スピリチュアリズムの前途には大きな仕事が待ち受けている。霊的交信の目的はただ単に地上の人間に慰めをもたらすことではない。ある日の交霊会でシルバーバーチは〝生命の法則について精神的側面、道徳的側面、物的側面、並びに霊的側面から理解を深めるように指導し、身体的に不健全な人が少なくなると同時に霊的に未熟な人も少なくして行くことが我々の使命の一端です〟と述べて、スピリチュアリズムの目指すべき方向を暗示した。それを別の日の交霊会で次のように敷衍(ふえん)した。

 「私共は自己中心主義、物質万能主義、無知、暗黒等々、人生の楽しさ、明るさ、安らぎを奪う勢力の全てを一掃すべく努力しております。地上の為-それだけを望んでおります。それなのに、つまり地上の為になることをのみ望み、何一つ邪なものを持ち合わせず、人間性の中の下品なもの、或いは低俗なものには決して訴えることがないのに、なぜ人間は私達霊の働きかけを毛嫌いするのでしょうか。
 より次元の高い真理、より深い悟りの道をお教えしようとしているのです。人生の基盤とすべき霊的原理を理解して頂こうと努力しているのです。人間の内部に宿る霊的可能性を認識し、真の自我とその内奥に存在する神性を見出して頂きたいと願っているのです。私達は人間の理性-人間として最高の判断力に訴えております。一段と次元の高い生命の世界を支配する摂理をお教えし、宇宙の物的側面だけでなく、もっと大きな部分を占めているところの永遠不滅の霊的側面を理解して頂こうと願っているのです。
 私達の努力目標は人類が幻を追い求め影を崇めることのないように、霊的真理の実在を得心させることによって人生観を誤った信仰でなく確実な知識の上に確立し、大自然の法則に基づいた本当の宗教心を持ち、たとえ逆境の嵐が吹き荒れ、環境が厳しく、いずこに向かうべきかが分からなくなった時でも、〝事実〟に裏打ちされた信仰心によってあらゆる試練、あらゆる苦難に耐えて行けるようにしてあげることです。私達の使命は霊的使命なのです。人間が内奥に神すなわち実在の生命を宿していることをお教えし、従って人間は動物ではなく一人ひとりが神であることを自覚し、同じ神性が宇宙の他の全ての生命にも宿っていることを知って頂くことを使命としているのです。
 その認識が行き渡れば地上は一変します。理解が広まるにつれて新しい光が射し込み、永遠の大機構の中での人間の位置を悟ることになります。私達が訴えるのはややこしい神学ではありません。時代遅れの教説ではありません。素朴な理性-あらゆる真理、あらゆる知識、あらゆる叡智の真偽を判断する手段に訴えております。もしも私の述べることにあなた方の知性を侮辱し理性を反発させるようなものがあれば、それを無理して受け入れることは要求しません。最高の判断規準に訴えることによって人間が真の自分を見出し、真の自分を見出すことによって神を見出してくださることを望んでいるのです。
 真理は決して傷付けられることはありません。決して破壊されることはありません。後退させられることはあります。抑え付けられることもあります。しかし永久に埋もれてしまうことはありません。真なるものが損なわれることは有り得ません。虚言をもっていかに深くいかに固く埋め尽くされても、いつかは必ず表に出て来ます。真理を永遠に抑え付けることは出来ません。今私達が旗印としている真理は地上にとって重大な役割を担っております。人間というものは煩悶の時代になると永い間しがみ付いていた教説を改めて検討し、それが果して苦難と困難の時に慰めとなり力となってくれるであろうかと思い始めるものです。
 霊的実在についての真理を片隅に押しやることは出来ません。人間が一人の例外もなく神の子であり成就すべき霊的宿命を背負った存在であるとの証は、宇宙における人類の本当の位置を認識し無限にして永遠の創造の大業の一翼を担う上で絶対必要なことです。私達の存在自体を疑う人がいることでしょう。存在は認めても影響力を疑う人がいることでしょう。もとより私達は万能を主張するつもりはありません。私達も常に数々の限界と様々な制約に直面していることは、これまで度々述べて来たことです。しかし私達があなた方を援助することが出来るという事実に疑う余地はないでしょう。
