのことをして差し上げます。しつこく要求してはいけません。私達はお役に立ちたいという意図しかないのですから、あなたの為になることなら出来る限りのことをしていると信じて下さい。
 丁度その好い例があります。あなたはずっとルビーのことを知りたいと思っておられました。それをあなたがしつこく要求することがなかったので、私達は存分に準備することが出来たのです。これからその様子をお伝えしましょう。
 ルビーは今とても幸せです。そして与えられた仕事も中々上手にこなせるようになりました。つい最近会ったばかりで、もう直ぐあなたやローズにお話をしに行けそうだと言っておりました。なぜ今夜来れないのかと思っておられるようですが、あの子には他にすることがありますし、私達は私達で計画に沿って果たさねばならないことがあります。そう、こんなことも言っておりました-「お父さんに伝えてちょうだい。お父さんが教会でお説教をしている時の言葉があたし達の所まで届けられて、その中の幾つかを取り上げてみんなで討論し合うことがあるって。地上で学べなかったことについてのお話が入ってるからなの」と。

-ちょっと考えられないことですね。本当ですか。

 おやおや、これはまた異なことを。本当ですか、とは一体あなたはこちらの子供をどんな風に考えておいでですか。いいですか、幼くしてこちらへ来た者はまずこの新しい世界の生活と環境について学び、それが終わってから今度は地球と地上生活について少しずつ勉強することを許されます。そしていずれは完全な知識を身に付けないといけないのです。その為に、慎重を期しつつあらゆる手段を活用することになります。父親の説教を聞いて学ぶこと以上に素晴らしい方法があるでしょうか。これ以上申しません。これだけ言えば十分の筈です。常識的にお考えになることです。少しは精神構造が啓発されるでしょう。

-でも、もしもあなたの仰る通りだと、人間はうっかり他人にお説教など出来なくなります。それと、どうか気を悪くなさらないで下さい。

 ご心配なく。機嫌を損ねてなんかいませんよ。実はあなたの精神に少なくとも死後の環境とその自然さについて、かなりの理解が見られるようになって有り難く思っていたのです。ところが、愚かしい漠然とした死後の観念をさらけ出すような、あのような考えを突如として出されたので驚いたのです。
 でも、他人に説教する際はよくよく慎重であらねばならないと思われたのは誠に結構なことです。でも、このことはあなた一人に限ったことではありません。全ての人間がそうあらねばならないことですし、全ての人間が自分の思念と言葉と行為に慎重であらねばなりません。こちらではそれが悉く知れてしまうのです。でも一つだけ安心して頂けることがあります。万が一良からぬこと、品のないことをうっかり考えたり口にしたりした時は、そういうものはルビーがいるような境涯へは届かないように配慮されております。ですからそちらではどうぞ気楽に考えて下さい。思いのままを遠慮なくお喋りになることです。こちらの世界では誠意さえあれば、たとえその教えが間違っていても、間違いを恐れて黙っているよりは歓迎されるのです。
 さ、お寝みなさい。皆さんによろしく。神の祝福を。そして神が常にあなたに勇気と忠誠心をお与え下さいますように。

 オーエンの母親の霊からの通信