自殺ダメ



 叔父の言葉が途切れた時にワード氏は訊ねました-
 「叔父さん、この次には何処へお連れくださいます?」
 叔父「ワシの書斎へ連れて行ってお前をAさんに紹介しようと思うのじゃ。なんでもAさんはお前の体を借りてMさんに通信したいことがあると言うのじゃ。それが済むと今度は例の陸軍士官の話を聞かねばならない。いよいよ地獄の実地経験談をするそうな・・・・・」
 ワード「しかし叔父さん、私は霊界へ来て随分長居をしたようです。そろそろ自分の体へ戻らないとカーリーが目を覚まして私の気絶しているところを見つけでもしますと大変です」
 叔父「ナニそんな心配は一切無用じゃ。お前は長時間霊界へ来ているように考えているかも知れないが、地上の時間と霊界の時間の間には何ら実際の関係はない。地上の時間にすれば、お前が体を脱けてからまだやっと三十分にしかならない。ゆっくり間に合うように帰してあげるから安心しているがいい」
 二人は大学の門を出ると右に折れ、とあるアーチを潜って階段を登って行きました。それから一つの部屋に入りましたが、それは普通の大学の校舎によく見るのと同じようなもので、ただ暖炉の設備のないことだけが違っていました。
 ワード「妙なことを伺いますが、あなた方もやはり部屋の掃除などをなさいますか。もしするなら下僕(しもべ)がいないとお困りでございましょう」
 叔父「霊界にはゴミも塵芥もなければ又人工的な暖房装置もない。たとえ寒いと思うことがあっても暖炉は使われない。それは霊界の寒暖が無論精神的なものであって物質的なものではないからじゃ。従ってここには下男の必要はない。掃除をすべきゴミもなければ、調理すべき食物もない。おまけに我々は眠りもしない。一切の雑務雑用は我々の肉体と共に皆消滅してしまっとる-お、Aさんがお出でじゃ。お前に紹介してあげる」
 ワード氏は極めてちっぽけな少年が入って来たのを見てびっくりしました。但しその肩には成人の頭だけが乗っかっているのです。もっとも一寸法師のように頭部だけ不釣合いに大きいのではなく、ただ髭が生えたり、ませた顔つきをしたりしているのでした。顔は赤味がかった丸顔で、鼻は末端の所が少々厚ぼったく、頭髪は茶褐色を帯び、体は不格好な程でもないが余程肥満している方でした。
 ワード氏は初対面ではあるが、かねて叔父を通じてこの人の風評を聞いていたので、双方心置きなく話し込みました。
 「実は」とAさんが言いました。「少々Mに伝言したいことが在りますので、是非あなたにお目にかかりたいとLさんまで申し入れて置いたのですが・・・」
 「イヤお易い御用で」とワード氏も愛想よく「私に出来ることならどんなことでも致します。それはそうと一つ霊界におけるあなたの御近況を伺おうではございませんか?」
 「ぼつぼつやっていますがどうも進歩が遅いので弱っています。御承知の通り生前私は精神的方面のことをそっちのけにして、物質的な享楽にばかり一生懸命耽っていたものです。それから色々な婦人関係-あんなこともあまり為になっていませんでしたね」
 こんな軽口を叩いた後でAはワード氏にある一の秘密の要件を頼んだのですが、無論それは徳義上内容を発表することは出来ません。用談が済むとAは直ちに二人に別れを告げて辞し去りました。
 Aの姿が消えると同時にワード氏は叔父さんに向かって言いました-
 「Aさんは顔だけ成人で体はまるで子供でございますね。これは精神的方面を全然閑却していた故でしょう」
 叔父「そうじゃ-既にお前に説明して聞かせてある通り我々の霊体は次第次第に発達するものじゃ。もしそれを地上生活中に発達させておかないと霊界へ来てから発達させねばならない」
 ワード「そうしますと、私が霊界へ来る時にはやはり私の霊体で来るのでしょうか?」
 叔父「無論そうじゃ」
 ワード「そうしますと私の大きさはどんなものでございます?非常に小さいのですか?」
 叔父「イヤ中々発達しておるよ。すっかり大人びて丁年位の大きさになっておるよ。先ずそこいらが丁度いい所じゃろうな。概して霊体の発達は肉体の発達よりも遅いもので、どうかするとまるきり発達せぬのもあるな-おー陸軍士官が見えた。舞台が変わって今度は地獄の物語じゃ・・・・」
 この陸軍士官の物語は別に纏めて発表されております。