自殺ダメ


 自動書記はなお続きます-
 「ワシは何となく、ここが大学の所在地であるらしく感じられてならなかった。で、早速付近の数人を捕えて、試みに地上との交通の方法を訊ねてみた-人間界とは違って不思議にも霊界ではこんな場合に遠慮などはしないのである。
 するとその内の一人がこう答えた-
 「丁度我々もあなたと同様に、地上との交通法を研究している最中なのです。御一緒にやりましょう」
 それからワシ達はその大きな都市中をあちこち捜し回った挙句に、やっと自分達の思う壺の人物に出会うことが出来た。その人は現世で言えば大学の講師とも言うべき資格の人であったが、ただ地上の講師とは違って講義はしてくれないで、先方から質問ばかりかける。丁度今迄の学校の先生そっくりの筆法なのである。早速我々の間にこんな問答が開始された-
 「地上の人間と交通するのにはどうすれば宜しいでしょう?教えて頂きます」
 「あなた方に訊ねるが、霊界で仕事をするのには一体どうすればよいのです?」
 「思念が必要だと存じます」
 「それでよい」
 「そうしますと、我々はただ生きている人間と通信したいと思念すればよいのでございますか?」
 「無論!他の方法がある筈がない」
 「思念するとすれば、その対象はたった一人がよいでしょうか?それとも大勢が宜しいでしょうか?」
 「それはあなた方の勝手じゃ。が、一人を思念するのと大勢を思念するのとどちらが易しいと思います?」
 「無論一人の方が易しいです!」と我々は一斉に叫んだ。
 「他にまだ質問がありますか?」
 「色々考えてみたがワシ達には別に質問すべきことがないので、早速そこを辞して、今度は研究室のような所に閉じ篭ってこの重大問題について思念を凝らしてみることになった。「ある事を思念する」-単にそう言うと甚だ簡単に聞こえるが、実地にそれをやってみるとこんな困難なことはない。色々の雑念がフラフラ舞い込んでしょうがない。ワシ達は何週間かにわたりてその事ばかりに従事したように感じた。が、とうとう最後に仲間の一人が地上と交通を開くことに成功した。
 それを見てワシ達は一層元気づいた。が、その内他の一人がこんなことを言い出した-
 「どうもワシの念じている人物は甚だ鈍感で、こちらの思念がさっぱり通じない。こりゃ相手を選ばんと到底駄目らしい・・・」
 ワシ達にとりて相手の選択は新しい研究題目であった。ワシ達はこの問題についてどれだけ討議を重ねたか知れない。最後にワシ達は、あまり物質的でない人間と交通することが容易であらねばならぬという結論に到着した。が、何人が物質的で、何人が物質的でないということは中々判別しかねるので、止む無く各自に人名簿を作り、片っ端からそれを試しにかかった。その結果どうなったかはお前が知っている通りじゃ。とうとうワシはお前のことを捜し当てた。あの晩ワシは特別に地上に引き付けられるように感じたが、今から思えば、ワシが死んでからその日が丁度一週間目に該当しているのであった。
 ワシにとりてはお前との交通が他の何人とやるよりも一番容易であるように感ぜられるが、しかし真に交通の出来るのはお前の睡眠中に限られた。で、その結果最初はあんなやり方を考え付いたのであるが、一旦開始してみると段々その呼吸が取れて来た。最後にPさんに会って自動書記という段取りになったのじゃ-今日は先ずこれ位で切り上げましょう・・・・」