自殺ダメ



 ワード「甚だつかぬことを伺うようですが、霊界で芝居をする時に女形はどうなさいます?私はまだこちらでただの一人も婦人を見かけませんが・・・・」
 叔父「婦人かい?婦人などは沢山いる・・・・」
 そう言って叔父さんはワード氏を一室に導きましたが、成る程そこには沢山の婦人達が居てしきりに合唱の稽古をしていました。歌い方はいかにも上手で、しかも何れも高尚優雅な美人ばかり揃っていましたが、いかなる理由か叔父さんはワード氏を急き立てて川縁の公園のような所へ連れ出してしまいました。
 叔父「あの通り霊界にも婦人は沢山居る。しかし我々の境涯では男女の交際はあまり許されていない。ごく最初の間などは男と女とは殆ど全く隔離されている。地上で持っていた性の観念-出来るだけ早くそれを除き去るのが望ましいのじゃ。地上にありては性交は正しくあり又必要でもある。しかし霊界では最早全然その必要がない。一心同体はここでは禁物じゃ。さもないと精神的進歩が肉感的欲情の為に煩わされることになる-が、いよいよ地の匂いのする情欲が跡形もなく除き去られた暁には、男女の霊魂は再び引き寄せられることになる。陰陽の和合は宇宙の原則である。但し地上で肉体をもってしたことが、霊界においては精神的なものに変わって来る。我々が向上すればする程両性はますます接近する。そして究極において一人の男子と一人の女子との間に一の神秘なる魂の結合が成立する。それが真の精神的結合で、地上の結婚はつまりその象徴である。二つの魂の完全なる融合-一方が他方の一部となってしかもその個性を失わぬ理想の完成、これはまだワシにさえすっかりは分からないからお前には尚更そうであろう。しかし地上の結婚中の一番優秀なものから推定すれば大概見当がつくであろう。
 右の霊的結婚と言ったようなものは、我々よりもずっとずっと上の境涯において起こるので、恐らくそれは第五界・・・・、事によるとそれよりもっと上の界の事かも知れない。少なくとも我々の住む第六界に起こらないことだけは確かである。兎も角も我々は進むに連れて段々共同生活を営むことになる。最初は同性の者との共同生活に留まるが、やがて異性の者との共同生活となって来る。又我々が精神的に結婚するのは必ずしも地上で結婚した者に限るということはない。我々は我々の不足を補充する真の他の半分の魂と結婚するのである」
 ワード「段々伺ってみると霊界の生活は大変地上の生活と類似しているようでございますな」
 叔父「似ておってしかも違っておる。大体地上生活中の最理想的な部類に近い。ここには疾病もなければ罪悪もない。災厄もなければ苦痛もない。それらは皆地獄の入り口に振り落としてしまってある。霊界に残っているのは過去の罪悪に対する悔やみの念、悲しみの念である。しかし地上で言うような罪悪はもうここへは入らない。
 我々にも知識の不足はある。従って完全なる満足、完全なる安息はとても急に見出すことは出来ない。我々にはまだ進歩の余地が多い。しかしながら故意に神意に反抗せんとするが如き念慮はもう跡形もなく消え失せておる。 醜きもの、悪しきもの、卑しきもの、正しからぬもの-それらは霊界には生存を許されない。従っていかにすぐれた娯楽でも、罪悪の基礎の上に築かれたものは全くここに見出すことが出来ない。同時に物質的娯楽も、物質的肉体のない我々にはやりたいにもやりようがない・・・・」