映画女優のマール・オペロンには婚約者(フィアンセ)がいた。そのフィアンセを空港で見送った数秒後にオペロンの人生に悲劇が訪れた。フィアンセを乗せた飛行機が爆発炎上したのである。事故の知らせを聞いて当然のことながらオペロンは茫然自失の状態に陥った。
 その後間もなく、ふとしたきっかけでハンネン・スワッハーの My Greatest Story (私にとっての最大の物語)という本を手に入れ、その中に引用されているシルバーバーチの霊言を読んで心を動かされた。たった一節の霊訓に不思議な感動を覚えたのである。
 オペロンは早速スワッハーを訪ねて、出来ればシルバーバーチとかいう霊のお話を直接聞きたいのですがとお願いした。その要請をスワッハーから聞いたシルバーバーチは快く承諾した。そして事故からまだ幾日も経たない内に交霊会に出席するチャンスを得た。その後更に幾人かの霊媒も訪ねてフィアンセの存続を確信したオペロンは、その霊的知識のお蔭で悲しみのどん底から脱け出ることが出来た。では、そのシルバーバーチの交霊会に出席した時の様子を紹介しよう。
 当日スワッハーが交霊会の部屋(バーバネルの書斎)へオペロンを案内し、まずシルバーバーチにこう紹介した。
 「ご承知と思いますが、この方は大変な悲劇を体験なさったばかりです。非凡な忍耐力をもって耐えていらっしゃいますが、本日はあなたのご指導を仰ぎに来られました」

 するとシルバーバーチがオペロンに向かってこう語りかけた。
 「あなたは本当に勇気のある方ですね。でも勇気だけでは駄目です。知識が力になってくれることがあります。是非理解して頂きたいのは、大切な知識、偉大な悟りというものは悲しみと苦しみという魂の試練を通して初めて得られるものだということです。人生というものはこの世だけでなく、あなた方があの世と呼んでおられる世界においても、一側面のみ、一色のみでは成り立たないということです。光と影の両面が無ければなりません。光の存在を知るのは闇があるからです。暗闇がなければ光もありません。光ばかりでは光でなくなり、闇ばかりでは闇でなくなります。同じように、困難と悲しみを通して初めて魂は自我を見出していくのです。勿論それは容易なことではありません。とても辛いことです。でもそれが霊としての永遠の身支度をすることになるのです。なぜならば地上世界のそもそもの目的が、地上を去った後に待ち受ける次の段階の生活に備えて、それに必要な霊的成長と才能を身に付けることであるからです。
 あなたがこれまでに辿られた道もけっして楽な道ではありませんでした。山もあり谷もありました。そして結婚という最高の幸せを目前にしながら、それが無慈悲にも一気に押し流されてしまいました。あなたは何事も得心がいくまでは承知しない方です。生命と愛は果して死後にも続くものなのか、それとも死をもって全てが終わりとなるか、それを一点の疑問の余地もないまで得心しないと気が済まないでしょう。そして今あなたは死が全ての終わりでないことを証明するに十分なものを手にされました。ですが、私の見るところでは、あなたはまだ本当の得心を与えてくれる事実の全てを手にしたとは思っていらっしゃらない。そうでしょ?」

