自殺ダメ


 ワード「それはそうと叔父さん、甚だつかぬことを伺いますが、動物が霊界に来ているという以上、こちらでウチのモリーをお見掛けになったことはございませんか?」
 モリーはワード氏夫妻の愛犬であったのです。
 叔父「モリーならちょいちょいワシの許へやって来ます。ワシの外にはここで誰も知っている者がないと見えてね・・・・。それ其処へ来た」
 ワード「何処です?ワシには見えませんが・・・・」
 叔父「もう直に見える」
 そう言っている内に、モリーは直ぐ傍の小さい森の中から飛び出して来ました。死んだ当座よりか幾らか若く美しく、傴僂(せむし)がすっかり治っているのを除けば、他は元の通りでした。暫く叔父さんの周囲にじゃれ回った後で、ワード氏に近付き、尾を巻いて興奮状態でワンワン吼えました。ワード氏は生前やらせたように後肢で立って歩かせたり何かしました。
 ワード「若しも動物がこの状態で霊界に生きているものとすれば、いよいよ霊界の頂点まで昇り切った時には彼等はどうなるのでしょう?動物もやはり第五界へ入るのでしょうか?」
 叔父「それはワシも目下研究中でPさんにも調査を頼んでおる-そのPさんだが、あの人もお前の体を借りて自動書記をやりたいと言っているからその内始めることにしましょう」
 ワード「あなたはどうしてPさんとお知り合いになられたのです?」
 叔父「それはこうじゃ。ワシがかねての希望通り、しきりに霊界の各境の事について研究を進めていると、ある時突然ワシの所へ訪ねて来たのがPさんであった。Pさんはこう言うのじゃ-「私は伝道の為に暫時地獄へ行っておりましたから、地獄の事情なら少しはあなたにお話することが出来ます・・・」
 いかにもこちらの思惑通りの話であるからワシは大変喜んだ。段々話を聞いてみると、Pさんは地獄の学校の先生として特派されていたもので、地獄の奥の方のことは少しも知らないが、学校では随分色々の人間に接しているのであった。Pさんはなおこう付け加えた-
 「若しあなたが、地獄の内幕を知りたいと思し召すなら、私の知人に丁度あつらえ向きの人物がおります。元は陸軍出身で、地獄の学校で私が教えた生徒ですが、もう追っつけ霊界へ上って参ります。私はその監督を命ぜられた関係がありますから、私の言いつけならよく聞いてくれます。同人は実に驚くべき強い人格の所有者で、従ってその進歩も迅速であります。ちょっと御覧になるとかなりに堕落した悪漢のようにも見えますが、中身は大変良くなっております。初めて私の学校へ入って来た当座は全校中の最不良生徒で、何故こんな者が入学を許されたのかと疑われる位でしたが、その後ズンズン他の生徒達を追い越して行きました」
 「してみると地獄にも霊界と同じように学校があると見えますね」とワシが訊ねた。
 「あることはありますが殆ど比較にはなりません。地上で申せば感化院と大学位の相違であります。イヤもっと段違いかも知れません。地獄には他に幼児達の学校も設けてありますが、それはつまり地上の幼稚園に相当致します。勿論学科は違いますが・・・・」
 こんな按配にPさんは色々のことをワシに教えてくれ、ワシからまたお前にそれを通信していたのじゃが、その後Pさんは御自分の守護神に何処かへ連れて行かれてしまった。何でも上の方へ昇る為の準備にかかったのであるそうな。しかし今後もある程度の材料を送ってくれるように懇々頼んで、その手筈にはなっておる。
 ワシは目下大学で、他の同一目的の学生達と一緒にせっせと霊界のある方面の調査をしておるが、追っ付け皆お前に通信してあげる-今回はこれで一くさりつける。何かワシの力を借りたい事が出来たらワシの事を念じて祈願してもらいたい。ワシはこう見えてももう勝手に飛べるようになった」
 言い終わって叔父さんはプイと空中に舞い上がり、湖水の上を横断して姿を消してしまった。ワード氏はいささか煙に巻かれた態で、湖面を染める夕陽の光を見つめつつただ茫然として寂しく其処に佇んだのでした。