自殺ダメ


 ワード氏は2月16日に例の霊夢式の方法で霊界の叔父さんと会談しましたが、その日の叔父さんはいつもよりも一層学究的の態度で、自分が霊界へ来て初めて学校に入った時の、ちと堅くはあるが、しかし極めて意味深長なる実験談を詳細に物語ったのでした。
 「叔父さん」とワード氏から質問しました。「あなたはこの前の通信で、色々の幻影がきちんと類別されていったことをお述べになりましたが、あれから先は一体どうなったのでございます?」
 叔父「よしよし今日はあの続きを物語ることにしましょう。あの幻影の排列された街道は、前方を見ても後方を顧みても、どこまでも際限なく続いて、果ては彼方の風景の中に消え去ったのであるが、やがて突然ワシの守護神が直ぐワシの傍にお現れになった。
 「付いて来い!」
 そう言われるのでワシは守護神の後に付いて行くと、数ある景色の一つの中を突き抜けて、いつしかその奥の田舎へ出た。その際あの幻影がどんな風に処分されたのかはワシにも正確に説明することは出来ない。現在でもそれはちゃんとワシの眼に始終映っている-が、一口に言うと、全てが次第次第に背後の方へ引っ込んで行って余り邪魔にならなくなったのじゃ。
 それからいくつかの野を横切り、丘を降りて、やがて行く手に一棟の華麗な建物の見える所へ出たのである。
 「あれは何でございます?」とワシが訊ねた。
 「あれは汝の入る学校じゃ」
 「学校でございます?私はもう子供ではございません」
 「イヤ汝は子供じゃ。信仰の道にかけてはまだよくよくの赤ん坊じゃ。それその通り汝の姿は小さいであろうが・・・」
 そう言う間にもワシの守護神の背丈がズンズン高くなるように思われた。しかしワシの体が別に小さくなるとは認められなかった。
 やがてワシ達の右の建物の門前に出たのであるが、イヤその門の立派なことと云ったら実に言語に絶するものがあった。
 間もなくワシは教室に連れて行かれた。他に適当な言葉がないから教室とでも言うより仕方がない。其処には沢山の児童達が勉強していた。イヤ児童と言うのもチトおかしい・・・。皆成人なのである。が、成人にしては妙に発育不充分で、ただ顔だけがませているのである。
 やがて其処の先生というのに紹介されたが、生徒達が揃いも揃って貧弱極まるのに反して先生の姿の立派なことはまた別段であった。ただに体が堂々としているばかりでなく、総身光輝いている。そしてその光の故で教室全体が程よく明るい。これに引き換えて、生徒達の体ときてはいずれも灰色で不景気極まるが、その中でもワシの体が誰よりもすぐれて真っ暗であった。
 次の瞬間にはもうワシの守護神の姿は消え失せていた。先生が親切にワシの手をとってとある座席につかせてくれた。そしていよいよ授業が開始されたのであるが、ワシとしてこんな教授法には生まれて初めて接したのである。大体において述べると先生の方で知識を生徒の頭脳に注入するやり方でなく、生徒の頭脳から知識を引き出すやり方なのである。最初の間は、どの質問もワシにはさっぱり判らなかった。そのくせ他の生徒にはすっかりそれが呑み込めているらしく、一人の生徒が先生の質問に対して何とか答えると、それを手掛かりに次の質問が又先生から発せられる。何処まで行っても問と答えとの繋がりで、微塵も注入的なところがない。その一例として先生が私にかけた質問振りを紹介することにしよう」