オペロン「仰る通りです」

 「こういうふうに理解なさることです-これが私に出来る最大のアドバイスです-我々生あるもの全ては、まず第一に霊的存在であるということです。霊であるからこそ生きているのです。霊こそ存在の根元なのです。生きとし生けるものが呼吸し、動き、意識を働かせるのは霊だからこそです。その霊があなた方のいう神であり、私のいう大霊なのです。その霊の一部、つまり神の一部が物質に宿り、次の段階の生活に相応しい力を身に付ける為に体験を積みます。それは丁度子供が学校へ行って卒業後の人生に備えるのと同じです。
 さて、あなたも他の全ての人と同じく一個の霊的存在です。物的なものはその内色褪せ、朽ち果てますが、霊的なものは永遠であり、いつまでも残り続けます。物質の上に築かれたものは永続きしません。物質は殻であり、入れ物に過ぎず、実質ではないからです。地上の人間の大半が幻を崇拝しています。狐火を追いかけているようなものです。真実を発見出来ずにいます。こうでもない、ああでもないの連続です。本来の自分を見出せずにいます。
 神が愛と慈悲の心から拵えた宇宙の目的、計画、機構の中の一時的な存在として人生を捉え、自分がその中で不可欠の一部であるとの理解がいけば、たとえ身に降りかかる体験の一つ一つの意義は分からなくても、究極において全てが永遠の機構の中に組み込まれているのだという確信は得られます。霊に関わるものは決して失われません。死は消滅ではありません。霊が別の世界へ解き放たれる為の手段に過ぎません。誕生が地上生活へ入る為の手段であれば、死は地上生活から出る為の手段です。あなたはその肉体ではありません。その頭でも、目でも、鼻でも、手足でも、筋肉でもありません。つまりその生物的集合体ではないのです。それはあなたではありません。あなたという別個の霊的存在があなたを地上で表現して行く為の手段に過ぎません。それが地上から消滅した後も、あなたという霊は存在し続けます。
 死が訪れると霊はそれまでに身を付けたもの全て-あなたを他と異なる存在たらしめているところの個性的所有物の全てを携えて霊界へ行きます。意識、能力、特質、習性、性癖、更には愛する力、愛情と友情と同胞精神を発揮する力、こうしたものは全て霊的属性であり、霊的であるからこそ存続するのです。真にあなたのものは失われません。真にあなたの属性となっているものは失われません。そのことをあなたが理解出来る出来ないに関わらず、そして又確かにその真相の全てを理解することは容易ではありませんが、あなたが愛する人、そしてあなたを愛する人は、今尚生き続けております。得心がいかれましたか?」

オペロン「はい」

 「物的なものは全てお忘れになることです。実在ではないからです。実在は物的なものの中には存在しないのです」

オペロン「私のフィアンセは今ここへ来ておりますでしょうか」

 「来ておられます。先週も来られて霊媒を通じてあなたに話しかけようとなさったのですが、これはそう簡単にいくものではないのです。ちゃんと話せるようになるには大変な訓練がいるのです。でも、諦めずに続けて出席なさっておれば、その内話せるようになるでしょう。ご想像がつくと思いますが、彼は今のところ非常に感情的になっておられます。まさかと思った最期でしたから感情的になるなという方が無理です。とても無理な話です」

オペロン「今どうしているのでしょう。どういう所にいるのでしょう。元気なのでしょうか」

 この質問にシルバーバーチは司会のスワッハーの方を向いてしみじみとした口調で
 「この度の事故はそちらとこちらの二人の人間にとって、よほどのショックだったようですな。まだ今のところ霊的な調整が出来ておりません。あれだけの事故であれば無理もないでしょう」と述べてから、再びオペロンに向かって言った。
 「私としては若いフィアンセがあなたの身近にいらっしゃることをお聞かせすることが、精一杯のあなたの力になってあげることです。彼は今のところ何もなさっておりません。ただお側に立っておられるだけです。これから交信の要領を勉強しなくてはなりません。霊媒を通じてだけではありません。普段の生活において考えや欲求や望みをあなたに伝えることもそうです。それは大変な技術を要することです。それがマスター出来るまでずっとお側から離れないでしょう。
 あなたの方でも心を平静に保つ努力をしなくてはいけません。それが出来るようになれば、彼があなたに与えたいと望み、そしてあなたが彼から得たいと望まれる援助や指導が確かに届いていることを得心なさるでしょう。よく知っておいて頂きたいのは、そうした交信を伝えるバイブレーションは極めて微妙なもので、感情によって直ぐに乱されるということです。不安、ショック、悲しみといった念を出すと、たちまちあなたの周囲に重々しい雰囲気、交信の妨げとなる壁を拵えます。心の静寂を得ることが出来れば、平静な雰囲気を発散することが出来るようになれば、内的な安らぎを得ることが出来れば、それが私達の世界から必要なものをお授けする最高の条件を用意することになります。感情が錯乱している状態では、私達も何の手出しも出来ません。受容性、受身の姿勢、これが私達があなたに近付く為の必須の条件です」

 この後フィアンセについて幾つかプライベートな質疑がなされた後、シルバーバーチはこう述べた。
 「あなたにとって理解し難いことは、多分、あなたのフィアンセが今はこちらの世界へ来られ、あなたはそちらの世界にいるのに、精神的には私よりもあなたの方が身近な存在だということでしょう。理解出来るでしょうか。彼にとっては霊的なことよりも地上のことの方が気がかりなのです。問題は彼がそのことについて何も知らずにこちらへ来たということです。一度も意識に上ったことがなかったのです。でも今ではこうした形であなたが会いに来てくれることで、彼もあなたが想像なさる以上に助かっております。大半の人間が死を最期と考え、こちらへ来ても記憶の幻影の中でのみ暮らして実在を知りません。その点あなたのフィアンセはこうして最愛のあなたに近付くチャンスを与えられ、あなたも、周りに悲しみの情の壁を拵えずに済んでおられる。そのことを彼はとても感謝しておられますよ」

