自殺ダメ



 叔父さんからの半年以上にわたって続けられた霊界通信もいよいよ一段落をつけるべき時期がおもむろに近付きました。他でもない、それは主として欧州全土にわたりて、かの有史以来類例のない大戦乱が勃発せんとしつつあったからで、それが人間界はもとより遠く霊界の奥までも大影響を及ぼすことになったのであります。
 1914年7月27日の夜、ワード氏は例によりて叔父さんの学校を訪れ、とりあえず戦争の事について質問を発しました。
 ワード「叔父さん、あなたは最近欧州に起こったあの暗雲がやがて戦争に導くものとお考えでございますか?何やら頗る険悪の模様が見えますが・・・・」
 叔父「どうも戦争になりそうじゃ。ワシはあまり地上との密接な関係を持っていないから詳しいことは分からぬが、霊界での風説によると、目下幽界の方は純然たる混沌状態に陥り、あらゆる悪霊共が至る所に殺到して、死力を尽くして戦争熱を煽っているそうじゃ。
 霊界の方面は全てそれらの同様の外に超然として鳴りを鎮めているものの、しかし我々は変な予感に満たされている。多分これから数日の内に和戦何れとも決定するであろう。が、ワシは予言は絶対にせぬ。ワシはそんな能力を持っているとは思わない。
 兎に角ワシ達の通信事業も急激に中止に近付きつつあるが、又中止した方が宜しい。もしも戦争が始まれば、ワシを助けてこの霊界通信をしてくれている人達も一時解散せねばなるまい。各々皆自分の任務を持っているからな。
 それから又お前の健康状態が、どうも面白くない。来週になっても回復せぬようなら、身体がすっかり良くなるまで当分霊界出張を見合わせるがよい。健康の時には霊界旅行は少しも身体を損ねる憂いはないが、病気の時には全霊力を挙げて病気と闘わねばならぬ。何れにしても、お前がケンブリッジで講義をやる一ヶ月前は自動書記を試みるワケにもいくまい。
 従って今晩は陸軍士官との会見も取り止めておく。一つはお前の健康が永い滞在を許さぬし、又一つにはあの方が戦争の為に興奮し切っているし、どうも面白くない。あの方は昔所属であった連隊に復帰して出征すると言って手がつけられないので、みんなで色々なだめているところじゃ。無論私達はこの有益な通信事業を永久に放棄しようとは決して思わないが、当分の内あの仕官は役に立ちそうもない。後になれば大変見込みのある人物じゃが、目下のところでは、まるで虎が血潮の香を嗅ぎ付けたような按配じゃ。いずれにしても、あの陸軍士官の異常な挙動なり、又幽界方面の風評なりから総合して、もしかしてとんでもない大事になりはせぬかとワシは大変懸念しておる。
 まず今晩はこれで帰るがよい。よく気をつけて、出来るだけ早く達者な身体になることじゃ。お前がビルマに出発するまでには是非ともこの書物を片付けてしまいたい・・・・」
 で、ワード氏は直ちに地上に戻ったのですが、その時の霊界旅行にはめっきり疲労を覚えたそうであります。
 越えて8月3日ワード氏は講義の為にケンブリッジに赴きましたが、叔父からのかねての注意の通りそこで急性の肋膜炎にかかり、八月一杯それに悩まされました。従ってその期間霊夢も自動書記も全く休業で、9月5日に至り、初めてK氏の宅で自動書記を試みたのでした。