自殺ダメ


 モリーが来たので二人の動物談には一層油が乗ってきました。
 叔父「どうも動物は地上に居た時よりも霊界へ来てからの方がよほど人間に懐いて来るようじゃ。兎に角理解がずっと良くなって、物質上の娯楽の不足をさほどに感じなくなる。
 お前も知っている通り、霊界ではお互いの思想がただ見ただけでよく分かるが、動物に対してもその気味がある。ただ動物は人間ほどはっきり物事を考える力が乏しい悲しさに、思想の形がゴチャゴチャになり易い。無論その能力が次第に向上はして来るが・・・・。
 しかし動物の思想はせいぜい上等な部類でも極めて簡単ではある。今モリーはある事を考えているのじゃが、一つ試みにそれを当ててみるがいい」
 ワード「私に分かりますかしら・・・」
 ワード氏は一心不乱にモリーを見つめましたが、最初の間は何も分かりませんでした。
 ワード「どうも何も見えませんな。格別何も考えてはいないと思いますが・・・・」
 叔父「いや犬にしては大変真面目に考え込んでおる。それが分かっているからワシがお前に聞いてみたのじゃ。お前はまだ練習をせぬから分からないのも無理はないが、もう一度試してみるがよい。頭脳の内部から一切の雑念を棄ててしまってモリーのみを考え詰めるのじゃ。お前の視力もモリーの鼻の先端に集めて・・・」
 ワード「鼻の先端ですか・・・・」
 ワード氏はおもわず噴出してしまいましたが、兎も角も叔父さんの命令通りそうやってみました。するとたちまち部屋全体が消え失せてモリーの姿までが見えなくなり、その代わりに一種の光線か現れて、やがて一つの絵になりました。
 よくよくその絵を凝視すると、ワード婦人のカーリーがボートを漕いで、モリーは舳先に座っている。やがてボートは艇庫から河面に滑り出て、白色の運動服を着たカーリーがしきりにオールを操る。他には誰も乗っていない。
 暫くしてその光景が一変した。今度はモリーもカーリーもボートから上陸して河岸の公園に休んでいる。カーリーが紅茶をすする間にモリーは地面に腹這いになって投げ与えられた一片の菓子をかじっている。
すると突然叔父さんが言葉を挟みました-
 「どうじゃ今度はモリーの考えていることが分かったじゃろうが・・・・」
 ワード「よく分かりました。が、その事がどうして叔父さんにお分かりになります?」
 叔父「ワシにはお前の思想もモリーの思想もどちらもよく見えているのじゃ。霊界の者は他人の胸中を洞察することが皆上手じゃ。
 兎に角こんな按配で動物が人間と一緒に住んでいればいる程段々能力が発達して来る。只今モリーが考えていたことなどもかなり複雑なものではないか。大抵の動物はせいぜい元仕えた主人の顔を思い出す位のものじゃ。
 利口な動物が死後どの辺まで人間と共に向上しうるものかはまだワシにも分からない。しかし霊界の方が地上よりも動物にとりて発達の見込みが多いことだけは明瞭じゃと思う。無論動物は地上にいる時でもある程度読心術式に人間の思想を汲み取ることが出来ぬではない。しかし怒っているとか、可愛がっているとか、ごく大雑把なことのみに限られており、しかも大抵の場合には人間の無意識の挙動に助けられている。
 今晩の話はこの辺でとめておきたいと思うが、どこかにもう少し説明を要するところがあるなら無論幾らでも質問して差し支えない」
 ワード「ではついでに伺いますが、私と叔父さんとは今いかなる方法で思想の交換を行なっているのでございます?外観では当たり前に談話を交えているように見えますが・・・」
 叔父「無論精神感応じゃ。人間は談話の習慣を持っているので直ぐに思想を言葉に翻訳するが、決してワシ達は実際に言語を交えている訳ではない。試しにお前がフランス人とでも通信をやってみれば直ぐ分かる。フランス人の耳にはフランス語で聞こえ、お前の耳には英語で聞こえる。
 我々が地上界へ降りて霊媒の体を借りて通信する時に我々は初めて実際の言葉を使用する必要が起こってくる。その際速成式に外国語を覚える方法もあって、あまり難しい仕事ではないが、その説明は他日に譲ることにいたそう。
 我々はお互いの思想を感識することが出来ると同時にこれを形に変えることも出来る。その原則はどちらも同一で、共に読心術に関係したものじゃが、分かり易い為に後者を霊視の方に付属させ、前者を読心術の方に付属させるのがよさそうじゃ。通信をやるにはどちらを使用しても構わないが、しかし人間には読心術の方がいくらか易しい。
 ところが、動物となるとどうも霊視法に限るようじゃ。これは動物が地上生活中に談話したことがなかった故じゃと思う。しかし言うまでもなく、これら二つの方法は時々ごっちゃになってはっきりした区別がない。例えばお前が陸軍士官の物語を聞いている時に、その言葉が耳に入ると同時にその実況が目に映るようなものじゃ」
 この説明が終わってからワード氏は陸軍士官に会ってその閲歴を聞かされたのですが、それは別に纏めてあります。