オペロン「死ぬ時は苦しがったでしょうか」

 「いえ、何も感じておられません。不意の出来事だったからです。事故のことはお聞きになられたのでしょう?」

オペロン「はい」

 「あっという間の出来事でした」

スワッハー「そのことはこの方も聞かされております」

 「そうでしょう。本当にあっという間のことでした。それだけに永い休養期間が必要なのです」

オペロン「どれくらい掛かるのでしょう?」

 「そういうご質問はお答えするのがとても難しいのです。と申しますのは私達の世界では地上のように時間で計るということをしないのです。でも、どの道普通一般の死に方をした人よりは永く掛かります。急激な死に方をした人は皆ショックを伴います。いつまでも続く訳ではありませんが、ショックはショックです。元々霊は肉体からそういう離れ方をすべきものではないからです。そこで調整が必要となります」

 ここで更にプライベートな内容の質疑があった後-
オペロン「彼は今幸せと言えるでしょうか。大丈夫でしょうか」

 「幸せとは言えません。彼にとって霊界は精神的に居心地が良くないからです。地上に戻ってあなたと一緒になりたい気持の方が強いのです。それだけに、あなたの精神的援助が必要ですし、自身の方でも自覚が必要です。これは過渡的な状態であり、彼の場合は大丈夫です。霊的に危害が及ぶ心配がありませんし、その内調整がなされるでしょう。
 宇宙を創造した大霊は愛に満ちた存在です。私達一人一人を創造してくださったその愛の力を信頼し、全てのことをなるべくしてそうなっているのだということを知らなくてはいけません。今は理解出来ないことも、その内明らかになる機会が訪れます。けっして口先で適当なことを言っているのではありません。現実にそうだからそう申し上げているのです。あなたはまだ人生を物質の目でご覧になっていますが、永遠なるものは地上の尺度では正しい価値は分かりません。その内正しい視野をお持ちになられるでしょうが、本当に大事なもの-生命、愛、本当の自分、こうしたものはいつまでも存在し続けます。死は生命に対しても愛に対しても、全く無力なのです」

 訳者注-本章は不慮の事故死をテーマとしているが、普通一般の死後の問題についても色々と示唆を与えるものを含んでいる。その全てをここで述べる余裕はないが、一つだけ後半の所で〝霊的に危害が及ぶ心配がありませんし〟と述べている点について注釈しておきたい。
 これは裏返して言えば霊的に危害が及ぶケースがあるということであり、ではその危害とはどんなものかということになる。これを『ベールの彼方の生活』第四巻の中の実例によって紹介しておく。
 通信霊のアーネルが霊界でのいつもの仕事に携わっていた時(霊界通信を送るようになる前)あるインスピレーション的衝動に駆られて地上へ来てみると、一人の若い女性が病床で今まさに肉体から離れようとしていた。ふと脇へ目をやると、そこに人相の悪い男の霊が待ち構えている。アーネルにはその男がこの女性の生涯を駄目にした(多分麻薬か売春の道に誘い込んだ)因縁霊であると直感し、霊界でも自分達の仲間に引きずり込もうと企んでいることを見て取った。そこが奪い合いとなったが、幸いアーネルが勝ってその身柄を引取ることが出来、その後順調に更生して、今では明るい世界へ向上しているという。そのインスピレーションを送ったのは守護霊で、波長が高過ぎて却って地上のことには無力な為に、地上的波長への切り換えに慣れているアーネルに依頼したのだった。
 この実例でお分かりのように、いかなる死に方にせよ、死後無事霊界の生活に正しく順応して行くことは必ずしも容易ではないのである。そこには本人自身の迷いがあり、それに付け込んで様々な誘惑が有り、又強情を張ったり見栄を捨て切れなかったりして、いつまでも地上的名誉心や欲望の中で暮らしている人が実に多いのである。
 では、そうならない為にはどういう心掛けが大切か-これは今更私から言うまでもなく、それを教えるのがそもそもシルバーバーチ霊団が地上へ降りて来た目的なのである。具体的なことはこうして霊言集をお読み頂いている方には改めて申し上げるのは控えるが、ただ私から一つだけ付け加えたいことは、あちらへ行って目覚めた時は、必ず付き添ってくれる指導霊の言うことに素直に従うことが何よりも大切だということである。