自殺ダメ



「この連中が何の夢を見ているか、よく注意して見るがよい」
 そう叔父さんに注意されたので、ワード氏は早速一人の婦人の状態を注視しました。
 右の婦人の前面には一人の小児の幻影が漂っていましたが、それが先へ先へと逃げるので婦人はさめざめと泣きながら何処までも追いかけました。と、にわかに小児の真の幽体が現れ、同時に先の幻影は滅茶苦茶に壊れました。母親は歓喜の声を上げて両手を広げて我が愛児の幽体をかき抱き、その場にベタベタと座り込んで、何やら物を言う様は地上でやるのと少しの変わりもありません。右の小児はおよそ六歳ばかりの男の子なのでした。
 ワード「死んだら我が子と夢で逢っているのでございますね。可哀相に・・・・」
 叔父「それが済んだら今度はこちらのを見るがよい」
 再び叔父さんに促されてワード氏は目を他方に転ずると、そこには三十位前後の男子が目を見張りて人の来るのを待っているらしい様子、やがて一人の若い女が近付いてまいりました。
 「一体この連中は何でございますか?」とワード氏は訊ねました。「二人とも生きている人間ではありませんか?」
 叔父「この二人が何であるかはワシにも分からない。しかしこの男と女とが深い因縁者であることは確かなものじゃ。二人は地上ではまだ会わずにただ幽界だけで会っておる。二人が果たして地上で会えるものかどうかは分からぬが、是非こんなのは会わしてやりたいものじゃ-そちらにも一対の男女がいる」
 ワード氏は目を転じて言われた方向を見ますと、ここにも若い男女が嬉しそうに双方から歩み寄りましたが、ただ女の付近には一人の老人の幻影がフワフワと漂うているのです。
 ワード「あの老人は、あれは確かにユダヤ人らしいが、何の為に女に付きまとっているのでございましょう?」
 叔父「あの老人は金の力であの女と結婚したのじゃ。若い男は女の実際の恋人であったが、ユダヤ人と結婚するにつけて女の方から拒絶してしまった」
 まだ他にも色々の人達がその辺を通過しました。が、一番ワード氏を驚かしたのは同氏の父が突如としてこの夢の世界に現れたことでした。
 ワード「やあ、あれはうちの父です!こんなところへ来て一体何をしているのでしょう?」
 叔父「お前のお父さんじゃとてここへ来るのに何の不思議はあるまい。他の人々と同様現に夢を見ている最中なのじゃ。事によるとお前のいることに気が付くかもしれない」
 が、先方は一心に誰かを捜している様子で振り向きもしません。すぐ傍を通過する時に気をつけて見るとワード氏の祖父の幻影が父の前面に漂うているのでした。
 ワード「父は祖父のことを考えているのですね。いかがでしょう、どこかで会えるでしょうか?」
 叔父「まずダメじゃろうな。お前のお祖父さんは実務と信仰との伴わない境涯で納まりかえっているから、滅多にここまで出かけて来はしまいよ」
 ワード氏の父は間もなく群集の間に消え去ってしまいました。