自殺ダメ


 「ワシ達は更に第三室に入って見ると、一人の催眠術者が手術をやっている最中で、一人の男性患者に向かってしきりに按手法を施しているところであった。
 術者はワシ達を見ると直ぐに挨拶した。そして手術中の患者の病状を説明してくれたが、その患者は生前酷い怪我をした記憶が容易に除けないのだということであった。なお彼は付け加えた-
 「この患者に対して私はもう久しい間催眠術を施しておりますが中々捗々(はかばか)しくありません。しかしその内確かに回復します」
 そこを出てワシ達は今度は割合に小さな部屋に入って行ったが、内部には一人の婦人患者が寝椅子に横たわっていた。同行の博士が説明した-
 「これは実に不思議な患者で、死後何時までも生前の記憶が強く残っているのには驚き入ります。彼女は生前片輪(かたわ)で歩行が出来ないものと固く思い込んでいたのです。機質的には何らの故障もないのに右の錯覚が強まると共にとうとう現在見るような跛者(びっこ)になりました。もしも彼女の病気が肉体的のものであったなら体が失せると同時に病気も消失したでありましょうが、彼女の疾患は純然たる精神的のものでありましたので、死んでからも依然として跛者のままに残っているのです。大体彼女は生来一種の変態心理の所有者で、片輪者を見ると妙に快感を覚えたといいます。その癖その他の点では別に変わったところもなく、性質が凶悪であるというようなところもありません。こんな患者は滅多に私達の境涯へは参りません。地獄へ行ったら多分この種の患者が多いことと存じます」
 この患者にはどんな手術を施すのでございますか?
 「主として磁気療法並びに暗示療法の二つであります。私達は勿論肉体の欠陥が霊界に移るものでないことを極力説明してやります。大抵の霊魂はそれを会得しますが、ただこの婦人の精神は非常に曇っているので容易にそれが呑み込めません。しかしいかに頑固な疾患でも霊界の手術を受ければやがて平癒します。手術よりも、その後で受けねばならぬ教育の方が遙かに時間を要するように見受けられます」
 ワシ達はそれから幾つも幾つも部屋を巡覧し、教授達の講義なども傍聴した。最後にワシは同行の博士に訊いてみた-
 どうも地上の病院で見るように外科手術をやっているのを見かけませんが、あんなものの必要はないのですか?
 「外科手術の必要はありません。霊界では最早あんな不器用な真似は致しません。勿論地上では多少その必要があります。肉体というものの性質上それは致し方ありません。ただどうも必要以上に外科手術を濫用する傾向があります。霊体となると余程微妙な方法を要し、矢鱈に切開したり、切断したりしても駄目です。地上の外科手術室に幾分か類似したものは地獄に行くと見られます」
 病院の説明はざっとこの辺で留めておくことにしよう。詳しく述べると大変な時間がかかる。兎に角霊界の病院では宗教的の勤行が中々大切な役目を持っていることを最後に付け加えておくに留める。
 ワシは病院の境内で博士と袂を分かち、それからここへ戻って来たのじゃ」