本書は世界で最も著名な霊界通信の一つ、アラン・カーデックの[Spirits'Book](1856年刊)の訳書である。心霊研究の発生(1846年)以来、霊界と地上人類との間に科学的な配慮の上に立った通信が始まった。その結果、現代のバイブルと言える秀れた霊界通信が次々と受信されている。古い順に、モーゼスの『霊訓』、マイヤースの『永遠の大道』、シルバーバーチの霊言、ホワイト・イーグルの霊言、等である。いずれも発表以来、どの書も多くの版を重ね、多数の信奉者を得ている。しかし、これらは全てイギリスで受信され英語で発表され、従って英語国民の間に主として拡がったものである。
 『霊の書』はフランス人カーデックの手を経て受信され、フランス語で発表され、その為、仏・伊・スペイン・ブラジル等ラテン系国民の間に拡がったものである。しかも、その発行部数はおそらく400万部を超え、特にブラジルではその信奉者が2000万人とも言われる、空前の影響力を与えた霊界通信である。
 通信霊は、聖ヨハネ、パウロ、アウグスチヌス、ソクラテス、プラトン、スエーデンボルク、真理の霊、等々と言われる。これらの一部が、モーゼスの霊訓、ホワイト・イーグルの霊言、の通信霊と重複していることにお気付きの方もあろう。それは近時の霊界通信がどうやら神霊界の計画の下に、組織的な人類への新啓示運動が展開されている、その一証左ではないかと思われる。
 カーデックは「序言」の中で次のように記している。「顕幽両界の通信は奇跡ではなく、ものの自然である。このことは古来どこにでもあったものだが、今や一般的となってきた。霊によると、これを明らかにする神の定めた時が今来ている。神の使途なる霊達は人類新生の時代をもたらそうとしている」と。霊がカーデックに与えた、言葉の一節を付け加えると、「これから君が書こうとしている書は、人類を愛のもとに一つに結び付けようとする、新しい建設の基礎となるものである」と。上記のどの霊界通信にもうかがえる、人類の新時代の到来、その為の欠くべからざる一書が、またこの『霊の書』であることお分かり頂けよう。
 アラン・カーデック(1804~1869)はフランスのリヨンの生まれ。本名はレオン・デニザート・イポリット・リヴァイラ。諸科学に通じ、また生来教育を好み、1830年には自費で家を借りて、十年間にわたり無料で講義を行なった。即ち化学・物理・比較解剖学・天文学等。また骨相学協会や磁気協会でも活躍、特に夢遊病・千里眼・トランス(入神)現象には関心をもち研究をしていた。
 1850年、テーブル・ターニング現象(霊媒と列席者がテーブルを囲んで座り、テーブルに手を乗せる。テーブルが自動的に動き、その床を打つ音の数でアルファベットの文字を指示し、霊からの通信を綴る)がヨーロッパに始まった。これは1848年にアメリカから発生した心霊研究(ニューヨーク州のフォックス家事件)の影響である。カーデックは早速このテーブル・ターニングの実験を開始した。
 友人の二人の娘さんが霊媒体質で、これを霊媒とした。元々二人が受け取る通信はとるに足りないものだったが、カーデックが出席すると、通信は一変した。即ち前記の神命を受けた高級霊からの通信となった。週二日、欠かさず交霊会をもった。通信方法は前記の卓子(テーブル)通信の他、プランセット(器具による自動書記)を併用した。カーデックが質問を発し、霊がこれに答えるという方法をとった。カーデックは科学徒であり、冷静で論理的で実際的だったので、この通信は他の霊界通信とは全く趣の違ったものとなった。即ち、他の通信は、霊の方からの一方的な啓示であるが、こちらは甚だ常識的現実的な人間の疑問に、霊界からの解明を与えるというものである。従って、我々の聞きたいこと知りたいことに、かゆい所に手が届くように霊的解釈がされているだけでなく、日常現実の生活に直ぐ応用できる霊的知識が多分に含まれている。
 何といっても、『霊の書』の最大の特徴は再生(人間の生まれ変わり)を中心の教示としている点である。英米系の霊界通信は従来、概して再生を否定してきた。アンドリュウ・ジャクソン・デヴィスの霊示、及び『霊訓』のモーゼスは明確にこれを否定した。これが英米系スピリチュアリズムの特徴をなした。この点、ラテン系はアラン・カーデックの教示を基本としているので、再生を主張する。同じスピリチュアリズムでありながら、根本において相違が存在した。
 ところが、近時、英米系の霊界通信にも再生を承認する傾向が発生した。生前、再生を認めなかったマイヤースの死後の通信は、類魂説に立って人間の再生を承認。シルバーバーチとホワイトイーグルも明確に再生を主張。特にホワイトイーグルは再生を不可欠の教理としている。
 カーデックについてもう一言しておけば、彼は彼の心霊主義を一般の呼称であるスピリチュアリズム(Spiritualism)と呼ばず、スピリティズム(Spiritism)と呼ぶことを主張している。その理由は、Spiritualismは精神主義と受け取られ、彼の認める霊魂の存在や顕幽交通を認める所説とならないからである。
 本書は元々カーデック個人の質問に霊が答える形をとったものだが、通信開始後二年、カーデックがこの通信の意味の重大性に気付き、出版の決意をもつと、霊よりの指示があり、これは個人に対するものでなく人類に対する通信であることが指摘された。その指示で書名を“Le Livre des Esprits(The Spirits'Book)”『霊の書』とすべきこと、筆名をアラン・カーデック(ALLAN KARDEC)とするよう指示を受けた。1856年の刊行以来、諸国語に翻訳され、現在まで多数の版を重ねている。1869年にアンナ・ブラックウェル女史(ANNA BLACKWELL)が英語書を出しているが、この英語書から重訳したものが本書である。
 本書中に(注解)とあるのは、霊示ではなく、カーデック自身が付した注釈である。原著には更に多くの注解があるが、本書ではその相当部分を省略した。理由は、既に陳腐となった科学理論、言わずもがなの蛇足と思われるもの、及びキリスト教徒内部の関心事、に過ぎないもの、ということである。以上のこと諒とされたい。