 私達には霊力というパワーがあります。これは宇宙の全生命を生み、それに形体を与えている力です。正しい環境と条件さえ整えてくれれば、私達はそのパワーを活用してあなた方を導き、保護し、援助することが出来ます。それも決してあなた方だけという限られた目標の為でなく、あなた方を通じて顕現した霊力が更に他の人へも波及して、その人達も霊的なパワーを感得出来るようになるのです。前途に横たわる道は決して容易ではありません。しかし協調精神をもって臨み、平和的解決を希求し、慈悲心に裏打ちされた公正を求め、憎しみと復讐心に根ざした観念を完全に排除して臨めば、明るい未来を直ぐ近くまで招来することが出来ることでしょう」
 これは1939年に第二次世界大戦が勃発して間もない頃の交霊会での霊言で、最後の部分はその大戦のことを指している。(本書の出版は1941年-訳者)
 更にメンバーからの質問を受けてこう語っている。
 「物質の世界に生きておられるあなた方は実在から切り離されております。あなた方自身にとって、そのことを理解することが難しいことは私もよく承知しております。なぜならば、あなた方なりに何もかもが実感があり実質があり永遠性があるように思えるからです。ご自分を表現しておられるその身体、地上という大地、住んでおられる住居、口にされる食べ物-どれをとってもこれこそが実在であると思いたくなります。でも、それらは悉く〝影〟であり〝光〟ではないことを申し上げねばなりません。あなた方は五感に感応しない世界を想像することが出来ません。従ってその想像を超えた世界における活動と生活ぶりを理解することが出来ないのは当然です」

 そうした地上とは全く異なる世界についての知識を得ているサークルのメンバーの一人に〝その知識はあなたにどういう変革をもたらしましたか〟とシルバーバーチの方から質問したことがあった。それを全部聞き終わった後こう語った。
 「こうしてお聞きしてみますと、あなた方一握りの方達にあっても、僅か二、三年間の霊力との接触によっていかに大きな変革がもたらされたかが分かります。となれば、これを世界中に普及させることによってその数を百万倍にもすることが出来るということです。それは無知を一掃し、暗闇の中で進むべき道を見失った人々に灯を与え、全宇宙の背後に存在する大目的を教えてあげることによって達成されることでしょう。
 人類がいかに永い間道を見失って来たかご存知でしょうか。人類を先導すべき人達、霊的指導者であるべき人達自らが盲目だったのです。玉石混交の信仰をもって事足れりとしてきました。宗教的体系を拵え、その上に教義とドグマで上部構造を築きました。儀式と祭礼を発明しました。教会(キリスト教)、寺院(仏教)、礼拝堂(ユダヤ教)、モスク(イスラム教の礼拝堂)等々を建造しました。神とその子等との間に仕切りを設けたのです。それぞれに教典を拵え、我が宗教の教典こそ本物で宇宙の真理の全てを包蔵していると主張し合いました。かんかんがくがく、宗教家としての第一の心掛けであるべき愛の心を忘れ、その上尚情けないことに、憎悪と敵意をもって論争を繰り返して来ました。
 予言者、霊覚者、哲人、聖者の類を全て追い払いました。真の〝師〟たるべき人々を次々と迫害して行きました。神の声の通路であるべき人々の口を塞いでしまいました。腐敗した組織に最早神の生きた声が聞かれる場がなくなってしまいました。開かれたビジョンを閉ざし、全ての権力を聖職者に帰属させ、神へ近付ける力は自分達以外にはないことにしてしまいました。聖職者の中にも高徳の人物は数多くいました。ただ、惜しむらくは、その人達も(そうした環境の影響の為に)宗教の唯一の礎石(いしずえ)であり人類にその本領を発揮せしめる原動力である霊力の働きかけに無感覚となっておりました。
 人類の歴史において大きな革命を生んで来たのは全て霊の力です。素朴な男性又は女性が霊感に鼓舞されて素朴なメッセージを威信をもって語り、それを素朴な平凡人が喜んで聞いたのです。今その霊力が、かつてと同じ〝しるしと奇跡〟を伴って再び顕現しております。目の見えなかった人に光が戻り、耳の聞こえなかった人が聴覚を取り戻し、病の人が健康を回復しております。邪霊を払い、憑依霊を取り除き、肉親を失った人達に慰めをもたらしております。
