自殺ダメ



 それから吾輩は守護神に導かれて市外に出た。途中幾つかの町や村を過ぎ、とうとう一つの山脈の麓に達した。吾輩はその山を喘ぎ喘ぎ登って行ったが、登るにつれて道路はますます険阻になった。やっとのことでその頂上に達して見ると、前面の直ぐ近い所に休憩所が建っていた。それは今までの何れよりも大きく、美しく、巍巍(ぎぎ)として高く空中に聳(そび)え、そして最高層からは一大光明が赫灼(かくやく)として闇中を照らした。
 しかし最後の一と骨折らずには地獄を脱け出ることは許されなかった。吾輩は俄然一群の乱民に包囲され其処の絶壁から下に突き落とされんとしたのである。
 が、吾輩ももうこれしきのことでは容易に勇気を失わない。満腔(まんこう)の念力を集中して打ちかかる者共を右に左に投げつけた。同時に吾輩の守護神が全身から光明を迸(ほとばし)らしつつ側に立っていてくださるので、とうとう悪霊共は恐れ慄(おのの)きつつ敗走した。
 光は吾輩にとりても非常な苦痛を与えたが、歯を食いしばってそれを耐えた。そしてよろめきながら漸(ようや)く休憩所の玄関まで辿り付くと、内部から扉が開いて、誰やらが親切に吾輩の手を取りて引き入れてくれた。戸外にはなお敗走した乱民の叫喚の声が微かに聞こえた。
 その時何処やらで吾輩の守護神が言われた-
 「我が兒(こ)よ、余は暫く姿だけ隠しているが、いつもすぐ傍に付いているから安心しているがよい・・・・」
 それから吾輩は其処の親切な天使達に導かれて薄暗い部屋に入って休息したが、光明が強くて眼が開けられないので、それがどんな風采の人達なのかはさっぱり判らなかった。
 間もなく吾輩は其処の病院に入れられて一種の手術を受けた。それは吾輩の汚れた体から邪悪分子を除去する為であった。その手術が済むと、驚いたことには吾輩の体は目茶目茶に縮小してちっぽけな赤ん坊の大きさになってしまっていた!それから段々体格を築き上げていって、間もなく学校へ通学し得るところまで発達した。その学校で御目にかかったのがPさんで、吾輩は大変御面倒をかけたものです。当時学校中の最不良少年は吾輩であったが、それでもPさんはどこまでも吾輩を見捨ててはくださらなかった。
 Pさんは学校を退かれるに臨み、是非後について上の世界に昇って来るようにとしきりに勧められたので、吾輩もとうとうその覚悟を決めましたが、後の物語は次回に申し上げます-
 ワード氏は早くその先を聞きたかったが、止むを得ず別れを告げて地上の肉体に戻りました。