自殺ダメ
(自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)
会った上は心行くまでしんみりと語り合おうと待ち構えていたのですが、さていよいよこうして母と膝を突き合わせてみると、ひたぶるに胸が迫るばかりで、思っていることの十が一も言葉に出でず、ともすれば泣きたくなって仕方がないのでした。
『こんなことでは余りにみっともない。今日は面白く語り合わねばならぬ・・・』
私は一生懸命、成るべく涙を見せぬように努めましたが、それは母の方でも同様で、そっと涙を拭いては笑顔でかれこれと談話を続けるのでした。
『あなたはこちらでどんな境地を通って来たのですか?』母は真っ先にそう訊ねました。『最初からここではないように聞いておりますが・・・』
『私はこちらで修行場が三度程変わりました。最初は岩屋の修行場、そこは中々永うございました。その次が山の修行場、その時代に龍宮界その他色々の珍しい所へ連れて行かれ、又良人をはじめ多くの人達にも会わせて頂きました。現在この瀧の修行場へ移ってからは又幾らにもなりませぬ・・・』
『あなたはまあ何という結構な事ばかりして来られたことでしょう!!』と母は心から感心しました。『この母などは岩屋の修行だの、山の修行だのと、そんな変わったことはただの一つもして来はしませぬ。まして龍宮界などと言っても夢にだって見たこともない・・・。あなたは確かに特別の御用を有って生まれた人に相違ない・・・。私の指導役の神様もそんなことを言っておられました・・・・』
『まさかそうでもございますまいが・・・・』
『イヤ確かにそうです。いつか時節が来たら、あなたにはきっと何ぞ大事のお仕事が授けられますよ。どうぞそのつもりで、今後もしっかり修行に精を出してください。母などは、他の多くの人達と同じく、こちらに参ってから、産土神様のお手元で、ある一室を宛がわれ、そこで静かに修行を続けているだけなのです・・・・』
『父上とは御一緒ではございませんか』
『一緒ではありませぬ。現世に居た時分は、夫婦は同じ場所に行かれるものかと考えておりましたが、こちらへ来てみると同棲などは思いも寄りませぬ。魂の関係とやらで、良人は良人、妻は妻と、チャーンと区別がついているのです。もっとも私達の境涯でも会おうと思えばいつでも会われ、対話をしようと思えばいつでも対話は出来ますが・・・。こんなことを言うとあなたから笑われるか知れませぬが、私は一度指導役の神様に向かい、あまり心細いから、せめて良人とだけは一緒に住ませて頂きたいと、お願いしたことがあるのです。それでも神様はどうあっても私の願いをお聞き入れになってくださらないので、その時の私の力落としと云ったらなかったものです。私は今でも時々はいつの時代になったら、夫婦、親子、兄弟が昔のように楽しく同居することが出来るのかしらと思われてなりませぬ。あなたにはそんなことがないのですか?』
『ないでもございませぬが、近頃統一が深くなった為か、段々そうした考えが薄らいで参りました。相当に修行が積んだら、一緒に棲むとか、棲まないとか申すことは、さして苦労にならないようになってしまうのではないでしょうか。龍宮界の上の神様達の御様子を見ても、いつも夫婦親子が同棲しておられることはないようでございます。それぞれ御用が違うので、平生は別々になってお働きになり、偶(たま)にしか御一緒になって、お寛ぎ遊ばすことがないと申します・・・』
『神様でもやはりそうなのでございますかね・・・。そうして見るとこの母などはまだ現世の執着が多分に残っている訳で、これからはあなたにあやかり、余り愚痴は申さぬことに気をつけましょう。今日は本当によいことを伺いました。あなたがそんなにまで修行が出来たのを見ると、私は心から嬉しい・・・・』
そう言いながらも母の眼には、涙が一杯溜まっているのでした。
(自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)
会った上は心行くまでしんみりと語り合おうと待ち構えていたのですが、さていよいよこうして母と膝を突き合わせてみると、ひたぶるに胸が迫るばかりで、思っていることの十が一も言葉に出でず、ともすれば泣きたくなって仕方がないのでした。
『こんなことでは余りにみっともない。今日は面白く語り合わねばならぬ・・・』
私は一生懸命、成るべく涙を見せぬように努めましたが、それは母の方でも同様で、そっと涙を拭いては笑顔でかれこれと談話を続けるのでした。
『あなたはこちらでどんな境地を通って来たのですか?』母は真っ先にそう訊ねました。『最初からここではないように聞いておりますが・・・』
『私はこちらで修行場が三度程変わりました。最初は岩屋の修行場、そこは中々永うございました。その次が山の修行場、その時代に龍宮界その他色々の珍しい所へ連れて行かれ、又良人をはじめ多くの人達にも会わせて頂きました。現在この瀧の修行場へ移ってからは又幾らにもなりませぬ・・・』
『あなたはまあ何という結構な事ばかりして来られたことでしょう!!』と母は心から感心しました。『この母などは岩屋の修行だの、山の修行だのと、そんな変わったことはただの一つもして来はしませぬ。まして龍宮界などと言っても夢にだって見たこともない・・・。あなたは確かに特別の御用を有って生まれた人に相違ない・・・。私の指導役の神様もそんなことを言っておられました・・・・』
『まさかそうでもございますまいが・・・・』
『イヤ確かにそうです。いつか時節が来たら、あなたにはきっと何ぞ大事のお仕事が授けられますよ。どうぞそのつもりで、今後もしっかり修行に精を出してください。母などは、他の多くの人達と同じく、こちらに参ってから、産土神様のお手元で、ある一室を宛がわれ、そこで静かに修行を続けているだけなのです・・・・』
『父上とは御一緒ではございませんか』
『一緒ではありませぬ。現世に居た時分は、夫婦は同じ場所に行かれるものかと考えておりましたが、こちらへ来てみると同棲などは思いも寄りませぬ。魂の関係とやらで、良人は良人、妻は妻と、チャーンと区別がついているのです。もっとも私達の境涯でも会おうと思えばいつでも会われ、対話をしようと思えばいつでも対話は出来ますが・・・。こんなことを言うとあなたから笑われるか知れませぬが、私は一度指導役の神様に向かい、あまり心細いから、せめて良人とだけは一緒に住ませて頂きたいと、お願いしたことがあるのです。それでも神様はどうあっても私の願いをお聞き入れになってくださらないので、その時の私の力落としと云ったらなかったものです。私は今でも時々はいつの時代になったら、夫婦、親子、兄弟が昔のように楽しく同居することが出来るのかしらと思われてなりませぬ。あなたにはそんなことがないのですか?』
『ないでもございませぬが、近頃統一が深くなった為か、段々そうした考えが薄らいで参りました。相当に修行が積んだら、一緒に棲むとか、棲まないとか申すことは、さして苦労にならないようになってしまうのではないでしょうか。龍宮界の上の神様達の御様子を見ても、いつも夫婦親子が同棲しておられることはないようでございます。それぞれ御用が違うので、平生は別々になってお働きになり、偶(たま)にしか御一緒になって、お寛ぎ遊ばすことがないと申します・・・』
『神様でもやはりそうなのでございますかね・・・。そうして見るとこの母などはまだ現世の執着が多分に残っている訳で、これからはあなたにあやかり、余り愚痴は申さぬことに気をつけましょう。今日は本当によいことを伺いました。あなたがそんなにまで修行が出来たのを見ると、私は心から嬉しい・・・・』
そう言いながらも母の眼には、涙が一杯溜まっているのでした。