自殺ダメ


 続いて1914年9月14日の夜にもワード氏は霊界の叔父さんを訪れました。叔父さんはモリイを相手に甚だ寂しげな様子をして居ましたが、やがて叔父さんの方から言葉を切りました-
 叔父「この通信事業もいよいよ今日で一先ず中止じゃ。私を助けてくれた通信部隊も解散せられ、私一人だけが元の古巣に取り残されている。お前もその内東洋方面に出掛けることになるが、見聞を広めることが出来て何より結構じゃ。旅行についての心配は一切無用、お前は安全にビルマに到着する。
 こんな事情で、私は当分お前に面白い通信をやれないが、しかし月曜毎に必ず霊界へ来てもらいたい。一旦霊界の扉が開かれた以上、それが閉まらぬように気をつけねばならぬ。その内私の方から必ず又新しい通信を送ることにする。その通信の性質はまだちょっと判らぬが・・・。
 まぁやるだけの仕事をしっかりやるがよい。霊界から集めた色々の材料を適宜に分類していけばかなり完備した霊界の物語が出来上がるであろう。
 地獄、幽界、半信仰の境、信仰ありて実務の伴わざる境、それから実務と信仰との一致せる境-全てにわたりて私の方から一通り通信を送ってある。もっと上の界のことはワシにも分からない。が、その内第五界の生活に関しては私は多少材料を手に入れ得る自信を持っている。
 くれぐれも受け合っておくがワシの将来は活動と努力との連続である。最後の大審判のラッパが鳴るまで常世の逸眠に耽るものとワシのことを考えてくれては迷惑である。ワシはあくまでもお前達と同様に生きた人間として向上の道を辿るが、ただワシはお前達と違って肉体からは永久に脱却している。最早苦痛もなく、飲食欲もなく、また睡眠さえ不要である。全然日常の俗務俗情から離れて、心地良き環境におり、自己の興味を感ずる一切の問題について充分の討究を続けることが出来る。ワシには地上の何人にも期待し難き便宜と余裕とが与えられている。ワシは夢にもこの好機会を無益に惰眠に空費し、役にも立たぬ賛美歌三昧に浸り切るつもりはない。私はあくまで他の救済に尽瘁する。そうすることによりて一階又一階と次第に高きに着き、一日又一日と新たなる友を作り、新たなる真理に接して、自己完成の素地を築いて行くつもりである。
 ワシは既にある程度まで幸福である。満足である。物質界から逃れて真に嬉しい。が、まだまだ絶対幸福の境涯に達しておらぬことは勿論である。
 円満具足の境涯は前途なお遼遠である。それに達する為には一意専念、幾代かにわたりて精神力行、新たなる経験を積み、新たなる真理に目覚めて不断の向上を図って行かねばならぬ。
 それ故に、いつも私を仕事と娯楽に忙殺されつつあるものと思ってもらえば間違いはない。ワシはいわゆる仕事というのは一歩一歩私を向上せしむる信仰の道である。又所謂娯楽というのは地上の人達が仕事と考えている建築学その他である。
 ここにワシは地上の人達・・・・、ワシの挨拶を受け容れてくださる方々に謹んで敬意を表する。お前には毎週一度ずつ必ず来てもらいたい。当分これでおさらばじゃ。この通信事業に従事してくれたKさんその他に対しては特にここでお礼を述べておきます」
 ワード「お暇乞をする前にちょっと伺いますが、目下Pさんやら、Aさんやら、又陸軍士官さんやらは、どうなさっておいでです?」
 叔父「陸軍士官はもう暫く練習を積んでから幽界に出動し、地上からぞろぞろ入って来る新参の霊魂達の救済にあたることになっている。いや血気盛りの者が急に勝手の判らぬ境涯へ投げ込まれたのであるから、それらは大いに救済の必要がある。しかし心配するには及ばぬ。救済の手は霊界からいくらでも延びる・・・・。
 Pさんは又もや地獄の方へ手伝いに出かけて行った。Aさんのみはワシが昔居った学校で相変わらず簡単な日課を頭痛鉢巻で勉強している」
 ワード「叔父さんは只今昔と仰いましたが、地上の時間で数えるとあなたがお亡くなりになってからたった九ヶ月にしかなりません」
 叔父「全くな・・・・・。が、霊界では、時間は仕事の分量で数えて、時日では数えない。それ故厳格に言えば、霊界に時間はないことになる。もっとも地上に居ったとて、今年のように多忙な年は例年よりも長く感ずるに相違ない。今年の大晦日になると、お前をはじめ世界中の人々は、こんなに長い年はないなどと世迷い言を言うじゃろう。しかし今日はこれで別れる」
 ワード氏は叔父さんに暇を告げて地上に戻りました。
 その後もワード氏は約束通りしばしば霊界旅行を試み、その都度常に快感をもって迎えられましたが、しかし格別重要なる問題には触れず、単に家族への伝言とか、浮世話とかを交換する位のものでした。叔父さんはその間も何やらしきりに深く研究を重ねつつあった模様でしたが、ワード氏には何事も漏らしてはくれませんでした。
 が、ワード氏がその戦没せる愛弟の為に叔父さんの援助を乞わねばならぬ重大時期がやがて到着しました。その援助は快く与えられ、それが動機となって、幽界の事情は手に取る如く明瞭に探究さるることになりました。-が、それは後日の問題で、叔父さんによりて為された霊界生活の物語は一先ずここで完結となるのであります。