自殺ダメ


 これは1914年5月4日の夜に起こった霊夢の記事で、霊界における精神病患者の取り扱い方に就きて詳しく書いてあります。心霊療法でもやろうという人達の参考になりそうなところを紹介することに致します。
 叔父「ワシは先刻霊界の精神病院の一つを見学して来たのじゃが・・・」
 ワード「病院でございます?私は又霊界では病苦に悩む者はないものと思っておりましたが・・・・」
 叔父「そりゃ病苦に悩むというようなことはない。しかし精神の曇っている患者は霊界にもある。それが手術を要するのじゃ。つまり霊界の病人はことごとく精神病患者の一種であると思えばよいのじゃ。
 病院にワシを案内して色々説明してくれたのは、地上におった時代には精神病学の大家として有名な某博士であった。
 病院は大変美しい環境に置かれ、一歩その境内に入るといかにも平和な、のんびりした空気が漂うていた。ワシがその事を同行の博士に述べると、博士はこう言うのじゃ-
 「全くそうです。閑静な、人の心を和らぐる環境は一切の精神病患者を取り扱うに欠くべからざる第一の要件です」
 病院を囲める庭園には幾つも幾つも広い芝生が造られてあり、所々に森が出来ている。そして何処へ行ってもサラサラと流るる水の音が微かに聞こえ、樹々の隙間からいつも消えざる夕陽の光に染められた水面がちょいちょい覗く。沢山の患者達は森を潜ったり、芝生をそぞろ歩いたり、又湖面にボートを浮かべて遊んだりしている。
 しばらく美事な並木道を進んで行くと、やがて病院の建物が見え出して来た。それは文藝復興期式の建物で、正面にはベランダが設けてあり、周囲はことごとくビロウドのような芝生と花壇とで囲まれていた。芝生には沢山の噴水やら様々の彫像やらがあった。
 ふと気が付くとそこには一人の婦人が低い床机に腰をおろしてハープを弾いていた。男女の患者達はこの周囲に寝椅子を持って来て、それに横たわりながら熱心に耳を傾けるのであった。
 やがてワシ達は建物の内部に歩み入った。ここには学校のような設備があって、患者の大部分はそれに出席せねばならぬ規定になっている。なお他に音楽堂がある、劇場がある、各宗派付属の礼拝堂がある、美術展覧会場がある。
 同行の博士は色々ワシに説明してくれた-
 「この病院の主なる目的の一つは出来るだけ患者の精神を他に転換させることであります。患者の大部分は非常に利己的で、少なくとも自分中心の連中ばかり、大抵信仰上の事柄や過度の悲しみなどから狂気になっています。彼等の性質の陰鬱なところを駆除するのには健全な、人の心を和らげる性質の娯楽が一番です。又手術としては主として暗示と催眠術と動物磁気とを用います。一つその実地をご覧なさい」
 ワシ達はそれから治療室のような所へ入って行ったが、そこでは二人の医師が一人の婦人患者に向かって熱心に磁気療法を施していた。患者は灰白色の衣服をつけ、腰部を一條の帯で括っていたがそれがこの病院の患者達の正規の服装なのである。患者がベッドの上に横たわっていると、医者の一人はその背後に立って片手を軽くその前額に当て、他の一人は患者の脚下に立って、これは手を触れずにいる。どちらもじっと患者の顔を見つめて全精神を込めているらしく、ワシ達が入って行っても脇目さえ振らなかった。
 気を付けて見ると二人の医師の体からは微かな一種の光線がほとばしり出て、それが患者の頭部に集中しているのであった。
 そこを出て他の一室に入って見ると、ここでは煩悶の為にしきりにのたうち回っている一人の男性患者を一人の女子がヴァイオリンで慰めつつあった。ワシは同行の博士に言った-
 「どうも病院の方が私達の所よりも男女の交際が自由のようですな」
 「実際はそうでもありません。男と女との間には殆ど交際などはありませんが、ただ治療上双方から助け合うことが必要なのです。殊に磁気療法をやるのには術者と被術者とが異性である方が良好なる効果を奏することが、実験上確かめられたのです」