 多くの魂が目を覚まし、霊の大軍が存分にその威力を見せることが出来るようになりました。〝死〟の恐怖を取り除き、〝愛〟が死後も尚続きその望みを成就している事実を示すことが出来るようになりました。インスピレーションは(イエスの時代に限らず)今尚届けられるものであること、人間の心は(他界した時点のままでなく)死後も改めていくことが出来ること、(宗教的束縛から)精神を解放することが可能であること、自己改革の道が(宗教的教義に関係なく)開かれていること、(宗教的活動から離れるところにも)自分を役立てる機会は幾らでもあること、霊力に鼓舞されて報酬を求めずこの世的な富への欲望をもたずに、〝よい知らせ〟を教えてあげたい一心で、全ての人に分け隔てなく近付く用意の出来た魂が存在している事実を立証しております。
 これ程まで美しい話、これ程まで分かり易い話、人生の本質をこれ程簡単に説き明かしてくれる話に耳を傾けようとしない人が多いのは一体なぜでしょうか。光明を手にすることが出来るのに一体なぜ多くの人が暗黒への道を好むのでしょうか。なぜ自由よりも束縛を好むのでしょうか。
 しかし、我々はあなた方が想像される以上に大きな進歩を遂げております。難攻不落と思えた古い壁-迷信、既成権力、後生大事にされている教義、仰々しい儀式を堅固に守り続けて来た壁が音を立てて崩れつつあります。急速に崩壊しつつあります。一方では多くの魂が霊的真理に感動し、精神に光が射し込み、心が受容性を増し、喜んで私達の教説に耳を傾けてくれております。過去数年間の進歩ぶりを見れば、我々の勝利は既にゴールが目に見えていると宣言してもよい時期が到来したと言えます。その確信を私は語気強く宣言します。最早絶望の戦いではなくなりました。私達が自己中心の物質第一主義に根ざした古い時代は終わった、新しい時代が誕生している、と述べる時、それは有るがままの事実を述べているのです。
 かつて地上において苦難と犠牲の生涯を送った人々、強者と権力者によって蔑まれる真理を護る為に全てを犠牲にした人々-その人達が今霊界から見下ろし、霊的大軍の前進ぶりを見て勝利を確信しております。無論これは比喩的に述べたまでです。銃を手にした兵士がいるわけではありません。我々の弾薬は霊力であり、兵器は理性と良識です。私達は常に人間の知性に訴えます。もっとも、時としてその知性が無知と迷信と依怙地な強情の下敷きとなってしまっている為に、果して(普遍的判断基準であるべき)知性が存在するのだろうかと迷うこともあるでしょう。しかし、よく目を見開いて自分でそのしるしを求めることです。あなた方にはその判断力があり、囚われ無きビジョンを手にする能力をお持ちです。その力で、暗闇を突き通す光を見届けてください。
 我々は最早軽蔑の対象とされたかつての少数派ではありません。片隅で小さくなっていた内気な小集団ではありません。科学的立証を得て、やはり真実だったと確信した堂々たる大軍であり、恥じることない社会的位置を獲得し、霊的事実の福音を誇りをもって説いております。霊的なことを口にしたからといって軽蔑されることはもうありません。それは過去の無知な人間がしたことです。今はそれを知っていることで尊敬される時代です」
 訳者注-モーゼスの『霊訓』によると、かの〝十戒〟を授かったモーゼが従えていた七十人の長老は皆霊性の高い人物だったという。これは世界に共通した事実であって、古代においては霊感が鋭くかつ霊的なことに理解のある者が要職に就き、所謂祭政一致が当然のこととされた。
 それが物質科学の発達と共に意識の焦点が五感へと移行し、物的な物差しで測れないものが否定されていった。ところが皮肉なことに、その物質科学自らが物質の本質は常識的に受け止めて来たものとは違ってただのバイブレーションに過ぎないことを突き止めたのと時を同じくして、再び霊的なものへの関心が高まりつつある。
 シルバーバーチはそうした潮流の背後には霊界からの地球的規模の働きかけがあることを指摘している。オーエンの『ベールの彼方の生活』第四巻〝天界の大軍〟篇はそれを具体的に叙述して、その総指揮官がキリストであると述べている。シルバーバーチ霊団もイムペレーター霊団もその大軍に属し、最前線で活躍していたことになる。