自殺ダメ



 叔父さんの病院視察談が終わった時に、ワード氏は引き続いて新しい質問を発しました。
 ワード「人間はとかく疑り深いもので、いくら死後の世界の話などをしてやっても容易に信用してくれません。それには私が霊界で会見したPさんその他の身元説明書といったようなものを発表したらよかろうかと考えますが、御意見はいかがでございます?」
 叔父「それはよほど考えものじゃと思うな。中には発表して差し支えないのもあるが、又発表してはいかんのもある。Pさんなどのは発表の出来ない方じゃ。いつまでも地上と接触を保って通信を続けるということはPさんには寧ろ迷惑な話で、幾分かご当人の修業の邪魔になる。
 又Pさんは生前相当に名の売れている方じゃったから、もしあの方の通信を全部公表するとなると、世間には随分詮議立ての好きな口やかましい奴が多いから、試験の目的でお前の所へ色々の問題を担ぎ込む者が沢山現れるに相違ない。その際もしPさんがそれらの問題に答えることを承諾したとなるとそれこそ大変で、直ぐその後からゾロゾロ他の質問者が現れる。そうなるとPさんは間断なく質問者に付き回され通しで、霊界にいるとはただ名ばかり、まるきり地上の俗務にかかり切りになっておらねばなるまい。地上の束縛から一時も早く脱却したいと希望している者が、あべこべに地上の人間に縛られてはとてもやり切れない。その時もしPさんが、もうこの上質問には応じないとでも言おうものなら、世間は直ちに詐術であったとはやし立てるに相違ない-
 「これ等の通信はP氏より発するものと自称される。しかし彼の生時に関する、これしきの簡単なる質問にも答え得ないところを見れば頗る眉唾物と言わねばなるまい・・・」
 まぁ大概こんなことを言われるものと覚悟してよかりそうじゃ。
 大体我々霊界の居住者にありては、主として霊界に関する通信を送ることが眼目で、それをしたからとて少しも進歩の妨害にはならない。ところが再び地上に逆戻りして、以前の地上生活のおさらいをやるというのは全くお門違いで、そんなことは到底正しい霊魂の承認しうる限りでない。世間の人々にこの事が分からんので甚だ困る。
 さすがにお前はよく我々を諒解し、又我々を信用して、役にも立たぬ、下らぬ質問をかけるようなことはせぬ。お前は生前全く未知であった人達の霊魂と霊界で会見し、それらの人達の口から直接その生死年月日やら生前の閲歴やらを聞かされている上に、Aさんからは一家の私事に関するMさんへの伝言さえも頼まれた。最初それは何のことやらお前にも分からぬことであったが、Mさんに会ってその事を話してみると初めて要領が得られ、確かにあれはAさんの霊魂に相違ないということが判然証明されたのである。こんな次第で、注文が無理でない限りワシはPさんに頼んで、いくらでも証明を与えるようにしてあげるが、ただあの方の経歴に関する一切を公表してくれとはどうしても頼み難い。兎も角もその事はもう一度よく考えて、Kさんとも相談してからにしてもらいたい。大体これで事情はよく分かったと思うが・・・・」
 ワード「よく分かりましたが、ただどうも残念です。もしPさんがこれに賛成して、どんな質問に対しても徹底的に答えてくださるという事になれば、それっきりで人々を悩ます人生の大問題-死後個性が存続するや否やということが立派に解決されてしまいますのに・・・・」
 叔父「イヤそんな必要は全くないと思う。頑迷不良な人物は何をしてやっても到底ダメじゃ。けれども物の道理の分かる人物には、死後の生命の存続を証明すべき材料が既に十二分に送られている。ワシ達の送った通信だけでも充分じゃ。中には多大の犠牲を払ってまでも、懐疑論者征服の為に全力を挙げた篤志の霊魂さえもあった。霊界に居住する者の進歩を阻害することなどは頓とお構いなしに、ひっきりなしに無理な注文ばかりするのは、人間の方でもちと聞き分けが無さ過ぎるのではなかろうか?
 イヤ実際のことを言うと、死後の生命の存続を信ずる者は世の中に案外多数なのじゃ。しかし信じない人間は何をして見せても-たとえ死骸の中から起き上がって見せてもやはり信じはせぬのじゃ。
 この問題はこれだけにしておいて、お前はもう帰らねばならぬ」
 次の瞬間にワード氏は全く意識を失ってしまいました。