自殺ダメ



 ワード氏の自動書記は最初の一、二回を除けば全然無意識状態でやったのですが、これは独り自動書記に限らず、あらゆる神憑り現象に於いてそうなることが望ましいようであります。人間の体は使い道が二通りあります。大雑把に言うと甲は頭脳を使用するやり方、乙は頭脳を使用せぬやり方であります。頭脳を使用するのは平生我々がやりつけの方法で、学問の研究だの、事務の処理だのは皆これでゆくのが本当であります。頭脳を使用せぬのは変態中の変態で、その時は人間の体が一つの機械の代わりを為し、これを動かす所の原動力は他から入ってまいります。それが即ち神憑り現象であります。そんな際には出来るだけ本人の意識が蔭に隠れ、憑って来るところの者をして自由手腕を揮(ふる)はしむることが望ましいことは申すまでもありません。
 自動書記にも深いのと浅いのと色々あります。浅いのになると、本人自身の意識が混入して不純性を帯びることを免れません。どうしても純の純なる自動書記の産物を得ようとするには当人が全然無意識の恍惚状態に入り、体全体を憑依霊に貸切にする必要があります。但しこんな場合には心霊問題に対して充分の理解と同情とを有する立会人が傍に付き切りにして監視を怠らぬことが何より肝心であります。さもないことには無抵抗な本人の体が憑依霊の為にどんなイタズラをされるか知れたものではありません。ワード氏の場合には幸いK氏夫妻が立会人としてあらゆる警戒保護の任に当たりつつありましたので大変好都合であったのであります。
 1月24日にはK氏の居宅で自動書記が行なわれましたが、その際左の三か条の質問が紙片に書いて提出されました。
 一、P氏は何処で死にましたか?
 二、あなたが『信仰』と仰るのはどういう意味ですか。何を信仰することです?
 三、あなたは祖先、親戚、史上の人物等にお会いになりましたか?
 右に対する返事はやがて次の如く現れました-
 「ワシは出掛けて来ましたよ。第一の質問に関しては直に調べてあげる。それから第三の質問じゃが、ワシはまだ歴史上知名の人物には会いません。しかしそれは出来ないのではない。もっと上の組に進めばきっと会えると思う-ア、今Pさんから聞いたが、同氏は極東・・・日本で死んだと言っている。
 近頃ワシの仕事は大変順調に進んでいる。次の月曜日には又必ずお前の所へ出かけます。時にワシはお前に聞かせることがあるが、実はホンの昨今下の組からワシ達の境涯へ上って来た一人の男がある。それがまた素敵に面白い人物で、生きている時分には極端な悪漢じゃったということで、死後色々の恐ろしい目に遭っている。その話が余りに面白いものだから、ワシは目下しきりに根堀り葉堀りほじくって聞いているところじゃ。それから第二の質問じゃが、信仰というのはつまり死後の生活を信じ、神を信ずることで、別に新しいものではない。全て人間は真っ先に何でもいいから信仰の手掛かりを見つけることじゃ。信仰しさえすれば、その対象は先ず何でも構わない。野蛮人のやってる動植物や、無生物の信仰でも無信仰よりはまだマシじゃ。しかしお前は大分疲れたネ。三十分間ばかり休んでからもう一度やるとしよう」
 それで一旦自動書記は中止されました。右の自動書記が正味有りのままのものであることは、立会人のK氏が自筆で証明を与えております。又Pという人物が日本で死んだという事は、当時ワード氏にも立会人にも判らなかったが、後日調査の結果、正確な事実であることが立証されました。