自殺ダメ



 これは2月21日午後7時に出た叔父からの自動書記的通信であります。霊界から出張して自分の肉体の葬式に参列したという奇想天外式の記事で、先入主に囚われた常識家の眼を回しそうなシロモノですが、しかしよく読んでみると情理兼ね具わり、いかにも正確味に富んでいて疑いたいにも疑うことの出来ないところがあります。出来るだけ忠実に紹介することにしましょう-
 「ワシはこれから自分の葬式に参列した話をするが、その事の起こったのは、霊界へ来てから余程の日数を経たと自分には思われる時分のことであった。
 「これより汝を葬式に連れて参る。そろそろその準備をいたせ!」
 ある日ワシの守護神が突然教室に現れて、ワシにそう言われるのであった。ワシは寧ろびっくりして叫んだ-
 「私の葬式でございますって!そんなものはとうの昔に済んでしまったと思いますが・・・・」
 「イヤそうではない。霊界の方では余程長いように思えるであろうが、地上の時間にすれば汝がここへ来てから僅かに三日にしかならないのじゃ」
 霊界の時間・・・・むしろ時間無しのやり方と、時間を厳守する地上のやり方との相違点にワシが気が付いたのは、この時が最初であった。地上ではたった三日にしかならぬというのに、ワシは確かに数ヶ月間霊界で勉強していたように思えたのじゃ。ついでにここで述べておくが、霊界には夜もなければ昼もなく、又睡眠ということもない。もっともこれはちょっと考えれば直ぐ判る話で、霊魂は地上にいる時分から決して眠りはせぬ。そして体とは違って休息の必要もない。
 さてワシの守護神は学校の先生に行き先地を告げてワシの課業を休ませてもらうことにした。丁度その時刻に課業が始まりかけていたところで、地上の学校と同じように無断欠席は無論許されないのである。
 次の瞬間に我々はたちまちワシの地上の旧宅に着いた。最初想像していたのとは違って、エーテル界を通じての長距離旅行などというものは全く無しに、甚だ簡単に自分の寝室に着いてしまったのじゃ。その時は随分不思議に感じられたが、今のワシにはよく判っている。我々の世界と人間の世界とは決して空間といったようなもので隔てられてはいない。むしろ双方とも同一空間に在ると云ってよかりそうなものじゃ。が、この点はまだ充分説明してないと思うからいつか機会を見て詳しく述べることにしよう。
 ワシの旧宅の内部は家具類がすっかり片付けられていて平生とは大分勝手が違っていた。ふと気が付くと、そこには一つの棺桶がある。それには大きな白布がかかっていたが、ワシはそれを透して自分の遺骸をありありと認めることが出来た。
 不思議なことには最初予期していた程には自分の遺骸がそう懐かしくなかった。古い馴染みの友に会ったというよりかも、むしろ一個の大理石像でも見物しているように思われてならなかった。
 「汝は今やその任務を終わった。いよいよこれがお別れじゃ」
 ワシはそう小声で言ってはみたが、どうもさっぱり情が移らない。あべこべに他の考えがムラムラと胸に浮かんで来てならなかった。
 「汝は果たしてワシの親友であったかしら・・・。それとも汝はワシの敵役であったかしら・・・・」
 こんな薄情らしい考えが胸の何処かで囁くのであった。兎に角ワシはこれでいよいよ自由の身の上だなという気がして嬉しくてならなかった。
 暫くしてワシは他の人達が何をしているか、それを見たい気になった。次の瞬間にワシは食堂に行っていたが、そこは弔い客で一杯なので、成るべくその人達の体に触れないように食卓の中央辺の所を狙って、下方から上に突き抜けた。無論食卓などは少しもワシの邪魔にならない。人間の体とても突き当たる虞はないのだが、ただ地上生活の間に作られた習慣上、群衆の中を通るのはどうやら気がさしてならないのであった。
 其処でワシは残らずの人々を見た。お前もいた。GもDもMもPもその他大勢いた。が、其処もあんまり面白くもないので、ワシはやがて妻の居間であった部屋に行ってみたが、ここも格別感心もしない。仕方がないのでワシは又フラフラと部屋を脱け出した」