自殺ダメ



 叔父さんは一息ついて再び口を開きました-
 「今度はお前の方から何か切り出す問題はあるまいかな?」
 「ないこともございません」とワード氏が答えました。「私が霊界へ来てこの風景に接するのはこれで三回目でございますが、まだ一度も叔父さんを守護していなさる天使の御姿に接したことがございません。私がここに居る際にはいつも御不在なのでございますか?」
 「そうでもない、時々はここにお見えになる。現に今もここにお出でじゃ-守護神様、どうぞ甥の心眼をも少し開いてやって頂きとうございます」
 そう言うと忽ち何物かがワード氏の眼の上に載せられたので、ちょっとめくらになりましたが、それが除かるると同時にワード氏は今までとは打って変わり、ずっと視力が加わりました。
 ふと気が付くと、叔父さんの背後には満身ただ光明から成った偉大宗厳なる天使の姿が現れていました。その身に纏える衣装はひっきりなしに色彩が変わってありとあらゆる色がそれからそれへと現れる!
 叔父さんに比べると天使の姿は遙かに大きい。が、全てが円満で、全てが良い具合に大振り-やや常人の三層倍もあるかと思わるる位、そしてその目鼻立ちと云ったらいかなるギリシャの彫刻よりも美しい。雄々しくてしかも気高い。崇高でしかも優雅である。にやけたところなどは微塵もない。親切であると同時に凛とした顔、年寄りじみていないと同時に若々しくもない顔である。肌は金色-人間の肌とはまるで比べものにならない。頭髪も髭も何れも房々とえも言われぬ立派さである。
 余りに荘厳美麗でとても言い表すべき言葉がない位でした。
 「疑いもなくこれが所謂天使という者に相違ない・・・・」
 ワード氏は心の中でそう思うと同時に、日頃の癖で何処かに翼はないものかしらと捜しましたが、そんなものは一つも付いてはいませんでした。
 やがて氏は訊ねました-
 「私にも守護神があるのでございますか?」
 すると巨鐘の音に似たる力強い音声がただ
 「見よ!」
 と響きました。
 忽ちワード氏の背後にはもう一人の光の姿がありありと現れました。
 大体においてそれは叔父さんの守護神の姿に似てはいましたが、しかし目鼻立ちその他がはっきり違っていました。そして不思議なことにはワード氏は何処かでかつて出会ったことがあるような、言うに言われぬ親しみを感じました。が、それは驚くべく変化性に富んだお顔で、同一でありながらしかも間断なく変わる。ただの一瞬間だってそのままではいないが、そのくせ少しもその特色を失わない。ワード氏は、若しかしてこの姿を夢で見たのではないかしらと思って見ましたが、どうしても思い出すことが出来ませんでした。髭は叔父さんの守護神のに比べれば余程短かったが、全身からほとばしる光明、人間より遙かに大きな御姿などは全てが皆同様でした。
 ワード氏の守護神はやがてその手を差し上げ、例の巨鐘の音に似た音声で言われました-
 「もう沢山・・・汝の為に永く見るのは宜しくない!」
 再び天使はその手(手であることがこの時初めて判ったのでした)をワード氏の眼の上に置きました。そしてその手が再び除かれた時にはもう二人の天使の姿は消えて、ただ叔父さんと四辺の景色とのみが元のままに残されました。
 「今日はこれで別れねばならぬ」
 叔父さんはそう言って、忽ちワード氏の身辺から空中遙かに何処ともなく飛び去りました。
 ワード氏は四周の美しき景色を見つめつつ深い深い沈思の内にしばし自己を忘れてしまいました。