自殺ダメ
前の通信に於いて約束されたとおり、この自動書記は同夜午後八時に始まり、叔父さんは、自分自身の臨終の模様並びに帰幽後の第一印象といったようなものを極めて率直に、又頗る巧妙に語り出しました。「死とは何ぞや」「死後人間は何処に行くか」-これ等の痛切なる質問に対して満足すべき解答を与え、有力な参考になるものはひとり帰幽せる霊魂の体験談のみで、そうでないものは、西洋に行ったことのない人達の西洋物語と同様、いかに巧妙でもさしたる価値は認められません。叔父さんの霊界通信はこの辺からそろそろその真価を発揮してまいります-
「それでは約束通り、ワシ自身の臨終の体験を物語ることにしましょう。ワシは最初全く意識を失っていた。それが暫く過ぎると少し回復して来た・・・。イヤ回復したような気持がした。頭脳が妙にはっきりして近年にない気分なのじゃ。が、どういうものか体が重くてしようがない。するとその重みが次第次第に失せて来た・・・。イヤただ失せるというのではなく、寧ろワシが体の重みの中から脱け出るような気分・・・。丁度濡れ手袋から手首を引っ張り出すような按配になったのじゃ。やがて体の一端が急に軽くなり、眼も大変きいて来た。
さっきまではさっぱり判らなかった室内の模様だの、部屋に集まっている人達の様子だのが再び見え出したなと思った瞬間、俄然としてワシは自由自在の身になってしまった!見よ自分の体はベッドの上に横臥し、そして何やら光線の紐らしいものを口から吐いているではないか!と、その紐は一瞬間ビリビリと振動して、やがてプツリ!と切れて口から外へ消え去ってしまった。
「いよいよこれが臨終で御座います・・・・」-誰やらが、そんなことを泣きながら言った。ワシはこの時初めて自分の死顔なるものをはっきり見たが、イヤ平生鏡で見慣れている顔とは何という相違であったろう!あれが果たして自分かしら・・・。ワシは実際自分で自分の眼を疑いました。
が、そうしている内にもひしひしと感ぜられるのは、何とも名状すべくもあらぬ烈しい烈しい寒さであった。イヤその時の寒さと云ったら今思い出してもぞっとする!」
例によりて友人のK氏並びに他の人達が、ワード氏の自動書記の状況を監視していたのでありますが、この辺の数行を書きつつあった時に、ワード氏の総身は寒さに戦慄し、傍で見るのも気の毒でたまらなかったといいます。
自動書記はなお続きました。
「全くそれは骨身に滲みる寒さで、とてもその感じを口や筆で伝えることは出来ない。何が冷たいと云っても人間界にはそれに比較すべきものがない。ワシは独り法師の全裸体、温めてくれる人もなければまた暖まるべき材料もない。ブルブルガタガタ!イヤその間の長かったこと、まるで何代かに亙るように感ぜられた。
と、俄かにその寒さがいくらか凌ぎよくなって来た。そして気がついて見ると誰やらワシの傍に立っている・・・。イヤワシにはとてもこの光彩陸離たる御方の姿を描き出す力量はない。その時は一切夢中で、トンと見当も何もつかなかったが、その後絶えずその御方のお供をしているので、今では少しは判って来た・・・。イヤ今でも本当に判っていはしない。その御方の姿は時々刻々に変わる。よっぽどよく突き止めたつもりでも、次の瞬間にはもうそれが変わってしまっていて掴まえ所がない。微かに閃く。パッと輝く。キラリと光る。お召し物も、お顔も、お体も言わば火じゃ。火の塊じゃ。イヤ火ではない、光じゃ・・・。イヤ光と云ってもはっきりはしない。しかも一切の色彩がその中に籠っている-霊界でワシを護っていてくださるのはこんな立派な御方じゃ!」
前の通信に於いて約束されたとおり、この自動書記は同夜午後八時に始まり、叔父さんは、自分自身の臨終の模様並びに帰幽後の第一印象といったようなものを極めて率直に、又頗る巧妙に語り出しました。「死とは何ぞや」「死後人間は何処に行くか」-これ等の痛切なる質問に対して満足すべき解答を与え、有力な参考になるものはひとり帰幽せる霊魂の体験談のみで、そうでないものは、西洋に行ったことのない人達の西洋物語と同様、いかに巧妙でもさしたる価値は認められません。叔父さんの霊界通信はこの辺からそろそろその真価を発揮してまいります-
「それでは約束通り、ワシ自身の臨終の体験を物語ることにしましょう。ワシは最初全く意識を失っていた。それが暫く過ぎると少し回復して来た・・・。イヤ回復したような気持がした。頭脳が妙にはっきりして近年にない気分なのじゃ。が、どういうものか体が重くてしようがない。するとその重みが次第次第に失せて来た・・・。イヤただ失せるというのではなく、寧ろワシが体の重みの中から脱け出るような気分・・・。丁度濡れ手袋から手首を引っ張り出すような按配になったのじゃ。やがて体の一端が急に軽くなり、眼も大変きいて来た。
さっきまではさっぱり判らなかった室内の模様だの、部屋に集まっている人達の様子だのが再び見え出したなと思った瞬間、俄然としてワシは自由自在の身になってしまった!見よ自分の体はベッドの上に横臥し、そして何やら光線の紐らしいものを口から吐いているではないか!と、その紐は一瞬間ビリビリと振動して、やがてプツリ!と切れて口から外へ消え去ってしまった。
「いよいよこれが臨終で御座います・・・・」-誰やらが、そんなことを泣きながら言った。ワシはこの時初めて自分の死顔なるものをはっきり見たが、イヤ平生鏡で見慣れている顔とは何という相違であったろう!あれが果たして自分かしら・・・。ワシは実際自分で自分の眼を疑いました。
が、そうしている内にもひしひしと感ぜられるのは、何とも名状すべくもあらぬ烈しい烈しい寒さであった。イヤその時の寒さと云ったら今思い出してもぞっとする!」
例によりて友人のK氏並びに他の人達が、ワード氏の自動書記の状況を監視していたのでありますが、この辺の数行を書きつつあった時に、ワード氏の総身は寒さに戦慄し、傍で見るのも気の毒でたまらなかったといいます。
自動書記はなお続きました。
「全くそれは骨身に滲みる寒さで、とてもその感じを口や筆で伝えることは出来ない。何が冷たいと云っても人間界にはそれに比較すべきものがない。ワシは独り法師の全裸体、温めてくれる人もなければまた暖まるべき材料もない。ブルブルガタガタ!イヤその間の長かったこと、まるで何代かに亙るように感ぜられた。
と、俄かにその寒さがいくらか凌ぎよくなって来た。そして気がついて見ると誰やらワシの傍に立っている・・・。イヤワシにはとてもこの光彩陸離たる御方の姿を描き出す力量はない。その時は一切夢中で、トンと見当も何もつかなかったが、その後絶えずその御方のお供をしているので、今では少しは判って来た・・・。イヤ今でも本当に判っていはしない。その御方の姿は時々刻々に変わる。よっぽどよく突き止めたつもりでも、次の瞬間にはもうそれが変わってしまっていて掴まえ所がない。微かに閃く。パッと輝く。キラリと光る。お召し物も、お顔も、お体も言わば火じゃ。火の塊じゃ。イヤ火ではない、光じゃ・・・。イヤ光と云ってもはっきりはしない。しかも一切の色彩がその中に籠っている-霊界でワシを護っていてくださるのはこんな立派な御方じゃ!」